利用される者
『前回のあらすじ』
ナズナ・イクス・ユイは今日あった出来事を夢に見る。利用するのではなく、共に歩んでくれる者を。
エックスは罪をもう一度受け入れ、世界を脅かすディクテイターの打破を一人、心に決める。
帰宅後、台所で御飯を作る組と別れベーゼレブルと話をするユイは、子供らしかぬ口調と態度。
助けを求めても神仏は救わないと言う彼女に、例え神や仏は居なくとも、終焉の破壊者は居ると伝える。
午前二時の中央エリア・六番倉庫。周囲にはサングラスを掛けた、黒服を着た獣人の見張りが四名。
内部は天井寄りの壁に備え付けた照明機に照らされ、フード付きの黒と白のローブを纏う人物が二人。
二人の間に立つ、緑色のローブを纏う存在が左側の黒いローブの違法商人へ右手を向ければ。
違法商人は足元に置いてあるコンテナを開けると、中身は両手両足を縛られ、身動きの取れない亜人。
容姿と服装から犬耳や尻尾を持つ警官と民間人。白い布で口周りを覆われ、表情から恐怖が見て取れる。
十中八九、職務と正義感から尾行するも逆に罠に嵌まり、献上品の一つとして捕獲されたのだろう。
「……我が貴殿に求めた商品では無い様だが?」
「毎度ご利用くださいます、お得意様へのオマケ。サービスで御座いまする」
「男は解体、女は部下共に食わす。以前は神父の邪魔を受け、国盗り道具が手に入らなかったからな」
白いローブ姿の客が指摘すると、違法商人は左右の手の平を相互に擦り合わせて揉み、姿勢を猫背に。
恵比寿顔でへりくだり、今後とも贔屓にして貰おうと、取り繕い媚びる姿は時代劇そのもの。
しかし購入者は気に入らなかったのか。警官は解体して部位を別売りにし、女は部下達の慰みモノ。
会話から察するに以前、ベーゼレブルが奇襲を仕掛け阻止した違法売買こそ、今回の客が求めたユイ達。
彼女らを道具に国を盗る予定だった客の冷静な声とは裏腹に、握り拳から強い怒りと悔しさが滲み出る。
「確か、西区の魔法王国でしたか。ですがあの地の魔王は、人質等眼中に無い悪魔の筈」
「その点も問題ない。組織の幹部・ナイトメアが西区の魔王と交渉を持ち掛け続けている」
「ナイトメア!!幹部・貪欲に置ける幻の第一席!」
されど、四方の担当地区を護る四大魔王が一人。魔王コトネの脅威度は表・裏世界の両住人が知る程。
人質や被害も気にせず、敵に魔法を放つ彼女の領域には手を出すな。それが暗黙の了解。
この客が一番危険度の高い魔法王国を狙う理由は明白。第一席・ナイトメアが魔王と交渉を継続中の為。
会議のモノリスにも四名分の幹部しか出現しなかった内、五つ目にして誰も姿を知らない幻の空席。
分かっている事はただ一つ。貪欲の誰よりも強く、狡猾で、組織すら切り捨てる薄情者。
「…………」
「す、すみません。改めて、此方が今回ご注文を受けました商品です」
仲介役が顔を向けた途端、違法商人は謝り、これが注文品だと懐から取り出したタブレットを渡す。
画面に映っているのは、周囲に積み上げられたコンテナの影に身を隠す、アンとメアリー。
更には三段積みされた木箱同士の隙間と、物陰に隠れた二人の子供。確認した客はニヤリと笑い。
「では、予定通り運搬船への搬送準備を頼む」と告げ、商人が頷き手を叩けば、黒服姿の獣人が入室。
亜人の警察と女性が詰められたコンテナの蓋を閉め、二人で持ち上げて倉庫から運び出そうとする。
その時──銃声が一つ鳴り響き、無数の小さくて丸い銃弾が商人と客に迫るその時、仲介役が動く。
「……」
(あ……あり得ませんわ!!前方に拡散する銃弾を全て掴みましたの?!)
(けど、僕には注意が──なぁっ!?)
緑のローブを風に靡かせ、目にも止まらぬ早業で拡散弾を全て掴み、左手を開けば次々と落ちる銃弾。
硝子玉を落とした様な音を倉庫内へ響かせ、コンテナの物陰から覗き見るアンを驚せるも。
最悪、防がれたり避けられるのは予想の範疇。本命は小柄で俊敏なメアリーが物陰を移り渡り。
標的たる商人や客、あわよくば仲介役を捕まえる気だった海賊達。だが……仲介役は見抜いていた。
四段積みコンテナの上から飛び出し、両手に持ったカトラスで商人の背後から縦に両肩を斬る筈が……
突然振り向き、商人の背後へ回り込んだ仲介役が両手の人差し指と中指で刃を止め、押し放す。
「いったいなぁ。って、アン!!」
「っ……息、が……!?」
「クッフッフ~。飛んで火に入る夏の虫……いや、お前達の場合は泳いで網に入る夏の魚か?」
背後の大型木箱へ背中から激突し破壊。中身の赤く、艶やかな無数の林檎が床に雪崩れ落ち転がる。
下段の木箱に仰け反る形で倒れ、痛みを訴え上半身を起こすと、目の前で相棒のアンを仲介役が。
彼女の首を右手一本で掴み上げる光景が、メアリーの視界に飛び込む。多少の強さは承知の内だが。
これは余りにも予想外。優位に立つ商人は悪い笑みを浮かべ、日本の諺を魚類の面々風に言う。
更には「お前達も本当は他の海賊と取り引きして、買う予定だったんだがな!」と言われる始末。
海上や停泊直後の襲撃も、仕組まれたモノと知り、飛び出す瞬間……動きが止まり、全く動けない。
「クフッ。仲介役様のお力の前に成す術無しとは、何と愚かな──」
「かっ、身体が動か……もう一人、だとッ!?」
動けないのが仲介役の力だと認識した商人は、無警戒にメアリーへと歩いて近付く中──気付く。
視界が低く、自身の足が眼前にあり両膝を床に着き、前へ倒れる姿と宙で横一閃に滴る血を視る。
首が落ちた商人を見て恐怖に刈られ、この場から逃げ出そうとするも全く動けない事に客も気付く。
一同の前に上から降り立つエックス。突然の侵入者に客と仲介役の注意は向いた今が好機と悟り。
アンメアは何の合図も無しに動き出す。首を掴まれているアンは仲介役の腹にラッパ銃を当て発砲。
体を縛る感覚が緩んだメアリーは仲介役の頭部目掛け、カトラスを素早く投げたのだが……
「ケホッケホッ……嘘!?今のを避けましたの?!」
「確かにソレも驚きなんだけどさ……コッチも遥かにヤバい動きだよ」
「……っ!?」
「ふぅ~ん。空気の流れを読み、人間の十倍の速度で動くか。流石は石炭紀からの生きた化石だな」
接射すら即座に手を離し、客を飛び越えカトラスさえも避けた。のだが……更に驚く点がもう一つ。
常人どころか獣人の速度すら越える仲介役を捉え、背後に立つと相手は懐へ右手を入れ。
マシンガンを取り出すと同時に振り返る。刹那──気付けば左肘で顔の右側面を殴られた上。
左膝を横から力強く蹴られ、太い枝を折った様な音が響き、痛みに意識が向けば懐から取り出すは。
パイモンが買ってくれたレ・マット・リボルバーを胸部に押し当て、ダブルタップ後撃鉄を上下に弄り。
フード内に押し当て──散弾を発砲。この動作を流れる様にやって退け、仲介役を仰向けに倒し解説。
「等身大ゴキブリの動きと考えると背筋がゾッ……とするわぁ」
「なっ、何なんだ、その動きは!!」
「ん?知らない?アシダカグモ」
フードが捲れた仲介役の顔は、ゴキブリそのもの。そしてゴキブリは頭と胸に個別の脳を持つ昆虫。
エックスの攻撃は全て、確実に殺す為の行動。肘打ちで脳を揺らし、足を折って機動力を奪い。
第二の脳、GIを撃ち、最後に頭部を破壊したのである。相手の顔を見て、生理的嫌悪を覚える。
客がエックスのあり得ない速度に突っ込むも、とある蜘蛛を答えに出す。外見こそ脚長で気味悪いが。
糸で巣を作らず、瞬間的な判断力だけで獲物を狩る。アトアから託された、蜘蛛の能力が一つ。
「何はともあれ。仲介役は君が倒してくれたし、コイツを吐かせれば情報も手に入りそうだよ」
「結果オーライとは言え、行き当たりばったりでしたわ」
漸く安全を確保したメアリーは、商人の死体付近にあるコンテナを開き、捕まった者達を助け出し。
エックスの仕掛けた糸に縛られ、身動きが取れない客に、警察と民間人が縛られた縄で縛り直すと。
情報を引き出すには十分だと満足げ。アンは良いところが無かったのもあり、首を触りながら返答。
気が抜け、緊張の糸が緩まった直後。自身らの所へ一直線に駆け寄る足音が聞こえ──銃声が響く。
近くで不意打ち気味に発砲された為、防衛本能的に思わず耳を塞ぐ海賊二人。音のした方へ向くと……
「はぁ、はぁ、はぁ!」
「っ……」
藍色の髪と眼を持つ少女が、エックスの懐へと飛び込み──彼女へ与えられた小型拳銃にて。
左胸を撃ち貫かれると膝から崩れ落ち、少女を押し倒さない様に身体を捻り仰向けに倒れ伏す。
全速力で走り、人を射つ恐怖を感じ怯える前に発砲した為か。少女は息を切らし、肩で呼吸を行う。
その光景は海賊二人に衝撃を与えるには十分過ぎて、突然の出来事に思考は数秒間の停止を食らい。
メアリーが少女を右手で押し退け、二人がエックスに駆け寄りクロークを脱がす。銃弾は急所を外れ。
肋骨の隙間を通り、肺を貫き体外へ飛び出している。此処で治療は出来ないと判断した時。
「……えっ?」
「っ……その銃を貸せ!」
「ちょ、そんな身体で何を──」
突如、少女の持つ拳銃が電子のタイマー音を鳴らし始め、生命に関わる危機的状況下に置かれた結果。
彼の脳は最悪の展開を前提条件にフル回転し、可能性を瞬時に洗い出すと。右手を伸ばし……
少女から銃を奪うと四つん這いを経由して立ち上がり、アンの心配を余所に苦痛の表情で高く跳躍。
天井を突き破り、屋根の上で遥か高くへ跳び上がって拳銃を海側の更に上へ投げ飛ばし──爆発。
地上で爆発すれば、港町トワイライトごと南区を地図から消し去れる規模の威力が深夜の空で輝く。
当然爆発の直撃こそ無いものの、暴風も同然の爆風を空中で踏ん張り堪えるも、広がる爆炎が迫り……
「め……メアリー?あの方は……助かります、わよね?」
「無理だよ。倉庫に吹き付ける爆風で、窓と屋根が全壊する威力なんだよ?!」
「……わ、私……そうだ、ユイ。ユイを迎えに行かなきゃ」
地上に与える被害も大きく、倉庫エリアの天井と窓は爆風で全壊。コンクリやレンガの家は耐えれど。
爆発が収まり行く空を見上げ、間近に居たエックスの安否を混乱した頭で相棒に聞くアンだが。
余りの衝撃故、逆に正気を保ってしまったメアリーはアンの両肩を掴み、生存は無理だと諭す。
利用されているのだろう。とは理解していたが、まさか南区ごと自身を巻き添えに消すのは想定外。
最初こそ言葉に戸惑うも、自身が此処までした理由を思い返し、六番倉庫を後に駆け出す少女。
「これで……これで、姫は私達の元へ帰ってくる。帰って来れるんだ!」
正気を失ってるのか?それとも、妄執に囚われているのか。ユイを姫と言い、西エリアへと走る。
ユイが自身らの元を離れたのは、あの男に唆されたからだ。逆に言えば、アイツさえ居なくなれば。
姫は甘い言葉から目を覚まし、自身らの元へ帰って来れると。壊れたラジオ同然に繰り返す。
相手の気持ちを一切考えず、一方的に自身の気持ちを押し付け、都合の良い思考に片寄り気味。
そして、彼女は理解していない。ユイを助け出す為に動くその正義こそが、己の首を絞める縄とは……




