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ドラマ撮影のお手伝い 前編

 

 雲ひとつない晴天の中、金城、大知、修吾は自転車を漕いでいた。

 一番後ろで漕いでいる修吾は先頭に走る金城へと尋ねる。


「何処いくんだ?」

「夏の学校はどうだ。今の時間なら殆どの部活も終わってるだろうし、先生しかいない空っぽの学校だぜ」

「入っていいのかよ」

「んなもん無断侵入に決まってるだろ」

「それ犯罪だからな。正面から堂々と行けよ」


 と軽くツッコむ修吾に大知が口を挟む。


「そもそも入る事すら禁じられてるよ。学校の備品を盗むかもだってさ。信用されてないね全く」

「うっせい!簡単に入れるように細工しない学校が悪いんだよ!てか、盗んだ事ねぇのに勝手に決めつけやがって!」

「それほど素行が悪い証拠でしょ」

「うっせい!」


 金城の話で盛り上がり、談笑していると学校の前に到達した。

 だが、校門の前に人だがりが出来ていた。体操服でも制服でもない私服の人々が大勢いた。


「何だあれ、こんな暑い日に抗議活動か?ご苦労なこって」

「にしても、皆んな楽しそうだけどね」

「暑さで頭がやられたか」


 確かにみんなワイワイガヤガヤと楽しそうに話している。

 だが、何か抗議のパネルとかは持っておらず、まるで誰を待っているかのようだ。

 金城らが不思議に思ってると、見た事ある顔を発見して話しかけた。


「義威子に委員長何やってんだ?お前らも抗議活動か?」


 見つけたのは麦わら帽子を被っている義威子と委員長で、二人も何か待っているような素振りで学校を見つめていた。


「違うわよ。貴方達知らないの?ドラマ撮影の話?」

「えぇ、ここで今日ドラマ撮影が行われるらしいのよ」


 委員長はスマホの写真を見せて来た。

 そこにはイケメン達、ゴーグルをつけて泳ぐイケメン男のドアップ画像だった。


「水泳ドラマの撮影。タイトルは水の男達2034だっけかね?」

「失敗した翻訳みたいな名前だな……てか、そんなシリーズあんの!?」

「人気シリーズよ。今人気のイケメン俳優の岳山ケントと二十世紀に一度の美少女の橋木カンナが主演なのよ!二人が揃えばどんな作品も一流よ!」


 目を光らせて早口で言う義威子。二人は有名かつ超人気作の映画に出演しており、彼らの人気に映画の興行収入が左右されているほどだと言われているのかも。

 義威子の熱弁に金城も納得して頷いていた。


「確かに……じゃなくて。その俳優らはいるのか?」

「それがまだみたいなのよ。監督さんら撮影班は来ているんだけどなぁ」


 と監督がいるテントの方へと指を指す。

 そこには昔風なキャップ帽とサングラスを掛けて、折り畳み椅子に座ってメガホンを持っている監督と、その横にいるゴマスリ助手がいた。


「でも、何か監督さんとスタッフさん揉めてるように見えるけど?」

「問題でもあったのか?」


 遠くから見ても何か揉めているようで、助手が申し訳なさそうに監督へと伝えていた。


「はぁ?車がバナナに滑った!?」

「そ、そうなんですよ。今マネージャーからの連絡で今日の到着は不可能だから、撮影は来週って──」


 監督はメガホンで助手の頭を思いっきり殴り倒した。


「んなギャグ漫画みたいな事が起きるわけないだろ!」

「そんな事言われても……」

「人気俳優目白押しの作品で、これだけのキャスト揃えるのにどんだけ交渉したと思ってんだよ!週一でしか揃わないから、今回のドラマ撮影に俺らの会社は全て掛けたんだよ!!」


 助手は頭を抑えながら立ち上がり、スマホのニュース画面を見せる。

 そこには"高速道路でバナナを積んでいたトラックが横転して、多くの車がバナナの皮に滑って多重事故が発生し、大渋滞。渋滞の解消の目処は立たず。"と


「だからって、バナナの皮に滑るなぁ!!たわけ!!」


 とまたもホームランのバッティングの如くフルスイングで助手を殴り飛ばした。


「どうするんだよ!ドラマ撮影!!1話目の撮影がアウトになったら、放送に多大なる影響を与えるんだぞ!!会社の肥えた役員共に期待されてんだぞ!!俺一人の打首獄門じゃ済まないんだぞ!」

「ひいぃぃぃ!!」

「それとも俺の打首生放送するか!?それともお前もかぁ?」

「やっぱり社長に土下座しましょうよ!1話の延期を──」


 三度監督の怒りを買い、今度はメガホンで突いて突き飛ばした。


「げへっ!」

「そんな事やったらキャリアに傷つくわ!!」

「でも、監督はドラマの打ち切りが多いから、傷ついていても問題ないって業界の噂ですよ!」

「今そんな暴露いらねぇんだよ!!てか、そんな風に言われてたのかよ俺!ぶっ飛ばすぞ!」

「ままま、待ってくださいよ監督!いい案があります!」


 怒る監督を宥める為に、ドラマ撮影を観にきている学生達を指して咄嗟の案を出した。


「あそこにこの学校の学生さん達がいるじゃないですか!あの子達だけで一話を持たせるんですよ!」


 と意気揚々と言うが、またも監督にメガホンで思いっきり振り上げて顎ごと殴り飛ばされた。


「ぐへっ!」

「んなもん主役いないのに、どうやって1話作るんだよ!!主役いない1話なんてどんな作品だよ!しかも2時間枠だぞ!!てか、素人だけのドラマって何だよ!」

「で、でも……主役は遅れてくるってよく言うじゃないですかぁ」

「主役どころか他のレギュラー陣全てが遅れてんだよ!!1話の視聴率が大事なドラマで主役なしで持たせるなんて無理に決まってんだろ!!」

「岳崎さんを別日にワンカットだけスタジオで撮影して、それを1話の最後のシーンに映すのはどうですか?それなら、主役登場で何とか出来るかも……」


 助手の提案にまた怒ろうとメガホン振り上げるも、やる気が無くなったのか力が抜けたように椅子に座って、突然涙を流した。


「俺はよぉ、半世紀以上受け継がれた続くこのドラマを作って、次の世代にも託したいんだよぉ。このドラマが好きだからさ、この業界に入って先輩方の背中を見て育ったんだ。そして今日、初のこのシリーズの担当をするから気合いを入れて、頑張ろうと思った矢先、バナナ如きに夢を潰されるなんて……」

「監督……」

「先輩が俺がこの作品が好きな事を知っていて、バトンを託してくれたんだ。それをこんな所で……」

「……」


 監督の本音に感銘を受け、うるっと来た助手は監督の手を両手で握りしめて、真剣な眼差しで想いを伝えた。


「決断しましょう。彼らを使って一話分でも尺を稼ぐんです!」

「くっ……でも」

「先輩方の背中を見た監督なら、何とかなります!我々で困難を乗り切りましょう!!そしていつか酒飲みながら、この事を笑い事にして話しましょう!!」

「うぅ……助手ぅ」


 と泣きながら監督は助手の手を握りしめた。

 その光景を見ている金城からすれば、殴ったと思ったら泣き始めて訳が分からん状態だった。


「スッゲェ情緒不安定だな」

「あれぐらいじゃないと監督が務まらないよきっと」

「かもなぁ」


 全員で監督達の事を気にしていると助手が低姿勢な物腰で金城らの元に走って来た。


「君達〜ちょっといいかな」

「あん?」

「ちょっとだけ、背景のシーンを撮りたいから君達出演してくれなあ?」

「はぁ?」


 いきなりの出演発言に困惑する金城だが、それを跳ね飛ばして義威子が目を光らせて助手の手を握りしめた。


「よろしくお願いします!!」

「あ、あぁ。五人ほどはセリフあるけど大丈夫かな?」

「大丈夫です!私達にやらせて下さい」

「凄い食いつきだね!」


 金城は草むらに突き飛ばされて土まみれになった。

 委員長だけは心配そうにしてくれた。


「大丈夫?」

「あ、あぁ」


 *


 金城ら五人は別室の教室に連れて行かれて、監督と助手と共に台本の確認をした。


「私が監督です。よろしく」

「私は助手です。これが台本だよ」


 渡された台本は分厚い本でタイトルは義威子が言っていた通り、"水の男達2034"であった。


「マジなのかよこのタイトル」


 マジだったので金城も戸惑いを隠さなかった。

 助手が台本を開いて、簡単に説明する。


「わかってる人もいるだろうけど、これは青春ドラマだから、肩の荷を下ろして演じてくればいいからね」

「ふ〜ん」


 修吾が内容を確認した。

 時は2334年──世界中の水は枯渇し、人々は水を求めて戦争を繰り広げた。それから数年が経ったある日、100年の冷凍睡眠から覚めた水泳戦士のエイブラハムは、タラリアン教授の孫であるバインから水が枯渇して、人々の生活も水泳の文明は終わったと伝えられた。街には水を求めた殺人ハンターらが蔓延して全ての人々が生活に困難していた。

 だが、エイブラハムは水泳の力で世界に光を与えようと旅に出かける。


「どんな内容だよ!時代背景めちゃくちゃ過ぎだろ!てか、青春ドラマじゃなくてディストピアドラマじゃん!」

「数百年未来の設定でも、こんな感じの街あるかもしれないよ」

「いや水泳と未来のドラマがもうめちゃくちゃだろ!どうゆう作品目指してるか全然分からん」

「新境地を目指した作品だからね。何事も挑戦だよ」

「だからって、挑戦し過ぎだろ!」


 青春なんて程遠い内容にすかさず飛ばした修吾のツッコみに金城も同じように冷静にツッコんだ。


「水泳が明らかにおまけ程度にしか見えないんですけど。マンネリ解消する為にシステムそのものを変えたゲームみたいなんだけど」

「水泳が全てを救うんだ。彼の水泳には人の心を引く力がある。それで戦争や争いを辞めさせるんだ」

「文明崩壊してる時点で、エイブラハムの力じゃどうしようもないだろ。というか、登場人物全員英語圏の人間のような気もするが」

「その点は気にするな。主役は全員金髪になるから」

「それが失敗の元になるんだぞ」


 ツッコみ続ける二人だが、義威子だけは違った。


「す、凄いです!これ!!最新SF作品の中でも最高点です!!」

「SFじゃなくて青春だぞ」

「私達のセリフは何ですか!!」

「無視すんな」


 金城の言葉なんて耳には入らず、義威子は内容に感銘を受けて手を激しく振りながら監督らに質問をした。


「君達のセリフは主に世界観の説明だね。一話でエイブラハムが登場するまでにどんな世界で、崩壊した秩序を描く。君らはその世界で必死に生き抜き、エイブラハム伝説を信じる非力な学生を演じてもらうよ」


 助手が一生懸命話すも、全員がその内容を前にあっけらかんとしていた。

 そんな事はお構いなしに助手は話を続ける。


「最初のシーンは崩壊した世界でも水泳の事を教える教師と生徒のシーンだよ。本物のエイブラハムの映像を見て、多くの生徒は本当に水泳があったんだと感銘を受けるんだ。分かった?」

「とんでもない怪作になるぞ、これ」


 後半に続く

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