ドラマ撮影のお手伝い 後編
監督と助手がコソッと直した脚本を渡し、撮影の準備に入った。
「最初の先生登場シーンはセリフはないから、座ってるだけでいいからね」
「先生役の人は?」
「先生役はちゃんといるよ。あっと驚く人物だから楽しみにしておいて」
「あっと驚く人?」
「そうさ。ドアが開くその時までは言えないけどね。リアルな表情を撮りたいからね」
と言いながら監督らは教室から出て行ってカメラの調整を始める。
一方義威子らはその人物が誰なのかみんなで考察していた。
「誰だろうね?」
「GTQの國塚とか、かるせんの斬組とか」
「もしかして残念B組の環八先生!?」
「それだったらマジで驚くよ!」
ワイワイと盛り上がっていると助手が声をかける。
「皆んな撮影始めるから、リラックスしてね!!このシーンは喋る事はないから、リアクション勝負だよ!」
「本番よーーい!!5・4・3──」
カメラが回り始めた途端に場は静まり返り、全員が固まるように椅子に座って、台本通り教科書を見て勉強する演技をした。
そして数秒後、廊下から教室にゆっくりと足音が迫って来た。これも台本通りに全員が誰だろうと廊下の窓を見つめて、人影がこっちに迫って来るのを目で追う。
その人物がドアの前に立った。
曇りガラスの窓などで、ドア一枚だけでも誰か分からなかった。
「皆んな席につけ」
その声と共にドアが開いた。
その場にいる全員が緊張した。誰が来る。どんな奴が来ると。全員をワクワクとドキドキが入り乱れた状態で目を向けた。
「さぁ、みんな出席を取るぞ」
そこにいたのは──監督だった。
「何でお前なんだよ!!」
「はぁ?」
金城が立ち上がってツッコミ、修吾も続いて立ち上がってツッコんだ。
「いくら何でも自己顕示欲高すぎでしょ!」
「そうかな?これくらいいいだろう」
「よくねぇよ!」
「だって監督と主演やってる人だっているじゃないか?」
「それはジャッキーやクリストンらのような実力者だからこそ、成り立つんだよ!」
「俺は脚本もやってるぞ」
金城が脚本を確認すると、隅っこに脚本監督と書いてあった。
「あんた脚本も出演もやった事あんのかよ!」
「ある訳ない」
「だったらでしゃばんな!」
「いやぁ、岳崎くんらを呼んだら予算ほとんど飛んでね。先生役の俳優や脚本家を雇う金がなくてさぁ。だから、僕らスタッフが先生役や脚本をやるんだ」
「だからって、前に出過ぎだろ!どこまで予算ギリギリに使ってんだよ!アットホームを売りにしてるバイトかよ!」
金城のツッコミ疲れて、息切れ寸前にまでなる中、義威子だけは涙を浮かべながら拍手をしていた。
「感銘を受けましたぁ!何という監督魂!!その魂は来世にまで語り継がれるでしょう!!」
「分かるかね君!!君のセリフを一つ増やそう!」
「ありがとうございます!!」
監督と義威子は感動しながら握手を交わした。
二人が握手をしているのを引き気味に見つめる金城に、大知がスマホを見せて来た。
「金城、これ見てよ」
「何だ?」
「あの監督色んな作品を担当しているみたい」
「え?」
大知がコソッと見せて来たのはWikipediaで、水の男達シリーズのタイトルだった。
水の男達X、シン・水の男達、水男達vsエイリアン、水の男達〜クリスタルパンツの謎〜、バトルオブ・水の男達などなど様々なタイトルの水の男達シリーズが存在していたのだ。
「まるでB級映画のタイトルのようだな……」
「だから、あんな内容でもファンは大丈夫みたいだね」
「そうゆう問題か?」
「カルト的人気って奴だね」
握手し満足した監督はカットを掛けて次のシーンに移った。
「ここからは説明シーンだからね。決まった演技を頼むよぉ」
「俺たちのセリフは──」
脚本を確認すると、全て監督演じる先生の説明のセリフしかなく、金城ら生徒はふーんかほーんかへぇの3パターンをしか無かった。
しかも監督のセリフはびっしり書いてあり、監督の独壇場のようなシーンとなっていた。
書き直したシナリオのせいで監督のセリフが9割占めており、違和感たっぷりの脚本になっていた。だが、監督は内心自分の出番が増えてガッツポーズを取っていた。
「お前が主役な作品になってるじゃんか!!」
「主役のキャラは後半に出るんだよ。だから今は僕のセリフで補う、じゃなくて説明するんだ」
「そのくせ、俺らは頷き君になってるじゃねぇか」
「エキストラだし、そのくらいが妥当かと」
「そりゃあそうかもだけど」
何とか金城を黙らせて説明シーンを撮影した。
長すぎて、途中で金城は寝てしまうと単調なシーンであり、正直言えばこんな作品誰も見ないであろう暇なシーンであった。
全員が言われたままに相槌を打ち続けた。
カットを掛けると、監督は満足そうにOKを出した。
「とにかく皆んなリアクションは良かったし、次のシーンだ!!」
「こんな眠いシーン誰が見んだよ」
なんやかんやで教室のシーンを撮り終え、次は体育館に移動した。
体育館の真ん中に椅子が何個か配置されており、金城らは椅子に座らされて、ステージから助手の説明が入る。
「次は校長先生の演じるシーンだから、ステージの方を見てれるだけで良いからね」
「俺らのセリフ全くないじゃないか。さっきは驚くシーンしか撮ってなかったじゃんか」
「まぁまぁ、最後のシーンにはセリフあるから」
「なら良いけど」
上手く言いくるめてさっさと撮影準備に入る。
みんな監督らの自由な作風に疑心暗鬼になる中、義威子だけは相変わらず目を光らせて撮影を待ち侘びていた。
「よし!撮影スタートだ!!」
監督の合図と共にカメラが回り出した。
カメラは生徒達を映して、ステージ下にいる先生役の監督へと移る。
「校長先生の話だ!校長先生よろしくお願いします!!」
と言うとカメラはステージ脇へと向け、そこから校長先生の足音が近づいてきた。
「皆さんおはようございます」
出て来たのは付け髭をして他のメイクは一切していない助手が堂々と現れた。
金城と修吾は椅子から転げ落ち、途端に立ち上がってツッコんだ。
「今度は助手かよ!!」
「何で助手なんだよ!!監督と助手、演じる役逆だろ!」
二人のツッコミに助手は照れくさそうに笑った。
「いや〜昔から校長役をやりたかったんだ」
「付け髭だけじゃ違和感ありまくりだわ!!メイクさんはいないのかよ!!」
「メイクさんも雇う予算がなくて、必要最低限のスタッフだけを引き連れて来たんだ」
本来ドラマとなると、監督などの他にもカメラ、照明、スタイリスト、プロデューサー、美術など様々なアシスタントらが揃って撮影を行っているのだが、ここにはどう数えても監督、助手、カメラ、カメラアシスタント、照明、他含めても7人ほどしかいない。
教師陣を見ると、撮影スタッフ扮する先生らの中に黒腹中学の教師も多く混ざっていた。
「全員素人ってどんなドラマだよ!!こんな類を見ないドラマは初めてだよ!!」
「これも挑戦だからね」
「命運掛かってるのに呑気だな。てかプロデューサーとかいないの?」
「プロデューサーも岳崎君と来る予定だったんだが、来れなくなってね」
「暴走止めれそうな奴誰一人いないなんて……ん?今なんつった?」
「あっ」
口が滑り、義威子を除く全生徒が静かに監督へと目を向けた。
そして──
「最初からそう言えば良かったのに……」
監督と助手は全てを説明して土下座をしていた。
「本当に申し訳ない!
「いや、俺は別にファンじゃないからいいけど、アイツはどうすんだよ」
金城が指さすのは一人空想の世界に取り込まれた義威子だった。
委員長も呆れた様子で監督に言う。
「あの夢見る少女には言わないほうがいいですね。ここで言ってしまったら、荒れそうなこの場がもっと荒れるから」
「分かった……彼女には夢を見続けてもらおう」
そうこうしている内に撮影はどんどん進み、主役がいない中で、監督や助手が演じる先生や校長、または生徒らの会話のみでストーリーを強引に進める形となった。
そして、最後のシーン。屋上に呼ばれた生徒達。
日も暮れて、夕日がとてもエモーショナルなのだが──
「最後のシーンの撮影をするよ!」
「夕日をバックに撮影すらから皆んなはフェンスの前に立っててねぇ」
やる気がある監督らに対して、金城らの熱は完全に冷め切っていた。
「本当に主役出ないまま1話が終わってしまうのか」
「視聴者を取り込む為の1話なのに……」
生徒らの不安をよそに監督は説明を始めた。
「最後はエイブラハムがこの世の水を取り返す決意をすらシーンだが、岳崎君がいないので我々が説明する」
「そういやそんな内容だったな。忘れてたぞ」
「すぐにでも撮影しよう!日が暮れる」
ほとんどの生徒が作品の全貌を忘れており、改めて何の作品かを思い出す。
エイブラハムのラストの決めセリフは、俳優がいない為に監督が言うこととなる。
「こんなん誰見んだよ」
「放送事故もいいところよ」
金城らがグチグチ言う中、撮影の準備をしているのだが──
「監督、それ僕のセリフですよ!!」
「ダメだ、このセリフは俺が言ったほうが深みが出る」
「ジャンケンで決めたじゃないですか!!」
監督と助手の二人が言い合いを始めた。
最初は口論だったが、徐々にヒートアップしてお互いの胸ぐらを掴み上げて、睨み合っている。
「撮影押してるんじゃねぇのかよ」
その横で夢見る義威子は目を光らせて二人の服を引っ張り、岳崎を催促する。
「ねぇねぇ、私岳崎君と共演できるかなぁ?出来るよね?出来ますよね!!」
金城の言葉は監督らの耳に入らず、二人は言い合いを続けた。
「このハゲ!帽子で隠してるくせに!」
「よく言ったな!!この銀歯!!」
「コンプレックスを刺激するな!」
喧嘩する監督らに、未だに夢見る義威子の光景はまさに混沌。
金城らは呆れ返っていた。
「本当に大丈夫なのか、このドラマ」
「1話目から不安しかないなぁ…」
「もう帰ろうぜ。腹減った」
生徒ら全員、疲れ果てて帰って行った。
「岳崎君……貴方とはいつ会えるのかしら」
「もう会えないわよ。帰るわよ」
夢見る義威子は委員長が担いで帰った。
監督と助手の言い合いは日が暮れるまで続いた。
その裏で──
カメラマンがある事に気づいた。
「あれ?録画出来てねぇや。まぁいいか、こんな番組誰も見んだろ」
*
数ヶ月後──
金城の家に修吾、大地、義威子、委員長が集まり、ドラマをリアルタイムで観ることにした。
「あーあ、結局岳崎君と共演できなかったなぁ」
「お前じゃ花の横に生えてる草のように、岳崎の目には入らねえよ」
「うっさいわね!」
二人が言い合いをしていると、修吾が割って入り、チャンネルを合わせた。
「言い合いはこれくらいにして、ドラマ見ようぜ」
番組が始まり、タイトルが出て、いざ始まった──なのだが。
「あれ?これって俺らが出たドラマか?」
「え?でも、これって──」
テレビに映し出されているのは、撮影したドラマ映像じゃなくて90年台の3Dゲームのグラフィックのポリゴンのキャラクターがドラマの内容のまんま動いているのだ。
だが、声はちゃんと監督や助手の声。更には金城のツッコむ声や義威子の妄想ボイスまでもがキャラクターの動きをしていたのだ。
「凄い……内容もめちゃくちゃだし、90年代後半のゲームのCGみたいだ」
「カクカクしているポリゴンゲームみたいね」
「あぁ、今回は俺らのせいじゃないよな……」
全員が驚愕する内容。
もはやドラマと言えず、古臭いCGアニメのような出来であった
金城らだけでなく、このドラマを楽しみにしていた視聴者も驚愕するのであった。
瞬く間にこのドラマもといCGアニメはSNSで話題となり、放送後半になると多くの視聴者が物見たさに集まり、終盤には視聴率19.8%を記録する大ヒットとなった。
見逃し放送でも過去最多の視聴数を稼ぎ、逆に2話以降は普通の実写へと戻ってしまい、逆に批判が起きる珍事まで起きることとなった。
放送された内容は物議を醸したが、斬新な演出や裏話の流出により、高評価をもらって続編や映画化などの話が持ち上がったのだ。
これには監督もニッコり。
「これも作戦通り」




