竜娘と魔王
『前回のあらすじ』
時間の歪んだ黄泉からsin時代へ飛ばされたエックス。遥か上空から見た景色は大陸が二つだけ。
前大戦で旅した海域・MALICE MIZERと理解した途端、音速を越えて飛ぶ竜娘の余波を受け海面へ。
事故りつつも港町・トワイライトへ到着。船乗りと商人の気になる話を聞き、情報収集で酒場へ。
再会した魔王パイモン・ラースと竜娘が何故かエックスに同行。お詫びで最低限の装備を購入した。
東大陸唯一の大型港町・トワイライト。東側の酒場でパイモン・ラースと遭遇後、何故か同行され。
停泊船の少ない西側港へ向かう一行。行き交う、擦れ違う住民達は人外──物語の中に現れる者ばかり。
故に旧人類種の人族たるエックスは二人に挟まれ、周りからの哀れみの視線や嘲笑う声を受ける。
何も知らぬ第三者は魔王と竜種の片方に掴まった、又は買われた間抜け、捧げられた生贄だと。
「それでさぁ……君ィ、何時まで付いて来る気なの?」
「それはオレの台詞だ。テメェこそ何時まで付いて来る気なンだよ?」
挟まれたまま口喧嘩をされる身としては、そんな視線や声は更に鬱陶しく感じるだろうが……彼は違う。
無表情を貫き通し、西側港へ続く真っ直ぐな道から裏路地へと変更。よく前を見ていない二人も同行。
入った裏路地は倉庫が建ち並んだ場所で、他には誰も居ない。エックス達なら二列で並ぶ幅もある。
太陽の光が建物に阻まれ、暗くなったのもあり物陰へ入った事に気付くパイモンと竜娘は疑問に思い。
一歩先で立ち止まった彼の背を見て自身らも歩みを止める。何故此処で?どうして止まったのかと。
「逆に此方が聞きたい。二人は何者で、自分に付いて来る理由は何だ?」
理由は単純。同行する二人が理由を訊ね合うのと同様、同行されている本人が理由を知る為聞き返す。
すると二人は腕を組み、伝え易く言語化する為に言葉を考える。曖昧では納得してくれないだろう。
それは自身らも同じ。信用ならない味方や同行者程、気の抜けない厄介者は居ない。各々纏まり。
竜娘はこれ以上単純明快な解答はないと、顔と態度に自信が満ち溢れ。対するパイモンは──
悲しげな表情を見られまいと顔を背け、両手で強く握り拳を作り何処か後ろめたい気持ちがある様子。
「先ずはボクからだね。ボクの名はユウキ!龍神族の一員で、同行理由はボク達の運命を視たから」
(厄介な運命眼持ちの龍神族。一度繋いだ縁は切れん……か)
「ねぇねぇ。これで良いよね?ちゃ~~んと理由を言ったし!」
(だとしてもだ。この異常な懐き具合は理解出来ん。もしやハニトラか?)
竜娘は右手で元気に挙手し、引っ込め自己紹介と同行理由をするが……後者は具体的ではなく曖昧。
それでも呪いの如く縁ある種族と厄介な眼を持つ上、彼女の名前に二点程複雑な感情を抱くエックス。
自らをユウキと名乗る竜娘は彼の左腕に抱き付き、平坦と言うにはやや膨らんだ胸と初対面にしては。
ド直球で明確な好意を押し付けて来る。運命眼の能力は前大戦から紅心絡みで知ってはいるものの。
此処まで懐かれるのは異常で理解不能だと考え、ハニートラップではないか?とさえ警戒する程。
「オレは……パイモン・ラース。東大陸・南区を担当支配する魔王だ」
(黄泉の国で遭遇した相手が、まさか魔王とはな)
「同行理由に関しては……オレが仕えていた我が君を探している」
(担当支配する魔王。確かアトアやドラコーが話していた……だが、我が君とは?王族の誰かか?)
初遭遇から遅れ、漸く自己紹介まで漕ぎ着けたパイモン。だが彼は彼女の言う言葉は理解出切れど。
彼女が語る言葉と彼の受け取る意味が半分だけ噛み合わない。理解出来た部分は黄泉の国で聞いた点。
出来ない点は、我が君と言う名も語られぬ誰か。仕えていたと語る部分から、王族だと推測するも。
不可解な点がある。魔王が仕え、我が君と呼ぶ相手とは?仮に魔王化前だとしても同じ疑問は浮かぶ。
「自分の名前は──エックス。まあ何処にでもいる悪党の一人だ」
「悪党ねぇ。悪党にしては、随分と綺麗な魂を持ってるみたいだが?」
「ガワは小綺麗かも知れんが、中身は酷く醜いもんさ」
自身も自己紹介を行い、悪事を働く者と話すも悪魔たるパイモンは魂の輝きと言葉の相違に口を出し。
内面の醜さを外見で隠蔽してるだけと言い返す中、ユウキは限界なのか、顔を背けてクスクスと笑う。
彼は嘘を吐いてない。されど言葉足らずな為、嘘と真実が見抜けず乱暴に自身の頭を擦るパイモン。
エックス本人としては、それが狙いでもある。正体と目的を上手く隠し、単独行動する為にも。
「まあ、何はともあれ。双方共にやるべき事がある。一緒に探すのは無理だが、聞き込みはしてみるよ」
「それじぁあね、パイモン。名前負けしない程度に、胸も膨らませないと!」
敢えて捜索を手伝わない。とは言わず、お互いに成すべき何かがある点に触れ、目標達成の過程。
その道中で簡単な聞き込みは行うと口約束を交わし、同行者を引き離そうと試みて立ち去る彼だが……
ユウキはそれを見抜いており、パイモンへ別れの挨拶と挑発をして先行く彼の背中を追い掛けて行く。
一人路地裏で立ち尽くす中、空気を読んでか読まずか雨が降り始めるも彼女の周りには……誰も居ない。
『地獄の西で起きた暴徒をもう鎮圧したか。流石だパイモン。貴女には報酬として西の王の役目を与える』
『ハッ!有り難き幸せ』
『……社交辞令は止せ。大丈夫だ。不服や意見があるなら言ってみろ、パイモン』
『流石は我が君。では僭越ながら──』
思い出す遠い過去の記憶。青・白・黒の三色に染められた永久凍土の地獄に建てられた立派な紅城。
記憶の中で任務を素早く完遂した彼女を褒める、我が君こと黒衣に青と白の羽織を纏う男性なのだが……
何かの影響を受けているのか、それとも顔を忘れてしまったか。顔が黒く塗り潰されて全く見えない。
任務達成の報酬を彼女に与え、礼儀正しく受け取るパイモン。だが表面上に出さない心情を見抜かれ。
不服や意見があるなら言え。そう背中を押され、内に秘めた感情を我が君へと伝える所で回想が終了。
「我が君……どうして……オレ達に何も言わず、一人だけで立ち去ったのですか!?」
雨は降る勢いと降水量が増し、俯いたパイモンの顔から次々と落ちる水滴は雨か、それとも悔し涙か。
溜まっていた胸の内を吐き出す様に、現在行方不明の仕えていた主へ対する不満・不服を吐露する。
誰よりも我が君に対して忠実に、裏切る気持ちすら持たず仕え続けた彼女だからこそ、許される吐露。
そんな本音を吐き出す中、鬱陶しく頭に纏わり付くユウキの挑発的な言葉を何故か思い出して腹が立ち。
遂には「オレよりテメェの方が小せぇだろうが!!」と雨降る天に向けて腹の底から力強く吠え叫ぶ。
確かに、パイモンの方が胸の膨らみはユウキよりも数段大きく、挑発する意味や側も本来は逆の立場。
「……君も酷い男だね」
「…………お互い様だろ」
立ち去りし二人は裏路地の横道へと隠れ、クロークのフードを深々と被る彼は顔を見せず雨に打たれ。
ユウキを屋根のある左側へ左手で避難させると、ただ静かにパイモンの本音を盗み聞きしていた。
エックスの行動を理解しているのか。優しく微笑みながら、酷い男だねと事実を突き付けれど。
目を閉じて隣に立つ竜娘に対する何故?と言う疑問に思考を巡らせ、自己解釈の末に同じ言葉を返し。
今度こそ裏路地を後にし表通りに出た二人は順番に足を止め、重々しく青い外見をした倉庫扉を開ける。
「…………酷いのはどっちだか」
「凄いね。君も鼻が良いんだ?」
「ただのKYってヤツさ。自分が暮らしてた時代の仕事では、必要性があったからな」
「ふ~~ん。例えば肉体が溶けたり窒息死の危険性、一生モノの障害が残る仕事だったり?」
倉庫の中は真っ暗。それでも彼が持つスキルと五感が暗闇の何かを理解し、視た光景に対しそう呟く。
既に知っていた口振りで問い掛けるユウキに、旧人類が使っていた言葉で返しつつ異世界転移前。
自身が勤めていた仕事で必要だっただけ。と曖昧に伝えたにも関わらず、的確に危険性等を言い当て。
小さく口角を上げ、彼の顔を見上げるユウキと、身長差故に彼女を見下ろすエックス。
見つめ合う二人は敢えて何も話さず、全く同時に再度倉庫内の闇へと視線を向け、静かに戸を閉めた。
「助ける?」
「冗談だろ」
「アハハハハ!だよね。さあ、早く西側の酒場へ行こう。此処に居続けたらボク達も標的だ」
六番倉庫から歩いて離れる途中、ユウキは再度彼を見上げ主語の無い疑問を投げるもエックスは依然。
前を向いたまま彼女の顔を見ず即答。予想通りの解答だったのか。彼女は笑い、意味深な言葉を残し。
西側の酒場へと向かって案内する様に駆けては一定の距離を保ち、時に足を止めて歩く彼を待つ。
依然として、雨はまだ太陽光を遮る暗雲から降り続く。それでも彼は走らぬ為、二人共ずぶ濡れ。
「もうそろそろだよ。酒場に着いたら拭く物が欲しいね」
「…………そうだな。風邪でも引くと厄介だ」
「ねぇねぇ。先に宿泊予約を済ませない?ボク、体温が下がっちゃってさぁ~」
「暖炉や厚手の毛布でもあると良いな」
先頭を行くユウキが前方に明かりを灯す二階建ての目的地を見付け、大きく右手を振り呼び掛ける。
されどエックスは少しの間沈黙を続けてから目を瞑り、素っ気なくも身体を心配する返答を一つ。
するとユウキが隣へ駆け寄り、彼の上半身へ抱き付き、夜のお誘いとも取れる言葉をぶつけるも。
素か理解した上での発言か、サラリとお誘いを回避。誘った当人は「むぅ~~っ!」と不服そうに。
風船みたく頬を膨らませて唸る。が……彼女が余計雨に濡れないようエックスはクロークの右側を広げ。
右腕で抱き寄せる形で自身の右側へ移動させ、歩き難いながらも雨からユウキを護りつつ進む。
「えへへ。こうしてるとボク達、ツガイみたいだね」
「……後ろ指を指されるから止めとけ」
身体に感じる彼の体温と感触、雨から護ってくれているクローク越しに聴こえる激しい雨音。
素っ気ない返答にも関わらず、自身が求めた結果を別の形で実現してくれた嬉しさの余り笑みが溢れ。
恋人みたいだね。と好意を伝えるも、少し間を空けてから陰で非難や悪口を言われるから止めとけ。
そう返す彼の顔は何処か悲しげなのに、ユウキを抱き寄せる右腕の力は強まるも震えていた。
そんな辛そうな顔を見上げ、理解すると彼女は「やっぱり……ボク好みの雄だ」と小さく呟く。




