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義威子、気になってしょうがない。

 

 義威子の夏休み──

 夜、風呂上がりの義威子。パジャマ姿で気持ち良さそうな顔でリビングへと戻る。


「ふぅ〜夏はお風呂暑いけど、その日の汗全て流し落とせるから最高だわ」


 と言いながらリビングのドアを開けた時、たまたまテレビがついており、何かのCMがやっていた。


『──味も好評発売中!!』

「ん?」


 イケメンが宣伝する何かのお菓子のCMのようだが、終わり際しか見れず、何の味か分からずイケメンも一瞬だけしか映らなかった為、誰か分からなかった。


「あのイケメンさん何処かで見たような……でも、思い出せない……」


 あまりどうでも良い事なのだが、何故か無性に気になってしまう。

 だが自分達は人間。義威子はそんなどうでも良い事が気になってしまう悲しい習性が働いてしまったのだ。


「お母さん、お菓子のCMでさ、イケメンが宣伝しているやつ知らない?」

「イケメンのお菓子のCM?そんなCMいっぱい流れてるから分かんないわよ」

「だよね……気になってしょうがないのよね」


 夕食の片付けをしている母に聞いてもそんなのいっぱいあると言われて軽く流された。それもそうなのだが、人間と言う者は不思議なもので一度気になってしまった事は何が何でも突き止めたくなってしまう。

 その後、母の皿洗いの手伝いをしている最中で気になって皿洗いに集中出来ず、テレビに張り付いてCMが流れるのを待つも流れる事は無かった。


「何の味で、何のお菓子なんだろう……それにあのイケメンさんの顔も絶妙に思い出せない……なのに、好きなドラマに出てたような気がするし。いや、アイドルだったような。一体何のお菓子で、何の味で、何て名前のイケメンさんなんだ……」


 スマホを握りしめるも、何て調べればいいか分からず、どうする事も出来ない。誰かに聞こうとしても、俳優も分からなければお菓子の詳細も分からない。

 考えすぎて頭が痛み出して、頭を抱え始めた。


「気になる。気になるけど、皆んなに何て聞けば良いんだろう?何かのお菓子のCMで男性の俳優さんが宣伝していた?こんなの何処のCMも一緒じゃない!!」


 CMにはイケメンがよく出る。ファンからすれば、応援している人が出ているCMなのでとても嬉しい事なのだが、義威子にすれば、ただ有名な人ぐらいの感覚である。

 その後、テレビを何時間観ても同じCMが流れる事は無かった。


「テレビ見ても出てこない……いつも、同じCMよく流れるのに……」


 とテレビを消して部屋に戻り、気晴らしに勉強しようと机に座ったが、それでも悩みの種は消えなかった。


「あのイケメンさえ分かれば、SNSで調べれる。でも、その顔が浮かんがこない!俳優だったはず、いやアイドルだっけ?いや声優だったような……お笑い芸人だったような。でも最近動画配信者とかイケメン多いし……」


 考えれば考えるほど頭がこんがらがって来て、苛立ちからシャーペンをいとも簡単にへし折ってしまった。


「どいつもこいつも何でイケメン何なのよ!この世界にイケメン多すぎんだよ!!まとめておけ!!」


 *


 次の日、委員長と共に家で宿題を行っていた。

 最初こそは真面目に宿題をして、頭の中から薄らと消え始めていたが、一度頭の何処からかピックアップされると徐々に気になる感情が爆発的に膨れ上がって来た。

 あのお菓子、あのイケメン、誰だ誰なんだと──


「義威子大丈夫!?」

「へっ?」


 答案用紙を見ると全部の答えにイケメンとプリントを貫くほどの強さで殴り書きがされていた。


「大丈夫?イケメンに何かされたの?」

「いや、そうゆう事じゃなくて……」

「でも額から凄く汗かいてるわよ?」

「は、はは!気のせいよ、気のせい」


 義威子は鏡を取り、自分の顔を見るとまるでマラソンを走った後のような汗の滝が流れていた。無意識に身体から謎の反応が出始めて、本人もただ笑うことしか出来なかった。

 因みに部屋はクーラーをガンガンに効かせている。

 その後何日経っても、この悩みの種が消える事なく、夜も眠れない日々が続いた。

 ボーッとテレビでCMが流れるのを待っている義威子に流石に母も心配になり、優しく話しかけて来た。


「まだ気になってるの?」

「気になって宿題がままならない……」

「暑いけど一度、外歩いて来たら?500円渡すから、コンビニでアイスでも買って来なさいよ」

「ありがとう……そうする」


 義威子はお金を渡されると、麦わら帽子を被って外へと出る。

 ジメジメと暑いアスファルトの道路を歩きながらコンビニへと向かう最中、公園の前に差し掛かる。


「熱帯夜の踏ん張るマンの攻撃だ!!」

「だから、それもチートカード指定されてるって!!」

「うるせぇ!」


 と公園の方から聞き慣れた二人の声が聞こえて来る。

 義威子は風に誘われるようにフラッと公園へと足を運ぶ。

 そこには公園の隅にある大きな木の下で、影に当たりながら地面に座ってカードゲームをしている金城と蓮の姿だった。

 二人はすぐに義威子だと気づいて手を振って呼び寄せた。


「よぉ義威子、何ぶっ倒れそうな顔してんだ?熱中症か?」

「違うわよ……あんた達こそ、こんな暑い中よくカードなんて出来るわね」

「カードとお菓子を買ったついでに、近くの公園でカードしてるんだよ。お前も食うか、一口ぐらいならあげるぞ」


 金城が差し出して来たお菓子の袋にはビスケットの鬼ワサビ君と書かれ、有名なイケメン俳優の絵が映されていた。

 それを見た瞬間、眠気も頭痛も全てが吹き飛んだ。


「それって!?」

「あぁ?CMでやってたビスケットだよ。鬼ワサビ君味の。何かイケメン俳優だかが出てたような。でも、美味いんだよな。ビスケットの甘さの中に鬼ワサビ君の辛さが──」


 義威子は金城の話を無視してお菓子を奪い取り、ハイテンションでお菓子を天に掲げながら家へと走り去って行った。

 嵐のように去っていく義威子に二人は唖然とした顔になった。


「何だあいつ?」

「どうしたんだろ?お菓子取られたけどいいの?」

「あぁ、不味かったから蓮に嘘ついてあげようと思ったけど、あいつが持っていったから助かったよ」

「僕に食わせる気だったの!?」


 義威子は家に到着し、玄関に入ると回転ジャンプしながら靴を脱いで踊りながら台所に入った。


「やったやった!!やっったわ!!これで、悩みの種は吹き飛んだわ!!これでスッキリ!!」

「機嫌がいいわね」

「うん!人生で一番スッキリしたわ!!」


 鼻歌を歌いながら階段を駆け上がる義威子に母も良かったと安心した。

 義威子は部屋につきベッドにダイブした。


「ふぅ。これで一件落着……」


 お菓子の袋とそのイケメンを見て思った。

 スッキリして気が晴れた。これで十分満足なのだが、何故自分はこんな事のために大事な夏休みを使って、悩みに悩んだのだろうか。

 この鬼ワサビ君ビスケットも別に食いたくないし、このイケメンも別に応援しているわけでもない。多分一週間もすれば、この事は忘れるだろう。

 そもそもあんなにも悩んでいた自分がとても馬鹿らしい。むしろこの事で悩んでいた記憶を忘れたくなる義威子であった。


「また無駄な時間を過ごしちゃった……」


 どうでもいい事が気になり、調べてそれが判明するとその瞬間だけは満足する。でも、時間が経つにつれて何故調べたのだろうと逆に考えてしまう。

 それもそれで分かるとなるほど!となるが、結局は今後の人生には多分役に立つ事は少ないのである。

CMに出たのが昔人気だったお笑い芸人さんとかだと、近年何してたんだろうと、つい何時間も調べてしまいます。

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