教会と境界
『前回のあらすじ』
夜の港町・トワイライトを警備後、倉庫エリアで誰かと通信機で会話する海賊船・マリンブルーの二人。
相手は前大戦でエックスにMALICE MIZER解放を依頼し、今はアンメアの母たるムピテとリート。
娘達の計画は過去の自身らを思い出す内容。話の途中で盗み聞きする存在に気付き、男を挟み撃ち。
盗み聞きした男は信用を得る為、明日午前二時に違法売買があるも、罠の可能性と忠告をするのだった。
夢──それは、睡眠中に脳が記憶を整理・処理する過程で生じる幻覚やイメージである。
夢──それは、潜在意識の投影や内面世界の現れ、将来の希望や目標、夢幻の様な儚い状態。
オメガゼロ・エックスは酒場兼宿屋の個室ベッドで横になり、眠っていたが……夢見は稀に観る最悪。
光闇大戦中期。何度も人類に殺され続け、西暦二千十年に幻想の地へ帰還後、絆の力を増やす為。
ヨグ=ソトースの力で沢山の異性や同性と絆を紡ぎ、時には恋愛や結婚にまで発展した事すらあった。
だが──あくまでもソレは絶望の悪夢と人間の境界を無くし、元々有した人間性を殺し尽くした結果。
「……港町に……道場と教会?」
港町トワイライト・二日目の朝。ユウキは体温が上がらず、動けない為、単独行動中のエックス。
本日は左右の港や停泊船から見て中央にある倉庫エリアから離れ、東側エリアへと足を運んでいる。
仮にも町と名がある通り、木造建築の一軒家が所狭しと並んでいる中に……他と比べて建物が薄汚く。
材料の木材すら一部に穴が空き、ハエさえ集る程に悪臭が漂う始末。縦長の木材には──
『せもあきこ_わよあも"こ_へひ"わも"け_わ』と書かれているが、エックス自身会話に翻訳機能こそあれ。
文字の翻訳機能は無い為、建物と外観で察するしかない。道場の右隣には何故か教会が建っている。
「迷える子羊──ではなく、未だに未知なる可能性とは」
「よっ、ベーゼレブル。最終決戦で戦った時以来だな」
看板に彫られた言葉とにらめっこしつつ意味を考えていると、迷える子羊が来たと認識した神父が。
教会の扉を開け、両手を後で組みながら近付くも、懺悔を行う者では無く、痛みや後悔すら受け入れ。
力に変える親友と一目で見抜き、呼び掛ければ──右手を軽く挙げ、そのままフードを脱ぐと名を呼び。
久しく見た元気な笑顔と、親友兼宿敵たるエックスの姿に思わず背を向け、教会の門前へ戻り。
顔を一切合わせず「あぁ……本当に久し振りだな」と返す言葉は素っ気なく、態度も良く思えない。
「……わざわざ命の危険が蔓延る世界へ戻って来るとは。全く……物好きな奴め」
「全くだ。けど──」
再会を喜びたい反面、取り戻した日常を自ら手放し、危険極まりない世界へ帰還した親友の行動に。
物好き発言をすれば当人はそれに同意。近くの岩に背を向けて腰を据え。けど──と言葉を続ければ。
フードを再び深々と被り直し「惚れた女と親友が居る世界を護る為なら、喜んで戻って来るさ」と言う。
嬉しいのに、親友の帰還を心待ちにしていたのに。ベーゼレブルことドゥームの見上げる顔からは……
涙が次々と流れ出しては溢れ落ちる。だがソレは感極まった涙では無く、無念と後悔から来るモノ。
(我が友よ。唯一無二の我が親友よ。何故そう笑えるのだ?)
エックスが消えた後。彼は親友の残滓たる記憶を求め、足跡を辿る形で数多くの世界を旅し──知った。
親友が被る仮面の下。擦り切れ、境界を失い粘液の如く溶け、分別等関係無く混ざり完成した虹の心を。
エックスが元々持っていた日常を、彼の平凡な人生を一方的に融かし境界すら奪い尽くした自身が。
何の因果か親友となり、操られた自身を彼は己の全てを掛けて救い、また……人が持つ心の闇に挑む。
彼は何故笑うのか?記憶を辿ったベーゼレブルにも分からない。当然だ、イカれたジャンクの事等。
「……隣の無心流剣術道場へは入ったのか?」
「いや?まだこの時代の文字が読めなくて、入ってはないが」
「成る程。異世界転移だか転生のギフトとして、会話や音声に翻訳機能が働いている訳か。難儀な」
右ポケットから白いハンカチを手に取り、手早く涙を拭いポッケに戻すと振り向き、彼に訊ねる。
するとエックスは立ち上がり、お尻に付いた砂埃を払いつつ、理由を交えながら振り返り返答。
どうやら異世界モノによくある、言語や文字すら違う場所なのに言語だけが双方伝わる展開だと話す。
それに対し「異世界モノとかよく知ってるな」と聞けば、ベーゼレブルは「這い寄る混沌の薦めでな」
それだけで全てを察し、あぁ~…と納得。音声限定の翻訳を難儀発言には黙って二度相槌を打つ。
「何はともあれ。我が友よ。この教会で訳有りの孤児達を引き取ってはくれんか?」
「おいおい。無一文の男に孤児の引き取りを求めるなっての」
「仕方あるまい。他の連中も我が友には重い感情を向けたり、脳を焼かれているのだ」
「うへぇ~……みんな私に期待し過ぎだよ~」
話題を切り替え、本題たる孤児の引き取りをエックスに求めるも、当人は現在の金銭を持ってない。
無一文では生活処か、孤児引き受けすら出来ない。事実を理由に断ろうとするも、協力者こと……
邪神達等からは異常なまでに重い程の感情や期待を向けられており、ある種の無茶振りに近い。
脳を焼かれた理由として。ナイトメアゼノ勢力や調律者勢力の撃破、魔神王の討伐と救出が挙げられる。
一つの惑星を越え、全宇宙の危機を救った経歴が、評価基準をバグらせているのだろう。
エックス当人は面倒臭くなり、肩を落とし腕をだらけさせ、目を閉じ猫背で気だるげに言い返す。
「……あの子達が、件の?」
「あぁ。ディクテイターと違法商人の売買を奇襲した際に……な」
教会の扉を少しだけ開け、片目で上中下の三段で此方の様子を伺う三つの目。その視線に気付き──
上半身を少し左側へとずらし、立ち位置的にベーゼレブルの背後の子らが話題に出た孤児達かと問う。
その問い掛けに肯定。ディクテイターと違法商人の売買へ奇襲を仕掛けた際、敵組織は取り逃がすも。
商人は逮捕、商品の子供達を保護したと語り、自身らを覗き見る子らへ振り向けば……戸を閉められる。
「この通り、心を開いてはくれなくてな」
「……仕方ないさ」
親友へ顔を向け、首を横へ振りお手上げ状態だと示す。エックスは当然の結果だと慰め、視線は扉へ。
心に負った傷は大小関わらず、必ず後の言動や思考へ制限を掛ける。生存本能から来る危機回避能力。
故に非はなく、自身がコントロール出来ない要因だから、変に悔やむ必要は無いと話せば立ち上がり。
着ていたクロークと武器をベーゼレブルに渡すと、押し付けられた当人は突然の行動に驚きを隠せず。
彼は教会の門前へ赴き、扉から大きな距離を空け、丸腰の状態で両手を上げ降参の意図を示す。
「初めまして。私はエックス。君達に危害を加える気は無くて、少しだけお話がしたいんだ」
先ず最初に挨拶と自己紹介を行った後、子供達側に危害を加える意図や気が無く話が目的だと伝える。
すると再び扉が少しだけ開かれ、話し掛けて来た相手を黙ったまま覗き見る。武器は無い、手も頭上。
見えるのは白いシャツと黒の長ズボン。ホルスターの類いは無く、暗器を隠せる格好ですらない無防備。
距離も五メートルは離れていると判断し、一定の警戒心は解いたのだろう。三人の子供達が扉から出る。
「……」
(おいおい。こりゃあ……アンメアの二人に手を貸すのもやぶさかではないぞ?!)
(頼むぞ。我が友だけが、我々に残された最後の希望なのだ)
正面に藍色の長髪と瞳の子が立ち、背後から覗き込み、右親指を咥える薄桃の短髪と瞳を持つ少女。
長髪娘の左隣に距離を空けて立つ、薄墨色の短髪と後ろへ向く猫耳、振るう二股尻尾の猫娘。
衣服は灰色に薄汚れた大人用のシャツ一枚だけで、丈の大きさから膝下まで隠しているが……
外見的な歳は長髪っ子が六歳、薄桃少女は五歳、猫娘で十歳程。使うには余りにも幼く、壊れ易い上。
眼に光がなく、警戒心が強い表れか。見える範囲の肌には痣が幾つもあり、見ていて痛々しい。
闇を知り、泥に塗れて尚進んだからこそ二人には分かる。この子達は目の前で地獄を体験したのだと。
故にベーゼレブルは最も信頼するエックスに、子供達が心を開き前を向ける様にと望みを託す。
「……教会に残ってる子からはまだ、強く警戒されてるみたいだね」
(──!!)
「まあ、本人が気を許してくれたらだね。それで、話と言うのは──」
表に出て来ていない、事前に言われていない四人目を言い当て、ベーゼレブルを内心驚かせつつ。
それは警戒心を少しでも解き、自ら姿を表したらと言い、先ずは目の前の三人へと話し掛ける。
話も自身が此処とは違う場所から来た存在と言う説明から入り、発言権を子供達へ手渡すも。
子供達は何も喋らず、長髪の子は薄桃色の少女が前へ出ない様、右手で静止してエックスを鋭く睨む。
姿を表してくれた。しかし対話出来るまで心許していない。だが……薄桃色の子は彼に興味がある様子。
「う~ん……何かあったっけな?」
「ポケットに飴とかはないのか?」
「そうそう。会話やコミュニケーションの道具として──って、誰が大阪のおばちゃんやねん!!」
それを見て、会話に使える物はないかな?そう思い、ズボンのポケットを探るも何も無いのが現実。
するとベーゼレブルが近付き、小さく携帯に便利な甘味・飴を持ってないか?と何気無く聞けば。
ニッコリ笑顔で調子を合わせ、何故飴なのかと言う理由を簡単に説明し乗った直後、少し間を置き。
自身が性別的にも大阪のおばちゃんではない!と否定・指摘をノリツッコミで無自覚に行うエックス。
「いやまあ、大阪出身ではあるけどもよ」
「そうか。大阪のおじちゃんの方が良かったか」
されど自身が元の世界では大阪出身の為、一部は認める中。発言的に性別を言い正せば良かったか。
と言われ、先程同様にノリツッコミと流れと思われたのだが……外見こそ二十歳そこそこと若いものの。
此方では生きた化石以上の年齢な為、最初こそ「まあな。性別的にもおじちゃん……」と堂々言うも。
四つん這いになり「そうなんだよなぁ。ちびっ子にはそう言われる歳だもんなぁ…」と落ち込む始末。
悩み・笑い・突っ込んでは呆れ、自信満々かと思えば落ち込むと言う表情や行動がコロコロと変わる。
感情のジェットコースターに思わず、長髪の子は顔を背けて、薄桃色の子は堂々と笑う事に彼は微笑む。
「うん。やっぱり暗い顔より明るく笑うのが一番!病は気から、食べると言う字は人が良くなると書く」
「初対面でこの子達を笑わせるか。我の対応も計算の内だった訳か」
「モ、モモモモ、モチロンバーチャ○ンアスト○ン、ソーデストモ」
立ち上がって脚や手に付いた土を払い、笑う二人を見て満足げなエックスは右人指し指を天に伸ばし。
何処かの天を司る男の語録を言った矢先、自身が何をやっても笑わなかった子らを笑わせた点を褒め。
己の対応すら計算の内かと言い勝手に納得する中。実は感情の起伏が激しかったのは事実で。
彼女達が笑ったのも偶然の結果。しかし事実を言い出せる空気ではなかった為、内心大焦りで眼も泳ぎ。
流れに乗るしかなく、発言は何故かカタコトで、ゲームタイトルやゲームの呪文まで混ざる始末。
「……一緒に来るかい?私の──うぅん。自分達が望む未来を紡ぎ、歩む物語の道を」
目を閉じて焦る気持ちを落ち着けると右膝を地に着けて屈み、左手を子供達へ差し伸べ問い掛ける。
その誘いに強制力は無く、今は安全なだけの場所で何も知らず、平凡で普通の毎日を過ごす選択や。
手を取り、まだ見ぬ外の世界へ飛び出すも良し。これが世界の道である事を選んだエックスなりの勧誘。
薄桃髪の少女は小さく頷き、藍髪の子の静止する手を自らの意思で越え、前へ歩み自身の右手を乗せる。
「わたし……ゆい。なずな・いくす・ゆい」
「そうか。ゆいちゃん、って呼んでも大丈夫かな?」
「うん」
先ず一人。ナズナ・イクス・ユイが自身の名を伝え、未来を掴む旅へ同行する意思を示す。
呼び方の確認をし、許可を貰い微笑めばユイもお返しとばかりに微笑み返す。だが……まだ一人。
藍色髪の子は握り拳を作り、エックスを恨む様に鋭く睨むも当人は毛程も気に留めていない。
寧ろ一緒に行かないかい?そんな意味を込めた優しい眼差しを二人に向ける。されど期待は虚しく散り。
残る子達は教会の扉を開け、室内へと戻って行く後ろ姿を、ユイは寂しげな目で見送るしか出来ない。




