Purple Pills
続けての投稿になります。書けるときに書こうというスタンスなので投稿時間やひにちはバラバラになることが多いです。ご容赦ください。
以下、源田一ことヨハネス・ファスタの独り言と心の声
「私は、医学や哲学、宗教を学んだ。あらゆる学問に手を出した(まあ全部途中で投げ出したけど)」
「しかしここまで歳を重ねても何一つ賢くなっちゃいない(子供だって私よりバカじゃない)」
「散々バカな信者どもに崇められてきたがその結果悟ったことと言えば、何一つ解っていないといということだけ(あとは宗教は金が儲かるってこと)」
「怪しげな術にだって手を出した。」
「密教、陰陽の術、外法、黒魔術だって。」
「そうすれば何か分かると思ったんだ。」
「万物を動かしている意思は存在するのか。」
「それが知りたい。」
「それがどうだ。この身は地上に縛られている。」
「広い世界に行きたい。宇宙の真理に会いたい。」
「ここから逃げ出したい。」
「ここに、高名な仏絵師の書いた曼荼羅がある。」
ここでやっこさんは引き出しから取り出した絵に突然なぜか魅入り始める。そのツラときたらまさに間抜けそのもの。例えるなら、ヘロインをキメたナマケモノみたいな顔だった。
え?
解りにくいって??そーさなぁ。まああれだ。初めてエロ本を見る中学生、ってところかな。解りやすいだろ?
とにかく奴は百年の恋も冷めるほどの酷いツラで、再びボヤき始めた。
「嗚呼。美しい。」
「確かに私は無知で愚か者だ。」
「しかし、少なくとも本当の美しさがなんであるかくらいは解っているつもりだ(これすんごい高いかんね間違いなく本物だわ)」
「見たまえ!(誰に言ってるのかは不明)この御尊顔を!慈愛に溢れて微笑を携えておられる(どっちが上かな?)」
「美しい。何度でも言おう!美しい!(上質な紙だ!)」
「嗚呼。大日如来。宇宙の真理よ。神々しさ!」
どうやらこのアヘ顔のナマケモノは大日如来なる神の絵を賛美していたらしい。
あたしから見たら異教の神だな。だからあたしはその大日如来がなんなのか知る由も無い。
ま、いいとこミカエルクラスのヤツだろう。会う機会があれば是非一発お見舞いしてやりたい。
それから奴は突然ぶっきらぼうにその絵を放り投げると今度は別の絵を取り出した。
「こっちの絵はまた随分と禍々しい。」
「名も無き狂人が描いた鬼の絵だ(しかしこれも高い)」
「だが鬼気迫る絵ではないか(かなり高い)」
「おい鬼よ。」
「もしもお前に魂が宿っているなら応えよ。」
「我が問いに応えよ。」
そうやって今度は何かブツブツと呪文を唱え出した。勿論眉唾のやつ。インチキ魔術だ。
突然、源田は机から何やらつまんで取り出した。それは一枚の小さな紙片。奴はそれを舌にのせると口を閉じて、暫く絵に魅入っていた。素人が見ただけならよく解らん行為だがあたしにはすぐピンときただ。
まいったね、あの野郎。マルスをキメやがった。
【マルス】
いわゆるドラッグの一種なんだけど。
マルスってのは地獄での呼び名で、こっちじゃブルーヘブンとかパープルヘイズとか色んな呼び方がある。あんた等人間がLSDって呼んでる代物だよ。
どうして人間のドラッグなんか悪魔が知ってるのかって?おいおい。勘弁してくれよ。もしかして世界に蔓延るゴキゲントリップのパスポートたちは人間が創ったと思ってるのか?冗談じゃない。
数々の魅惑的な旅。その足賃として払う数多の代償。そして、一片の骨になるまで中毒者の命を蝕む禁断症状。この絶妙なバランスはまさに神の、否、悪魔の仕業以外にあるもんか。
いや、クスリ自体を精製してるわけじゃない。あたしらはその物質にどんな効果があって、どのくらい中毒性があるか。そういう根本的な事を決めてるんだ。
そしてそのブツがいかにドラマティックに人間に見出されるかも演出している。有名なクスリはいつも偶然に発見されているだろ?何かの治療薬を作ろうとした副産物だったり。
いつもたまたまだ。お前等は偶然発見したと思っているがあれは全部あたしらの脚本によるもんなのさ。あの時期はああゆう感じの演出が流行ってたんだ。
クスリだってむやみにキマって中毒性が高けりゃいいってもんでもない。あんまり強烈過ぎてもショックで死んじまう。それじゃダメだ。適度にキマって。適度に中毒性があって。徐々に堕落する。これが理想のクスリなのさ。
世界の蔓延させるってのは難しいことなんだ。
ちなみにマルスは何を隠そうあたしが創った可愛い我が子だ。
LSDって名前の方が通っているらしいがあたしはあんまり好きじゃない。記号みたいでさ。ブルーヘブンてのはなかなか皮肉がきいてていいとは思う。まあ悪くないがね。
マルスに関してこんな話がある。
まだちゃんと名前が無かった頃。アレが初めて人間に使われて人々が凄まじく堕落した。世界的に大流行したんだ。その姿を見た神がこう言ったらしい。
『人間め。またか。』と。
ほんとかどうかは解らない。だがあたしはこれを地獄で聞いた時、腹を抱えて笑ったもんだ。
だからあたしはこの出来の良い我が子に身内の大手柄にあやかって素敵な名前をつけた。
林檎ってね。
一番ハマってるだろ?
さて、話を戻そう。
奴さんは暫く鬼の絵とやらに魅入っていたが長い時間をかけて、徐々にキマリ始めた。眼を見れば解る。あの曇りないマナコが若干だが曇ってくるんだ。
あたしは少し、やっこさんが気にいっちまった。奴は神の僕でありながら、愛しい我が子の愛用者でもあったわけだ。あたしは身内に甘いんだ。
「うをーーーじめんがぁあああ」とか。
「くうううたちされええ」とか。
「ぎぼぢぃぃぃぃぃぃx」みたいな。
喚き散らすやっこさんをあたしは生暖かい眼で暫く見守っていた。いやさ、地上での子供の活躍を見るのは初めてで何というか感慨深い。
こんな時間が続けば良い。
そんな風に思っていた時、邪魔が入った。
「コンコン。」
「天師。どうかされましたか?」
どうやら信者の一人がドアをノックしているらしい。
「ふえ。鬼がもういっぴきー」
奴さん、すっかりトランス状態。これじゃ話にならない。
どれ仕方ない。
あたしは建物の反対側に回ってドアを叩いてるヤツの後ろにつく。やっこさんは絶賛旅行中だからあたしが代返してやらないと。
自慢のノドをゴロゴロと、ちょいと鳴らす。
「あー。うんうん。誰かね?」
あたしの数万ある十八番の一つ。声帯模写。奴の声そっくり。
「あれ?天師?声が遠くから聞こえるなあ。大丈夫ですか?何か叫んでおられたようですが。」
なんか聞き覚えのある声だな。まあいいや。
当の本人は「あるええ?俺のこえーーー」とか言ってへたりこんでる。
「和久井です。和久井成男です。自室で修行しておりましたら天師の声が聞こえまして。」
この神経質な声。どうやらあのいけ好かない幹部野郎らしい。とんだお邪魔虫め。他人の幸せを壊して回ってる。
「あー和久井くんか。いやなに。新しい修行を試していたところだ。」
「失礼いたしました。天師程のお方がまだ新たな場所へと行かれるのですか。」
こいつの喋り方はいちいち癇に障る。早くおっぱらっちまおう。
「兎に角私なら大丈夫だ。キミも戻って修行を続けなさい。」
そう言いかけた時、間が悪く奴さんが奇声を発した。
「ぴえーーーーーー」
我が子よ、働き過ぎだ。
これに驚かない筈が無い。
「天師!やはり何処かお悪いのですか?中に入れて下さい!」
クソっ。今こいつを見られるのは得策じゃない。恐らく信者連中はやっこさんがドラッグをキメていることなんか知らない。もし、やっこさんが常習者でなくともこの場を見られるのはマズいんだ。
いや、本来あたしとしては源田が信者にヤク中だと思われて今の立場を追われるのは願ったりなことなんだけど。
しかも我が子であるマルスによって人生が転落するってのも実に素晴らしい筋書きだ。あたし好み。
だけどさ。イヤなんだよ。
そこにあたしの意思が介在していないって事がイヤなんだ。源田にマルスを渡したのがあたしじゃないってのが気に喰わない。
悪魔にだって美学はある。いや、悪魔だからこそさ。
あたしは面倒事が大嫌い。そしてこういった努力とは関係の無い幸運も嫌い。ツケを貯めてるみたいでさ。
「天師!いいですか?開けますよーー!」
不運にも、ドアに鍵はかかってないようだ。
あるのは信者どもの源田に対する信頼だけ。それも今、同時に蹴破られかかっている。
手はひとつだ。
あたしは可愛い我が子に呼びかけた。
『ぼうや、ぼうや、おいでなぼうや。ママのところに還っておいで。かわいいかわいいマルスぼうや。悪魔のママが呼んでるよ。』
あたしの声に呼応して、マルスは源田の身体から霧状になって飛び出した。
便利なもんで親ってのはいつだって子供を好き勝手呼びつけられる。
もちろん、愛情あってのことだけどね。
黄金色の霧になったマルスはママの懐にすっかり収まった。
ああ、懐かしい我が子よ。
さて、体内からヤクが抜けて途端に素面になったやっこさんだが受難は続く。
続く




