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ワールドロード・sin again  作者: オメガ
序章・ Jacta alea est
20/28

大人と子供

 『前回のあらすじ』

 教会にて引き籠る藍色の髪と眼を持つ少女と、薄墨色の髪と瞳を持つ猫娘の前に現れる謎の男。

 彼女達を唆し銃を与え、エックスを撃つ様仕向け、藍色の子は利用されていると知りつつ乗る。

 一方エックスは教会に残った少女達が心配で探しに向かうも、既に教会はもぬけの殻。

 合流後、民を無下にした発言のパイモンに恐怖で叱るも、理由を伝えて諭し再び捜索を再開する。



 ナズナ・イクス・ユイは、エックス達が出発する前の夕食や、眠るまでの事を思い出す様に夢見ていた。

 孤児仲間、または孤児以前の友達や知り合いかも知れない面々を日没まで探し、教会がある東側の各地。

 住宅街やショッピングモール、小規模のスラムを転々と周り聞き込みするも、住民の目や評価は悪く。

 一般人では孤児のユイはスラム育ち扱いで好感が悪く、逆にスラムだと大人のエックスが憎悪の対象。

 結果。望む様な情報は微塵も得られず、ストレスだけを浴びるハメになった為、酒場兼宿屋へ帰還。

 となったのだが……流石に違法売買の商品扱いで拉致監禁、教会では保護されていたのもあり。

 ユイ当人の認識以上に未発達の心身は酷く疲弊し、満足に歩けない程の疲労感に襲われ前へ転ける時。


「あっ……」


「疲れたなら疲れたって言ってくれても、良いんだよ?」


「…………つかれ、た?」


 背後から駆け寄り、両手で優しく、されど軽々と掬い上げられ地面から宙に浮かぶ少女の足。

 突然の事に驚き声が漏れるも、右腕を相手の背中、左腕を膝裏に通して横向きに抱き上げられる。

 俗に言うお姫様抱っこの姿勢、言いたくても言い出せなかった本音を諭す様に、許してくれる言葉。

 本当に言っても良いのだろうか?監禁されていた時は自由な発言を禁止されていた為、不安に思うも。

 勇気を出して言葉にしてみるが、何故か疑心暗鬼を含んだ疑問系に。思わず「何で疑問系?」と。

 顔は笑ってはいるものの眉をひそめて返し──「答えてくれて、ありがとう」と続けて話す。


「どうして……ありがとう?」


「自分の言葉に、ユイちゃんはちゃんと返してくれたでしょ?」


「……そっか。そう、だ……ね」


 言葉の意味は理解しつつも、感謝をされる理由が分からず、自然と首を傾げ、疑問系で聞き返すユイ。

 初対面やら何度か逢ってても、話し掛けれど無視をする、警戒したり無関心な子供や大人は一定数居る。

 もしくは、返事は当人の気分の問題と言う場合もある。故に、言葉を返してくれた事への感謝。

 難しい説明を避け、比較的簡単な説明で伝えれば、納得するも疲労感から眠気に襲われ目蓋が閉じる。


「……おやすみ。小さなお姫様」


 安らかな寝息を立て、眠るユイの顔を見てエックスはポツリと呟き、変に揺すらない様動きに気を付け。

 仮拠点である宿屋へ向け、茜色に染まる逢魔が刻の港エリア歩いて戻る最中、ふと立ち止まり空を見る。

 水平線に沈む夕陽、夕陽の光を波模様に歪めながら反射する海面。

 空気は昔より不味い上に汚染済みで、世界は塗装まみれ。それでも……この美しい夕陽は変わらないな。

 と目を閉じて思い、前大戦で積み上げた罪と打ち砕いた夢と希望、倒し倒された敵味方の山を思い出す。


sin again(罪をもう一度)……か。ユイ達の為にもう一度──自分の心の全てを受け入れ、大罪を犯すとしますかね」


 正義の味方と言うには余りにも血に塗れ、悪と呼ぶには心が壊れ過ぎた。だがしかし……だからこそ。

 子供じみた過剰な正義や他者から搾取し、裏で操る巨悪を破壊し再び世界征服による平和を叶える為。

 子供達に明るい未来を、罪や問題を次世代へ引き継がせぬ為にも、自ら人類の敵と成る大罪を犯す。

 進んだ針は決して戻らない。故に自身の善や悪の全てを受け入れ、前へ進む決意を敢えて口にし──

 撫でる様に吹く風を、沈み行く夕陽の弱々しい光を全身に受けながら目を細め、帰路へ歩を進める途中。

 突然目付きが鋭くなり「その為にも……ディクテイター。必ず会いに行くから待っていろ」と心に思う。


「おぉ、戻ったか……ふむ。今晩は赤飯に鯛と昆布の汁物、梅干しにするか?もしくは肥後ずいきでも」


「前者は兎も角、最後のは食べ物として扱うんだよな?」


「チッ……やはり気付いたか」


「ひご、ずいき?……っ!!」


 酒場兼宿屋へ帰還した二人を出迎え、お姫様抱っこされるユイを見て今晩の献立のメニューを。

 何故か結婚関連の縁起物か、肥後国(ひごのくに)の食える伝統工芸品で構わないか?と聞くベーゼレブルに向け。

 メニューから意味を理解し、半目かつ真顔で鎌を掛けるエックスの問い掛けに、舌打ちで返す親友。

 聞き慣れぬ単語と男二人だけで通じる話題故、頭の中で検索したパイモンはソレが食べ物でありつつ。

 『そう言った行為』にも使える民芸品と知り、免疫が無いのか。茹で蛸の如く顔を真っ赤に染め俯く。


「飯は自分が残り物で作るから、ユイの対応だけ頼まぁ。パイモン、手伝いを頼む」


「えっ?あ、は、は、は、しょ、承知!」


 任せると本当に有言実行しそうな為、エックスは自身が作ると言い、抱いたユイを壁際にある。

 深緑色のソファーに寝かせ、まだ赤面して俯くパイモンへ調理の手伝いを頼めば、漸く意識が戻り。

 頭が混乱し、理解が追い付かぬまま勢いで返答してしまい、台所へ入って行く彼の姿を見て更に慌て。

 駆け足で追い掛けて台所へ入り、距離的な問題もあれど、上手く聞き取れなかった理由と事情を伝え。

 頼み事の内容を申し訳なく聞き、やんわりと注意されるも、もう一度頼まれ、了承する声が聞こえる。


「フフッ。それで──リトルプリンセスよ、いつまで狸寝入りを?」


「……貴方、疑り深いとか秘密主義者って言われない?」


「どうだかな。だが我が友以外に秘密を打ち明けず、組織の裏切り者に仕立て上げた事はある」


「最悪。その友人さん、相当苦労したでしょうね」


 二人のやり取りを聞き終えると。敢えて振り返らず、首だけを右斜め下へ動かし、背後のユイへ問う。

 問われた本人は横向きに寝かされた体をゆっくりと起こし、ソファーに座り直すとベーゼレブルに対し。

 鋭くも的確な指摘を突き付け、当人は自身が言われた内容に当てはまるか理解してないものの。

 実際に過去で組織・終焉の闇での行為を話すと、ユイは行為自体を最悪と切り捨て、友人に同情する。

 彼女はまだ知らないが、話に出ている友人は今現在、此処の台所で魔王と晩御飯を作っている最中。


「監禁時期、違法商人に躾と称して花を散らされた事──我が友には、伝えてあるのか?」


「伝えて何の意味があるの?同情?そんなもの、何の意味もないのに」


 今までのユイとは違い、子供らしさの無いハキハキとした物言いに臆しない、動揺しないベーゼレブル。

 違法商人から助けられた時から、既にこの口調で話し、自身に起きた出来事も話していた様子。

 年齢の割りに態度は大人び、口調も何処か投げやりで眼もハイライトが消え、希望など一切無い。

 エックスには自身の境遇は話したのか?と聞くも、ソファーの肘置きに右肘を置き、脚を組んだ後。

 伝える行為、不要な同情に何の意味もない事を淡々と話すユイ。彼女の境遇を考えれば、それはそう。

 助けを求めれど、夢物語みたく救いの手は来ない。幼いながらも夢を壊され、現実を知ってしまった。


「意味はあるさ」


「チッ!!……ふぅ。まさか、神様仏様が慈悲をくれるとでも?」


「それこそあり得ん。何故なら──『神は死んだ』のだからな」


 だが……自身の予想に反し、軽々しく意味はあると断言する神父に、悲劇が瞬間的に次々掘り起こされ。

 瞬間的に頭へ血が上り、年不相応な舌打ちをし口を開くも、理性が働き感情的に吐き掛けた言葉を呑む。

 代わりに小さな溜め息を一つ吐くと、妄信的な信仰心が神仏に届き慈悲がくれるのか?と聞き返す。

 しかし、返って来たのは神父にあるまじき言葉。神仏の慈悲を否定した上、既に死んだと切り捨てる。

 しかも事実を淡々と話す様に、さも当然の如く近くの席へ座り、懐からタバコの箱を取り出すと。

 白い紙に包まれた物を摘み、口に咥える。それを見たユイは嫌そうな目でベーゼレブルを睨む。


「……煙草?」


「まさか。私が我が友が心底嫌う環境汚染物質を吸うとでも?この命が尽きるよりもあり得ん話だ」


 確認も含め、敢えて聞く。それは煙草なのかと。訊ねられた当人は即答で否定、続けて我が友。

 エックスが心底嫌う環境汚染物質を敢えて吸う等、不老不死の命が尽きるよりもあり得ないと断言。

 では、その手に持つ物は何か?とジト目で見る彼女に、神父は「我が友も好む陳皮(ちんぴ)だ」と返す。

 不思議そうに首を傾げる彼女の顔から、ミカンの皮を乾燥させた生薬だと説明すれば、納得した様子。


「お待たせ!晩御飯、出来たぞ~」


「フフッ。それでは、我が友の手料理の馳走となるとしようか」


「……」


 二人だけの、台所へは聞こえない会話に割って入るエックスのご飯が出来たと言う呼び声。

 密談の終わりを悟り、神父が小さく笑い席を立ち、教会で孤児達を迎えようと差し伸べた友の行動を。

 自身も同じくやってみるも、差し出した右手は目を閉じたままのユイに不要とばかりに左手で弾かれ。

 目を合わせる事もなくソファーから立ち上がり、台所に近い四人用の席へと自ら座る一連の動作を見。

 信用されていないな。と首を横に振り、ユイへ近付くと右手を彼女の右肩へ置き耳元で小さな声で。

 「例え神や仏は居なくとも──終焉の破壊者は居る」と囁き、彼女が座る左隣の席へ着席。


「ん?一人で食うのか?」


「一人ではないさ。此処には居ずとも、傍に居ない時は、もっと傍に居てくれるのだろう?」


「フッ。そうだったな。と言うか、ドゥームからその言葉が聞けるとは思わなかったぞ?」


「フフッ。私も、君色に染められているのかもな」


 台所から両手に料理を乗せた皿を持ち、先ずはユイの座る席へ置きながら離れた席のベーゼレブルに。

 一人離れて食べるのか?と言う問い掛けに対し、何処かの天の道を行く妹の語録を口にする元宿敵に。

 思わず笑い、己と親友の自身以外を信じなかった奴が家庭を持ち、変わったのだと分かった途端。

 自分事の様に嬉しくなり、言葉を続けると君に染められた発言を疑問に思うも、変化を喜ばしく思う。

 テーブルへ並べられる料理は、一般的な野菜炒め等ではなく、細かく切られた鶏肉と溶き卵の雑炊に。

 刻んだ白菜、エノキ、長葱のスープ。銀と茶の粉を掛けた蒸しキャベツ、すりおろした長芋と言う品々。


「……おにいちゃん?」


「あ……もしかして、苦手な物があった?」


 口調や言葉使い、態度等を戻して口にした言葉には、どうして?と言う疑問を孕んだ問い掛け。

 視線と表情、声色から思わず苦手やらアレルギーのある食材を提供してしまったのだろうか?

 そんな心配と不安を抱き、訊ねるもユイは違うとばかりに首を横に振り、再び並べられた料理を見る。

 一般的には何処にでもある食材で作られ、温かさを伝える様に湯気が立ち上る料理達に疑問が尽きず。

 続けてパイモンが置く木材のフォークとスプーンに手を伸ばし、意を決して鶏雑炊を掬い一口。

 続けてスープと具材、蒸しキャベツに長芋へと手を伸ばし、次々と食べ進めて行くユイ。


「我が友よ。何故この食材を?」


「初めて視た時、そして今回の様子と抱き抱えた際に分かったんだ。ユイちゃんは栄養不足だって」


「栄養不足?それとこの料理に何の意味があンだ?」


「あぁ、実はな」


 意味を理解した神父は答え合わせをする様、エックスに聞く。その回答は的確な程に的を射ており。

 視覚・感触・重量から見抜いたモノ。平均の子供に比べ手足は細く体重も軽い。では原因は何か?

 話に聞いた内容から栄養不足を導き出し、更に言えば疲労で消化も悪くなってる可能性も極めて高い。

 パイモンの質問にも消化に良く、かつ手助けし栄養を逃さず接種出来る調理法を取ったと話す。

 話している間にもユイは綺麗に平らげ、お腹が一杯になると再び強い眠気に誘われ、ウトウトし始め。

 一番近くに居たエックスがお姫様抱っこで優しく抱き上げ、短く頷き二階の空き部屋へと送り届ける。


「料理とは。一方的に押し付ける行為ではなく、相手を知り、寄り添った上で命を頂く儀式である」


「……は?」


「我が友の、料理に対する心情だ」


 後ろ姿を見送り、ポツリと呟く神父の言葉に思わずコイツは一体何を言ってる?と疑問符が声に出る。

 自然界に置いても、食事とは命を繋ぐ為に他の命を喰う行為。それは食材が違えど、悪魔も変わらない。

 パイモンが理解出来なかった部分は、料理は提供する側と対価を払い喰う側と言う単純な社会構造。

 故に何故相手を知る必要があり、寄り添わなければならない?料理とはそれ程面倒なモノなのか?と。

 続く言葉も理解はすれど、意味が分からない。料理に対する心情の意味を考えながら、料理を食べる。

 一階へ戻ったエックスから今晩の行動を伝えられ、警備と警護を任される二人であった。

 そして──エックスの『帰還』から一部始終を覗き続ける、黒い体に白い模様の小流星を持つ梟が一羽。



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