略奪者
『前回のあらすじ』
何故か付いてくる竜娘と魔王。双方同行する理由を訊ね合う二人に対し、エックスも逆に問う。
片や運命だと言い、片や我が君なる人物を探している。しかし共に捜索する時間や暇が無い為。
敢えて拒否せず、手伝える事だけと言い魔王と別れ、雨降る中で彼女の本心の叫びを隠れ聞く。
倉庫で見た何かにボヤきつつ、西側港の酒場へ未だ付いて来る竜娘と共に向かうのであった。
大型港町・トワイライトの西側港にある二階建ての酒場兼宿屋。雨降り続き、二人が辿り着く十数分前。
一階酒場では頭に赤いバンダナを巻き、白の半袖黒の長ズボンを着用した男達が木製のジョッキを手に。
航海を経て無事港へ着けた事へ対し、祝杯をあげていた。その中に一人だけ他の船員達とは違い。
両脇と後ろを折り返した三角帽子を被り、首に赤いスカーフを巻いた男が居た。
そんな馬鹿騒ぎする男達を、金銀財宝の布袋を積んだ二階の席で椅子に座り見下ろす二人の女性。
小さな円形の机には白いテーブルクロス、その上に白に青のラインが入った珈琲の入ったカップが二つ。
「いつもいつも同じ事の繰り返し。飽きませんわねぇ」
「仕方ないよ。海賊ってのは何時だって略奪者だ。与える側じゃない」
片や赤、片や黒を基調としたレースやフリル、リボンと言った装飾品に飾られた華美な洋服。
スカートはパニエで脹らませ、靴は編み上げのブーツや厚底のワンストラップシューズ。
長身で赤い服の娘は背に届く程長く、波打つ様な金髪。隣の黒服で少し背が低い娘は肩に届く灰色の髪。
何度も同じ光景を見ているのか。呆れた様子でボヤく金髪娘に対し、海賊は常に奪う側だからと返す。
二人の態度は海賊に捕まった。と言うには緊張感や恐怖心が無く、船員達に襲われる様子もない。
逆に金銀財宝や人質には手を出すな!と、キャプテンの指示が行き届いているのかも知れない。
「それで話を戻すけど、アンはあの話……どう思う?」
「西側大陸で紙芝居になってるお話の事ですわね?メアリー」
話題を西側大陸を往き来する商人や船乗り達から聞いた、紙芝居とその内容へ戻し訊ねる少女。
アンは双方の認識が一致しているのを確認しつつ、訊ねた少女に対しメアリーと呼び掛け微笑む。
返答に頷き「そう。ワールドロードってタイトルの」と続け、木製の机に両足を乗せて背凭れを倒すも。
背後にある積み重ねた財宝袋へ当たり、転倒までは行かず丁度良く姿勢が斜めに止まると足を組み。
その衝撃で机の上にあったキセルが浮き、メアリーの方へ跳べば左手で掴み、彼女は口に咥えた。
「お行儀が悪いですわよ?」
「このsin時代、行儀の良さで生きて行ける程甘くはない。結局は従うか従えるか……だ」
「それは確かに。あ~ぁ……わたくし達の身も心も盗む、漆黒の王子様に逢いたいですわ~」
「それ、紙芝居に出てる登場人物の事を言ってる?」
態度の悪さを指摘するも、現時代を生き抜くには力が全て。遠回しに言えば、アンは少し考え納得後。
自身も後ろの積み上げられた財宝袋へ椅子の背凭れを倒し、背や腕を伸ばす様な動きで目を閉じると。
白馬の王子様では無く。漆黒の王子様との発言に、メアリーは紙芝居内の登場人物であると察し。
キセルを机に置いて聞けば、アンは笑顔で答えた。現実的に考えれば絶望の世界に希望を与える為。
敢えて都合の良い物語と勧善懲悪をメイン、英雄色を好むの子供にも分かり易く描かれた架空の創作物。
仮に過去の記録としても、寿命等で既に存在しない点を踏まえ、メアリーは馬鹿馬鹿しさに鼻で笑う。
「もし仮に出逢えたのなら、僕はアンの恋が実る様手伝ってあげるよ」
「フフッ。とても嬉しい提案ですが、それはフラグと言うモノですわよ?」
「アンの母君みたいに──かい?」
そして極端に低い可能性を億が一にも引けたのならば、恋のキューピッドになると横目で伝えれば。
アンは嬉しそうに軽く笑い、行為自体に感謝をするも、親友の好きな相手を好きになるフラグと返す。
その返しに対し、アンの母親が初恋相手に告白するも振られた件を出され、財宝袋の横へ右手を伸ばし。
握ったカトラスの切っ先をメアリーの眼前へ向け、それはライン越えだと笑顔と行動で圧を掛ける。
「お母様の悪口は、お母様の親友の娘たる貴女でも許しませんわよ?」
「それでも事実は変わらない。久し振りに僕とやり合うかい?」
そんな圧すら全く気にせず、マイペースなメアリーに刃を向ける理由も付け足し、口にするも。
どんなに圧を掛け様とも事実は変わらず、覆りもしない。それでも切っ先を向けるのであれば……
お互いの母親が親友同士で、その娘たる自身らも親友だが、どちらが正しいか実力で証明するかい?
遠回しな言い方をしつつ、アンと同じく財宝袋の横から火打ち石式の別名ラッパ銃を左手で掴み。
アンの顔に銃口を向けて構える。カトラスが優位に見えるも、実際は姿勢と距離でラッパ銃の方が優位。
「……止めだ止めだ。僕達で争ってる場合じゃなくなったみたいだし」
「そうですわね。略奪者の体を略奪する輩が紛れ込んでいた様ですし」
一触即発な空気……だったが突然双方武器を下げ、一階酒場の方を見下ろす。其処ではなんと──
首が千切れ、中から濃い桃色でナメクジらしき何かが絶望の表情をした船員頭部を左右に揺れ動かし。
近くの恐怖と絶望感に声も出ない船員達の頭目掛けて頭部穴を開き、吸い付き暫くしゃぶった後。
自ら離れれば……襲われた船員の首はろくろ首同然に延びては千切れ、同類が次々と増えて行く始末。
怯えていた船員達も負けじとカトラスを手に、殺られまいと寄生生物へ斬り掛かり首を落とすのだが……
切断部分から首が再生され、床に落ちた首も自ら再生し他の船員へ飛び掛かり次々と仲間を増やす。
「……物理的に倒すのは無理か」
「みたいですわよ?わたくし達の能力も恐らくですが、逆効果かと」
「魚に水、ナメクジに野菜、鶏にカタツムリ……ん?ナメクジ?」
斬撃が通じない事から、物理的な排除は無理だと理解するメアリー。アンも自身らが持つ能力さえも。
この謎生物には逆効果と予想。それを得意な環境や好物に例えていた時、ふと何かに気付き。
メアリーの視線は湯気が昇る二つの珈琲カップへと向き、右手で掴むや否や、一階酒場の化け物達へ。
中身を振り撒く様に投げ付ける。すると珈琲を浴びた化け物達は高温で暴れるも、動きは鈍く。
活動を停止して動かなくなり、倒れてしまう者もしばしば。それを見た二人は、これが弱点だと理解。
とは言え残る珈琲カップは一つ。敵はまだ二十匹は下らない為、他の弱点を見付ける必要がある時──
「照明が……」
「「──!?!?!?」」
突然電球に青い閃光が走ったと思いきや、照明は消え視界は真っ暗。瞬間、一階酒場に明かりが灯る。
但し。溢れ落ちた珈琲や数匹の死体を電球代わりに通電させ、化け物だけを焼き尽くす青い稲妻。
標的を消し炭にした後、幻の如く消滅。少し遅れる形で電球に電気が戻り、暗闇の部屋に光が戻る。
床には焼け焦げ、最早判別出来ぬ何かが居たとしか分からない。恐る恐る一階酒場へ降りると。
ウエスタンドアが押し開かれ閉じる音や、入店する足音に気付き振り返れば……ずぶ濡れの二人組の姿が。
「誰だい?此処は海賊専用の場所だけど」
「それを承知の上で、雨宿りさせてくれませんか?この通り、全身びしょ濡れですので」
長身の者はフードで顔が隠れて見えず、クロークに隠れ、懐へ抱き付く少女達にメアリーが忠告。
すると長い黒髪の少女が前に出るや否や、忠告を理解した上で雨宿りをさせて欲しいと頼み込む。
先程の一件もあり、どうしたものか。一人なら断り追い返す所だが、今はアンと行動を共にしている為。
左足だけを半歩後ろへ向け、背後で席に座っているアンに視線を向けると小さく左手を振っており。
軽い溜め息と共に目を瞑り、要求を承諾。二人に背中を見せ、相棒が待つ席へと真っ直ぐ歩き出す。
「メアリー」
「何だい?アン」
「「?!?!?!」」
席で待つアンは笑顔を崩さぬまま相方の名を呼び、呼ばれたメアリーも『普通』に返答を返した。
背後から見れば、進む先の席は遠近法と前を進む彼女の後ろ姿で見え難い。それは双方同じ条件。
故に──黒髪少女とクロークを纏う者がメアリーに飛び掛かる今、忠告から反応が間に合う筈も無い。
通常なら……だ。突然目の前の彼女が屈んだと思いきや、眼前に迫るのは小瓶に入ってた大量の塩と瓶。
そう。アンが呼び掛けた直後に投げていたのだ。二人は両手で塩を浴びた箇所を払い落とそうと暴れる。
「馬鹿だなぁ。こんな三流も同然の見え透いた手に引っ掛かるとでも思ったのかい?」
「それに。先程の第一陣とのやり取りでアナタ達の弱点も、大体は見抜きましたわ」
立ち上がると同時に見え透いた手だと馬鹿にしつつ振り返り、声無く悶え苦しむ二人を見下ろし呟く。
アンも船員を襲った連中の一件で弱点をある程度見付けたらしく、その一つが珈琲の他に塩だった様子。
黒髪少女の方は完全に溶け、もう片方も溶け行く中、メアリーに向け右手を伸ばすが……
銃口をその右手に向け、発砲。発射された弾は拡散。相手の体を容易く次々と穿ち、床へめり込む。
「それで──カウンターの奥に隠れているアナタは、わたくし達の敵かしら?」
「…………立ち去ったみたい。もう大丈夫そうかな?」
「あら?」
椅子に座ったまま、カウンター裏のキッチンに隠れて居るであろう相手に向け、話し掛けるも。
足音が遠ざかる気配から、立ち去り安全だとメアリーが判断した後。再びウエスタンドアが開く。
先程と同じく、クロークで顔が隠れた長身の者と、その者の懐に抱き付く黒髪の少女。
同じてを仕掛けて来た。アンがそう咄嗟に判断し、床に落ちていたマスケット銃を即座に拾い立ち。
フードで隠れた額に発砲。メアリーの眼前を通り見事命中……したのだが、逆に弾速が無くなり墜落。
「治安が悪いとは知ってる。けど出会い頭に額目掛けて銃を撃つのが此処の挨拶なら、ボクが君達を撃ち殺しても良いんだよね?」
ずぶ濡れの少女が前へ出ては、メアリーとアンの二人に向け、不服な顔と皮肉全開で言い返す。
同じ外見なれど、目の前で起きた予期せぬ結果に驚愕する二人。余程の危険人物と本能で察してか。
アンは視線を逸らさぬまま慣れた手付きで次弾装填、即発射するが……今度は目の前の少女が掴み。
弾を掴んだ右手を開けば、塵と化した弾が床へと落ちて行く光景を見て敵わぬ相手と察したのだろう。
二人は手に持った武器を床に置くと、眼前に立つ相手の足元目掛けて蹴り、両手を上げ降伏を示す。
「ふぅ~~ん……勝ち目が無いと理解するや否や降伏か。潔くてボクは好きだよ。但し──」
「「!?」」
「もっと素直だったら……の話だけどね」
ジト目で降参を示す二人を睨み、目を閉じてその降伏行動に好感が持てると言葉を続けた後──
二人の視界から姿が消えたと思えば、膝下まであるスカートが捲り上げられ、大急ぎで押さえる。
一瞬だが黒い洋服に白、赤い洋服は黒い布と──両太股に空っぽのレッグホルスターが見え。
彼女達が隠し持っていた短銃は、いつの間にかカウンター席へ座っていた黒髪少女が両手の指で吊るし。
恥ずかしげに睨む二人に対し、ドヤ顔で返す。武装解除に満足したのか、席に銃を置き相方の方へ戻る。
「さぁ。お話をしようか」




