万引きGメンは大変
ある日、義威子はおつかいを頼まれて近くのスーパーへと買い物に行った。
メモを渡されて、それを頼りにして買う物を探していた。
「えっと、じゃがいもと人参と──」
野菜コーナーへと向かう途中、見覚えのある顔を見つけた。
「あんた何やってんの……」
それは棚の端から身を潜めながら魚コーナーを睨みつける金城の姿であった。
義威子が合うと手招きをして、呼び寄せて来た。近づくと、義威子の腕を掴んで自分の後ろへと引っ張った。
「もう一度聞くけど何やってんの」
「みりゃ分かんだろ。万引きGメンだよ」
「えぇ……自発的にやってるの?」
「違う違う。バイトとしてやってんの。暇な夏休みを過ごすにはもってこいだし、金を稼げるし」
「暇つぶし感覚で万引きGメンって。てか万引き多いの?」
「近年、セルフレジの導入や、レジ袋有料化によるマイバッグの増加により、ただでさえ多いかった万引きが今まで以上に増えたらしいからな」
事実セルフレジの導入により、人件費の削減やレジの回転率を上げる事には成功している。だがその分、セルフレジ内で会計を済ませずに袋に商品を入れて万引きする犯罪が発生している。
「人類の進歩は世知辛いわね」
「万引きの被害は全国的に1日で12億。年間では4000億以上とも言われている。更には検挙されるのは10件に1件ほど。つまりは9割はバレずに万引きに成功している」
「セルフレジやマイバッグの万引きが増えて店側も困っているってニュースで言っていたわね」
「その通りだ!仮にここで1日で1000円ほど万引きされたとしよう。それだけでも年間36万5000円の被害になる!それが2000、3000円と万引きされて見ろ!100万を越すことになる。だからこそ俺みたいな私服保安員、通称万引きGメンが出動するのだ。これによって検挙、更には被害額の減少にも繋がるのだ」
因みに万引きGメンのGメンとは英語で政府や統治などの意味を持つGovermentの頭文字のGから取られたのだ。
「わざわざ人を雇ってまでやる事かしら?店の前にはポスターとかあるじゃん。それではダメなの?」
「そうだ。万引きは犯罪だとか言うチラシとかあるが、あんなモンは効果は無いわけではないが、効果は薄いだろう。効果が高いのは私服警官巡回中の紙を貼ることだ。万引き犯にすれば、私服警察官なんて見分けるなんて不可能だ。だから、若い男女などは全員が警察に見えてしまう。もし、万引きを行い、捕まったと考えるとやりたくても出来なくなってしまう」
「まるで一度万引きしたみたいな話ね」
「俺はした事ないぞ!!ネットで調べたんだよ!それより、俺は仕事に取り掛かる」
と言って再び魚コーナーへと見つめる。
金城が目をつけているのは老人で、刺身を持ち上げて周りをキョロキョロと警戒しながら見渡している。
「あれは怪しいな」
「あの人?」
「目が右往左往しているのは周りの目を見ている。つまり、俺のような万引きGメンがいないかを確認している。その後、人が少ない場所や監視カメラの死角に行き服の中にでも隠す。そして安い物だけ買って帰る」
「へぇ」
老人は刺身をカゴにいれ、その後漬物や安い納豆、インスタントラーメンに菓子物。更には飲み物を買い物かごに入れ、惣菜コーナーにて惣菜を見つめながら立ち尽くしている。
金城はその跡をバレないように追いかける。
「色んな物買う気ね。これも偽装工作?」
「いや、色んな物を買ってるように見せて、スーパー全体を見渡しているんだ」
「何で?」
「あの爺ちゃんの動きを思い出せ。野菜コーナーは入り口右側の手前。そこから端から進んで納豆、さらに進んで店中央側の棚からラーメンやお菓子を入れてから、店左側にある飲み物を取り、今は惣菜コーナーにいる。買い物してるように見せて店内全域を調べ尽くしている。これで万引きGメンを探しつつ、監視カメラの確認。更にはカメラの死角を探している」
その後、老人は後ろをチラチラと確認しながら惣菜を見つめている。
「あれは?」
「側から見れば、何の惣菜を買うか迷っている人に見えるが違う。何処で決行をするかを考えている。あの状況なら怪しまれる事もない。決めたら、爺さんはカゴに入れた物を殆ど棚に戻すぞ」
「未来予知!?」
「まぁ見てなって」
そう言って様子を見続け、老人の動きを観察した。
すると老人は惣菜をカゴに入れる事なく立ち去り、また来た場所へと戻っていき、どんどんカゴに入れていた物を戻し始めた。
「本当だ。棚に戻している」
「あのジジイ、トートバッグは持っていないようだな。多分狙いは漬物辺りか」
「トートバッグ?アタシも持ってるけど、トートバッグ限定?」
そう言って義威子は折り畳んだトートバッグを取り出した。
「基本的にトートバッグはお前のように折り畳んで懐か財布を入れるショルダーバッグに収納するだろう。だが、万引き犯の中には何も入っていないトートバッグを肩に掛けて、品物を見てるふりをしてこっそりとトートバッグに入れる手口もある。まぁショルダーバッグでも起きる事だが、今のやり方ならトートバッグの方が明らかに行いやすい」
「ジジイ!!」
「うぇ!?」
「窃盗で捕獲する!!」
金城は老人に飛びかかり、老人をあっという間に捕まえる事に成功した。
「く、クソ!」
「店長!!また捕まえたぞ!!」
と言うと店の奥からボタっと太った汗っかきの店長が現れた。やたら笑顔で、金城の頭を力強く撫でた。
「さすが金城君!やるねぇ!」
「当たり前よ!」
「引き続き頼むよ!」
「はい!」
「さぁ、お爺ちゃん話はゆっくり聞きますからねぇ」
店長は笑顔を絶やす事なく、老人を片手で持ち上げて事務室へと連れて行かれた。
「すごいじゃない!!大手柄じゃん!!」
「慣れればそんな事ないさ。今日9人目だからな」
「え?今日だけで!?どんだけここで万引き発生してるのよ!」
「ここでは幼子から老人まで万引きが横行している。はたまた店員までもが行っていた事もあるってさ。開店から閉店までで最大75人捕まえた事もあるぞ」
「無法地帯すぎない……?」
「あぁ、怖いもんさ。味方が最大の敵だもんな」
「まぁ、頑張りなよ。アタシは買い物してくる。お母さん待ってるし」
それから義威子は買い物を済ませて、会計を終えて店から出ようとした時、金城の叫び声が店の奥から聞こえて来た。
「待て!!ババア!!」
「また万引きかしら……」
金城が大慌てでババアを追いかけており、ババアが出口を出て瞬間に飛び掛かって何とか捕獲した。
「捕まえた!!」
「ふふ……」
「何だその余裕?はっ!?」
ババアの腕と足を縛り上げた金城だが、ババアは不敵に笑っていた。その時、気づいた。
店左側出入り口からもう一人のババアが猛スピードで走り去っていく。
「クソ!囮か!」
「はは!!砂砂漠の蠍を捕まえるのは不可能よ!」
「何のぉぉぉ!!」
金城は懐から紐が繋がれた手錠を取り出して、手錠を開いた状態でカウボーイの如く投げ飛ばした。
手錠は砂砂漠の蠍ババアの足元にかかり、金城が力強く引っ張り上げると、ババアは倒れて身動きが取れなくなった。
「うっしゃぁ!!」
「す、凄い!」
「二人同時に捕まえたぜ!!」
見事に二人同時に捕まえる事に成功した金城。
それからも──
「行かせるか!!」
「俺達、筋肉学園アメフトのタックルを喰らえ!」
「学校の名前堂々名乗ってんじゃねぇ!!筋肉馬鹿ども!!なんとしても捕獲してやらぁ!」
筋肉質なアメフト部の男ら11人が米袋をアメフトボールのように小脇にギュッと抱きしめた状態で固まり、出口に待機する金城へタックルを食らわせた。
「ぬおぉぉぉ!!」
金城は吹き飛ばされる事はなく耐えた。押されながらも地面に足をつけたまま誰一人逃す事はせず、無理やり全員を抑え込んだ。
「我々の万引きタックルを!」
「こんなタックルじゃ……世界は取れんぞ!!」
金城は力の限りを尽くして、アメフト部全員を押し返し始め、出口から遠ざけ始めた。
そして全員をまとめて持ち上げて地面に叩きつけて、捕獲に成功した。
「これでタッチダウンだ!!」
更に──
「お前!!取ったろ!!」
「僕は取ってないよ。証拠はないよ」
とシルクハットを被った紳士服を着た男がいた。
怪しいちょび髭に、単眼鏡などと気になるところは多々あるも、金城はツッコむ事はせずに黙々と調べた。
だが、ポケットや帽子の中を調べたが発見出来なかった。
「ないだと?」
「僕は盗んでないと言っとるだろ?」
金城が怪しんでいると、偶々買い物に来ていた義威子が金城と男を取り囲む人盛りの前を通りかかった。
「今度は何してんの?」
「このマジシャン風な野郎め、盗んだ物を隠しやがったんだよ!」
そう言うと義威子はやれやれと言う顔で前に出て、男を見つめ始めた。
「靴下を脱いでもらえますか?」
「先程靴は見てもらったが?」
「靴じゃなくて靴下ですよ。早く脱いで下さいよ。無実を証明したいんでしょ。
義威子の険しい眼差しに押し負けたマジシャンは渋々片足を上げ、靴下を脱ぐと薄いスルメの駄菓子がポロリと落ちて来た。
「ほらね」
「そんなもん如き普通に買えよ!子供でも帰るぞ!マジシャンなら万引きせずに稼げ!!」
証拠を見つけた事により、金城にとっ捕まってお縄につかせた。
その後、金城は義威子に尋ねた。
「よく分かったな」
「こう見えて昔はマジシャンになるのが夢だったのよ」
「それ絶対、後から無かった事になるやつじゃんか」
そして──
「何でアタシも……」
「店長が認めてくれたって事だ。感謝しろよ」
「まぁ暇だし、お金貰えるからいいけも……」
義威子も活躍した事で店長に認められて、金城と同じく万引きGメンに抜擢されたのだ。
店長もニコニコして二人を店の奥から見つめている。
金城と義威子は万引き犯を捕まえるために、一気にダッシュして店内を駆け巡った。
*
それから二人は巧みなコンビネーションで万引き犯を捕まえ続けた。
「義威子!!ターゲットは闘牛士だ!!突撃する可能性がある!!気をつけろ!」
「分かったわ!」
トランシーバーで連絡を取り合いながら敵をあらゆる角度から監視して、どんな相手だろうと捕まえる事に成功した。
闘牛士を捕まえ、蛇を使ってこっそり万引きする蛇使いや、全身鉄に包まれたパワードスーツを着た万引き犯や、赤いジャケットを着た猿顔男と、黒いソフト帽で隠した黒いスーツの男と、刀を持ち歩く着物姿の男ら3人などを捕まえるなどして、その月の万引き被害額を0円に抑え込んだ。
「結構やるじゃんか義威子、才能あるぞお前!」
「そうかな?へへへ、楽しくなって来た!」
二人がハイタッチを交わして悦に浸っていると店長が小走りで二人の前に現れた。
「君達本当に凄い!!こんな所で収まる器じゃないよ。いい所紹介するよ!」
「へ?」
「君達にぴったりな舞台だ!」
「はぁ?」
そして──
『これより!!第五十七回、万引きGメン世界チャンピオン決戦を行います!』
ここはアメリカのニューヨーク。街中にある超巨大スーパーの外。金城と義威子は万引きGメン世界チャンピオン決戦に出ていた。
世界各国の万引きGメンタッグが出揃い、筋肉質なタッグや頭脳派なタッグなど、全24組という強烈な面々が顔を揃えていた。
そしてアナウンサーが金城らの紹介をする。
『日本の荒波を越えてやって来た超ハイパーなタッグ!!金城&義威子だぁぁぁ!!』
歓声を浴びながら二人は手を振りながら現れた。
『ルールはただ一つ!!このスーパーは東京ドーム一個分の広さを持つスーパー!!その中には1000人を超える客がいます!!その中に指名手配されている10人の万引き犯がいます!!その犯人を捕まえた数が最も多いタッグが優勝です!!では!!皆さんを用意を!!』
その掛け声と共に全員がスーパーへと足をむけて、走る構えを取った。
全員真剣な顔をして緊迫感が走る。金城らも周りの圧に押しつぶされないように息を飲み、合図を待つ。
二人は性別も違ければ、性格も違う。でも負けられない、この思いだけは二人の心に唯一一致した感情だった。
『それではレディ!!ゴーー!!』
スタートした。全員が一斉に走り出し、金城らも遅れずに走り出した。
「よし!!義威子行くぞ!!遅れるなよ!」
「えぇ!!負けないわよ!!」
「俺達の万引きGメンとして戦いは!!」
「まだまだこれからよ!!」
二人は爽快な笑顔を見せて、万引きGメンが蔓延るスーパーへと走っていく。万引きGメンとして生きていく事を決めた最強タッグ。彼らがこの先に待ち受ける万引きGメンとしての激動の人生。どのような戦いが起きるのであろうか、それは彼らもまだ知る余地はない。
そんな中、義威子は内心思っていた。
またまた無駄な時間を過ごしたなぁ。
と。




