Who am i
昨日に続き連投です。これでまたしばらく間が空きそうです。よろしければまた、お付き合いください。
想像絶するトリップ体験をしてたと思ったら次の瞬間には血相変えた信者が部屋に突入してきたわけだ。頭ん中はグチャグチャでもうパニック寸前。
それもそうだろう。
リンゴを齧って小旅行とシャレ込んでいたのにお気の毒だねえ。
おまけに何故だかトリップは中断。まるで嫌な夢を見てるようだ。そんな面をしていたね。
「あれ?天師?大丈夫なんですか?」
「なんだキミ。和久井くんか。どうしてここにいる。」
お互い何だか解らない。
まあ端から見てれば実にケッサクだが、生憎と姿を消してるから声を上げては笑えない。
「いえあのう。天師の部屋から奇声がしたものですから様子を見ようと。」
まるで何か予想が外れてしまって困惑してる、
そんな面だ。
「奇声か‥はて?なんだったかな。」
こっちは後暗いところがあってキマリが悪い。実際キマっていたんだけど。
そんな面をしてる。
「ああ、新しい修行はいかがでした?真言は何を?」
「へ?」
やっこさんの間抜けなオツムじゃなくても困惑する。あたしが代返してたからね。覚えてるハズ無い。
しかしこちらの和久井とかいう神経質男は、なかなかどうして侮れない。
「先ほど新しい修行がと、仰っていましたが。間違いですか?」
「わたしがか?」
「はい。確かに。」
源田はもしかしてそういうブッ飛び方があるのかと、些か不安になっている。
もしかしてあたしのマルスがやっこさんのトリップ・チェリーを奪ったのかな。
ま、中折れも良いとこだけど。
「もしかして、憶えていらっしゃらないので。」
「いやーーうーーんと…」
演技も下手なうえに顔に出やすい。よくもまあインチキ教祖がやってこれたね。
それにしても、おおよそこちらの神の下僕さんは褒められるところがまるでないな。
「まさかとは思いますが、御酒など召し上がられていたわけではありますまい。」
「何を言うキミ!」
さすがに腹を立てるようだ。
「では何か、正体をなくされるようなモノを服用されたとか。」
「何だねそれは‥モノとは‥。」
やけに察しが良い。
「いえ、四日くらい前に近衛の杉原が信者から薬物を没収したとの報告を受けまして。どうやた杉原から、その場にいて場を納めた天師にその薬物をお預けした聞いたんですが。」
ふうむ。
和久井とやら。
何か引っかかる言い回しだ。
「和久井くん。キミが何を言いたいのかさっぱり見えてこないんだが。」
「それでは僭越ながら。古代の偉大なるシャーマンや巫女たちは、みなある種の幻覚剤を用いて神託を告げ数々の奇跡を起こしていたと記されてるいます。」
「それで?」
「我が教団も大きくなってきました。信者たちはより多くの奇跡を求めています。修行の足りない信者の中には、天師のお言葉だけでは満たされないと言ってる不届き者もいるとか。勿論そんな輩を気にするわけではありませんが、精神世界により深く入り込んだ天師がどのような奇跡を見せてくださるのか、待っている信者も少なくはないのではと。」
源田はしばらく黙りこくっていた。
「私の知り合いに南アフリカで民俗学を研究している者がおりまして。身体に副作用の無い、画期的な幻覚剤の精製法を呪術師から習ったと聞いております。もちろん、そのようなチンケなLSDとは質が桁違いです。もしこれを、天師が服用されているとあれば信者たちも安心して使うでしょう。そうすれば彼らも天師と同じ奇跡を共有できるんです。こんな素晴らしい事はない。一層、教団の団結力が増すでしょう。なあに、錠剤や注射などで抵抗のある者には食事に混ぜて与えれば良いんです。」
ま、所詮人間なんてこんなもんだ。馬鹿相手に安い奇跡を売り捌いて己の懐と自己満足の器を膨らますことしか考えていない。神はああ言ってたがあたしの考えは間違ってなかったのさ。
そうやって鼻で笑っていた。
「ふざけるのも大概にしろっ!!」
突然源田は顔を真っ赤にして机を叩いた。
「人の心を動かすのは人の心でしかない
。見せかけの奇跡でたぶらかして賛同を得たところで一体何の意味がある?その先には何がある。和久井くん。キミが布教活動に対して人一倍熱心な事は、私が誰よりも知っている。だからこそ、上下を作らないという教団内で唯一キミに幹部的な役目をやってもらっている。それがキミの、心を救うからと私は信じているからね。」
和久井とかいうイケ好かない瓢箪は突然青白くなって黙っちまった。
源田は優しい物言いだったけれどしっかり子供も諭す様な口ぶりだった。
あたしがどう思ったかって?
人間も捨てたもんじゃないって思うとでも?
おいおい。勘弁してくれや。あたしは悪魔なんだぜ?クソくだらないね。
所詮は人間の尺度でどうこうやってるだけさ。あたしの琴線には響かない。
目的は一つ。
早くあの立派ぶってる豚の化けの皮を引っぺがして、地獄へのインビテーションを渡すこと。
「なあ和久井くん。思い出してくれ。たかだか七人でこの教団を始めた時を。最初は誰も耳を傾けてくれなかった。しかしどうだね。今ではこんなに大勢の信者が私を慕ってくれる。少しでもこの『溢れ出る天空の光』の教えに賛同してる人たちがいる。それだけで充分じゃないか。」
おっさんと和久井が盛り上がってるとこマジで申し訳ないんだけどやっぱりその名前がクソダサくて耐えられない。なに?『溢れ出る』って?常に?常に溢れてるの?ダダ漏れってこと?だらしなくない?ていうか本当にネーミングセンスなさ過ぎ。
「申し訳ありませんでした。出過ぎた事を言ってしまいました。忘れて下さい。」
ションボリと和久井とやらは帰って言った。
しっかし人間てほんと面倒臭い。
源田は偉そうな事を言っていたがその実、さっきまで満面のアヘ顔だったわけで和久井を責める事なんて出来ない立場のはず。やはり源田は聖人ぶっちゃいるが薄汚れた魂を持ってやがる。間違いない。
あたしは面倒臭い奴も大嫌い。
その時、一人になった源田が身支度を始めた。どうやら外出するようだ。でもこんな時間にどこへ?もう明日まで時間もないって時に。
あたしはひとまず、源田の動向を探る事にした。
探偵よろしく追尾と観察をするってこと。
まあこういう目立たない事って結構苦手なんだよね。実際あたしくらいのナチュラルボーン・スターになっちゃうとかなり工夫しなきゃ目立っちまうのよ。
というワケでここは動物に化ける事にした。
あたしは集中して頭に歌詞を思い浮かべる。
悪魔は何かを望む時、いつだってそれに相応しい歌を歌う。そうすると地獄の力が呼応して願いを具現化してくれる。人間は魔法って呼んでる代物さ。歌が上手ければ上手いほど、強大な力が働いてくれる。だから悪魔に音痴はいない。
あたしが歌った歌はこうだ。
『変身の歌~ムーンドギー~』
『オセよオセよ。真っ黒い夜に変えておくれ。暗闇と仲良くやれるよう、バターをひとかけ持っていけ。長い舌と長い耳。三日月をそのまま牙にして。厚手の毛皮も被ると良い。今夜はきっと冷えるから。』
あたしの身体はみるみる縮んでゆき、ふさふさモコモコな毛に覆われた。あたしはとっても美しい毛並みの、一匹の黒犬に変化した。
とつとつと 歩いて慣らし運転をする。四本脚には慣れてないから苦労しそうだ。仕方ない。
トレンチコートに鳥打ち帽という変質者丸出しの見るからに怪しい格好で源田はコソコソと外へ出た。
何というかまあ、良からぬ事を考えているのがビシバシ伝わってくる。なんせ悪魔なんでやましい事とかってすぐ解っちゃうんだよね。まあつうか普通に考えて悪魔じゃなくても解る。
あ、コイツ変質者だな、って。
見た目というより空気感でね。解っちゃうんだよね。
あたしはコソコソと人気を気にしながら歩く源田の後を何食わぬ顔で歩いていた。そりゃそうだよ。誰も犬に尾行されてるなんて思わない。
おまけにあたしは夜と同じ身体の色をしていたから、月だって見つけるのは難しいかったと思うね。
源田はタクシーに乗り込んで(あの人を乗せて走る鉄の名前がタクシーだと知ったのは、ずっとあとなんだけどまあ今は良いだろ?)街の方へ向かっていった。
あたしは自慢の脚で風の壁を切り裂いて、周りの景色を置き去りにした。
それは、うっかり源田のタクシーを抜いてしまうくらいの速さだった。
あたしキョロキョロと辺りを見渡して源田の魂の臭いに集中した。犬に化けるとこういう事もできるからありがたい。
源田はすぐに見つかった。
やっこさんは繁華街を一本裏に入った店の前で仁王立ちしていた。
何かを考えあぐねいている風な顔つきだった。
真剣そのものといった表情で、どこかチベットの修行僧にも似た気配を感じさせた。
宗教家としての源田を初めて見れるかもしれない。
あたしは看板の文字に目を移した。
『女子派遣 ムッチィマウス』
チベットの修行僧に申し訳ない気持ちでいっぱいになった。すまん。
宗教家としての顔どころか普通に煩悩丸出しスケベオヤジの顔だった。
続く




