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ワールドロード・sin again  作者: オメガ
序章・ Jacta alea est
22/28

亀裂

 『前回のあらすじ』

 深夜の第六倉庫にて行われる、違法商人と客の人身売買。過去にベーゼレブルが阻止したのもあり。

 客は魔法王国を奪う国盗りを邪魔され、海賊二人は好機と見て仲介役を捕まえようと挑むも。

 先読みにも似た素早い動きで返り討ちに。しかし蜘蛛の力を得たエックスには敵わず、倒されるが。

 ユイと共に居た孤児に撃たれ、彼女が持つ銃に仕込まれた爆弾を空で処理するも爆発に飲まれた。



「……パイモン、五秒後に爆風が直撃する。今直ぐひし形の二重障壁を張るぞ」


「わ、分かった!」


 深夜の港町に轟く爆発音、破壊と言う死を町中の隅々まで運ぶ強烈な爆風が、夜空を赤く照らす。

 仮拠点が停泊船のある港に近く、親友が港町への被害を回避する無茶や、彼自身に爆炎が迫る中──

 エックスは障壁等の防御や回避能力を使わず、親友たるベーゼレブルへと顔を向け……後は任せた。

 そう言わん精一杯の作り笑いを向け、彼が居た位置は球体状に膨れ、弾ける灼熱の熱波に呑まれる。

 後を任されたベーゼレブルはパイモンに指示を飛ばし、仮拠点を包むひし形の二重障壁を展開。

 角の先端部分に風圧が当たる様に設置。すると迫り来る風を左右へ切り裂き、後続の熱波をも耐え凌ぐ。


「──我が友よ。その願い、聞き届けた」


 最悪の展開を回避する友の勇気ある決断と行動を見届け、作り笑いに込められた願いを聞き届けると。

 眼を閉じ右手で胸元に逆十字を切り、神への反逆を刻みながら願いを承諾した旨を小さく呟く。

 爆風による被害が落ち着いて数十分後、足元が覚束ない藍色の髪と眼を持つ少女が酒場兼宿屋へ到着。

 しかし辿り着いたものの、心身の疲労で既に満身創痍な上、一言も発する前に倒れ伏してしまう。

 時刻は深夜三時前と日の出には遠く、少し遅れて海賊達に見付かり、一緒に連れられた猫娘も到着。

 面倒を見ていた孤児と言う点、何が起こったのかを問い質す為、宿屋へと招き──翌朝。


「……そうか。我が友は自身を撃ったあの娘を責めず、寧ろ守ろうと行動したか」


「正直、恐怖すら覚えましたわ。ご自身の心配より、他者を救おうだなんて」


「とは言え。そのお陰で僕達や捕縛したコイツらも生きてる訳なんだけどさ」


 朝七時頃。一階酒場の席にて向かい合う形で座り、昨晩の出来事を海賊二人組から聴くベーゼレブル。

 違法商人と客の繋がりや会話、仲介役の常識外れした姿と能力、孤児が行った行動やその後の展開等。

 人助けは善行と理解しつつも、アンは己を省みないエックスの行動には、違和感と恐怖を覚えるも。

 メアリーに無謀とも取れる行動のお陰で救われたと言われ、事実であるが故に何も言い返せず。

 ムスッとした不服を表す表情で頬を膨らませ、礼儀正しく脚を閉じて沈黙とジト目で抗議するアン。

 されどそんな抗議も何処吹く風。メアリーは全身を縛り上げ、足元で倒れる客と違法商人を見下ろす。


「にしても、不思議ですわね。この商人は確かに首が落ちた筈。なのに生きてるだなんて」


「糸を通した幻覚だな。触れれば耐性に問わず、少ない魔力で効果を及ぼす」


 不貞腐れた表情のまま、テーブル横の床に縛られた商人達を見下ろすアンは、疑問を口に出す。

 素朴な疑問に人差し指で宙に円を描くと、二階の窓から差し込む光に照らされ、光を反射し漸く見える。

 肉眼では視認出来ない程に細く、何処へ繋がっているのかすら不明な糸。これに幻覚を付与し。

 触れた相手に影響を与えたと話すベーゼレブル。海賊二人は眼を細めた上、条件を満たして漸く視認。

 ただ、ベーゼレブルは「まあ、この町中に巣を張り終えた時点でコイツらは詰みだったがな」と。

 結局は時間の問題……否。蜘蛛の巣に気付かず、日常を送った時点で捕まるのは確定だったと内心呟く。


「それじゃあ、僕達はコイツらを刑務所に連れて行くよ」


「賞金首ですし、懸賞金もガッポリですわ」


 話もそこそこに席を立ち、右手に持った縄を引っ張り上げると、白い布で口を塞がれた商人達が唸り。

 高額な懸賞金でも貰えるのだろうか?海賊二人組の表情は満面の笑みを浮かべ、違法商人達を連行。

 よく見ると床から数センチ浮いており、引きずると言った行為にはなっていない辺り、魔法具と認識。

 満足げな二人を見送った後。ベーゼレブルは人差し指に巻いた、半透明の細い糸を見つめ、思う。

 「糸を通して微細な音や振動を感知し、事前に罠を仕掛ける。……もはや蜘蛛だな」そう呟いた直後。


「さて……私もリトルプリンセス達の為に、パイモンと共に朝食の準備をするとしよう」


 椅子に右手を置き、自身も腰を上げて席を立つ。台所へ向かう途中、壁に立て掛けた一枚の縦長鏡。

 その鏡面に左手で触れ、素通りした後に映ったのは左手の手痕──ではなく、血が酸素に触れ。

 茶褐色に変色した何者かの魚拓ならぬ、鏡の内側からの人拓を音もなく形作った数秒後。

 今度は人拓から吹き出す大量の赤い液体が鏡を塗り潰し、音が忘れ去られたかの如く静かに砕け散る。

 十分後。二階・ユイ専用の個室。ベッドで彼女が目を覚ますと思いきや……部屋の窓際で椅子に座り。

 光の無い虚ろな目で、只々(ただただ)陽が差し込まない日陰の窓を呆然として眺めるユイの姿が。


「お姫様……入るよ?」


「……」


 部屋の外側から木製扉を軽くノックする音が三回鳴り、猫娘は一言伝えてから許可もなく扉を開け。

 入室するのだが……一人ではなく、藍色の髪と瞳を持つ少女も一緒。しかしユイは返事どころか。

 首と視線を少し動かして確認後、興味や感心を失いどうでも良くなったのか、窓の外へと視線を戻す。

 例えば個人差はあれど鬱病の症状。又は毎日残業続きで疲労(ストレス)が溜まり、趣味等に対し興味が薄れ。

 休日を家の寝具から必要最低限以外出ず、誰とも話さず一日中籠りっぱなしになるのと同じ状態。


「姫、あの大人は死んだ。これでもう姫を拐い、利用しようとする奴は……」


「煩い!!」


「「──!?」」


 藍色の娘が口を開き、エックスの死とユイを利用しようとする奴は消えた。と話している間も彼女は。

 話し声に掻き消されてしまう程に小さく、か細い声で何度も何度も繰り返し、煩いと遮る様に呟く中。

 突然大きな声で叫び、二人は肩をビクッとさせて驚き、言葉を失うと沈黙が部屋の空気を支配する。

 二人はお互いの顔を見合せ、再びユイの方へ視線を向ける。だが……彼女は一切視線を変えない。

 今は会話も出来ない、気分が落ち着くまで部屋の外で待とう。そう考え、扉を開けて部屋を出る時──


「私は……貴女を許さない」


「っ!!──あぁ……それで構わない」


 視線すら合わせて貰えず、好き嫌いの感情を持たぬ、無関心を決め込んだ声色で冷淡に言い放つユイ。

 けれど……憎悪の感情は確実に孕んでおり、自身の行動が彼女の逆鱗に触れたと気付き、目を見開く。

 言い放たれた言葉から今まで築き続けた関係を、利用されたとは言え自身が最終的に選択し、壊した。

 そう察すると天井を見上げ、己に向けられる憎悪と事実を受け止め、頬を流れる涙と共に俯けば。

 今にも泣き出したい、この場から逃げ出したい気持ちを堪え、震える声を絞り出して返答を返す。

 猫娘はユイの精神状態を心配しつつも、隣で精神的に限界を迎え、部屋を駆け出す藍色の娘も気掛かり。


「あぁ~………もう!」


「おっと……朝食は食べるかね?」


「後で貰うから置いといて!!それから……お姫様!戻って来たら話、聞かせてよ?!」


 どちらも気掛かりだが、此処にはユイを気にしてくれる神父が居る。しかしあの娘には他に居ない。

 されど彼女の行動が付き合いから理解出来てしまい、その危なっかしさから追い掛ける選択を取る。

 その時。扉を開けたベーゼレブルと偶然鉢合わせ、今朝食を食べるか否かを訊ねられるも後に。

 続けて振り返り、戻って来たら別行動をした時の話を聞かせて。と言い、階段を降りて店の外へ。


「ふむ。余程我が友を気に入った様子。流石はロイヤルブラッド、と言うべきだろうか?」


「……ベーゼ(邪悪な)レブル(反逆者)風情が」


「命とは罪を繰り返して学び、成長を善行として罪を償う。例え『如何なる存在』でも間違いを犯す」


 目を閉じると猫娘がウエスタンドアを鳴らし、外へ出たのを耳で確認後、ユイの方へ視線を向け。

 己が友を気に入ったのは、王族の血筋故だろうか?その単語を口にした途端、鋭く神父を睨み付け。 

 その名に込められた意味を嫌味ったらしく口にすれど、当人は全く意に介さず、命と罪を語る。

 ただ発する言葉は自身の弁解ではなく、命は間違いから反省を通し、成長か怠慢の二者択一を。

 死を迎える最後の時まで幾度も繰り返し、学び続ける。その行動が結果的に善行に繋がり贖罪となる。

 だからこそ藍色娘の犯した愚行、己が抱える憎悪すらも許し、受け入れ、成長すべきだと言う。


「──『幸福な家庭は全て互いに似通っているが、不幸な家庭はどこもその趣が異なっている』のだよ」


「……それが、どうしたって言うのよ」


「記録とは失敗や不幸の産物。更に著者が膨大な時を必要とした物語(痛み)を、我々は数時間で知れる」


 左手を後ろに隠し、右人差し指だけを立てて、レフ・トルストイの代表作にて有名な冒頭を説く。

 だが年代が古過ぎる為か、想像以上に通じぬ故、本や記録を例にし、体験や不幸こそが物語の産物。

 結論・完成にまで至った著者の人生を、千数百ちょっと支払うだけで何の痛みも無く手軽に学べると。

 そう言われ、ユイの脳裏に浮かぶ『小説・ワールドロード』の物語。血汗滲み、命を賭けた物語(人生)

 娯楽としては欠陥品、反面教師ならば及第点。そんな風に捉え、馬鹿にする者もいるだろうが……

 彼女は好んだ。泥塗れの人生、誰よりも貪欲で、負ける事が大嫌い。敗走しても心は敗北を認めず。

 勝つまで何度も挑み続ける勇気や意地。自身と真逆な姿と生き方に引かれ、憧れと夢は現実に。


「失敗を恐るるなかれ。我が友も勇気を胸に失敗を繰り返し、最善の成功へと至ったのだから」


「……っ!!」


 失敗を恐れつつも前を向き、進む行為がより良い成功を掴むと、エックスの行動を思い出しつつ。

 部屋の中心に設置された丸い机に朝食の白い茶碗、薄青い硝子のコップを置き、ユイの顔を見て話す。

 胸の奥で始まる、(思考)(感情)の葛藤。脳が最善(謝罪)を提案するも、心は間違いを認めたくない。

 否。正確には迷っている。親や周りが常に正しい解答、行動を求め、失敗と損失を悪と罵り。

 教育や家庭方針と言う大義名分を掲げ、子供や誰かを洗脳する。ユイも洗脳を受けた一人であるが故に。

 迷いを振り切る様に、机に置かれた朝食のオートミールと水を胃に流し込み、部屋を出て追い掛ける。


同調行動(バンドワゴン効果)。ならば失敗と損失を恐れ、成功を求め滅びよ命。貴様らに未来等不要だ、ストゥルティ(愚か者)よ」


 残された部屋で喋る独り言、赤信号皆で渡れば怖くない。とある人物が流行らせた集団心理ギャグ。

 一人は不安でも群れを作れば恐れや罪悪感、恐怖心は薄れ、行き過ぎた正義や悪事も行える。

 故に成功だけを求め、失敗と損失から学びをしない愚者に未来等要らない、滅びてしまえ。

 神父としては最低最悪の言葉を吐き捨て、部屋を後にし階段を降り、ウエスタンドアを両手で開き──


「ドラマチックな出来事や激動のドラマ(物語)が無い、平穏で退屈な日常こそ本当の幸せである。そんな地獄……私は御免蒙るがね」


 長く変化や進歩の無い平和は廃退の日常と幸せ、死ぬまで繰り返される、退屈で代わり映え無い毎日を。

 命懸けの戦争はドラマ顔負けの胸高鳴る王道や、大どんでん返しな衝撃のラストも当然起き。

 驚愕の技術躍進を生む。だが、そんな人生を平和な世界の住人が求めるか?答えは大抵が否である。

 しかし……副王が行った様に報酬を出せば欲に目が眩み、退屈を紛らわす為のスリルを求め手を出す。

 だからか。ベーゼレブルは不変な平和と言う地獄など、此方から御免蒙ると言って青空を見上げる。



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