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ワールドロード・sin again  作者: オメガ
序章・ Jacta alea est
26/28

sin歴171年

 『前回のあらすじ』

 テラー化で巨大化した修女は手に乗せたエックスを天高く掲げ、己が罪を告白し懺悔する。

 その苦しみに寄り添い、自身がその罪を赦す様諭し、テラー化を解くも連戦続きで倒れてしまう。

 助けた修女の治療を受け、誰かに似た女性からテラー化の解除方法を聞かれるも、当人に覚え無し。

 何かを悟った後、仲間内で頭を撃ち抜き全滅する女達。真珠貝のX物が表れるも容易く撃破される。



 (コア)と思われる真珠を蹴り砕かれ、巨大な真珠貝のX物は蜃気楼の如く少しずつ幻と化して行き。

 消え去る途中の真珠貝から天井等を破壊された倉庫内へと飛び降り、X物の消滅を見届ける中。

 世界中へ広がった虹色の波動は赤くも暗い空に、荒れた大地に、黒く穢れた海に亀裂が生じ、砕け散る。

 終焉を迎えた世界。それは枯れ果てた大樹の枝先と言う、分岐世界。これ以上の成長や発展もない。

 故に枯れた枝を切り落とし、再び新たな枝が生まれるのを長い時間を掛けて待つ──()()()()()()

 待つ必要等何処にもない。()()()()()()()()()。ただそれだけの話。


「──ッ、させるか!!」


 砕け散った空海地の破片が途中で止まり、巻き戻し再生同然に破壊される前の姿を取り戻そうと。

 次々巻き戻って行く世界。それは常識を超越した神も同然の行動……に何かを感じたエックスは即否定。

 虹の輪を描く彼の瞳は隠れた獲物を捉え、逃がさんとばかりに体と視線を左方向へ向けて左手を伸ばす。

 何も無い空間。否──『何も無いと言うテクスチャ』を貼った偽物の空間を突き割り、内部へ突っ込む。

 隠れた誰かを捕まえんと左腕まで入れたのは時間にして数秒。だが……その何者か『達』にとっては。

 刹那すら十分過ぎる時間。掴んだ手応えは無いが、何者か達が腕や指の寸法等を次々と測って行く。

 職人が丹精を込め、細部を仕上げる様に。違和感を覚え、左手を引き抜き眼が黒に戻った次の瞬間──


「コレは……腕輪と懐中時計?」


 左手首に灰・白・青が捻れ合う腕輪、手が握る物はハーフハンターケースと呼ぶ蓋付き灰色懐中時計。

 腕輪を外そうにも寸法がピッタリ過ぎて、逆にどう付けたのか疑う上、呪いの装備の方が納得出来る。

 懐中時計から伸びる真紅の鎖は黒いズボンの左腰・ベルト通しに繋がり、引っ張れば何処までも長く。

 鎖を両手に持ち左右へ大きく広げても対応し、大縄跳びが可能な長さや携帯に応じた短さも自由自在。

 腕輪と懐中時計から微かに感じる神の力、神気。鎖から手を離すと左手で時計を、右手は左手首を掴む。

 すると──突然膝から崩れ落ち、背を伸ばし天を見上げるや否や、頬から伝う涙が床に落ちて行く。


「……何故だろう。知らない相手が自害しただけなのに、涙が止まらなくて──こんなにも心苦しいのは…」


 名前も知らない相手が仲間を撃ち抜き、自害しただけ。文字や言葉にすれば、無理心中に近しい表現。

 当事者からすれば、他殺をした犯人が己ら以外の命が途絶えた未来を憂い、自殺したに過ぎない話。

 なのにエックスの心は大切な家族や仲間を失ったと受け止めて泣き続け、目から涙を流させている。

 悔しい、苦しい。何より──そんな(自殺・自害)選択をさせてしまった自身の不甲斐なさ、結果が何より辛い。

 深い無力感から全身の力が抜け、伸ばした背は猫背になり、床へ座り込み両手や顔も力無く垂れ下がる。

 左手に掴んでいた懐中時計が手から離れ、青色の竜頭(リューズ)が床に当たると押し込まれ、蓋が開く。

 中は白い文字盤、中央・左右下の三ヶ所にある時計の内、左下で進む灰色の針だけが高速逆回転。


「……えっ?」


「深海より深き愛故に、自他を苦しめてしまう我らが最愛の友よ。何を泣いているんだい?」


「何を泣いているか?当然──愛すべき者の為に決まっている。トリックよ」


 倉庫内にある、一枚の古い縦長の鏡が水面に広がる波紋の如く揺れた途端……鏡面を通り現れる二人。

 突然の事に頭は理解を拒み、ポツリと口に出た疑問の言葉。その動きはオペラの舞台役者さながら。

 金と白を基調としたド派手かつ変態的な衣装で、全身を使った大袈裟な動きと脚運び、言葉遣いで。

 エックスの方へ近付く変態(トリック)と、右隣で深緑に金の装飾が入った全身鎧(ジャッジ)が返答しながら歩み寄る。

 ジャッジが両手で支え持つは──溶解や破損が受ける前へと()()()()()行く名も知らぬ助けた少女。

 そして何故か耳に聴こえる、クラシック。音のする二人の背後を見れば、蓄音機が曲を流している。


「アメイジング・グレイス。元奴隷商人が牧師となり作詞した神の……最アイの友!?」


「はぁ、はぁ、はぁ……」


 その曲名はアメイジング・グレイス。キリスト教の讃美歌で、素晴らしき神の恵み等の意味を持つ。

 トリックが両手を広げ、大々的に説明している途中。俯いたまま立ち上がったエックスは……

 二人の間を通り抜け、蓄音機の前に立つや否や右拳を大きく振り上げ──力強く、一気に振り下ろす。

 何をしているんだ?!驚愕の呼び掛けにも一切答えず、激しい憤りで逆に苦しむ余り肩で呼吸を行う。

 バラバラに砕け散ったレコードと蓄音機、外れて飛び散った数々の部品。破片が刺さり、右手は血塗れ。

 彼もクラシックを好み、古さ溢れる蓄音機も個人的に欲しい気持ちさえ塗り潰す程の怒りが沸き上がる。


「全知全能ならッ!!俺に試練云々と御託を言わずやらせず、テメェらだけでこの星を救って見せろよ!」


「……それは無理だ、最愛の友よ。この星の神々は既に存在も無ければ力も殆んど無い」


「人類が繰り返す罪により信仰を失い、存在を保てずその有り様だ。実に無様な」


 神々とは超常的な力を持ち、人間に幾つもの試練を何の前触れやヒントも無く、当然とばかりに。

 経済的・精神的・肉体的に苦痛をふりかけ感覚で与え、乗り越える様を見て楽しむ悪趣味な存在。

 それが彼の神に対する印象。故に吼える。己らを信仰する人類を、その人類が住まう星を自ら護れと。

 暫しの沈黙の後、トリックが口を開き事実を話す。存在する為の信仰や信じ祈る者が消えた今。

 神と言う超常の大きな存在は、そよ風程度の存在力と僅かに残った力しかない。自業自得ではあるが……

 そんな中、ジャッジは人類と幻想種の戦争が決め手と話し──エックスの腕輪と懐中時計を指差し。

 実体を失ったばかりか、道具となり悪魔と嫌うエックスにすがり付く有り様を、無様だと言い放つ。


「彼に力を貸さないなら産廃行き。そう理解しなさい──ノルン」


 突然縦に渦巻く黒と白の混沌が双方の間に表れ、通り抜けて現れるは身の丈以上の棺桶を右手で担ぐ。

 修道女姿のナイア。彼女がエックスの左側へ喋りながら近寄り、外れない腕輪に右手を乗せ名を呼ぶ。

 ノルンと呼ばれた腕輪と懐中時計は、蓄音機が乗っていた机に銀色のタブレットが置かれた途端。

 酷く怯え、装着者の左腕ごと震える。先程の言葉は脅しではない、これが最初で最後の機会なのだと。

 ナイアは振り返り、ジャッジとトリックの二名に対し目を細めて見定め……軽い溜め息を一つ。


「そこの馬鹿二人。少しは成長なさい。この子に全て押し付ける気?」


「成長と言われても。我々融合四天王は誕生時より常に性能はカンスト状態だが?」


「然り!我らは生誕の時より常にプァ~ワァーフェクトッ!!老いも無ければ衰退も無い」


 ジト目で元融合四天王の実力者二人を馬鹿と言い、成長を促す言葉と彼一人に全てを背負わす気か?

 そう言った意味で訊ねるも、言われた当人らは片や戦闘力、片やプロポーションや美貌と捉えたらしく。

 各々の返答を返す為ナイアが軽く俯き、首を短く左右に振り逆に呆れさせる。が……敢えて逆に考える。

 エックスは仲間の能力や得手不得を可能な限り隠したり、傷付く事を良しとせず自ら最前衛を勤めた。

 相手側からすればワンマンアーミー。彼が最大の障害であり、味方なら彼一人で十分と認識してしまう。

 それ故か──微笑む彼女の右半分が別の異名、燃える三眼に一瞬なっていたのを見逃す二人。


「ま……別に良いけど。ほら、これでも飲んで落ち着きなさい」


「うん。ありがと……ナイア姉」


 幾ら言葉で言っても理解を示さないと理解し、ポツリと呟きエックスと肩を並べ直し壁側へ向き直ると。

 何処から取り出したのか。透明なグラスに百パーセントトマトジュースとノンアルコールビールの缶を。

 一対一で入れ底から中腹は赤く、飲み付近は泡で白いカクテル、レッドアイをエックスに手渡すナイア。

 やるぅ~と口笛を吹くトリックを見るジャッジ。花や宝石に言葉の意味がある通り、カクテルにもある。

 レッドアイのカクテル言葉は──同情。彼女なりの貴方を助けたいと言う、ささやかな表現。

 エックスはお礼を言い、グラスを手に取ると何の警戒心も無く一気に中身を飲み干し、グラスを返す。


「貴方の旅を手伝えなくて──ゴメン」


「構わないよ。これまで通り、なんとかやってみるからさ」


「……えぇ。頑張ってね──!!」


 右手でグラスを受け取り、机の上に置くでもなく、左側の床へと無造作に放り投げて割った後。

 旅を手伝えていないと頭を下げて謝罪するも、謝られた当人は仕方ないと微笑みに似た苦笑いを作り。

 『これまで通り』やってみると言う。その言葉を聞いたナイアの顔は一瞬曇るも、直ぐに笑顔を作り。

 心にもない言葉を吐き、下ろした左手は爪が肉に食い込み、血が滲み出る程力強く握られていた。

 トリックやジャッジの少し離れた場所から見て、話が聞き、意味を知らなければ印象は全く異なる。

 そんな時。エックスの右手がナイアの左頬へ触れ、身を乗り出し彼女の右頬へ軽い口付けを行う。

 それは一瞬で軽い。されど心に秘めた想いと意味は酷く、重く、優しくもどす黒いモノ。


「それはお互い様だろ?大丈夫。自分は全宇宙の平和をぶち壊した、最低最悪の破壊者様だぜ?」


 密着状態から一歩離れた後。精一杯の作り笑いを、満面の笑みで見せて話す。けれどそれは──

 余りにも自虐的で、自殺と大差無く、己を己で壊し続ける自己犠牲。多分、顔から零れ落ちる涙も……

 彼自身の心が叫ぶ無意識の悲鳴、救難信号。そんな事、ナイアには呼吸や眼で景色を視るのと同じ位。

 分かっていた。けれど……見て見ぬふりをする他無い。悲しげな笑みを浮かべつつ、後ろ歩きをし。

 背後に展開した、白と黒の渦巻く混沌の中へと消えて行く。互いが互いを(あわ)れむと。

 「貴方(貴女)に『あの(憐れむ)眼でもう一度』視られない為にも、最大限やり切ろう」と心に深く決意する。


「我らが最愛の友よ…」


「ッ……さあ、自分達も此処から脱出しよう!」


 何かを感じ取るトリック。しかし闇から産まれた彼ら・彼女は、人類観察から負の感情は理解出来れど。

 それ以外の曖昧な中間や哀と言った、心の機微が分からない。心を持つ生命ですら全てを理解出来ない。

 故に声を掛けるも、涙に気付いたエックスは右腕で拭い、満面の作り笑いを今度は二人に向けて話す。

 だが……分からない。友人の心が、自身らに向ける(仮面)の意味が、その下にあるであろう素顔が。

 ただ分かる点と言えば──理解出来ない自身らと、何かを誰にも言わず話さず、隠し通す友に対し……

 恐怖を覚え、一歩引く二人。友を突き動かすのは『勇気』では無い。もっと深く醜く、身近な何かだと。


「先ずは脱出の手掛かりを探そう」


「……ウム。我々は周辺の警戒と探索を行う。我らが最愛の友よ、此処の探索は任せた」


「ジャッジ?!何故俺様の手を引っ張る!!」


 この終焉世界から脱出すべく、手掛かりを探そうと提案するエックスに、二手に分かれて行動すべきと。

 意見するジャッジに向け、任せたと満足げな表情と信頼で頷けば、トリックの手を取り強引に外へ。

 二人の姿が見えなくなるまで見送った後、穏やかな表情から目を細め睨み付ける様な無愛想顔へ豹変。

 ユイや仲間達に見せる気さくさやのんびりした様子が消え、残された倉庫内を駆け足で走っては止まり。

 机に残された手帳や資料を手に取っては目を通し、無表情から喜怒哀楽や呆れ顔へとコロコロ変わる。

 背を向けるエックスの背後で、出入り口の端から顔を覗かせ一部始終の行動を視ていた元融合四天王。


「確か俺様達の王が言ってたっけ。えぇ~っと…」


『我が友は他の誰よりも愛情深く、独占欲が強い。それこそ愛情で伴侶を容易く壊す程度にな』


「──だ。曰く、(ひとえ)に積み重ねた奇跡の集束点だと」



『色褪せたボロボロな手帳』

・色褪せ、剥げているが、元は綺麗な緋色をした誰かの手帳。筆跡から幼い頃から使用されたと思われる。


──1~2ページ目──

 しんれき161ねん4がつ10か。

 どれいしょうにんから、わたし達をたすけたヘンなヒト。

 なまえを聞いても、名のれないんだって。だからわたし達の間でヘンなヒト、とよぶ。

 このてちょう?も、ヘンなヒトがくれた。おもいでを書きのこすため~とかいってた。

 きょうのよるゴハン。ゾウスイとスープ、柔らかいキャベツに白くてネバネバするモノ。

 ひんそうだけどフシギとおいしくて、わたし達ぜんいんおなかイッパイでしあわせだった。


──3~4ページ目──

 しんれき161ねん4がつ20にち。

 昼頃、ソラからキレイなヒカリのつぶがふる。イスをあしばに、マドから手を出して。

 フレテみたけど、なんともない。ユキみたくつめたくもなくて、ろーそくの火みたくあつくもない。

 ヘンなヒト、お日さまが出てるのにカサをさした上、あせって他の子達をイエの中に入れてた。

 あのヒカリのつぶ、さわったらダメだった?さわった事言ったら、オコられるかな……言わないでおこ。


──5~6ページ目──


 シン歴162年6月6日。

 変な人、最近出かけてばっか。見まもり?に頼まれた……ヒト?アレってヒトなの?

 まあいいや。シスターにカンジ……漢字やサンスウを教わった。けどまだ、カン全には覚えれてない。

 変な人。数日、長いと数週間は帰ってこない。帰ってキテも、毎回傷だらけで衣服はボロボロ。

 シスター、毎回泣いてる。また初めて助けられた時の料理を作ってくれた。けど……

 私達の機嫌を取ってるみたいで、ムカついて箸を付けずに部屋へ戻った。夜遅く、台所に行ったら。

 変な人が一人で私達が残した料理を泣きながら食べてた。何故か胸の奥がズキッと痛む……何で?


──17~18ページ目──

 sin歴165年12月25日。

 新米の修道女?シスター?が来てから三年が経った。正直興味は無かったから、名前も知らない。

 そもそも、自衛目的の戦闘訓練を繰り返す日々で知る必要性も感じなかった。この日が来るまでは…

 クリスマス当日。変な人と新人シスターが教会の前で談笑した時、銃声が聞こえて駆け付けたら。

 変な人の左胸が撃ち抜かれてて、出血も酷い──思い出すから詳しく書くのは止めよう。

 その後は凄惨だった。町中の人達は助けて貰った恩を忘れ、シスターの頼みも拒絶して突き放し。

 結果として……うん。新人シスターがテラー化と呼ばれる現象を引き起こし、私達以外を鏖殺。


──35~36ページ目──

 sin歴171年12月25日。

 運命は奇跡のクリスマスプレゼントをくれた。同志・シスターのテラー化を解いた上。

 自爆覚悟だったアイエフも救ってくれた存在。ただ……その人を視て、十年越しに漸く理解する。

 私は──幼い頃に出逢った変な人に、幼心ながら心惹かれていたと。同時に、深く後悔もした。

 あの日……sin 歴162年6月6日。あの人が私達にと心を込めて作ってくれた、生前最後の手料理を。

 箸も付けずに残した私自身の無知と、無駄に高く積み上げた、何の役にも立たないプライドと意地を。

 これから私達は協力者の元開発した銃弾でラストミッション──『時間からの影』を行う。


・合間のページは風化が酷くて読めないが、此処でページは途切れている様だ。

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