終焉へと至った世界
『前回のあらすじ』
再び行われるディクテイターの会議。しかし参加者はゼノとテラー、謙信の三名のみ。
トップのゼノが二人を呼んだ理由は、問いたい内容があったが為。謙信からは裏取り引きの件を。
テラーからは無許可で使用した技術の件。だが問い詰められる中、テラーは恐怖心が高まり変化。
無断使用を不問にする代わり、世界を恐怖の沼に沈めると決意する中、謙信はゼノに不信を抱く。
「此処は……一体?」
南区を消し飛ばす爆発に飲まれた筈のエックスは、気付けば水平線へ沈む茜色の空と薄暗い夜が覆い。
港の堤防へと海水が勢い良く波打ち、高く飛沫を上げる逢魔が刻。左胸の出血は──何故か無い。
場所は港町トワイライトの地図情報と一致するが……景色が違う。周囲を見渡せど、辺り一面瓦礫の山。
黒い電灯も残ってはいるが、くの字に折れ曲がり、良く視れば青い電流が走り、掴めば感電は確実。
更に言えば夜が大部分を占めるのに対し、周囲は不思議と明るくて気温も温かくパチパチと音が響く。
木が弾ける音と、何処からか漂う異臭で臭いの正体に気付くと嗅覚・聴覚・勘を頼りに、一人駆け出す。
「レンハ!ヲリマレンハマ"!ヤ"アヒワニナクタソテラエ!!」
「スミ……ま、セ──ん、マすたー。貴方の仇を討テヌ、哀レなワタしヲ、許、して…」
「モ"アカヲナ、ウオウオニハロビユマ"!」
元々は五階建てのマンションであったソレは、一階中央部分から横へ綺麗な断面を残して切断され。
黒髪ポニーテールの少女が壁に凭れ装着する武装は運搬装置や建設機械感増し増しだが……所々欠損し。
左腕と右足の折れたパワードスーツのパイプから異臭の正体──潤滑油とガソリンが地面に流れる。
名称こそパワードスーツなれど、破壊者が纏っていた物には遠く及ばない程メカメカしい作りの造形。
特撮やアニメで見る変身モノ、ロボット系ではなく。本当に有り合わせで作った急拵えのジャンク品。
少女を百八十度、地上空中から謎の言語を話飛び掛かる、薄汚れた桃色や濃い灰色の太く長い生物。
少女の方も頭から赤い血が閉じた右目を覆い、仕えた主へ謝罪の言葉を電子と人間風のカタコトで話す。
「ユニホルク──ナ!!」
「ンキロハヲ!!ナルオモサ_……マ"ヒレレレ?!」
刹那──標的の少女を前に空中で静止。謎生物が全匹停止したのを見て戸惑う彼女の眼に……糸が映る。
自身を囲う様に仕掛けられた、隙間感覚の狭い球体状に組まれた糸。そして緋色の稲妻が煌めいた直後。
謎生物は真っ黒焦げを越え、原子レベルで体が消滅する中。絶叫、悲鳴、断末魔らしき叫びを上げ。
閃光が塵も残さず消し、役目を終えた糸も消え、満身創痍の少女が油の切れた機械同様首を上げ──
壊れた左顔面の目。赤色に光る小型カメラが自身を救い、敵対者を消し去った存在を捉えた時……
両方の目から洗浄液──否。涙が次々と溢れ、口角は自然と笑みを浮かべ、絶望した顔に希望が灯る。
「っ……マス、たぁ…」
「(マスター?自分を誰かと誤解してる?それは兎も角)大丈夫かい?」
両手で泣いてる顔を抑え隠し、心に次々と溢れ出す様々な感情。話したい、伝えたい事が沢山ある中。
糸が切れたかの如く両手が芝生に倒れ、涙と感情でぐちゃぐちゃになった顔で漸く口にしたのが……
彼を、エックスを主だと言う短くも精一杯の言葉。言われた当の本人は少女と面識が無いのもあり。
他の誰かと勘違いしていると認識しつつ、言葉を投げ掛ければ彼女は満面の笑みを浮かべ、深く頷く。
動こうとするも手足は短く震えるだけで、立ち上がる事すら不能。エックスは彼女を軽々と抱き上げ。
「撤退するぞ。拠点はあるか?」
「チュウ、おう。一バン……倉庫」
先程の断末魔を聞き付け、謎生物の仲間が来るかも知れない。戦場の勘が瞬時に考え、撤退を選択。
拠点の有無を訊ねれば、途切れながらも中央一番倉庫と懸命に伝え、聞き届けたと深く頷き駆け出す中。
瓦礫の山に凭れ掛かる、ブレザーを着た妊婦の女子高生二人が痙攣を起こす姿が眼に映り、立ち止まる。
観察すると──口から涎を滴し、目に光がない。言葉で表現するならば、糸の切れた人形。しかし……
眼に見えずとも、嗅覚が異変を見付ける。片や生臭く、片やほんのり甘い破水の匂いを。次の瞬間──
大きく開いた足の股から少し白濁した水っぽい液体が大量に流れ、何かが続々と排出し始める。
「ッ……マジか」
膨らんだ腹部から一気に雪崩れ出て来る生命……それは、先程見た謎生物。一匹や二匹程度ではない。
大小個体差はあれど、最低十匹以上が産まれ、体色も赤・灰・桃・紫と様々。同時に、視てしまう。
己の意思に反し星の記憶が、ワールドロードに助けを求め、何が起きたのかを走馬灯の様に流される。
紅い光と黒紫の光が初めてこの星へ落ちた時から……否、生涯の友が別の未来初めて形を得た時から。
侵略者はノミの如く纏わり付き、思考洗脳で暗躍し、更にはこの星へと降り立った。
遥かな年月を掛け、微生物から小動物に種を植え付け、密かに侵略行為が着々と進められていたのだと。
「原生生物を犯し、短時間で繁殖と進化を繰り返し星を苗床にする。確かにコイツは──俺の敵だ」
強姦紛いの交配と同時に自身らの種族を産める様肉体改造を施し、老衰するまで強制的な苗床化。
一度で最高数十匹を産ませる為、繁殖速度は早く、目の前に居る人の脚が生えた突然変異も出易い。
思考や欲求も、女は苗床で男は殺す。ただそれだけ……なのだが、この星には想定外の破壊者が居た。
龍種特有の宝を抱え込み護る本能がエックスにもあり、インベーダーの生存・進化本能は見事。
彼自身の『宝物』を穢し奪う侵略者と認定され、左手で指を擦り合わせ音を鳴らすと──
夜空から一筋の落雷が侵略者へ落ち、焼かれて真っ黒な塵と化せば風に吹かれ、消え去るだけ。
後は激しい痙攣を繰り返す女子高生二人を救出し、検査すれば何か分かるかも知れないと考えた時……
「よし。助け──」
「あ……アレは、ッ……コンな、時に」
突然──何の前触れも無く、現れた黒い霧が意思を持つ様に女子高生二人の頭上へ集まるや否や。
身長が十メートルは優に有ろう者が黒くボロい修道服を身に纏い、黒く塗り潰された顔に白いクレヨン。
もしくはペンで殴り描いた、子供の落書きの様な眼と口を持つ巨大な修女が現れたと認識した瞬間。
何の躊躇や一切の慈悲も無く、人間が蟻を手で叩き潰す様に、二人の女子高生を一瞬で叩き潰す。
大量の鮮血や内臓、骨の欠片が周囲に飛び散り、二人の外見を瞬く間に血で、心を恐怖で染め上げる。
救出を目的にしていたのもあり、突然の圧殺に彼は思考停止。眼前の出来事が理解出来ず立ち尽くす。
「有罪有罪有罪有罪有罪……私刑!!」
「ま、スター……逃げ、て…」
「ッ!!」
何度も有罪判決を下し、法的な刑罰ではなく個人、または集団の私的な制裁の私刑を口にするや否や。
砕けて残った骨や潰れつつも分かる臓器に対し形が残らない様、執拗に繰り返し右手を叩き付ける修女。
抱き抱えた少女の声を聞き、我に返ったエックスは気付かれぬ様静かに踵を返し、目的地へと駆け出す。
アレは何者か?潰した相手を念入りに潰す理由は何か?そんな疑問の回答よりも早く、ある事に気付く。
周囲の瓦礫や残骸から絶えず燃え盛る炎に照らされ、足元に出来る自身の影がより大きな影に隠れ。
上を見ると例の巨大な修女の顔、左右から迫る両手。狙いは自身と理解し、両人差し指を正面へ向ける。
砂場から一粒の宝石を掬い上げる様に捕まえた……そう確信し手を開けど、掬い取ったアスファルトだけ。
「……?」
「間一髪。ギリギリ間に合ったぁ」
不思議そうに両手を見詰めた後、視線を前方へと向ける。其処には先程と同様に駆けるエックスの姿が。
しかし当人の本人は体の火照りから来る汗で顔が、寒気を覚える恐怖体験に冷や汗で背中がびしょ濡れ。
何故助かったのか?実は捕まる寸前に両人差し指を正面へ向けた際、某蜘蛛男の様に糸を飛ばし。
折れた電灯に巻き付け、力強く引っ張る事で一定の距離を急加速し紙一重で捕獲から逃げたのである。
自身から逃げる背を視て膝から崩れ落ち、巨大な修女は両手で顔を覆うも、指の隙間から白く。
大粒の涙を地面へ零れると──落ちた箇所に白い煙が立ち上ぼり、コンクリートが焼ける音を鳴らし。
失った、もしくは求め欲した何かを求めてその顔に滝の涙を流し。
必死にエックスを追い掛け、手が地面へ着く度、爆発音と誤解する轟音を響かせ、四つん這いで追う。
「待ッデ!!何処ニモ……何処ニモ行ガナイデェェ!」
「アッ──っ!!」
「ま、マス……」
尋常ならざる体力と脚力もあり、お互いの距離は伸ばした修女の手がギリギリ届かない位置を維持。
なのだが……泣き叫びながら勢い良く首を横に振った為か、飛び散った涙の一滴は彼に一歩届かぬ位置へ。
しかし──問題は当然起きる。水滴を高所から落とせば周囲へ散る様に、弾けた飛沫が微かに届く。
右脚の裏側は太股とふくらはぎに踵、右腕は前腕部に運悪く命中。突然腕と脚が焼ける痛みに襲われ。
アッつい!!と思わず叫んでしまう痛みを飲み込み、歯を食い縛り耐え凌ぐが走行中の利き足と腕の負傷。
体勢を崩して倒れ、前方へ少女を落としてしまうと、大急ぎで被弾箇所の衣服を力尽くで破き。
エックスを修女の両手が捕獲。彼に声を掛ける彼女に涙が落ち、右半身は蒸発音と共に溶ける。
(追撃が……来ない?)
「ア"ァ"……我が神ヨ、我が主ヨ。貴方様に心寄りノ深い感謝ヲ」
本来なら握り潰されてもおかしくはない。そんな状況下で突然両手に包まれ真っ暗な状態から。
水や日の光と言う栄養を受け、浴びて下げた頭を上げる力強さを表す形で、天へ掲げられる修女の手。
花がその蕾を開花させる様に開く両手。漫画等の表現では天候も空気を読み、雲が引き太陽が差し込む。
……のだが、強く水滴を打ち付ける音が鳴り響くゲリラ豪雨。遥か昔、気象観測の技術がなかった時代。
日照りが続くと神仏にすがり、雨を乞う。天が応えれば恵みの雨と呼ばれ、農業者には喜ばれた。
それと同様に寧ろ今、豪雨になったのは逆に、天からの恵みと言っても過言ではない。何故なら──
焼け溶ける痛みを抑え、皮膚への浸食を防ぐ流水となる中、修女は己が神と主に深き感謝を捧げる。
「何卒……世界に終焉をモタらセシ、罪深き我ガ懺悔ヲお聴き下サイ」




