表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
真約 メフィストフェレス  作者: 三文士
59/60

My songs know what you did in the dark

あたしの身体に纏わり付いてい小さな炎がユラユラと揺れ、やがて大きな火柱となって燃え上がった。火柱はやがて大きく広がり、ひとつのバカでかい炎の映像(ヴィジョン)を映し出した。そこにあったのは懐かしい顔触れ。角の生えた奴。牙の生えた奴。大きなかぎ爪の奴。翼の生えた奴。鱗の生えた奴。猫、犬、猿の頭が生えた奴。懐かしき我が友、地獄の群勢。最前列には火魔性のニッキーと、DJライダー。そして我がお袋様リリスの姿もあった。ずいぶん具合が良さそうだ。しぶといね、オバさん。


悪魔たちの中から怒号が上がっている。


『ベリアルの野郎フザケやがって!俺たちを騙そうとしやがった!』


『騙すなんて悪魔じゃ日常茶飯事だろうが!それより許せねえのはあの野郎、悪魔は天使と同じでマヌケだとぬかしやがった!』


『そうだ!それだけは絶対に許せねえ!ぶっ殺してやる!』


『うおおおおおおお!』


何万何千という悪魔が雄叫びを上げて吼える。


ベルちゃんは驚愕のあまり呆気にとられている。初めて拝む面だ。


「なんだ‥なんだこりゃあ」


「悪いねベルちゃん。さっきそこの地面に大穴が空いた時にさ、身体に纏った炎からニッキーと繋がっておいたんだ。地獄へ生中継してた」


「なんだと?!」


激しい怒りが伝わってくる。イイね。思った通り。


『ベリアルのクソ野郎。てめえみてえなブラコン野郎の為に戦争する奴は地獄にはいねえぞ!』


『気持ちの悪ぃ!吐き気がするぜ!』


「黙れ!クソ虫どもが!一匹ずつぶっ殺してやる!」


ベルちゃんは感情的になっている。完全に我を忘れて。


『そういうワケでベリアル様。地獄にはアンタの為に死ぬ奴はいない。せいぜい一人で戦争してください』


ニッキーが笑いながらそう言った。


『ベイビちゃん!』


お袋リリスが泣きそうな顔でこっちに詰め寄る。やめろよ。触れられないんだから。


「なんだよ」


『死なないでね』


「おうよ」


それだけ言って通信は切れ、炎は煙となって消えた。


「やってくれたなフィガロ」


ベルちゃんは頭にきてる。だけどまだ理性は残っているみたいだ。


「これで地獄は戦争しないぜ。どうするベルちゃん」


「そうだな。確かに。だが奴らがしなくても、天界が攻め込めば戦わずにはいられねえ。これから天使の姿で天界に行って、天界の連中をけしかけてくればいい」


そういうことか。懲りないねえ。


「詰めが甘かったなフィガロ」


ベルちゃんはニヤケながらヒゲを弄んだ。


『残念だがそれは無理だな。元力天使ベリアル殿』


「あん?」


男とも女ともつかない不快な声が異空間に響いた。懐かしいね。いつぶりだろう。


異空間に突然ひと筋の光が差したかと思うと、そこへまた映像が映された。さっきの焼き増しみたいだけど勘弁ね。本当のことだもん。仕方ねえ。


そこに映っていたのは、凛々しく長髪で長身。冷たく無表情の六枚羽ミカエル。子供みたいな見てくれでクルクルヘアー。落ち着きのないラファエル。そして、いつだったか醜態を晒した上に堕天しかけたが今では立派な元の大天使様にお戻りになったお局ガブリエルの姿があった。


『天界は地獄とは戦争しない。神がそうお決めになったのだ。今もその勅命に変更はない』


ミカエルが静かに言う。


『そうそう!たかが堕天使のクセに僕らを使って自分の欲を満たそうとするなんてナマイキー!絶対に従わない!』


ラファエルもイイ感じにムカつく。


『貴方の企みはここで終わりです。裏切りは主の御心に反します。まだ遅くありません。悔い改めなさい』


ガブリエルも相変わらず固いけどすっかり戻ったみたいだ。


「天使だと!?何故だ!何故悪魔と天使が繋がっている!」


「あたしも驚きなんだけどね。色々あってさ。あたしとガブリエルさんて知らない仲じゃないんだよねえ。ダメもとで通信したら受けてくれたんだよ。ねーガブちゃん?」


『ああ。まあ‥そうですね。‥悪魔はやっぱり好きになれないけど、タケェルには借りがあります。彼女の願いはタケェルの願いでもありますから』


素直じゃないなーガブちゃん。女子トークしたじゃんか。ま、いいけど。


『とにかく、戦争はあり得ません。fmの出どころも掴んだし、まだ地上での回収作業が残っておりますので。我々ここで。メフィスト。主のご加護を祈っていますよ』


「いらねえーよ、あたし悪魔だぜ!?」


『解ってます。イヤミですよ。グッバーイ』


多少はファンキーさを会得したみたいだね。見直したよガブちゃん。


「クソが!舐めやがって!どいつもこいつも舐めやがって!!」


ベルちゃんは悔しそうに地団駄を踏んでいる。おかげで凄まじい地響きがしている。


「さて、どうします?ベリアル叔父さん。チェックメイト、って感じじゃないかな?」


あたしの言葉がよっぽど頭にきたみたいで、ベルちゃんは凄い形相で詰め寄ってきた。


ベルちゃんはあたしの肩に蹴りを入れて剣を食い込ませる。だがもう、痛みは感じない。


「こうなったらもうお前を本当に殺すしかない。お前を!殺す!そうすれば必ず兄貴に伝わるはずだ!そうだろ?」


目から血の涙が出てる。必死なのは解るけど、正直うっとおしい。


「そうだね。だけど、それは流石に親父は許さないんじゃない?反逆っていうか、普通に裏切りじゃない?」


「もう関係ねえ!クソッタレが!お前がいけないんだ!お前はやり過ぎた!俺の、邪魔をし過ぎた!俺をコケにしやがった!例え兄貴がブチキレても帰って来てくれればいい。お前をぶっ殺せれば、それでいい!」


「へえ‥そうなんだ」


そう。まさにこんな感じの言葉を待っていたんだ。さっきから、ずっとね。


あたしは、さっきマシロが空けた異空間の穴に向かって大声で叫ぶ。


「おーい!聞いてるかー!ご覧の通りアンタの弟はアンタを裏切るつもりだ!」


「なんだと!?」


その時、ベルちゃんはようやく異空間の地面に空いた穴の意味を理解したようだった。だが、もう遅い。だいたいの後悔がそうであるように。もう元へは戻れない。


「違う!違うよ兄貴!俺は‥俺は兄貴を‥」


「さあ。コイツの能力(サタウンド)を取り上げろ」


あたしは精一杯の声を張り上げる。


「聞こえてんだろ!親父ぃ!」


「ぃやめろおおおおおおお!」


まず静寂が訪れた。全体の空気感がひんやりし始める。


何処からか、突然に黒い光がやってきた。黒い光?ってなんだよって思うかもしれないけどこれに関しちゃこの表現以外に上手い言い回しが見つからない。影や闇とは違う全く異質のもの。漆黒であるくせに、光に似て輝いている。光と似て非なるもの。それが突然にベルちゃんの身体にまとわりつき、奴の全てを包み込む。


「やめてくれええ!違う!ルシファー!違うんだぁ!」


ベルちゃんは泣き叫んだけど、誰もそれには応えなかった。黒い光はグルグルと身体中を撫でまわし、そして静かに消えていった。


「あぁ‥ああ‥あ」


ベルちゃんの真っ赤な顔が真っ青(もちろん比喩ね)になりワナワナと震えている。奴は感じているんだ。その身体から、地獄の神の加護が消えたことを。


「神への裏切りは地獄も天界も変わらない罰が待っている。神を欺こうとする者は神から見放される。それは神から授かった能力を失うことを意味する。なーんて。説明しなくても分かるよね?ベルちゃん?」


あたしは相変わらず剣に貫かれたままだけど、完全に形勢を逆転させていた。地面に膝をついているのは向こうだった。


「あぁ‥兄貴‥ルシファー‥俺は‥」


自分の裏切りに汚れた手を見ながらベルちゃんは涙を流している。ま、幾らこれがシステムとは言えど自分が信じていた筈の神を知らずに裏切っていたのはショックだろうね。感情に流されると、ロクなことにならない。いつかのガブリエルと同じだ。信じすぎることは、ある意味では裏切ってしまうことと同じなのかもしれない。


「さあ、どうする叔父さん。流石にもう手詰まりだろ。いい加減諦める気になったかい」


もしもここで首を垂れてる謝ったら快く許してやるつもりだった。しかしそうなっていたら物語にはなってないんだよな。


ベルちゃんはキッとした眼光であたしを睨みつけたかと思うと、素早い動きでグッタリしていたタケルのとこまで瞬時に移動した。タケルの頭を鷲掴みにし持ち上げる。身体中が紫色に変色したタケルには、もうほとんど生気が残っていないように見えた。


「さあて、手詰まりかどうかはまだ分からねえぞ」


「何する気だよ。ベルちゃん」


ベルちゃんはこの後に及んでまだニヤけ面をしている。諦めの悪い奴はちょっと嫌いだ。


「さあ。最後の課題だフィガロ。この人間を助けたかったら自ら命を断て。そうすれば兄貴も俺を咎めない」


考えたね。クソ野郎のクセによく回転する頭だこと。


「時間がない。コイツの命はもっとあと2、3分だ。さあ、やれよ。お前のその能力で死んでみせろ」


タケルは高く持ち上げられたまま動かない。あたしは相変わらず剣の檻に幽閉されたままだ。だけど、始めから勝敗は決まってる。どんな時でもね。


「タケルさまー!ご主人様。バカ殿さま。聞こえますか?ドスケベ馬鹿のタケルさん?」


あたしの問いかけにタケルの身体が辛うじてピクリと反応する。


「どうやらまだ意識があるみたいですね。聞いてください。大事な局面です。ボケ無しでお願いします。ご主人様とあたしの契約は強い。魂と魂の結びつきです。あたしに力をください。あたしに命令をして。さあ言って。貴方の奴隷に、お言葉をください」


「何をゴチャゴチャ言ってやがる!早くしろ!ホントにコイツの頭を砕くぞ!」


タケルの身体は動かない。


「タケル様!お願いだ!タケル!」


「フィガロぉぉぉ!早くしろぉお!」


あたしは力の限り叫ぶ。


「メフィスト‥」


「タケル様!」


「何!?」


タケルの目が少しだけ開く。


「‥メフィスト、俺の為に生きろ」


魂の契約は何よりも強い。


言葉は魔力を持っている。


想いは、何者にも勝る。


「仰せのままに。ご主人様」


あたしの魂に炎が灯る。地獄の熱き炎。馬鹿にされた悪魔どもの怒りがこもった炎だ。


あたしの魂に力がみなぎる。踏みにじられた生き物たちの全ての命が宿る。


「ベルちゃん。何度も親父が言ってただろ。例え天使が相手でも、死ねとか殺すとか、そんな言葉を容易に使うべきじゃないって」


「止めろフィガロ‥止めてくれ!」


ベルちゃんはタケルを放り出して後ずさりする。もう遅いんだ。


「言葉は口に出した瞬間、真実になる。それがどんな言葉であってもね」


あたしは全身にみなぎる力の全てを解放し、自らの言葉を解き放つ。


「サタウンド発動『The rhyme(ザ・ライム)』」


あたしの力は具現化し、バカでかい炎の柱となって異空間に燃え広がる。


「これが‥お前の‥」


これがあたしの能力(サタウンド)、「ザ・ライム」。発動してから口にした言葉の全てを現実のものとする。親父から与えられた最強にして最悪の力。


あたしは最後の歌を口ずさむ。


『全ての炎をこの手に集め、憤怒と痛みで燃やす胸。過去の幸せで締め付けられても、それすら力に変えてみせよう。炎よ炎、全てを塵と幻に変えろ。欺く悪魔の魂に、安らぎは決して訪れない。静かに劇の幕は降り、別れの言葉は口にしない』


あたしが歌を歌い終わる頃には、既にベルちゃんの姿はそこに無かった。ただ微かに残った火の粉と塵だけが、何も言わず宙を舞っていた。


紫色のまま地面に横たわるタケルを見つけ、あたしは小声で呟く。


『優しい人。可愛い人。貴方の身体に巣食う毒も、私の炎で葬り去ろう。だからお願いまたいつかの、優しい顔で微笑んで欲しいの』


横たわるタケルの身体をオレンジ色の炎が包んでいく。紫だった肌の色が徐々に元に戻っていく。炎はやがて小さくなりそして音もなく消えていった。それとほぼ同時にタケルが目を覚ます。


「あれ?‥メフィスト?どうなった?」


「こっちの厄介ごとは終わりましたよ。全部ね」


あたし達は初めて微笑み合う。


「そうか。そりゃ良かった」


「ええ。巻き込んで申し訳ありませんでした」


「良いんだよ。なんたって俺はお前の主人なんだからな。たまには付き合ってやらないとな」


「へえ」


周りでベルちゃんの作った異空間が静かに崩れ去っていく最中、あたしは胸の中に穏やかな光の様なものが産まれていくのを確かに感じていた。


「そりゃどうも。ご主人様」


こうして長きに及ぶ一連の騒動がようやく幕を閉じたのだった。


「メフィスト、ひとつ聞いてもらいたいことがあるんだ」


「何です?」


タケルは真っ直ぐな曇りのない瞳であたしを見つめてこう言った。


「時よ止まれ、お前は美しい」


「へ?」


幕が降りた後だって混沌はそう簡単には収まらないもんだ。それを忘れていた。




そしてエピローグへ続く。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ