X獣
『前回のあらすじ』
体温が上がらず動けないユウキを残し、港町トワイライトの東側エリアを探索するエックス。
其処で見付けたのは蝿も集る道場と綺麗な教会。文字の解読に苦戦する中、声を掛けるベーゼレブル。
孤児達を引き取って欲しいと言われるも、文無しを理由に拒否るも、邪神達から重い期待を向けられ。
ディクテイターの被害者と知り、呼び掛けるも歩み寄ってくれたのはナズナ・イクス・ユイの一人だけ。
教会の中へ戻った子達を、寂しげな目でまだ見続けるユイ。その様子から、相当仲が良かったと認識し。
自身が彼女達の仲を引き裂いてしまったのだ。そう理解する程、胸の奥に突き刺さる痛みは大きくなる。
右手でシャツの左胸を鷲掴む顔は眉が下がり、申し訳無さに苦しむエックスの右肩に触れる左手。
それはベーゼレブルの手であり、振り向き見上げれば短く首を横に振る動作は、仕方ないと物語る。
進む道が必ずしも最善とは限らない。僅かなズレが最悪の展開へ進む可能性も無きにしも非ず。
エックスは一度、今後の動きや情報交換を行う為、西側港にある酒場兼宿屋へと二人を連れて向かう。
「ん?あぁ、また逢ったな」
「パイモン・ラース……」
店内へ入った途端、視界に映るは此処南区を力と恐怖で支配・管理する存在、魔王パイモン・ラース。
魔王とは大抵城の最上階なり最下層で鎮座し、部下の報告や活動を見守り賞賛や叱責等の印象が強い為。
自ら現場へ赴き何処にでもある、良くて数千円程度の机と椅子の席に座り食卓へ着く彼女の姿に。
自身が想像してた魔王像が音を立てて崩壊するエックスの脳内。それ故か、話し掛けられた返答も。
発声のトーンが低く、視線は彼女自身からテーブルに置かれた皿……に何故か乗っている塵へ。
「ん?あぁ──エビチリが気になるのか?」
「いや!それはもうエビチリじゃなくて海老の塵なんよ!!」
「これが本当の海老塵と言う訳か」
「誰が上手い事言えと言った!!てか揃ってボケるな!ツッコミが追い付かんわ!」
視線に気付き、右手で皿を持ち料理名を口にして聞くが──ソレは断じて食べ物ではないと突っ込み。
左隣に立つベーゼレブルがポツリと呟いた言葉にも、エックスは一度目の勢いのまま突っ込みを入れ。
漸く終わったかと思えば、場は静まり返った為に余計気まずくなり、押し黙る選択肢しか無くなった。
しかし勇気を出し前へ歩み出て、他の席から椅子を掴み、引き寄せると彼女が居る席へ堂々と着き。
「パイモン。アンタが仕えてた人物の名前を聞きたい」
「……最後まで悪魔と相乗りするってぇんなら──オレと契約を交わすんだな」
パイモンが探す我が君の名前を聞けば、情報提示と逃亡阻止の意味も込め、相乗りに加え。
目的たる我が君の生存安否や現在地把握等のいずれかを最低条件に、魔王兼悪魔との契約を求める。
つまり。これは悪魔側が相手の勇気と誠実さを試す行為。乗って命果てたり、逃げ出せばその程度。
相乗りした上で達成すれば悪魔も認める程に信頼出来て、実力と心の強さも保証された存在と言える。
彼女はエックスを試す風な発言で対応し右手を差し出すと……彼は何の躊躇いも無く右手で握り返す。
「生憎、悪魔との相乗りは既に経験済みなもんでな」
(この男……本当に同一人物か?)
悪魔との相乗りは初めてではないと、正々堂々と言い放つエックス。だがパイモンの反応は別に向く。
黄泉の国で逢った時や此処、港町トワイライトで再会した時。そして現在──彼女の頭に疑問が浮かぶ。
一度目は身動きを封じる程の重圧を放ち、二度目から魔力や霊力、マナと言った力が微妙に感じる程度。
しかし三度目の今、全く力の類いを感じない。故に、同一人物か?と言った疑問が浮かび上がる始末。
(魂を拘束する契約の糸が……結べない?)
「我が友よ。リトルプリンセスも手を繋ぎたい様だ」
「おっとぉ?小さいお姫様が掴むには酷く汚れた手だけど──どうぞ」
魔王や悪魔との契約は相手を縛る危険な行為であり、条件となるワードが『契約』や『約束』の二つ。
迂闊な口約束でも発生する他、今回の様な接触して行う場合の契約は接触部位が近ければ近い程。
拘束力は強く、逆の口約束なら弱い。しかし……幾ら契約を結ぼうとしても、結ぶ瞬間に解けてしまう。
当然魔王と悪魔の契約にも、突破口や例外はある。一つは呪い返しも同然な反射能力。もう一つは……
掛ける側と受ける側の保有するエネルギー差。縛る以上、自身より上過ぎたり力を感じれなければ無効。
困惑するパイモン。いつまで握手が続くのか疑問に思う中、左側からベーゼレブルに話し掛けられ。
指差す方を向けば、ユイが小さな両手を自身へ懸命に向けていると知り、返答と共に左手で優しく包む。
「おてて……おおきい」
「そりゃあ、大人だからね」
ほのぼのとした、何処にでもある光景とやり取り。片や手の大きさ、指に触れながら口にして思い。
片や口にする内容と内心思う言葉は違う。大人……に込められる身体的な意味と、今までの経験。
数え切れない血と泥に汚れたこの手で、未来を担う穢れを知らぬ子らへ触れる罪悪感に心苦しくも。
表面上は微笑み、穏やかな口調を意識する中、ふと気付く。ユイが指輪を外そうとしている事に。
「リトルプリンセス。それは呪いの指輪故、一度付けたら外す事は出来ない」
「むぅ~!」
(……すまない、我が友。私は爆弾を掴まされた可能性を否定出来ぬ)
何度も懸命に引っ張り、ムキになろうと薬指から抜ける気配を一切見せぬ、捻れた虹色の指輪。
ベーゼレブルの説明を聞き、不満げに頬を膨らませ低く唸るユイは、恨めしそうに指輪を見つめる。
そう。彼が身に付けるこの指輪こそ絆を紡いだ仲間達からの呪いであり、繋がりと封印の証。
エックスは未だ、オメガゼロとしての力を全て引き出せてはいない。否、引き出す危険性は痛感済み。
故に表面上の上澄みと仲間達の力を個々、時には混ぜ合わせて戦う。この指輪を外す時は本気の証。
そしてベーゼレブルは思う。もしや孤児達は『敢えて拾わせた』もので、爆弾ではないか?と。
(今回の黒幕は前大戦で我が半身を裏で操っていた者。つまり──)
同時に考える。前大戦を引き起こした原因は世界の王を産んだ人類と、操られていた自身。
しかし……本来は己が居た世界一つの融合で済んだハズ。過去の自身に『世界跳躍能力』はまだ無い。
この力は前大戦終了後。副王への土下座と謝罪、親友たる破壊者の捜索を理由に漸く頂いた能力。
つまり、時間と空間を飛び越えて来ては誕生直後の自身に取り憑き、裏で操っていた存在こそが黒幕。
真に倒す相手だと認識する程、疑問が浮かぶ。何故気付かなかった?それ程までに気配が薄いのかと。
その疑問も未だ契約を結べず不思議がるパイモンと、親友の手に触れ目を閉じるユイを見て理解した。
(確かにこれは気付けない。我等が強ければ強い程、気付き難い盲点)
「ドゥーム?どうかしたか?」
「あぁ、いや何。最近読んだ朝刊、西区にある魔法王国の時期女王失踪事件を思い出してな」
「王族の失踪ねぇ。これは直観だけど、ただの失踪事件とは思えんな」
黒幕が己が半身へ取り憑いた方法を理解するも、対処法は不明。戦闘慣れや痛みに強い者程盲点となる。
人類が命と長い年月を掛け、見付けた方法が効く保証もない。無駄に不安を煽る言動は控えよう。
自己解釈した直後。呼び掛けられた事に気付き、再会前に読んだ新聞の内容を思い出し話題を振る。
魔法王国と聞きエックスの頭に浮かぶは、空飛ぶ箒に跨がったり、全てを魔法で解決する住民達の姿。
防犯・警備魔法等が山盛りで、秩序に縛られた息苦しい街並みだと思い、うんざりした顔で返答。
「西区?あぁ~……強欲と嫉妬を司る魔王コトネが支配する所か。アレが求め、探してる男も災難だよな」
「──!?」
何気無い二人の会話に、横から飲食店の御絞り感覚の愚痴混じりに放り込まれる東大陸・西区の情報。
更には気になるワードが五つも出され、余りの情報大洪水に思わずエックスは彼女を二度見する程。
頭痛が痛い的な二重表現を口走りそうになるも、先ずパイモンの言うコトネは自身が知る琴音か?
何故七つの大罪に含まれる強欲と嫉妬を司り、求め探す男とは誰を指すのか?謎は増えるばかり。
仮に自分達が知る琴音であれば、面会から説明が出来て、力を貸してくれる可能性もゼロではない。
もし力を貸してくれたら心強い味方となる反面、逆に敵対関係になれば……悪夢以外の何でもない。
「どうしておにいちゃんは、たたかいつづけるの?」
「……違うぞ?!どうやらリトルプリンセスは紛失した筈の『小説』を絵本感覚で読み聞かされていたそうだ」
「…………そうだね。私自己と同じ苦痛を他の誰にも体験して欲しくないって言う、身勝手なエゴだよ」
目を閉じ、沈黙を続けていたユイが目と口を開け、見上げる形で訊ねる。言葉の意味と内容を理解し。
ジト目でベーゼレブルことドゥームを睨み付けると、自身は教えてないと身振り手振りに説明で否定。
どうやらセラエノ図書館で奪われた『ワールドロード』の一冊を、ユイの家族が拾い読み聞かせた様子。
絵本感覚で読み聞かせる内容ではないぞ?と再び頭痛に苦しめられ、返答の言葉選びに悩んだ結果。
自己満足の自己犠牲を、やんわりと、相手が優しいと受け止め易い言い方にしか出来なかった。
良く言えば善行、悪く言えば自己満足。古くからは偽善、今では犯罪者扱いすらある人助け故に。
「「「──!!」」」
直後。エックス、ベーゼレブル、パイモンの三名が此処港町へ急接近する物体の気配を感知する。
生物にしては速過ぎて、魔力や霊力、マナを感じない。だが分かる。音と恐怖心が背筋や心に走ると。
されど慌てず騒がず、戦慣れした三人はウエスタンドアの左右壁側に背を当て、外の様子を伺う。
競走等で聞く空砲の音が鳴り響いた後、突如降り注ぐ黒と紫の粒子。何事かと見るエックスに対し……
「アレはテラー粒子だ、絶ッッ対に外へ出んなよ?」
「何それ?!」
「生命体の恐怖心から未知なる獣を創る粒子で、幹部のテラーが作ったX獣製造粒子だ」
既に知る二人が彼に外出禁止の忠告を言えば、当然の如く全く知らない単語の説明を求め聞き返す。
正式名称・恐怖X獣生成専用粒子搭載型ミサイル。略称・恐獣ミサイルだと説明を続ける中。
運悪く粒子を浴びた獣人商人の背中より反対方向へ出るは、全身痩せ干せ、水色の和服を着た人族の男。
しかし。開いた胸元からは首に金の輪がある黒蛇が身を出し、千鳥足で歩く男の左手には水を掬う尺。
右手からは江戸時代に使われたお金、豆板銀が湧き水の如く溢れ出すも、当人は認識出来ないのか。
見向きもせず、拾わない。特に暴れる等する訳でもなく、船乗り場へ近付き尺で海水を掬うだけ。
「狐者異にトウビョウ、船幽霊を混ぜ合わせた恐獣か」
「怖いと闘病って……んん?」
「生前の妄執や執念から成仏出来なかった餓鬼や幽霊、憑き物って言ったら分かり易いか?」
現れた恐獣の正体を見抜くベーゼレブル。日本語の同じ言語、異なる漢字故の難しさからか。
理解が結び付かず、困惑するエックス。そんな彼にパイモンは妖怪の類いだと説明を付け加えたら。
漸く言葉と意味が結び付いた様で「あぁ、そう言う意味か!」納得したと手を軽く叩き表現。
「恐怖が融合した獣で恐獣とは──全く、よく思い付くもんだ」
「……悪い。アレの対処は任せた」
「あ、おい!」
生命が抱く無数の恐怖から個人の恐れる何かを抽出し、融合させ生まれし未知なる獣。故に──X獣。
その名と製造方法に感心と呆れを覚える中ベーゼレブルを他所に、粒子の降り終えた頃を見計らい。
この世に生を受けた恐獣、又はX獣の対処を二人に任せ、何かを決意した顔で外へ飛び出すエックス。
パイモンの静止も気に留めず、駆け出して行く先は目の前の恐獣ではなく……東側エリアの教会。




