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真約 メフィストフェレス  作者: 三文士
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夜来香

お久しぶりです。少し間が空いてしまいました。また始めていきます。よろしければお付き合いどうぞ。

そんなこんなで地上まで昇ってきた。


あたしは早速、ターゲットへの接触を試みることにした。


しかしいきなり本人からというわけにもいかない。先ずは外壁から覗いてみなくちゃ。


実際少し面倒なんだが。


それに正直地上はあんまり好きじゃない。誰だって自分の生まれたとこが好きだろ?まあそれと一緒だ。故郷を離れるのは辛い。あの素晴らしき拷問ライフともしばしのお別れだ。保護観察中のヤク中みたいに禁断症状が出ないといいんだけど。


とりあえず右も左も解らないあたしはお袋から手渡された『対人』マニュアルを参考に、ファーストコンタクトに踏み切った。


『プルルルルル』


出るかな。


『プルルルルル』


番号は合ってるよな。


『プルルルルル』


んーやっぱ電話はやめとこうかなぁ。そう考えた矢先だった。


『ガチャ。もしもし。』


出たっ。


「あっも、もしもし。」


ちょいとたじろいでしまった。なにしろ電話は初めてだ。


『もしもし?どなたですか?』


相手はこっちの怪しい雰囲気を察したらしい。神経質そうな男の声だ。


「あっ、お世話になっております。そちらは『溢れでる天空の光り』東京総本部さんですか?」


あたしは笑いそうになりながらこのクソダサいサークル名を読み上げた。こんな名前で信者が千人からいるというから驚きだ。


『そうですが。あっ、もしかして入信希望の方ですか?それでしたら…』


「いいええ。違います!!頭の方は平気ですから!」


『はい?今なんて?』


ヤバい。うっかり本音が出ちまった。やっぱり面と向かってないと調子が出ない。


「いえなんでも ‥あーこちらは 株式会社フロムヘルと申しまして。」


『はぁ。なんでしょう。』


相手はかなり気のない返事だ。まあ、大方ゴシップ記事の記者とでも思ってるんだろう。


「人材派遣の登録などを行っている会社です。」


『けっこうです。』


そうだろうなあ。いらねえよなどう考えても。あたしがお袋のくれたマニュアル冊子を急いで確認したところ


『初心者でもできる営業風詐欺のマニュアル本』とあった。


うん。これは適切じゃない。あたしはお袋の選別をゴミ箱にぶん投げた。


やっぱアドリブでいかないと。


「そぅですよね!いやいやあーあのー実は私、前から神への信仰に興味を持っておりまして。」


『先ほど入信希望ではないと仰りませんでしたか?』


「いえ、あのう。なんと言いますか。まあ私自身は…。そう私自身ではなくて母が!そう母が希望してるみたいで。」


『そうですか。お母様が。それはそれは。』


ゴメンお袋。でも解ってくれ。アンタのマニュアルがもう少しマシだったら。


『お母様は大変賢い選択をされました。ご家族の方もさぞ誇りに思うでしょう。では、本格的な入団手続きは後日こちらへ来ていただいてそれから…』


なんだか途端に偉ぶった態度になった。コイツ、幹部かなんかか?謙遜ぶってる台詞だがその実これっぽっちもそんな気持ちはない。


あたしの嫌いなタイプだ。


「その前に簡単な質問をさせてください。」


すかさずあたしは相手の言葉を遮る。ペースを持っていかれちゃダメだ。


『どうぞ。』


こういう事は慣れている様な口ぶりだ。ヨシ、ひとつ試してやれ。


「まずこちらに入信した場合、何か行動に制限が設けられたりはするんでしょうか?例えば結婚してはならないとか肉を食ってはいけないとか。」


『ありません。基本は自由です。いわゆる、世俗的な生活を送られていても心に神が存在して善良な気持ちを持ち合わせていれば良いというのは教えです。』


「巷の噂によると一部の幹部連中が一般信者を顎で使って強制労働を強いているとか。」


『そんな事は一切ありません。第一、我が教団は一神教であり我が神の前では皆がひとえに平等です。俗社会のように幹部だヒラだと階級はありません。』


「でも教祖と呼ばれる方はいらっしゃいますよね?その方も他の信者と同じだと?』


『彼、天師は特別です。いわゆる神の代弁者です。だからと言って、彼を神としているわけではなく、あくまで神聖な言葉を司る者なんです。』


矛盾してるねえ。ま、人間の作り出すモノなんてこの程度かな。胡散臭いことこの上ない。


「ではそのー代弁者の方、えーっとゲンダハジメさんでしたっけ?お電話代わっていただけます?」


これがまずかった。


『違う!!!彼の名前はヨハネス•ファスタだっ!!その様な名前ではないっ!』


うひゃあああまいったねどうも。


ヨハネス?ファスタ?おいおいおい。


「ではそのぷっくくくっヨハネスさんをくくくくっお願いできますか。」


ダメだ。笑っちまって話にならない。完全に頭が仕上がってるとしか思えない。


『アナタ。何が可笑しいんです?失礼じゃないですか?我々に一体何の用がおありなんですか?』


少々やり過ぎた。ここらで潮時か。


『何を黙っているんです?あなた、人材派遣の会社の方だと仰いましたけど、本当はマスコミなんじゃないですか?』


惜しいね。人様のゴシップで空きっ腹を満たしてる点では一緒かなあ。


「いえ、なに。大したもんじゃありません。ここらで失礼をさしてもらいます。」


『待ちなさい!コラっ!我々はお前たちには決して屈しないぞ!デタラメばかり広めおって、こぉのアクマっ』


思わず切ってしまった。最後の台詞には痺れたね。やっこさんも案外どうして。ぬけさくじゃないらしい。


しかし参った。


お袋からもらったマニュアルには


「一、飛び込み営業において重要なのは、兎に角相手先の大将を速やかに電話口に引きずり出すこと。その為には先ず、雑兵に自分では話にならないと思わせる事が大事。」


とあったんだが。電話での話し合いは慣れてない。やはり直接行く方が良いだろう。


あたしは面倒ごとが嫌いだ。回りくどいのも嫌い。


とりあえずターゲット、ヨハネスこと源田一の寝ぐらまで行ってみることにした。


あたしは夕暮れの地上をうろつく。


神に渡された源田の住所を書いたメモを頼りに見物がてら歩いてゆく。


数は多くないが、人間が数匹歩いている。


驚いたね。いつからコイツ等は夜の世界をこんな我が物顔で歩いてやがるんだ?


地上の眷属は何してやがる。


勿論歩いてる人間にはあたしの姿は見えない。

そういう風にしてる。今の姿を見られると色々面倒だからな。


しばらく歩いていると、町の中にひたすら場違いな建物を発見した。


周りは人間の巣穴とおぼしき建物ばかりなのに、ひとつだけゴシック調のばかでかい教会があった。


「おいでませ神の子供達」


とか


「愛はみな、一律平等」


果ては


「リアル代弁者なう」


といった実に生暖かい雰囲気の文章が書かれた垂れ幕がそこかしこに掛かっている。


門には恭しく


「溢れ出る天空の光~東京総本部~」


とある。


うーん。どうしてこういうヤツ等はこう、センスがないのか。例外に漏れずドイツもコイツもだ。


「おいでませ」っておまえ。


間違いない。ヤツ等おつむりのネジがなめて取り返しのつかない事になってる。間違ったとこに間違ったネジが入り込んでるんだな。


哀れだねえ。


あたしはさほど敷居の高くない門を飛び越え裏手に回る。


源田がここの代表者、すなわちトップならご多分に漏れず一番高いとこにね寝ぐらを構える。


経験上間違いない。ゴリラと猿が確かそうだった。人間もあまり変わらんだろう。


自慢の脚で音も無く、あたしはひょいひょいと屋根まで上って行った。


見ると、ちょうどてっぺんの十字架に近い場所に変な模様のステンドグラスが嵌めてある。


あたしはあたりをつけてそこの隙間をひょいと覗いてみた。僅かだが薄明かりが漏れている。


そこはお袋の部屋よりいくらかマシなくらいの光景が広がっていた。


天井の高い、外見と同じゴシックで狭い部屋。そこかしこに乱雑に散らかる本の山。床に書きなぐられたあらゆるジャンルの魔法陣。溶けた蝋燭とカピカピに乾いた動物の血液。短剣や羊皮紙、毒物とおぼしき数々の液体の瓶と怪しげな植物の根。


なんだこりゃ。まるで十六世紀の錬金術師の部屋みたいだ。


その汚い部屋に、一人の男が机に踞って悶えていた。


男は歳のころ、五十後半から六十って感じ。でっぷりと怠惰に膨れた身体。ちょいと趣味の悪い神父みたいな服は今にもボタンがはち切れそうだ。頭は禿げ上がりてっぺんはギトギトに脂ぎって光っている。


ふいに男が机から顔を上げる。勿論こっちには気付いちゃいない。潤んだ眼差しで何処かを一点に見つめている。


おおかた、その視線の先には何かの肖像画でも飾ってあるんだろう。


顔はと。うわっ。これまた酷い。


毛虫みたいに荒々しい眉毛。肌はボツボツで吹き出物だらけ。鼻は低い癖にデカくてえらく不格好だ。唇はヒルの親玉が二匹寝そべってるみたいな代物。


あたしら悪魔は人間の美的感覚なんて知ったこっちゃない。だがあの間抜けな面だけは、地獄の精霊連中だって思わず吹き出す神の悪戯だ。


まーあたしはこういう顔、そんなに嫌いじゃないんだけどね。


だがひとつ気に喰わないのは眼だ。あの眼。


掃き溜めみたいに醜い見た目の中で唯一、両の眼だけが輝いている。


まあ、それがまた一層不格好に見えるんだが。ああいう輝きのある眼。悪魔はあんまり好まない。


ヤロウは俯いていたかとおもえば、今度はデカい声で何やら叫び始めた。


まずは敵を良く知るべし。


大事な事だ。


それではここで、ヤロウの雄叫びに耳を傾けてみよう。


続く

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