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真約 メフィストフェレス  作者: 三文士
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Lose your self

「ベルちゃん。ブッ飛ばす前に本音を聞かせてくれよ。合点のいかないことが多過ぎて、このままじゃ寝覚めが悪い」


いつものあたしの時間稼ぎがどれくらい通用するか解らない。なんせ相手は「反逆者」を二つ名に持つ。


「なんだよフィガロ。俺はいつだって本音トークさ。思春期のガキみたいに本音で生きてる」


ベルちゃんはそう言うと気を失っている偉大飛燕いひろびつばめの手から銀のダガーを拾い上げた。


「おいウソだろ」


「ウソじゃない。ホントに本音さ」


まるでマジックみたいに、ベルちゃんは銀のダガーを宙に浮かせたかと思うと一本だったダガーが突然百のダガーに増殖した。最悪の光景だ。


「さて、始めよう。お喋りは戦いながらでも十分出来るからなあ」


「悪魔のクセに銀が持てるなんて反則だ。聞いてねえぞ」


「俺は悪魔なんて下等な種族とは違う。俺は堕天使なんだよ」


そんなんアリかよ。


最悪なことに、銀のダガーが文字通りに雨みたく降ってきた。あたしはとっさに身構えたけど、今回はちゃんと学習させてもらった。


あたしは地獄に願う。


『マインド・プロテクト〜防壁の歌〜』


『サブナク、雄々しき獅子の王。彼らを雨から守っておくれ。まばゆく光る銀の雨から、私の友を守っておくれ。もしも願いが叶うなら、いつかの約束を守ると誓う。その勇ましく強いたてがみを愛でて撫でて想ってあげる』


降り注ぐ銀の雨が地面に到達する前に地中から石造りの壁が現れて、タケルとマシロの身を守った。ギリギリセーフ。


「上出来だよフィガロ。こんなに高速でソロモン72の力を召喚できるなんて。お前の師匠として鼻が高い」


「そらどうも。だがおかげでしばらくサブナクのオッさんには会いたくないね」


「あのジジイ。お前をお気に入りだからな。序列が上じゃなかったら、とっくに俺が殺してる」


ベルちゃんは饒舌かつ上機嫌だったが、相変わらず攻撃の手を緩めようとはしなかった。


「さあ!いいぞ!もっと俺を喜ばせろ!」


さっきの二倍近い量のダガーがあたしたち目掛けて飛んできた。悪魔の防壁は頑丈だからタケル達は心配なかったけど、あたしは逃げるので精一杯で途中で何本かもらっちまった。


「げえ!クソ!イッテエ!」


汚い言葉を吐いてもスッキリするのは口の中だけ。空気が出てくからね。心は晴れない。


「おおフィガロ。ベイビーベイビー。あれほど何かを抱えて戦うなと言ったろ?手ぶらで戦えば負けることはあっても死ぬことはないんだ。何故だかわかるか?」


「すぐ逃げれるから、だろ?まったくその通りだよベルちゃん」


悪魔が何かを抱えて戦うなんてクソつまらねえ冗談だ。


「そうともさフィガロ。素直になってきたな。いいぞ。いいぞ。俺の可愛い姪っ子よ」


機嫌が良いのを見計らって時間を稼ぐ。


「それじゃあ可愛い姪っ子に教えてくれよ。なんでこんなことしてる。戦争の為?嘘だろ。見え透いてる」


「なんでそう思う?」


「やり方が回りくどいんだよ。戦争したいなら勝手にすりゃあいい。わざわざあたしと神の賭けをダシにする必要性はないだろ。ヤク使って、人間巻き込んで。何か企んでるとしか思えねえ。中でも特に解せねえのはfmをバラ撒いてんのをあたしのせいにしようとしたり、クソ舐めた謎解きヒントを忍ばせておいたりしたことだ」


「ヒントぉ?さて、どんなことだったかなあ?」


ベルちゃんは待ってましたと言わんばかりの顔をしてあたしに質問とダガーを投げつけた。


「ヤクを捌いてる連中が『林檎農園』って名乗ってるのを聞いてピンときた。んで腹が立った。誰だか知らんが絶対にあたしに喧嘩売ってるなってね。林檎マルスの生みの親に対して林檎農園だぜ?」


「ほう」


「あたしのツレにfm(エフ・エム)のことをふれ回ってんのもムカついたよ。ライダーにニッキー。みんなfmがあたしの仕業だと思ってた。アマル叔父さんくらいだよ」


「チッ。あの蛇め。つくづく邪魔しやがって」


アマル叔父さんを心底忌々しく思ってる。そんな顔だ。


「で?そのfmの意味は解ったのかい?」


相変わらずダガーの雨は降り続いている。少しずつだが喰らう傷が増えてきた。マシロが薬を持って来てくれなかったら、さっきの傷と合わせてあたしはとっくに死んでる。


「ああ。あたしは思ったよ。fmを作ってバラ撒いてるクソッタレ野郎はただいたずらに混乱を引き起こそうとしてるわけじゃ無い。コイツはfmをあたしの所為にして、なおかつそれをあたしに気付かせようとしてる。自分の存在をあたしにアピールしようとしてる。そう思ったんだ」


「うひひひ。それで?どうした?答えは?」


この心底期待してる顔を裏切るのは辛い。ごめんねベルちゃん。あたしは悪魔なんだ。


「fm、エム・エム。そうだね。『フィガロ・マルス』ってとこじゃない?」


ベルちゃんのニヤけ面は途端に消え失せ、無表情のままポツリと一言呟いた。


「やはり。人間なんぞと触れ合わせるんではなかった。汚らわしい」


「おいおい。そらなんでも言い過ぎ‥」


その瞬間。


ドンッ


ドンッ


ドンッ


ドンッ


「へ?」


一瞬何が起きたか理解できなかった。だがすぐに、感じたことのないくらいの痛みを四肢に襲った。


「ぐあああああああ」


「この程度で喚くな。みっともない」


何処からか降ってきた象牙くらいある銀の大剣が、あたしの両腕両足を地面に縫い付けていた。


あまりの痛みに気を失いかけたが、休みなく襲ってくる銀への拒絶反応がそれを許さない。


「さあ見てみろフィガロ。お前が必死に守った人間と蛇の娘は、お前がこんな状況でもあの防壁から出てこない。まあ人間は無理か。死にかけてるもんなあ!ははは」


ベルちゃんは動けないあたしの前に立ち優しく顎を掴んでこう言った。


「さあ終わりだ。フィガロ。もういいだろ。大人しくしてくれ。たかが人間一人と悪魔一匹だ。どうってことない」


タイミング的にもうここしかない。果たしていけるかどうか分からなかった。伸るか反るかの大勝負。あたしは賭けることにした。


「悲しまないでくれフィガロ。次起きたら新しい世界が待っている」


そして今その時がきた。


あたしは力の限り叫ぶ。


「マシロぉぉぉぉ!今だあ!あたしごとぶち抜けええええ!」


「あん?」


「シャオラああああああああ!」


あたしの合図と同時に、ムキムキに肥大したマシロが天から降ってきた。右手には極限まで溜めたエネルギーの塊が見える。


イイね。マシロ、お前さんなら必ずそうくると思ってた。予想通りだ。


マシロの渾身の一撃で異空間に砂煙が舞う。おっと。異空間に砂煙って舞うのか?って質問は野暮ね。物の例え。


「やったか!?」


ドヤ顏に微かな不安を秘めてマシロは絶対に言ってはいけない呪いの言葉を口にした。だがマシロ。残念だけどそれはダメだ。「やったか!?」は絶対にダメだ。


「ウソだろ‥」


砂煙の薄れるなかで見えてきたのは見慣れた真っ赤な肌の毛むくじゃらな悪魔だった。


「ウー、危ねえ危ねえ。もう少し動くのが遅かったら喰らってたよ。まさかそんな正攻法でくるなんてな。流石にまともに喰らってたら危なかったぜ」


ベルちゃんはまったくの無傷でそこに立っていた。


マシロは引きつった顏のままで絶望していた。口が開いたまま閉じることできないようだった。


「さあ。フィガロ。次の手を見せてくれ」


異空間の地面にはマシロのパンチで出来た大きな穴が空いていた。


続く


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