潜むモノ
『前回のあらすじ』
海賊船マリンブルーのアン、メアリーの二人と自己紹介を交わすエックス、ユウキ。
コレクターと言う何気ない言葉に強く反応する二人。しかしお宝を溜め込む竜種故と聞き納得。
双方戦意は無い筈が、アンに銃口を向けられるエックス。理由は素顔が見たいと言う内容。
彼女達海賊の目的は、グリードによる人身売買の阻止と壊滅。彼は漸く幹部の名を知る。
夜の警備へと出掛けた海賊マリンブルーの二人は音を立てて走らず、静寂の闇夜へ徐々に溶け込む。
行き先は倉庫が立ち並ぶ貨物エリア。此処南区の港町トワイライトこそ、残る三区や東大陸へと。
貨物を回す為に必要不可欠な重要エリア。この南区を任されたパイモンの責任は他の区より重く重大。
人気の無い倉庫裏へ回り込み、周囲を確認後スカートの右ポケットから白蝶貝を取り出し、貝を開く。
中にある十ミリの白い真珠が光るや否や真珠の真上に映像が映し出されるも砂嵐が酷く相手が見えない。
「此方マリンブルー。ディープブルー、応答を求めますわ」
『こちら~……でぃーぷぶる~。おーばー』
「んん~ッ!!」
アンが映し出された映像に向けて話し掛ければ、間延びした女性の口調で返答が返って来ると。
メアリーは唸ると左手で頭を乱暴に擦り、何故か苛立つ彼女を「まぁまぁ」と苦笑いのアンが宥め。
真顔になり「お母様は其処にいらっしゃいますか?」と自身の母親が近くに居るか問い掛ける。
その声を聞いてか。映像の向こう側では何やら積み上げた荷物が倒れ、ドミノ倒しにでもなったのか。
壺が倒れて割れた様な音も鳴り響き、通信先が心配になり良くも悪くも心配で苦笑いをする二人。
『アン、メアリー。二人共無事ですわね?』
「無事だよ。まあ、今日も今日とての常例報告をね」
通話相手が代わり、お嬢様口調でハキハキと喋る女性が二人の身の安否や無事を確認すれば。
通信機らしき真珠貝を手にするメアリーが答え、定期的に行っている今日あった出来事を報告する。
別の海賊に寄生したり、擬態すら行っていた謎の軟体生物。その弱点が塩や高電圧と言う点。
最後にクロークを纏い顔を隠した男と彼に付き添う龍神の娘。コレクターと言う言葉を気にしない等々。
「こんなもんかな」
『ご苦労様。その二人に関して、何か気になった事はあるかしら?』
「あの二人が相当な実力者と言うのは確かですわ。男性の方は控えめでしたわね」
「龍神の娘が一方的に好意を向けてる感じ」
報告を終えると。通信相手から新しく遭遇した二人に関して、違和感等と言った出来事の有無を問う。
とは言え、実力者以外に目立った点や様子もない。敢えて表現するならば、凸凹コンビ位だろう。
その結果に「そう……」と溜め息混じりに落胆し呟く女王。アンメアの二人も釣られて溜め息を一つ。
二人は女王が吐く溜め息の意味を知っている。MALICE MIZERを救った義賊の再来を求めていると。
『こんなとき~……ヒーローさんがいてくれたら~……ねぇ~、ムピテ~』
『……リート。上玉は全宇宙を救うのと引き換えに、自ら消滅したのよ』
そんな気持ちを察してか。間延びした口調の女性がこの海と全宇宙を救った存在の再来を口にするも。
彼は救いたいモノを救う為に、対価として己を捧げ消滅。故にもう、初恋の相手はこの世にはいない。
だからこそ「ワタクシ達自らの手でこの世界を守る事に価値がありますの!」と力強く答え。
嘗て自身ら親世代は件の者に頼り切ったハイリスクノーリターン、最高でもローリターンの依頼をし。
異変に巻き込まれ、彼らと交流する内に世界や他者を知り、認識の変化から成長へ繋がった。
「にしても……数日前までは百人規模の魚類大船団が今や、たった一度の襲撃で二人になるとはね」
「同族殺しも今や、幾らか慣れてしまいましたわ」
『こんかいのしんりゃくしゃ~……まえとは、ちがうね~』
『えぇ。物理的な攻撃が効く、効かないと分かれ。ワタクシ達の領域でも活動可能な連中も居ますし……』
ムピテがしみじみと感傷に浸っていると。メアリーは船団が一度の襲撃で壊滅したと呆れ気味にボヤく。
決して他の船員が脆弱だった訳ではない。鮫や鯱、海に住む者達が集った勇敢なメンバーだったが……
今回の敵は素の実力も然る事ながら、酒場兼宿屋の一件で遭遇した様に他者へ寄生する能力を持つ。
故に宿主ごと寄生生物を倒す他無かった。更に厄介な事に物理が効果的な個体と無効の個体の他。
海の塩分濃度でも活動可能な連中も出現しており、地上だけの問題でも無い。潜むモノは直ぐ傍に……
アンメアの子世代やムピテ・リートの親世代も、今後の活動に限界を感じて表情が曇り眉が下がる。
「まさか。港へ停泊した直後、他の海賊に捕まるとか思いもしませんでしたけど」
「本ッ……当にそれ。多分、僕達の敗退を何処かで潜んで見てたんだよ」
暗くなった気持ちのまま愚痴った内容は、あの店に居た事へ繋がるモノ。惨敗し命からがら帰還するも。
それをただ見守っていた男だけの海賊からすれば、漁夫の利どころか棚からぼた餅も同然の好機。
顔に傷こそあれど、二人共上玉の女。売買や使うも良し、グリードに提供し見返りを得るも良し。
事実。あの酒場で全滅していなければ、最悪の未来が待ち受けていたのは火を見るよりも明らか。
親の二人は娘達に任せるしか出来ず、希望を託し送り出した以上何も言えない。その時、ふと思う二人。
「ねぇ、アン」
「あら。わたくしも丁度、メアリーに訊ねる所でしたの」
『『……?』』
思い付いた提案を相棒に話そうとアンを呼び掛けた瞬間、彼女もどうやら同じ考えだったらしく。
訊ねたかった所だと返され、二人揃って微笑むと力強く無言で頷く。通信側は映像が見えていない為。
声が聞こえない点を疑問に思い、もしや誰か潜んでいるモノの気配に気付いたのでは?と勘繰るう。
そんな親の気持ちを裏切り、一斉に口を開き──「あの男を仲間にしよう!」のハモり。
海賊業を続けるにしても人手が足りない。そして自身らは他の海賊達に狙われる程の価値がある女。
更に今は女王と交渉も出来る条件下。ならば手持ちの武器を使い、仲間に引き入れるのも一興。
『れきし~、くりかえす~……?』
『……繰り返さなくていいですわ』
漸く通信映像が正常に映り、あれやこれやと企む娘達の作戦を見聞きし、過去の行動を思い出す親達。
過程は同じではないものの、エックスを手に入れたいと言う結果は近しく、同じ結末すらあり得る。
旧人類と同様に、歴史を繰り返すのか?疑問に思ったリートがムピテに訊くも、当人は当時を思い出し。
羞恥心の余り両手で顔を覆い隠しては、良くも悪くも自身と同じ道や結末を辿らなくて良いと呟く。
話す中。メアリーは空気の流れに違和感を覚え銃を手に、今居る倉庫裏から左側面へと走り出す。
「君、凄いね。さっきから僕達の会話に聞き耳を立ててた癖に、今漸く僕が気付くだなんて」
「──!!」
「海賊の会話を盗み聞きだなんて。返答次第では容赦致しませんわ」
物陰に隠れた存在へ銃口を向け、相手の隠密能力を称賛しつつ、注意を話し掛ける自身に引き付け。
バレた・見付かったと認識後、即反対方向の表通りへ逃げ出そうとするも、突然目の前に着地するアン。
彼女はメアリーが動いた直後。動きの意図を理解し、三十メートルはある豆腐建築の倉庫屋上へ跳躍。
相棒が先に到着して注意を引き、時間を稼ぐ中。彼女自身も挟み撃ちにすべく降下していたのだ。
会話等無視して行動していれば逃げれた。二人のコンビネーションに対し、苦虫を噛み潰す相手。
「あぁ、盗み聞きをした事はすまない。これも仕事でな」
「仕事……何の仕事ですの?」
「用心棒ってヤツさ。俺はコードネーム・ネメシス。人身売買の情報を聞き付けて来たんだが…」
「僕達を違法商人と勘違いして、様子を伺ってたと」
暗闇の中で観念したのか。両手を上げ、降参の意図を示し、謝りながら月明かりの下へ歩み出たのは。
赤く短い髪、整った顔立ちに紅い瞳。白いジャケットの内側に藍色のシャツ、白い長ズボンの男性。
盗み聞きしていたのも仕事柄と言い、訊ねれば用心棒と返答。自らのコードネームをネメシスと伝え。
人身売買の情報を聞き付け、調査の途中でアンメアと親達との通話が耳に入り、様子を伺ってたと話す。
理由を話せど、銃口と警戒心を下げない二人。男の方もやれやれ…とばかりに目を瞑り、首を横に振る。
「なら、この情報はどうだ?明日の午前二時半、此処の六番倉庫で取り引きが行われるって話は」
「その話がこの場を逃れるだけの嘘って言う可能性が強いですわね」
信用を手に入れる為、自身が持つ最新の人身売買関連情報を話すも、この場ではその場凌ぎの嘘。
そう取られても仕方がなく、逆に警戒心を強めてしまう。この結果に当人も「そりゃそうだ」──と。
自身が逆の立場でも同じ反応を示す旨を口にし、再びこりゃあお手上げ状態だ、と首を横に振る。
だが……諦めた言動を見せる男に対し、警戒心がより強まる二人。一見隙だらけに見えるものの。
攻め込める気がせず、寧ろ下手に手出しをすれば返り討ちに会うのではないか?と直感が訴える。
「仕方ねぇ。明日の人身売買、何でも組織のトップが仲介役に来るそうだ」
「組織のトップが?もしこの話が本当なら、相当大きな売買になる」
「えぇ。上手く行けば、この違法売買の頻度を限りなく低下させられますわ」
「乗るしかない、このビッグウェーブに」
双方全く動かず、話さない沈黙が暫し続いた結果。時間の無駄と感じたネメシスが率先して沈黙を破り。
明日の違法売買にディクテクターのトップが現れる情報を出し、状況の変化を引き起こす。
ご都合的、疑心暗鬼と思う二人だがネメシスと同じく、互いに動かなければ時間と体力の無駄使い。
更に言えば海賊活動も人数的に苦しい為、提示された情報は千載一遇のチャンスでもあり。
場に変化が欲しかったのもあり、罠の可能性も考慮に入れつつ受け入れ、構えていた武器を下ろす。
「俺みたいな用心棒にも情報が流れる位だ。逆に敵対勢力を一網打尽にする罠の可能性もある」
「ご忠告、ありがとうございます。それでもわたくし達は行きますわ」
「そうそう。誰かがやってくれるから~って他人任せにしてたら、成長出来ないし」
用心棒たる自身にすら流れ込んで来る情報故、違法売買を許す組織の罠かも知れん!と忠告をするも。
アンから感謝の言葉で返され、続け様にメアリーが他人任せでは、己自身が成長する機会を失うだけ。
明るく笑い、立ち去る海賊二人にネメシスは俯き、黒いタクティカルグローブを着けた両手で力強く。
握り拳を作り、間を空けて「……強いな。お前達は…」と小さく呟く彼の表情は後悔と怒り、無力感。
入り乱れる様々な感情が言動に出ない様、海賊二人組の気配が完全に消えるまで堪え続けた後──
「クソッタレがぁぁぁ!!!」
小刻みに震える左拳を目の前にある七番倉庫の壁目掛け、ボクシングで行うジャブ程度の感覚で。
やり場の無い感情を吐き出して腰を捻り、下半身から生まれた力を上半身に乗せ一発だけ打つ。
素早く、真っ直ぐ打つ基本となるパンチ。普通はコンクリートに阻まれ、痛がる筈が──
阻む所かきめ細かな砂と化し、倉庫の内側へ飛び散り、乱れる息を整えるべく深呼吸を繰り返す。
落ち着きを取り戻すや否や、自身が粉砕した痕跡を冷たい目で見て、何事も無かったかの様に立ち去る。
「ヘパイストス、デメテル──お前達の仇は必ず俺が討つ。この……悪神を宿した手で!!」




