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義威子vsタピオカ女 

 

 オレンジ色の空が綺麗な夕方──少しずつ夏に向けて暑さが増してきて額から汗が流れる今日この頃。

 義威子と委員長は楽しげに話しながらコンビニから出てきた。委員長の手にはバニラの棒アイス。義威子は片手にコンビニ袋を引っ提げて、両手には肉まん2個を掴み満面の笑みで頬張っていた。

 委員長もアイスを口に入れ、肉まんを食べる義威子に問う。


「もうすぐ夏なのにまだ肉まん食うの?熱くない?」

「熱くても美味しければ平気よ。噛んだ瞬間に溢れ出る肉汁が、どんなに暑い日でも感動するのよ。この甘みが、飽きが来ないのよ。分かる?」

「え、えぇ。何となく」

「ならよし。肉まんは永遠の人気者。ブームが去る事がないブームよ!」


 口に満タンに入れて熱く語る姿に、ちょっと引き気味の委員長。


「みっともないから少しずつ食べなさいよ」

「そんなの無理よ。肉まんだもの」

「そう……」


 義威子は肉まんを食い終わるまでずっと無言で食べ続けた。

 そして曲がり角に到達すると、別の方向へと帰る委員長は義威子な別れを告げた。


「じゃあね義威子」

「じゃあね委員長!」

「また明日ね」


 二人は角で別々の方向に曲がり別れた。

 一人になった義威子はコンビニ袋から新しい肉まんを取り出し、またも美味しそうに頬張り始めた。


「ん〜。少し冷めてもおいしい〜!」


 一人美味しさに囲まれてまさに天国な気分になる義威子だが、背後から気配を感じ、ふと気になって振り向いた。

 振り向くとそこには一人の髪の長い女性が透明なカップを持って立っていた。カップの中にはミルクティーとタピオカが入っていた。

 何かぶつぶつ言っているように聞こえるが、何言ってるかさっぱり分からず、そもそも義威子自身肉まんの美味さの余韻に浸っている為、気にする事なんて無かった。

 そのまま気にせずに帰ろうとすると女は一気に迫って来て、義威子の前に立ち、じっと睨みつけてきた。

 流石に変だなと思った義威子は引き気味ながら、その女性に聞いてみた。


「な、なんですか?」

「タピオカ……ブームが去っちゃうなんて。やだやだやだ……」


 いきなり女は決死の表情でカップに手を突っ込み、中のタピオカを取り出して義威子へと突きつけた。


「ほら!見なさいよ!!このタピオカ!!ツルツルして綺麗でしょ!!これ!」

「ま、まぁ綺麗なビー玉みたいですね?」

「でしょ!なのにみんなカエルの卵っていうのよ!それで食欲失せたって言うのよ!!酷いわよね!!」

「た、たしかに……」

「カエルの卵は生命で、タピオカは短命って馬鹿にしてくるのよぉぉぉ!!」

「上手いこと言うわね……」

「タピオカ屋の跡地にいっぱい唐揚げ屋が建って、それは長く続いている店が多いのにぃ!!タピオカは何でぇぇぇ!?」


 女はゆっくりと近づいて来て、タピオカを握りしめて投げる構えを取った。その顔はまるで何かに取り憑かれているような顔であり、一層緊張感が走った。


「みんなタピオカの真の良さを知らないからよ。タピオカは良いわよ。美味しいし、写真映えするし、時代の最先端感あるし」

「でも、カロリーとか高いって聞くからみんな毎日はちょっとって言ってたし……それにもう飽きたって──」

「そんなのあんたらの舌の問題でしょうよ!!カロリーったって運動しないよ!!」


 義威子は"このタピオカ女、どうにか回避出来ないか"と考えるもタピオカ女に隙はなく、逃げても死ぬまで追いかけて来そうな雰囲気が漂う。


「くっ……」


 ジリジリと近づいてくるタピオカ女に困り果てる義威子。

 そんな時──


「ふんふふ〜ん♪」

「ん?あれは?」


 向こうから歩いてきたのは、楽しげに鼻歌を歌っている金城であった。タピオカ女に隠れて義威子が見えないのか、何も知らずにこちらへと向かってきているのだ。


「ねぇ!金城!!」

「うん?」


 金城が義威子の声に気づき、足を止めた。

 義威子も手を振り、存在を知らせた。それと同時にタピオカ女も後ろを振り向き金城へと目を合わせた。


「ぬ!?」


 金城は直感で感じた。これは"ヤバい奴"だと。あのタピオカ女に対して危険を察知して、すぐに歩く方向を反対に変えて、表情を変えずにゆっくりと歩き去っていった。

 そして何事もなかったように鼻歌を歌って角を曲がっていった。


「ふんふふーん♪」

「お、おい!!他人のふりするな!!」

「ふ〜ん♪」

「ふ〜ん♪じゃないわよ!!」


 金城は角を曲がると、ウキウキとした顔で修吾へと電話を掛けた。


「おい修吾!中学近くのコンビニまで来てくれ!!面白いもんが見れるぞ!!ぎゃはははは!!」

『笑いすぎだぞ。それに、ロクでもないもんだろ』

「とにかく来いって!!はははは!!」

『しょうがないな。すぐ行くよ』


 修吾はやれやれと言わんばかりに呆れ果てた声で電話を切った。

 金城は角から義威子とタピオカ女の様子を伺った。

 義威子自身、この状況を打破しようと一歩後ろへと下がった。その時、突然タピオカ女はタピオカを投げ飛ばして来た。


「食らえ!!タピオカ弾!!」

「好きな食べ物を普通に投げるな!」


 飛んでくるタピオカに義威子は逃げるしか無かった。タピオカを避けるととにかく走って逃げることにした。

 タピオカ女に背を向けて走り出した。すると、タピオカ女も同調するように背後からぶつぶつと独り言を呟きながら追いかけ始めた。


「タピオカの恨み……タピオカの恨み……タピオカの恨みぃ」

「タピオカは時代の流れに負けただけじゃない!!抹茶もブームが去った今でも十分な人気があるじゃない!それと同じでタピオカも同じ事が起きるかもしれないじゃん!!」

「抹茶は食べた事ない!!私が生まれて食べて来たのはタピオカだけよ!!」

「食わず嫌いは一番ダメってママ言っていたわよ!!」

「うるさい!!タピオカ以外ゴミよ!」


 義威子は大通りに出て、人目に付く場所で逃げるもタピオカ女は以前変わらずタピオカを投げ続けるのであった。


「本当にしつこいわね!!」


 金城と修吾は歩道橋の上から逃げる義威子を眺めていた。

 金城だけは腹抱えて本気の笑いを見せていた。


「あははは!!こりゃあ傑作だ!!明日以降のネタになるな!!」

「助けようという気はないのかお前は……」

「んな訳無いだろ!こんな状況、ぎゃははは!!」

「お前ってやつは……」


 話を無視してタピオカを投げてくる女に痺れを切らした義威子はとあることを思い出し、コンビニ袋の中に手を突っ込み、()()を取り出し、硬く握りしめた。

 それを握りしめた義威子は立ち止まり、タピオカ女へと身体を向けた。


「さぁ来なさい!!」

「とうとう勝負する気になったわね!!食らえ!」


 女はタピオカを投げて来た。義威子は避けながら一個を掴み取り、投げ返すようにタピオカと形が似ているそれを投げ飛ばした。

 女はそれの正体に気づかずに口を大きく開けた。


「タピオカは私の好物よぉぉぉ!!」


 それを口に入れて噛み始めた。

 足を止めてゆっくりと食べ、味わい始めた。


「ふん!噛みごたえがあって、甘くジューシーな味。このフルーティな──。ん!?」

「へっ!気づいたわね!」

「あ、貴方。何を私の口に……」


 その味の可笑しさに気づいたタピオカ女は自分の喉を押さえ始めて、その場に膝をついた。

 義威子はコンビニ袋からグレープ味のグミの袋を出した。


「それは果汁たっぷりのグレープグミよ。形がタピオカと似てるから投げたまでよ。タピオカに取り憑かれたアンタに良いと想ってね」

「タピオカ以外食べた事ないのぃぃぃ!!はっ!!」


 一度身体が痺れたようにビクビクと痙攣し始めて口から泡が噴き出て来た。そして気絶したように倒れ、義威子が心配になって近づいた。


「だ、大丈夫ですか!?」

「ほっ!!」


 突如立ち上がったタピオカ女。頬が痩けていた顔だったが、元気そうなふっくらとして顔になり、肌もツルツルでハリのある艶やかさを取り戻した。

 目も死にかけの魚のような顔だったのが、夢と希望に溢れた元気いっぱいの顔になった。

 暗いオーラも明るいオーラへと変わり、別の意味で不気味である。


「さっきと真逆のキャラになったような……」

「こ、こんなにもグレープ味のグミが美味いなんて……世界の神秘だわ。地球はまだまだ捨てたモンじゃないわね……」

「そ、そう?」


 タピオカが入ったカップをそこら辺に投げ捨てて、突然何処かへと走り出した。


「ど、何処行くの!?」

「タピオカは辞めたわ!!カロリー多いし、売ってる店減ってるし!でも、グレープ味のグミなら、何処にも売ってる!!私はグレープを食べるわぁぁぁぁぁぁ!!」

「えぇ……」

「ありがとうぅぅぅ!!これで解放されるぅぅぅ!!」


 夕日に向かって走っているタピオカ女改めて、グレープグミ女は何処かへと消え去った。

 唖然とする義威子。それと電柱に隠れて、義威子の様子を見ている二人。


「人が変わったように走り去っていったぞ」

「人生の転換は突然訪れるとは聞くけど、こんな事で起こるなんて」

「人生分かんないもんだなぁ。面白くない結末だぜ。帰ろうぜ修吾、ゲーセン行こうぜ」


 面白みのない結末に呆れた金城は修吾を連れてゲーセンへと去って行った。

 義威子は捨てられたタピオカのカップを拾い、残ったタピオカを見つめ、ひとつだけ食べた。


「……」


 *


 次の日──義威子はまた委員長共にコンビニへと寄り、またお菓子を買っていた。

 コンビニから出てきた義威子の手にはタピオカミルクティーのカップが握り締められていた。


「あら義威子、タピオカ飽きたって言ったなかったっけ?」

「え?そうだっけ?」

「それに……何か元気なさそうだけど?暗いオーラが放たれるって感じだけど?」

「そう?タピオカ食べれば元気になるわよ」


 義威子の顔は痩せこけた顔で、元気のカケラもない顔ながら不気味に笑っていた。

 何処かツヤの無くなった肌と、死にかけの目をしながらもタピオカを目の色を変えて貪り付いていた。その姿は何かに取り憑かれたような雰囲気だった。


「へへ、タピオカ美味しいや……何でこんなにも美味しいのにタピオカは人気がないのかしらねぇ」

「ん?なんか言った?」

「いやぁ、何も……へへへ」




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