Hits from the bong
「随分とエッジの効いた殺気飛ばすじゃねえかよシャイガイ。フード被って顔見せねえ癖にヤル気満々だなあ。え?おい?聞いてんのかい?むっつりスケベくん」
あたしはフード被りに話しかけつつ、さりげなく後ろにいるタケルに逃げろという合図を手で出していた。このフード被りのスピードから察するに、二人揃って逃げるのはまず無理だ。実力に関しちゃあたしのが上だけど、荷物を抱えて喧嘩すんのは不利になる。お荷物が自分の足で逃げれるウチに出来るだけここから離れて欲しい。
「なんだメフィスト!俺は犬じゃないぞ!ご主人様を手でシッシするとは!貴様召使いの癖に生意気だぞ!」
このアホ垂れが犬以下だったという事実をあたしは受け止めなきゃいけない。犬だって危険な時は即座に察知出来るはず。コイツはマジでソコヌケマヌケだ。
「逃げろって言ってんですよ。それともこのフード被りの変態野郎と刃物で突きあいしたいんですかあ?」
「まだ野郎と決まったワケではない。可愛いおにゃのこかも知れないだろ馬鹿」
「こう言った手合いの刺客は大概目付きの悪いタフガイですよ」
「アホめ!ヤンキー娘!見る前から野郎だと思ってる馬鹿いるかよ!」
話にならん。全くもって。
この際いっそコイツに死んでもらったらあたしも随分ストレスが減るんじゃないかと思ったが、そうなると賭けの行方が気になっちまう。今のとこあたしが神より優位なのは間違いないけど、やっぱ勝つなら完全勝利だろ。と言う事でやはり気を取り直してフード被りをブチのめす事になった。
「さて、やろうかい。かかってきなよ。お荷物がいたっていなくたって、あたしはきっとアンタに勝つぜ?根暗なフード被りさん」
奴は何も言わなかったが、両手を勢いよく擦り合わせて威嚇してきた。奴の右と左がぶつかる度に
「キン!キン!」
という不気味な金属音がして、背筋が薄ら寒くなった。あの音、ただの金属じゃない。
「おいおい。まさかとは思うけど、それ、銀のダガーじゃないよね?」
当然相手はあたしの問いに答えてはくれなかった。しかし物凄いスピードで突っ込んできた奴の攻撃があたしの頬をかすった瞬間、自ずと答えは出てしまった。
頬が赤く火傷の様に傷ついていた。
「メフィスト!」
「あっぶねー。道化の面を被ってなかったら一生モノの傷になってましたよ。この腐れ変態ヤロー。やってくれるなあ、銀とはねえ」
悪魔は銀に弱い。何故かは知らないけど昔からそうと決まっている。ネズミが猫を恐れる様に。蛙が蛇を恐れる様に。悪魔は銀が大層嫌い。
「なるほど。テメエがさっきから余裕なのがよおく解ったぜ。こっちの正体はとっくにお見通しってワケだな。だけど覚えとけ。後で幾ら命乞いしたって許さねえ。テメエがそれを使った以上、楽に死なせてやらねえからな」
相手を威嚇したのもあるけど、正直すこしだけ感情的になっていた。だってそうだろ?誰だって自分が嫌いなもんで傷つけられたら、いい気分はしないって。
変態フードが両手を刃物にしてまた突っ込んできた。お互いに相手のスピードがわかってるからこそ、姑息な心理戦なんぞしない。あたしとこの変態は同じタイプの様だ。とにかく速さで勝負する。
左右から繰り出される攻撃を凌ぎながら、こっちも脚で応戦する。だが全く当たらない。お互いに。向こうは空気を突き続けているし、こっちはフードとマントの端っこにしか攻撃が届いてない。
キックと斬撃。
キンキンキンキンキン
ボッボッボッボッボッ
お互いに一歩も譲らない。ただ空間を攻撃する音だけが、延々と繰り返されていく。あたし達はアタマのイカれたハンマーヘッドみたいに、無我夢中で殴り合う。
「メフィスト!!しっかり!!負けるんじゃあないぞ!!」
フード被りとあたしは互角だが、唯一あたしが優っている点を上げれば、あたしにはセコンドがいるって事だ。いや、劣っている点だろうか。
まあなんだって良い。どんな馬鹿でも後ろに誰かがいるってだけで、それだけで十分勝たなきゃいけない理由になる。
あたしは更にスピードを上げて応戦する。
一瞬、相手が怯んだかの様に見えた。
ここだ!と言わんばかりに一気に攻め込む。
「うぉらっ!」
隙を突いて下から左右のダガーを蹴り上げた。胸糞悪い銀のダガーは弧を描いて明後日の方向に飛んでいった。
変態フード被りは後ずさりする。
「さて、どうしますかな坊ちゃん。ゆっくりボコボコにして差し上げようかねえ!」
そう言って飛びかかろうとした瞬間、辺り一帯にデカい声が響いた。
「アンゲルス!何をモタついてる。さっさと始末しろ!第二までの解放を許す!やれぇえ!」
声は何処からか響いてきた。恐らくさっき和久井と話してた奴の声だろう。聞き覚えはない。
その言葉にフード被りの動きが停まった。何やら俯いて唱えている様だったが全く聞こえるレベルではない。
そして、奴の身体に変化が起きた。
先ず五本の指全ての爪が刃物の様に尖り、続いて左右の肘からも刃先が出現した。恐らく、ビンビン伝わる嫌な感じを見る限りあれも銀だろう。
クソったれ。不味い事になってきた。
「そうだアンゲルス。その二人とも始末しろ。お前の幸せの為にそれが必要不可欠だ」
何処からかともなくさっきのオールバック野郎が姿を現した。真っ黒のスーツに革靴という古臭い出で立ち。しかし顔色がとことん良くない。土気色で硫黄の香りが漂う。間違いない。コイツの方は絶対悪魔だ。
「やあどうも。素敵なピエロさん。さっさとケリをつけようじゃないか」
向こうにもセコンドが着いた様だ。
第二ラウンドの幕開けだった。
続く




