NOT REGRET
ありがとうございました。
物語の終わりに際して蛇足を少々。なんでもそうだけど、少しくらいこういう付け足しが無いと終わった気になれない。
結論から言えば、あたしはまだマヌケのタケルと行動を共にしている。そう。あの戦いの後、確かにあのマヌケは終わりの言葉を口にした。じゃどうして?ま、そこには色々理由があるんだけど。ひとまず回想、いってみよ。
時は少しだけ巻き戻る。
「メフィスト、聞いてくれ。お前に言いたいことがある」
「へえ、なんです?」
タケルは曇りのない瞳であたしを見つめてこう言った。
「時よ止まれ、お前は美しい」
「へ?」
突然あたし達の身体が光りだし、天上から妙なコーラスとファンファーレが聞こえてきた。言っとくけどあたしの趣味じゃない。
「ちょっと、ちょっとタケル様!何してんすか!まだ契約は終わってないでしょう!」
当然あたしは驚いた。まさかこのタイミングでくるなんてね。
「いいんだよメフィスト。もういいんだ。お前は十分にやってくれたし、俺ももう満足した。お前は解放してやる」
「ちょっと待ってくださいって。なに勝手に終わらそうとしてんすか!?ダメですよそんなの!」
「いいんだよ。その変わりと言っちゃなんだけど、最後にわがままを聞いて欲しい。俺の魂を持ってくのに、一カ月ほど猶予をくれないか」
「はあ?」
「ああ。自分勝手なのは分かってる。だけど教団の後始末をしなきゃいけないんだ。今、教団の信者たちは迷っていると思う。創立者として、俺には彼らを導く責任があるんだ。例えウチがインチキめいたところでも、信じてる人たちはいるからね」
「そんな‥だけど、」
「言わないでくれ。一カ月で何ができるって話だけど。やるだけやったら後は潔く地獄に行くよ。約束だからね。なあ頼む。メフィスト」
タケルはあたしの話も聞かず一方的に懇願し続ける。弱ってしまう展開だ。
「メフィスト。お前は自分が口で言ってるよりずっと優しい奴だ。最初は悪魔ってのがそういう奴なのかと思ったけど、どうやらお前だけ特別みたいだ。だから頼む。最後にもう一度だけ、その優しさに甘えさせてくれ」
「ご主人様‥」
「頼む!」
タケルは頭を下げ涙を浮かべていた。何とも言い難い状況だった。
その時。
「ビーッ!ビーッ!」
「!?」
突然ファンファーレが鳴っていた天上から今度は警告音が鳴り響いた。
「なんだ!?」
「あーあ。やっぱり」
思った通りの展開だ。
『警告。魂条約第4104項への違反が発見されました。如何なる存在も一度交わした契約を、正当な理由以外で解約する事はできない。もしこれに違反し終わりの言葉を発した場合、即死、または100日の契約が4000日に変更される』
「え?」
「どうやた正当な契約解除と認められなかったみたいですね〜。心から満足してないのバレてますよ。4000日ですか〜。あーあ、なにやってくれてんだ!このバカ!」
あたしはタケルのケツに蹴りを入れる。
「イテッ!なんだよ!フザケンナ!なにすんだ!」
「こっちのセリフですよバカタレ!いいですか?100日の期限まであと少しだったんですよ?もしそこまでいったらお互いに納得の上で解消しようと思ってたのに!そしたら自由になってたんですよ!あーマジでコイツなにやってんだよもーう!!!」
魂の契約は強い。これは絶対だ。
「知らなかったんだ。しうがねえだろ」
「しょうがない!?これが!?あーそんな言葉で片付けられるならねえ!契約なんざ要らないんですよ!」
「なんだと!貴様いつもそうだ!そういやっていつも他人を責めて自分を省みない。本当に嫌味なオンナだ!」
「あー?なんすか?さっき優しいとか言ってたのにもうそんな風に言うんですか?まったく無責任で口先だけの詐欺師だな」
「貴様!貴様だって一緒だろ!さっき俺の身体から毒を抜く時に『優しい人』とか言ってたじゃねえか!」
「テメエ!起きてたのかこの野郎!」
「うるせえ!黙れくされ悪魔!」
「黙るか豚野郎!」
とまあ、そんな具合にしばらく罵り合い続けた。しかし幾ら続けても無益でしかないことに気付いて、あたし達はようやく罵り合うのをやめた。三時間はかかったかな。
そんなワケでその後はタケルの要望通り教団の後始末をするのに追われた。
タケルが新聞や何やらにリークした情報によっよって「溢れ出る天上の光(Ω)」は色々な連中からこっぴどく詰められた。そして事実上の解散。和久井の坊やはヤクを信者にばら撒いていたとして監獄にぶち込まれたらしい。
教団本部は封鎖され病院に入院していた患者は全て別の病院に移されたという話だ。fmに侵されていた患者たちだが、不思議なことに教団の解散後に全員が意識を取り戻した。中毒症状も完全に消えていたらしい。不可解だったのは、患者全員が同じタイミングで同じ幻覚を見ていたということだ。患者全員が口を揃えて、「天使が治療にきてくれた」と言ったそうだ。
ほんとかね。
そういうワケで、あたし達も厄介ごとに巻き込まれる前にとっとと姿を消すことにした。今は魔列車に揺られながら窓際でラムを飲んでいる。タケルはアホ面で外の景色を眺めながら煙草をくゆらせていた。
「ま、ひと段落ついてよかったじゃないですか。これで心残りはないでしょう?」
「まあな」
嘘だと思った。どう見ても偉大飛燕のことを気にかけている顔だった。
戦いの後、重症だったはずの燕は姿を消した。世間でも、教団幹部の一人として色々な奴らが燕を探していたが結局見つからずじまいだったらしい。
「心配ですか?スワローちゃんのこと」
あたしは黄昏るアホに問いかける。
「ったりまえだろ。自分の子供を心配しない親はいないぞ」
「気が付いてたんですか!?」
「まあな」
驚いた。あたしはコイツを唐変木だと思ってたけども、どうやら違うらしい。
「燕に初めて会った時、マルガレーテに似ているなとは思ったけどそれ以上に何か胸が締め付けられるような感じがした。最初は恋だと思っていたけど、マルガレーテが死んだ時に違うと気が付いた。燕は、アイツは俺とマルガレーテの子だ。そうマルガレーテが死に際に言った気がしたんだ」
なるほどね。マルちゃんオバさんならやりかねない。
しかしそれに関しちゃあたしはハナから気が付いていた。なんせタケルとスワローちゃんの魂の形はよく似てて、まるで親子のそれだったから。なんで黙ってたかって?その方が面白かったから。
「ま、お前の様な悪魔には子を持つ親の気持ちは理解出来んだろうな。特にあんな可愛い娘を持つと心配で心配で」
「え?娘?息子でしょ?」
「え?」
前言撤回。やっぱり唐変木のマヌケ野郎だわ。
「ちょちょちょちょ待って待て待って、え?メフィストさん何言ってんの?あんなに可愛いんだよ?可憐なんだよ?」
「あんなに可愛い子が女の子なわけないじゃないですか」
「ジーーーーザーーーーース!!」
ジーザスじゃねえよ。ジーザスじゃ。
「クソッタレ!なんかおかしいと思ってたんだ!ああ。クソ!俺の野望が。『パパは同級生!?』みたいなちょっとエッチなシュミレーションゲーム的展開を考えていたのに!娘とのプラトニックなラブラブライフがああ」
プラトニックの意味を履き違えてる。バカ過ぎてため息が出る。
「ま、いいじゃないですか。天涯孤独だと思ってたら息子がいたんだ。身内が一人減ったあたしよりマシじゃござんせんか?」
「そうだったな。すまない」
別に謝られることじゃない。自ら選択して自分で手を下したんだ。後悔してない。
気まずい沈黙が一瞬流れる。
「なあ、そう言えば。結局あのクスリに刻まれたfmってのはなんか意味があったのか?」
「ああアレですか。なんでです?」
「いや、気になって‥」
fm
『フィガロ・メア デリキア』
『フィガロ、愛するものへ』
あたしも愛してるよ。さよなら、ベルちゃん。
「おい。メフィスト。どうした?」
ついぼうっとしてしまった。あたしとしたことが、感傷に浸るとはね。
「なんでもないです。fm‥‥そうですね。よく分かりませんでした。謎です」
「‥‥そうか」
察してるんだかしてないんだか。タケルはそれ以上、この話を続けようとはしなかった。
「まあ、次の目的を果たしたら久しぶりにリリスちゅわんに‥」
タケルの台詞を最後まで聞かないうちに、魔列車には不似合いなくらいデカくてキャピキャピしてる声が響き渡った。
「あーん!一ノ瀬サンみーっけ!」
タケルの胸元に飛び込んできた奴の姿とテンションを見てあたし達は我が目を疑った。
「つ、燕!‥さん?」
「スワローちゃん!?」
そこにはボロい衣服に身をまとい髪の毛をすっぱり短いボブヘアーにした偉大飛燕の姿があった。
「やっと見つかったぁ!もう!このまま会えないんじゃないかと思って心配だったんですぅ」
「アレ?えっと‥なんかキャラおかしくない?」
「タケル様もそう思います?奇遇だな」
以前の物静かでおしとやかな雰囲気と打って変って、なんだか女子大生みたいなテンションだ。男だけど。
「いやあ色々あってぇ。自分の人生もう一度考え直してたんですよ。そしたらなんか指名手配みたくなってて。凄い追われてぇ。そしたら私、お二人のこと思い出したんです!」
「はあ」
「はあ」
「お二人って、とっても自由でイキイキしてたじゃないですか。私もそれに憧れてて。思い切ってそんな風に生きようと思ったんです!」
完全にイカれてる。言ってることが一ミリも理解できない。
「それであたし達を追ってきたわけ?」
「それもあるけどぉ」
燕は頬を染め上目遣いにタケルを見つめる。
「え?えええ?」
タケルは困惑してあたしを見つめる。三すくみ状態だ。
「私、一ノ瀬サンの眼差しに今更ながら気が付いて。自分なりにそれに、応えてみようかなって‥ね?」
「ええ!?」
「おやまあ」
驚いて言葉もない 。タケルは燕から少し離れた場所まであたしを引っ張り耳打ちしてきた。
「おい!不味いぞ!こんなのアリか!?息子だぞ?息子が色目を使ってきてる!」
「その息子に色目使ってたじゃないですか。今さら何を」
「知らなかったんだよ!」
「向こうだって知らない」
「とにかくなんとかしろよ!」
またいつもなんとかしろよが始まった。
無理ですよ。どうしろって言うんですか」
「だったらホラ!アレ使えよ!お前の無敵の能力をさ!」
「駄目ですよ。あの力は『本当に大事なモノを守る時』だけ発動を許されてるんです。親父との約束なんですよ。破ったらあたしも能力をはく奪されます」
「お前は俺の貞操と人としての尊厳が大事じゃないのか!」
「尻軽のくせに、今さら何を」
「とにかくなんとかしろおおお」
あたしはひとまず、タケルから少し離れた場所に燕を引っ張り耳打ちする。
「ねえスワローちゃん。あたしとタケルが兄妹じゃないのは薄々分かってると思うけど、アンタの方でも分かっておいた方がいいことがあるんだ」
「なに?メイ子さん?」
「まあなんだつまり。あの男は男には興味はないんだよ。‥つまりその‥」
あたしが言葉に詰まってると燕がニヤニヤと笑った。
「ああ。メイ子さん。大丈夫。分かってるから。パパだって知ってるよ」
「ええ!?」
あたしは更にビックリする。マジかよ。
「お母さんから聞いてたからね。神さま‥っていうか堕天使さまかな?あの人からも『お前がアイツを殺せないのはお前の父親だからだ』って言われたしね」
「なんだよ。じゃあなんで惚れてるフリなんか」
「んーお仕置き?かな。パパがあんなインチキ教祖なんかにならないで大人しくお母さんと結婚してたらもっと違う人生があったかもしれない」
「はーん」
なかなかどうして。悪い男だ。
「だからしばらく困らせてやるんだ。実の息子に自分が父親だと言えず。しかもソイツに惚れられていると思い込んでいる哀れな男。そんな感じ」
「なるほどね」
「だからメイ子さん。しばらく黙ってて。あと私がアンゲルスだったってこともね」
「もしも口が滑ったら?」
燕は懐から小さな銀のダガーを取り出す。
「もう一度銀の雨降らす。今度は負けない」
「‥分かったよ。オーケー、オーケー」
「よろしく頼むよ。悪魔さん」
正直このやりとりに挟まれるのは面倒臭かったけど燕と再戦するのはもっとクソ面倒臭かった。
あたしは面倒臭いのとクソ面倒臭いのが大嫌い。
「ど、どうだった!?」
タケルの顔はおねだりしたおもちゃを待つ少年のようだった。
あたしは満面の笑みでこう言った。
「残念です」
「ファアアアアアアアアアアック」
タケルのさけび声が耳をつんざく。
「もう、諦めてくださいよ。ご自分で蒔いたタネでしょう?」
「ああ!なにお前ちょっと上手いこと言ったみたいな空気出してんの?はあ?フザケんなよ!」
「出してませんよ。まあでも、いいじゃないですか。息子さん、さっき話したけどなかなか立派な男の娘ですよ?」
「お前なんか言い方変じゃない?絶対なんか含んでるよね。会話じゃ分からない含み入れてるよね?」
「立派な男の娘さんですよ」
「なんだよ男のムスメさんて!フザケんな!フザケんな!」
「一ノ瀬サーン!何か問題ですかー?」
「いえいえぜんぜん〜」
まさに混沌。地獄も地上もさほど変わらない。要は自分のあり方次第ってことだ。
なあアンタ。そこのアンタ。久しぶりだな。もう一年半ぶりくらいか。
アンタに質問だ。
人の魂は死んだら何処へ行くと思う?
地獄?天国?無かな?他人の心の中って意見もあるし、思想や技術と一緒で次へ受け継がれてゆくって考え方もある。だが実のところ大事なのは何処へ行くのかではない。何処へ行くのかではなく、何処へ行くべきか、何処へ行きたいか、だ。
せいぜい生きてるウチに何処へ行きたいか考えておくといい。それはすなわちどう生きたいか、ってことでもあるからな。
まあ迷ったらすぐ言ってくれ。いつでもウェルカムだ。なんせ地獄じゃ、釜の蓋はいつでも開けっ放しだからな。
え?あたし?あたしはどうしたいかって?
そうさな。
あたしはもうしばらく、コイツらと生きてみたい。
それじゃ、またいつか。
真約メフィストフェレス
完




