姉とドライブでGOGO!
夏休み最初の週末──金城は自分の部屋でだらしなく寝転がりながら一人で漫画を読み漁っていた。
「やる事がないっていいよなぁ。宿題は適当にやって、後はクーラー効いた部屋でゴロゴロする。夏休み最高だなぁ」
と平和的に過ごしていると──
ドタドタドタドタ!と早足で階段を駆け上がってくる音が迫ってきた。
それが何か気づいた金城はゆっくりとベットから降りて床にうつ伏せになりながら漫画を読み始めた。
そして数秒後、ドアが蹴り飛ばされて金城の頭スレスレにドアが飛んでいき壁に叩きつけられた。
もちろんその正体は……
「うおっす弟!!夏休み満喫してるか!」
「数秒前まで満喫していたよ。ところで何しに来たんだよ。また冷やかしか?」
姉だった。姉は何処かはしゃいでおり、期待に胸を膨らませているようであった。
「嫌々、夏休み暇そうな弟の為に優しい姉は何処かへと連れてってやろうと言うのだ!」
「はぁ?姉ちゃん免許持って……あ」
その時金城は何かを察した。
「その通りだ。免許は前まで持って無かった。前まではな。だが今!この手の中に免許があるんだ!!」
「うそ!?偽造じゃないよな!」
と言って免許を見せてきた。何度も確認するがちゃんと本物であり、金城は唖然として、黙り込んでしまった。
「というわけでお前のダチ男女何名か呼んで来い。逃げたら……分かるわよね」
「へ、へい……」
そして──
「みんな来てくれてありがとう!私の初ドライブに参加してくれて感謝感謝!!高速乗って遠くへと行くぞ!!」
「「「おぉ」」」
と呼ばれた修吾・大地・蓮・義威子は元気なく返事をする。それに目線だけは金城を憎らしく見つめて居た。
「さぁ出発だ!!レッツゴー!!」
「でも、姉ちゃんよ。また何かしらの弾みで怒りブチギレはわめてくれよ」
「んな事心配するな!あたしは新米ドライバーだ。慎重に運転するし、キレる事もない!」
「それがある意味心配だなぁ」
「とにかくイクゾォォォ!!」
姉の勢いに負けて、全員嫌々車へと乗る事になった。
車庫に入っている綺麗な小さな普通車が姉の車。助手席に金城を乗せて、他四人を無理やり後ろに乗せた。
「き、キツイぃ」
「よし!出発だ!!」
いきなりアクセル全開で安全確認なんてせずに急発進し、車庫から飛び出して車を走らせた。
「うわぁぁ!!」
「みんや死なないように祈れ!」
金城の決死の表情に全員祈りながら、車は猛スピードで道路を駆け走る。
だが、数分後……
「イライライライラ……」
「姉ちゃんイライラする気持ちは分かるが、声に出すなよ」
「お前も運転する時が来たら分かるぞ。イライラ……」
姉の様子がおかしい。
歯をギチギチと鳴らし、身体を激しく震わせている。そして自分の口からイライラと言う。これは危険だと、後ろのメンバーは何も言わずに空気となり、金城自身も怒りを抑えるように慰めている。
その怒りの原因とは……
「前の車が遅い!見ろよアタシの車31キロだ。早く行きたいのに、これじゃあイライラするに決まってんだろ」
目の前には色褪せた高齢者マークが付けられている古臭い軽自動車がノロノロと走っていた。
「お年寄りのマークがついてんだから、しゃあねぇだろ。高齢社会になったって事だよ」
「追い抜かしたいがオレンジの車線は追い越し禁止だ」
「それに後ろにはパトカーがいるし、下手な行動は出来ないな」
後ろにはパトカー。それにオレンジの車線では追い越し禁止。危険運転にもなる為、危ないのでやってはダメですよ。
姉はイライラが更に募り、激しくハンドルを叩く。
「うぅぅぅ!!」
トロトロと走る車にイライラを募らせながら、車はゆっくりと進んでいく。
*
それから数十分が経ち、片側二車線の道路に着く頃には運転が安定し、スピードも制限速度を守って高速道路へと進んでいく。
全員安心し、少し緊張が解けていた。
「やっと姉ちゃんの運転、安定して来たな」
「おうよ。緊張していたから、教習所の教え忘れかけてたよ!はっはっは!」
そこから数十分ほど、後ろのメンバーも金城姉弟二人も談笑しているとと蓮のお腹がグルグル〜と鳴ってしまった。
「腹減ったのかい?蓮君だっけ?」
「は、はい……」
「もう昼ごはん食う時間か……ならサービスエリアによるか!」
数分後、車はサービスエリアに到着した。
「さぁみんなで飯を食おう!あたしの奢りだ好きなの食え!」
姉に押されるがままフードコーナーに行った。
ラーメン屋、蕎麦屋、洋風レストランなど多種多様の料理があり、一般的な食券を買うシステムであった。
皆んなでメニューを見ている後ろで金城の姉がニコニコと眺めている状態に全員緊張を隠せなかった。
「さぁさぁ好きな物を頼みなさい。お金の事なんて気にしないで、なんでも食べなさい。お金なら昨日いっぱい手に入れたからね!」
「それが怖いのよぉ……」
そんな空気の中、蓮が金城の姉に言う。
「なら僕、かけそばで──」
そう言った瞬間、無表情の姉が蓮の肩を勢いよく掴んだ。
「ひっ!」
「蓮く〜ん。君はかけそばを頼もうとしたわね」
「は、はい……」
「かけそばの値段を知っている?」
「ろ、600円……です」
「だよねぇ。でも、ここで食うかけそばはスーパーの素材で100円以内で作れちゃうのよ。それを君は600円で食おうとしているのよ。そばと少量のネギが乗っかって、代わり映えのないつゆを入れる。それで600円なのよ。更に見なさい、750円の特製ラーメンよ。この地方でとれた豚から取った出汁とチャーシュー。そして特殊な味付けをしたこの地域でしか食えないラーメン。貴方はここでしか食えないラーメンかどこでも食えるそば、どっちを頼むかしら?かけそばから150円あげれば、二度と食えないかもしれないおいしいラーメンを味わえるのよ。だから──」
それから何分か経ち──
「蓮君何頼むのかな?」
「ぼ、僕は……この1050円の地方産特別牛で作られたハンバーグセットで……」
恐る恐る券売機のボタンを押すと、姉も納得したのか頷いた。食べる前なのにもう蓮の顔からは笑顔が消え去っていた。
それに続いて修吾、大地、義威子は──
「俺は……県産豚で作られたチャーシュー麺980円」
「僕も県産豚で作られたカツと醤油で作られたカツ丼780円で……」
「私は県産レタスと豚肉のハンバーグで作られたハンバーガー600円で……」
全員息を飲みながらボタンを押して何とか頼むことに成功した。
残った金城姉弟が悩んでいるのを見ながら義威子は修吾にコソッと聞く。
「金城のお姉さん、ちょっと面倒くさ過ぎない?あれは異常よ」
「姉、弟揃って結構ややこしいからね。ましてや自分の金だからかけそばなんかよりもここでしか食えない特製ラーメンを食って貰った方が特と考えるタイプだからね。多分珍しい食べ物以外は食べさせてもらえないと思うよ」
「……奢ってくれるから良い人なのは間違いないと思うけど、食欲が失せて来たわ……」
「同じくね。でも、この調子だと食べてる時もしっかり味わないとネチネチと言われるだろうな」
金城も姉も揃って分厚い牛ステーキ丼を頼んで全員で席について食べ始める。
「さぁさぁ皆んなで遠慮せずに食べなさい!」
「「「「は、はぁ〜い」」」」
元気のない金城以外のメンバーは姉の顔色を伺いながら、食べ始める。金城は周りの目なんて気にせずにバクバクと飯を食らう。
そして四人も食べ物を口に入れようとした時、鋭い眼差しがこちらを観ているのが分かった。
姉が無言で凝視している。四人とも食べ物を口に入れて、何度も何度も噛み締めた後にしっかりと飲み込んだ。
「皆んな美味しいかい?」
「とても美味しいです。ジューシーな感じが……」
「そうかそうか!はっはっは!」
こんな調子で食事は終え、四人は味わう事なんて出来ず、記憶にあるのはジッと見てくる姉の目だけだった。
姉がトイレに行っている間、修吾は金城へと言う。
「お前も大変だな」
「慣れれば大丈夫だよ。俺みたいに常に何かされて来た人間なら、あの独特な人だろうと扱い慣れるから」
「……本当に大変だな」
姉もトイレから戻り、今度こそ機嫌が良い状態で車が発進した。
「よぉし!このまま行って水族館へと行くぞ皆んな!」
「姉ちゃんまたキレるなよ」
「ったり前よ!」
今度こそと皆んなテンションが上がり、安定した速度と運転で車は順調に進んで行く。
高速から降りても気分良く運転し、あと水族館まで10キロを切り、このまま行けば涼しい水族館に到着すると誰もが思った。
ププーー!!
「んあ?」
「何だ?」
後ろからクラクションを激しく鳴らし、車間距離を大幅に詰めている青色の高級車がいた。
金城含めて5人がヤバいと直感で感じた。金城が窓から顔を出して後ろのサングラスを掛けた若そうなヤンチャフェイスな運転手に文句を言う。
「おい!クラクションうるせぇぞ!!」
「うるせぇ!遅いお前の車が悪いんだぞ!ペーパードライバー!!」
「黙れ!!下手な事すると大変なことになるぞ!!」
「あぁん?ガキがガキらしい事言ってんじゃねぇよ!!」
「こっちは忠告してんだよ!!死にたくなければ、クラクション止めろ!これだから青色の高級車は嫌いなんだよ!」
青色の高級車はやたら煽ってくるのが多いと思う偏見を持つ金城だが、聞く耳を持たない運転手に頭を悩ませる。
後ろの四人もプルプルと震え始めている姉を見て、これはヤバいと感じて、窓から顔を出して必死に呼びかける。
「クラクション止めろ!!」
「煽りは違法運転だ!!」
「断固反対!!」
「免許取上げだぁぁぁ!!」
金城を含めた5人で警告するも無視し、運転手は助手席に座っている彼女らしき女に何か耳元で言われると、クラクションを鳴らし続けてわざと車の窓を全て開けて大音量でよく分からない洋楽の曲を激しく鳴らし始めた。
明らかに煽っている中、金城は更に文句を言おうとしたが──
「お前ら──」
「弟、私はまだ怒ってないよ。まだね、まだ……初ドライブだもんね。怒り爆発はダメだよね。みんな窓閉めな」
声が震えているが言い方には力が篭っており、言葉とは裏腹に爆発寸前の様子だった。でも、まだ導火線には火は付いていない。
金城らはその言葉に頷いて窓を閉めた。
「目的地まであと少しだし、道を譲るのが筋ってもんよ」
表情が引き攣っており、笑っているのに怒っているような顔でとても不気味である。
姉はゆっくりと車を道路脇に寄せて一時停止した。
「ふぅ……」
これで後ろの馬鹿が通り過ぎれば大丈夫だと安堵する5人。
だが──
「遅いのよ、ペーパードライバーさん」
と助手席の言ってタバコの吸い殻を投げ飛ばして、80キロを超える速度で抜かして行く。
吸い殻は車に当たり、地面に落ちた。
その時──姉の額からプチっと何か切れる音が聞こえた。
「おんどりゃ!!ペーパードライバーだからって甘く見たらこの手で死ぬ事になんぞぉぉぉ!!もう許さねえぞ!!マジで許さんぞ!!」
導火線に火がつき、一気に溜まりに溜まった怒りという名の爆弾が大爆発を引き起こした。
「姉ちゃん落ち着け!!」
「堪忍袋の緒が切れたぞぉぉぉ!!ボコボコにするまで追いかけてやらぁ!!」
アクセルを全力で踏み込み、速度制限を無視して青色の高級車を追いかけ始めた。
「何処じゃ!!あのボンクラカー!!」
「もう手に負えねぇ!!」
青色の高級車に乗ってるカップル。
その背後から異常な速度で姉の車が迫って来た。
「うわっ?何だ!?」
姉が車から身を乗り出し、怒りを露わにした。
「そのボンクラカー!!スクラップにしてやらぁぁぁ!!」
「ひぃ!!」
高級車が速度を上げて逃げようとするも、姉は必死に追いかけて、車を後ろから何度も追突させて相手の車を傷つけていく。
「逃げないと私達殺される!」
「逃げろ!!」
どんどん逃げていく高級車だが、姉は逃す事なく追いかけ回す。
「あっ、水族館……」
右折すれば水族館なのだが、姉は気付く事なく直進し続けて体当たりをしながら車を追い回した。
「何処までもおいかけてやるぞぉぉぉ!!この野郎!!」
金城らは諦めて無限に続く追いかけっこに連れ回された。
*
それから数時間後──人気のない何処かの山奥。
煽って来た車は姉にしつこく追い回された挙句に崖下に転がり落ちて大破した。運転手達は奇跡的に無傷であった。
姉の気は済んだが、何処かも分からない山奥に来てしまったせいで舗装もされていない土の道路でガソリンが切れてしまったのだ。
「おい姉ちゃんここ何処だよ!!看板も見当たらなければ、スマホも圏外で場所も確認出来ねぇよ!」
「そう言ってないで車をもっと強く押しなさいよ!人気のある場所に行かないと連絡も取れないんだから!」
「姉ちゃんが追いかけ回さなければこんな事にならなかったんだよ!!」
「うるせぇ!!煽ってくる方が悪いんだよ!!」
二人が口喧嘩しながらも全員で車を押し上げて、何とかして人気のある場所を探すも、全然見つかる気配がない。
あるのは古く錆びた看板しかなく、何書いてあるのかすら分からないほど古い。
「青に囲まれた涼しく静かな水族館のはずなのに、何で緑に囲まれた暑くセミの声がうるさい山にいるのかしら……」
義威子はオレンジ色の空を見上げて呟く。
その後一日以上かけて押し続けて、ようやく人気のある場所へと到着するのであった。
小学生の頃、高速道路で隣の車によく手を振る遊び?のような事をしてました。今思うと、とても恥ずかしい。




