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真約 メフィストフェレス  作者: 三文士
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RANDOM THOUGHTS

「どうしたんだメフィスト!おい大丈夫か!メフィスト!メフィスト!」


てめえ方こそ全然大丈夫じゃない奴に限って、今にも泣きそうなツラでそう聞いてくる。底抜けにマヌケでお人好しだ。


「なんで来るんですか‥自殺願望があるなら‥早々に叶えて差し上げたのに‥」


「おお、いつもの憎まれ口だ。大丈夫そうだな」


なんか気持ち悪いくらい優しい顔でそんなことを言う。あーあ。イヤだイヤだ。


「ずっとお前の姿が見えないから探していたんだがな。そしたら、いつだったか。お前に初めて会った時みたいに頭ん中で声がするじゃないか。もしかしてと思って、呼ばれるまま来たんだ」


「おバカですねえ‥罠ですよお」


「ぐちぐち言うな。助けに来てやったんだ。ありがたく思え」


「助け?‥あに言ってんすか‥ご主人様だけで‥何ができるんで‥」


「確かに!この兄ちゃん一人ならクソの役にも立たねえなあ!」


聞き慣れた生意気な声がタケルの懐の中からした。


「うぃっしょ!」


突然タケルの服がモゾモゾと動いたかと思うと、真っ白な毛並みの子豚が這い出ててきた。


「ご主人様。いつから豚のペットなんか買ってたんですか?」


「豚じゃねえよ!!イノシシだ!てめえ相変わらずムカつくなあ」


ボワン!という古典的な音とともにいかにもな煙がのぼり子豚は着物を着た美少女に変身した。


「マシロ‥」


「はろー従姉妹のネエちゃん。助けに来てやったぜ」


三色姉妹の三女マシロ。まさかのタイミングで目の前に現れた。なるほど、好都合だ。


「それにしてもヒデエなあ。ホラ。パパから預かってきた。痛み止めと、銀の傷に効く薬だ」


そう言ってマシロは小瓶を二つ放り投げて寄越した。


「‥助かったよマシロ。でもなんで‥」


あたしは一つの瓶を飲み干し、もう一つを身体に塗りたくる。


「借りがあんだよ。てめえと、あのクソッタレ売人ヤローにな」


マシロはそう言って指を指したが、その先にいたのはオールバックのスリムサイコ野郎とはうって変わった中年デブの紅い悪魔こと、ベルちゃんだった。だもんで足りない脳みそのマシロはすっかり混乱しちまった。お察し通りね。


「あっれ?おかしいな。あのオールバック野郎はどこ?アレ?あのサンタクロースみたいなオッさんだれ?」


ベルちゃんはサンタクロースと言われていささか腹が立っているみたいだった。そらそうだ。真逆だろ、あんなサンタクロースがいてたまるか。


「害虫め。獲物に紛れて忍び込みやがって。面倒だから特別に目こぼししてやるよ。とっとと出て行け」


「害虫?よせよオッさん。あたしはイノシシ。言うなら害獣だ」


なんだか会話になっていない。聞いてると疲れてくる。


「マシロ。あのサンタクロース紛いがお探しのオールバック野郎だ。アイツはベリアル。あたしの叔父さん。アンタとも一応親戚になる」


あたしの言葉にマシロはへえ、と感心していたがベルちゃんは違っていた。


「フィガロ!今の言葉を訂正しろ!この薄汚い悪魔と俺たちが親戚?ナンセンス!ありえない!俺は認めない!」


「こっちだって、かの有名な『地獄のシェフ』がこんな神経質なオッさんだとは思わなかったぜ。願い下げだ」


どうやらもう意気投合してるみたいだ。安心したよ。


「アマルの蛇小僧。あのクソアバズレの弟だけあって、流石に姑息だな。娘を送り込んでくるとはな」


「おいデブ。パパの悪口を言うんじゃねえよ。お前と違って最高にクールな悪魔なんだ。鏡を見ろよ豚のオッさん」


解ってるのか知らないがマシロが時間を稼いでくれてる間にあたしの身体は随分とマシになってきた。


「メフィスト。大丈夫か。立てるか?」


「大丈夫ですよタケル様。それにしても何処であんなの拾ってきたんです?」


「なに。カワイイ女の子はいつだって向こうから俺に寄ってくるのさ」


この後に及んで世迷言に付き合う暇はない。


「それで。例の告発はどうなったんです?」


タケルの表情が曇る。


「あれな。マスコミに流してきたよ。あの記事を書いたオッさんのいた会社に渡してきた。今頃外は騒ぎになってる。教団もお終いだ」


どこか寂しそうな顔をしてタケルはそう言った。


「和久井も逮捕されるだろう。信者たちは路頭に迷うだろうな」


「いいんですか?タケル様の作った処なのに」


「良いんだ。それで助かる命がある。それで救われる魂がある。あんなのは、また作ればいい」


「ふーん‥さいですか」


何故だか、タケルはそう言ってから少しスッキリした様な顔をしていた。少しだけど、好い男の顔をしていた。


ちょっと目を離した隙にマシロとベルちゃんはバチバチやっていた。だがあれじゃ喧嘩じゃない。一方的にマシロが避けているだけ。防戦一方だ。


「どうした腰抜け。逃げてばっかりじゃねえか。楽園の蛇ってのは、そういう戦い方を教えてんのか?」


「へへへ。ちょっと感情的になって飛び出しちまったけどね。流石に解るさ。アンタとアタシの力の差くらい」


マシロは素早い動きで一気に飛び退いて間合いをとった。


「おーい。従姉妹のネエちゃん。ちょいとこっち来いよ。話がある」


「あん?」


マシロ呼ばれて近くによる。奴さん、エラい汗をかいてやがる。


「いや参ったな。ありゃトンでもねえ。お前、よくあんなのと戦ったなあ」


「そらどうも。で?なんだよ」


「お察しの通りこのままだとアタシは数分後にはイノシシミンチにされちまう。そこでだ。不本意ながら共闘といこうじゃねえか。あのクソッタレに泣きべそかかせてやりたい」


「そんで。何か作戦でもあるのか?」


「そりゃテメエの仕事だ。アタシは手足んkなってやる。何か考えろ。テメエは頭が良い」


そらアンタに比べたら蟻だってまともな脳みそだろうよ。だがそれは口にしなかった。そろそろベルちゃんも遊びに飽きてる頃だしね。


「解った。今思いついてるヤツを話す。だが覚悟してくれ。痛えぞ」


あたしがそう言うとマシロは悲しいくらい可愛い顔で笑った。


「借りを返せるなら死んでも構わねえ。悪魔ってのはそういうもんだろ?」


マシロは馬鹿でムカつく奴だが、悪魔としてはタフな魂を持っていやがる。それだけは、尊敬に値する。


あたしは今思いつく最善の作戦を手短に耳打ちした。マシロのオツムでも解るレベルで。


「あたしがベルちゃんの気を引いて時間を稼ぐ。その間に溜めれる限界まで力を溜めてくれ。一撃に全てを込めろ。世界を壊すくらいの勢いで溜めろよ」


「オッケー良いねえ。分かり易い。そうこなくっちゃ」


こういう時、馬鹿はホントに良い。


マシロが力を溜め始めたので、あたしも自分仕事を始める。


「さてフィガロ。作戦会議は終わったかな」


ベルちゃんが髭をクネクネいじりながら微笑む。


「ああ。終わったよ。最高の作戦さ」


「そうか。だが見るからにお粗末な結果になりそうでいささか心配だ」


確かに。あたしもこの作戦が十全だとは思えない。しかし、今はこれが精一杯だ。


「お前の師匠として、お前の成長をみておきたい。だから‥課題というか、制限時間を設けよう」


その刹那、かなりのスピードで光る何かがこっちに飛んできた。あたしは本能的にそれがヤバいと悟って叩き落したが、とっさのことでついうっかりしてしまっていた。その妙な光り物は、あたしにだけ放たれたものじゃなかった。


「うお!いって!なんなん‥ええ‥」


ドサッ。という音とマヌケな声がして振り向くと、いつのまにかタケルがぶっ倒れていた。タケルの肌は沼のイボガエルみたいなキモい色に変色していて、息も粗くなっていた。


「タケル様!」


「今放ったのは『原初の毒龍』の体液を塗った針だ。猛毒だぞ?体内に入り込めば、悪魔とて二日。人間なら20分で死ぬ」


「ひえっ!にじゅっぷん!?」


タケルはそう言うなり気を失った。もしも末期の台詞があれだとしたら、余りにも情け無くて流石に気の毒だ。


「大好きなご主人様を助けるには俺を倒して解毒剤を手に入れる他にない。さあ、頑張れフィガロ。ベルちゃんに成長した姿を見せておくれ」


ベルちゃんは両手を広げて微笑んでいた。皮肉な話だが、その時の姿はいつだかに見た人間の描く神の肖像にそっくりだった。


続く

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