Episode of Sin・Ⅰ ~時の娘編~
『前回のあらすじ』
見知らぬ真っ白な部屋で行われた、新たなる敵組織・ディクテクターのトップと幹部達による会議。
だが。思う様に幹部は集まらず、用心棒を交えて行われる中。対破壊者に関する方針が決まる。
組織と用心棒の友好関係は皆無に等しく、お互いに利用し合っているのを公認している間柄。
破壊者が現れた場所は幹部・テラーの管轄下。ゼノはベストを尽くす様伝え、会議は終わった。
黄泉の国で発生した生者の長時間滞在による拒絶反応。砂嵐に巻き込まれ、現世へ強制送還される。
遥か上空に一人、放り出されたエックス。白く分厚い雲を数秒で突き抜け、漸く見えた光景は──
何処までも続く広大な大海原と白い雲が浮かぶ青い空。海に浮かぶは左右へ分かれた大陸を含めて二つ。
周辺には小島すら無く、大陸を視る彼の眼には異様な気配と過去の記憶が映り込み、眉を顰める。
「……MALICE MIZER。そうか。最低でも前大戦の西暦二千五百年位は経過済み──ッ?!」
彼が視た気配とは、東の大陸に纏わり付く赤・黒・桃・紫・青。ディクテクターの各自を現す色と形。
西の大陸からは黒・灰色・ダークブラウンの髑髏雲を纏い、活気や生気と言ったモノを感じ取れない。
同時に水平線の先まで吸い込まれそうなこの海が、過去の旅で赴いたMALICE MIZERだと直感的に判明。
現在が前大戦より先の時代と認識した直後──音の壁を強引に突き破り、空気を切り裂く音を耳にし。
逞しい竜の翼や細く先端がスペードにも似た尻尾を持つ幼い少女が突然直ぐ隣をすり抜けて行き。
発生した衝撃波に巻き込まれて姿勢やバランスを崩し、螺旋を描きつつ海へ降下。
「今のは……フッ。ボクの母と君の縁が娘たるボクに繋がるか。運命は余程、ボク達の血を途絶えさせたくないと見える」
急ブレーキを掛け、空中で立ち止まるは人間の容姿に黒い長髪で黒竜の特徴が分かる背の低い少女。
振り返り、海へ着水した相手を見下ろし海面へ顔を出したのを確認するや否や、口角を吊り上げ微笑む。
一人称がボクで、自身の母とエックスの縁が己との運命を繋げ、血が途絶えさせない様に働いている。
そう自信満々に話す彼女は──幼く発育も未成熟な子供の容姿。額の左側に竜の角、背中から竜の双翼。
腰に細い尻尾、左顔や両手足。衣服を着てはいないものの、黒い鱗で秘部周辺を器用に隠している。
「結果こそ知れどやっぱりボク自身の眼で直接視たいよね!」と言い彼を追って降下後、手を取り港へ。
「ち……窒息するかと思ったぁ…」
「あはははは!大袈裟だなぁ、君は」
「息継ぎ無しの水中でジェットスキーに引っ張られ、壁に激突したのを大袈裟じゃないと?!」
一応港町へ辿り着いたのだが……黒竜の娘は上昇タイミングを間違え、エックスは港町の堤防へ激突。
ギャグ展開同然に壁へめり込み、救出され鼻血を滴しつつケラケラと笑う竜娘と対話する現在に至る。
相手から「意外と痛くなかったでしょ?」と言われ、指摘された通りなのを不服に思いながら頷く。
確かに思った程痛みはなく、話す内にギャグ漫画の如く鼻血も嘘の様に止まり、痛みも無くなった。
それどころか。濡れた衣服や体すらも知らぬ間に乾いており、海中へ落ちた痕跡一つすら無い。
竜娘はツリ目かつ瑠璃色の瞳をエックスに対し、初対面とは思えない優しげな微笑みを向ける。
「にしても...…此処は大型船が沢山停泊してるんだな」
「それはそうだよ。だって此処は東の大陸唯一の大型港町だからね」
辺りを見渡すと数多くの船が東側の港を交易船が大半を占める中、チラッと視線を左側へ向けると。
一部の船は西側港へ。敢えてその点は突っ込まず、沢山の大型船が~と言葉を濁した感想を述べれば。
竜娘が説明をしてくれた。が……疑問が幾つか浮かぶ。大陸と言いつつも唯一の大型港と言った発言や。
東西の船にも大砲は積まれているものの。西側へ停泊する船だけ、彼の眼には青・黒・紫。
三色の嫌な気配──モヤが視えていたが、東側の交易船から商人や船乗り達が次々と降りて来た。
「今回の商売も微妙でタコ」
「相手は西側大陸に住む絶滅危惧種の旧人類種。仕方あるまい」
「幻想種と旧人類種の第三次世界大戦の結果……でタコな」
二人に気付かぬまま会話を続ける獣人の船乗りと商人のイカ人。此度の商売も予想を超えなかった様子。
交易相手は西大陸に住む旧人類種。話から此方側へ飛ばされる前、黄泉の国で見た記録を思い出す。
アレは時間の異なる現世と黄泉。双方を行き来した際に発生した、時間経過ではないかと予測する中。
隣でエックスを微笑ましく見守る竜娘からの視線を感じ、一旦思考を止めて船乗り達の行き先を見るも。
初めて見た竜娘の全裸とも言える姿から一転し、洋服を着て顔や手足の鱗や竜化も解けより人間体へ。
服は青・白をメインに、黒のラインが入ったミニスカメイド服風で、右脚には黒いニーハイソックス。
「ん?珍しいな。旧人類種が此方の大陸に居るのは。隣に居る竜の連れか?」
「本当に珍しいタコね。そんな事より、酒場で次の航海先を決めないとイカんでゲス」
(ツッコミ所が多い……)
突然鼻をひくつかせ、違う匂いが近くに居ると理解し匂いの先へ向き二人の存在に気付く船乗り。
西側大陸では旧人類種──人族が居るのは大変珍しく、竜娘が隣に居る事から連れだと認識。
イカ人も物珍しげな口調で話すのだが、知る人なら烏賊の胴体は縦長の部分だと理解出来る。
それを踏まえて胴体部分に白シャツと緑のスーツを着用、何故か地面から数センチ宙に浮いており。
左右の袖から腕に該当するゲソが五本ずつ出て、開いた衣服の胸元から目が二人を見ている。つまり……
烏賊を逆さにして衣服を着せただけに過ぎず、異形感が凄まじく強い外見の余り内心突っ込むエックス。
「ボク達も酒場へ行くかい?」
「情報収集が目的なら──まあ、そうだな」
名前も知らない相手からの提案に目線を合わせず、酒場へと向かう交易船員達を眼で追い返事を返す。
自身を見てくれない彼に苛立ちを覚え、子供の様に頬を膨らます竜娘だが、船員達と距離が大きく離れ。
酒場の場所を特定した瞬間。彼が後を追う形で動き出した為、不服な感情を胸に抱いたまま背を追う。
港の停泊所から徒歩で五分程離れた先が、目的地となる酒場。木造仕立てで丸太をそのまま使った構造。
内装も木造で統一してるものの。天井では換気用ファンが静かに回り、客の空気を損ねない工夫が。
「テレビの西部劇で見る様な出入り口だな」
「此処の店主が西部劇を好きなんじゃない?知らないけどさ!」
前後両方に開き、手を離すと自動で閉まる木製の扉を右手で押し、店内へ堂々と入る二人。
新たな。同時に見知らぬ客人の来訪に、席で座る客達は次々と来訪者の存在を確かめるべく振り向く。
獣人や魚人、下級魔族に鬼人等々。先程遭遇した商人や船員達の視線を一身に受ける二人だが。
特に怖じ気や怯む事無くカウンター席へと進む中。隅っこに座る下級魔族の男二人がジョッキを片手に。
「男は隣に居る奴のペットだな。此処の闇市で旧人類種の売買が盛んと聞くしよ」と大声で喋ると──
「店主。コイツら、殺っても良いよね?」
「……」
「OK。この地域は実力主義社会。強ければ正義、敗ければ悪と清々しくて良いよね。ボク、最強だけど」
カチーン!と頭に来たのはエックス……ではなく竜娘の方。カウンターへ両腕を乗せ、店主に訊ねると。
店主は何も言わずただ、後ろに張られた表紙の通りだ。と言わんばかりに振り向かず、右親指で示す。
表紙には『ひわふあぶな、も"へきこ_らにまるやる"まま"もや』と書かれており、意味を理解した途端。
踵を翻し。右手の指を動かすとアニメで見聞きする、戦闘前の威嚇にも似た骨が折れた様な音を鳴らし。
下級魔族が居る席へ近付く最中。喧嘩の勝者はどちらか?どっちに賭けるか?等と賭けが始まり大盛況。
そんな時──店内に異常な程の重圧が襲い掛かり、二人を除いて客達や店主は机や床に平伏す形に。
「嘘、だろ?!出掛けてたパイモン様が……帰って来たってぇのかぁ!?」
「パイモン?あぁ、miscreationの事か」
「やっぱりそうか。オレに気付かれない様、気配を限界まで絞ってやがったな?」
下級魔族の片割れが怯えの混じった叫び声で、魔王パイモン・ラースが帰還したのだと言う。
他が押し潰されそうな中。平然な様子の竜娘はパイモンに対し、不出来な産物・誤った創造と発言。
ウエスタンドアを手ではなく、上半身だけで押し通り、全く動じない二人を自身の眼で見て確信する。
余計な遭遇・対決・面倒事を回避する為、敢えて外へ漏れ出したりするエネルギーを内側に向けて凝縮。
わざと弱者の振りをして、他に紛れ感知されなくさせていたと。エックスと竜娘へ問い掛ける。
「おいおい。テメェも居ンのかよ、インフェルノ」
「君は本当に学習能力が無いね。ボクの事は烈火──と呼ぶ様に言っただろう?」
「あぁはいはい。確かにテメェは烈火だよ。地獄に燃え盛る……って、おい!?」
「ちょ、まだ情報収集も何もしてないのに出るのかい?!待って!待ってってばぁ!!」
魔王が竜娘に近付けばお互いに険しい目付きで相手を強く睨み付け、双方の間に火花が散るのだが…
我知らずとばかりに喧嘩する二人の横を平然と、足音も立てながら素通りするエックスに気付くや否や。
パイモンは喋ってる最中に呼び掛け、竜娘も用件は何も済んでないと言いつつ、いがみ合うのを止め。
余りにも唐突かつ突然の行動を起こしたエックスを追い掛け、竜娘。続いてパイモンも後を追い外へ。
即走って追い掛けた甲斐もあり、剣と盾の看板が描かれた天外のお店で見付け、駆け寄る二人。
「小競り合いはもう良いのかい?」
追い掛けて来た二人へ振り向いたり視線を向けるでもなく、並べられた武具に視線を落としながら。
小競り合いはもう十分なのか?そう問い掛けると、図星を突かれた二人は何も言い返せず、ただ。
お互いに左右違う方向を向き、ばつが悪そうな表情で黙るだけ。彼の言葉に心の内側を覗かれたのか?
そんな疑問を抱きつつ、一見無防備に見える背中を眺める二人だが……双方、互いの視線に気付けば。
一触即発。再び睨み合う姿に周りの住民や客達が足を止め、漂う険悪な雰囲気に怯え、二人が動く刹那。
「「──!!」」
「なあ、二人共。周りに迷惑を掛けるのは止めよっか?」
自身らの身体に触らんとする、深淵の闇より誘う名状しがたき──老若男女問わぬ無数の手が。
彼女達の全身へ触れる直前。二人は瞬間的に死を理解し、ソレの存在を確かめようと振り向くも。
其処に恐怖の対象は居らず。二人の視線はエックスの背中へと向けられ、彼から軽い注意を受ける。
無言で何度も頷くと小競り合いは終わりを迎え、周囲の面々も安堵の溜め息を吐きいつもの日常へ。
「チッ、仕方ねぇ。一時休戦だ」
「そうだね。お互い、命拾いした訳だし」
「おっ?ソイツが気に入ったつうンなら、オレが迷惑料として払うぜ」
「ズルい!他に欲しい物があればボクも払うからね!」
場が白け、もう一度と言う気持ちにもならない為か。パイモンは軽い舌打ちをし、一時休戦を提案。
持ち掛けられた竜娘も命拾いしたのもあり提案を飲んだ直後、商品棚の一つを屈み見る彼に気付くと。
自然と歩み寄り、迷惑を掛けた対価として欲しければ代わり購入すると発言。第三者から見れば謝罪。
しかし竜娘は抜け駆けと勘違いしてズルいと言い、購入する物が他にもあるなら自身も払うと詰め寄る。
断るのは失礼と考えた結果。古臭い回転式拳銃、焦げ茶色のクロークを各一つずつ購入した。




