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真約 メフィストフェレス  作者: 三文士
24/60

Who that girl

お久しぶりです。またまたまた、お付き合い下さい。

そんな訳でもう四時間ここで足留めを喰らってる。


「貴様が物を考えずに行動したからこんな事態を招いたんだ。吠えていないで少し反省しろ」


「かぁぁぁぁ」


よりにもよってタケルにそんな事を言われるなんて。心外だ。我が生涯でもトップクラスに心外だ。


「何もかも行動の全てが無意味で考え無しのタケル様にそんな事言われたくありませんよ。大体今回の事だって、列車で行きたいって言ったのはタケル様ですし?あたくしはあのテロリストとは名ばかりの甘っちょろいお坊ちゃん達をちょいと懲らしめただけですよ。面倒事を解決したんだ。感謝こそされど文句を言われるのは心外ですなあ!」


「だったら何故貴様が外ではなく車内で戦ったのかを今ここで待ちぼうけを喰らっている連中に説明してみろ。納得のいく説明をだ」


薄汚れた半魔半聖地のバーにたむろする連中の視線が一斉にあたしへ突き刺さる。


ここはいわゆる中立地帯なのだが、それは名ばかりで紛争の絶えない場所になっている。中立とは即ち、悪魔も天使もそれぞれの法に縛られないという事でもあるからだ。


「いや‥それは」


自分でも解っている。軽率な行動だったと。しかし時には、そうと解っていても自分の非を認めてはいけない時がある。


「なんだ!言ってみろ!言えないなら言ってやろうか?ただ格好をつけたかっただけだろう?『狭い車内で全員ブッ飛ばすアテクシカッコイイ』とか思ってたんだろ?貴様はくだらん自尊心を満たす為にここに連中全員を巻き込んで、今もなお時間を無駄に浪費させているんだ!恥を知れ!」


「イエエエエエエエエ!!」


さっきまでビクビクしてやがった魑魅魍魎どもが途端に活気付いて叫びだした。そこまではまだ我慢できたけど、醜く歪んだタケルの微笑みが視界に入ってきた瞬間にあたしの中で何かが音を立てて切れた。


あたしはなるったけ大きな音が出る様にバーカウンターを手で叩く。あくまで大きな音が出る様にだ。


その音にビクついて一瞬で静寂が訪れる。そこですかさず声を上げる。


「おう」


まずは低めに一言だけ。


「おうおうおう」


脅かす時の常套手段さ。


「おうなんだぁテメエらは。さっきまでお嬢さんみてえに黙りこくってやがったのに、ちょっとまとめる奴がいるとがなり立てやがって。大事なことだから教えといてやるがな。テメエらが足止め食ってんのはあたしのせいじゃなくて、そこで恥ずかしげもなく延びてるクソ天使のせいだろうが!」


その一声で縛られながら延びていた三匹のウチ二匹が目を覚ました。


「こいつら革命家ぶってるクセに羽根が真っ白のままって事はまだ堕天すらしてない半端者ってこった。だがな、テメエらはその半端以下のしみったれだ」


真に心から神への半逆を企てる者、天界への反乱を企てる者は羽根の色が漆黒に変わり、堕天使となる。コイツらにそれが無いって事は口でなんて言おうが心は今だに神の物って事だ。


「普段は黙って空気みたいなフリしやがって。まるでそこに居ないみたいに振舞ってる奴らがよぉ。ちょっと自分たちに都合の良い流れが見えたらすぐ便乗しやがる。テメエらだってあたしがコイツらをノシた時は喝采してたじゃねえか。それが今じゃ全部あたしのせいかよ。あの時誰か一人でもあたしに加勢しようとしたか?あん?何の努力もしない。発言もしない。手を汚すこともせずに言いたい事を大勢の時だけ言う。悪魔の風上にもおけないしみったれがよ!」


「おいメフィスト、そう熱くなるなって。俺も言い過ぎた‥」


今更タケルがフォローしようとするが遅い。


「タケル様は黙っていてくださいな。あたくしはコイツらに悪魔倫理を説いてるんでさ」


悪魔にだって倫理はある。真っ赤に燃え盛る地獄の炎の如く高潔で泥臭い倫理が。


「別に卑怯だとか汚ねえとかそんなくだらねえこと言ってるんじゃねえ。あたし怒ってるのはテメエらがこんな半端なクソ天使にケツを捲ったことだ。たかだか三匹だ。テメエらのが大勢じゃねえか。それなのに戦ったのはあたし一人。それでも勝ったよノシてやったよ。それがどうだ。終わったらテメエらはあたしを責めやがる。それが気に食わねえってんだよ!おう!なんか反論ある奴はいるか!?」


辺りは水を打ったように静まり返り、どいつもこいつも下を向いている。


「情けねえ。しみったれども。テメエら全員、(タマ)ナシだ。悔しかったらかかってこい!全員まとめてでも構わねえぞ。逃げも隠れもしない。あたしは『暁の娘』メフィストフェレス様だ!!」


あたしが気持ち良く啖呵を切った瞬間に、何処からともなく胸くそ悪い光が差してきてあたしらのいるションベン臭いバー全体を包み込んだ。


「汝、今メフィストフェレスと言いましたか?」


これまた何処からともなく胸くそ悪い声が響いてくる。恐らく幻聴だろう、ひとまず無視してみる。


「答えなさい。汝、真実『暁の娘』ですか?」


答えなくて良い。ひとを汝なんて呼ぶ奴に知り合いはいない。


「返事しなさいよ!ブス!」


「誰がブスだテメエ!降りてこいコラ!」


つい売り言葉に買い言葉をしてしまった。


瞬間、目の前に光の柱が現れる。


「ようやく見つけた。コソコソ隠れるなんて卑怯きわまりない。主の御心に反します」


「テメエ、やっぱりそうか」


聞き覚えのある声だと思っていたが姿を見て確信した。


亜麻色に光る髪の毛をキッチリ後ろで束ね、乳白色の眼鏡の奥であたしを鋭く睨んでいる。他の奴に比べるとやや女っぽい体つきと雰囲気をだしている。しかしながら、やはり同じ天使と言えどさっきノシた下級共とはワケが違う。四枚の羽根が静かに揺れる度、光の粒子がそこら中に舞ってウザい。


「これはこれは、ガブリエル殿。お久しぶりですなあ。いつぞや以来ですねえ」


「親しげに話すのは止めろ。悪魔と親しくするなんて、主の御心に反します」


奴の名を聞いた途端、再び辺りにどよめきが起こる。


「ガブリエルだって?」


「大天使の一人じゃないか」


「あの最後通告者ガブリエルかよ」


「逃げなきゃ‥逃げなきゃ俺たちも灰にされちまう」


「でも足がすくんで動けねえ」


情けない事にこれが地獄の悪魔どもである。


「泣く子も黙る大天使サマがいったいあたくしなんぞにどんな御用ですかね。まさかこの三下どもと同じ様にあたくしと主の賭けにイチャモンつけようってんですかい?親が決めたことを子が勝手に違えようってのは、それこそ主の御心に反するってもんじゃござんせんか?」


あたしがそう言うとガブリエルは眉間に皺を寄せ露骨に嫌そうな顔をした。


「一度主がお決めになった事に我らが口を出す事は決してない。それよりもその薄汚れた口で主の御名を口にしたばかりか御心を語るとは。愚弄するにも程があるぞ。やはりこの場で灰にしてくれよう」


「おいおい落ち着けよねーちゃん。別にアンタの想い人を寝取ろうってんじゃないんだ。そうじゃないならここにきたワケを教えなよ」


ガブリエルはより一層不快を露わにしてけど、何かを思い直して怒りを一旦封じ込めた。


「そこの下級天使たちが『天界革命軍』を名乗っていたのは知っている。 しかしそれも全て主の御為にやった行い。愛をもっての事にどうして罰を与えれましょう。私は彼らとは関係のない理由で汝を探していた」


「早く理由を言いなよ。アンタの羽根から出てる粉で体がふやけちまう」


「面倒な奴だ。天界はお前と源田の魂の気配が地上にも地獄にも無い事で一時期大騒ぎになっていたのだ。汝が賭けのルールを破って無理矢理源田の魂をどうにかしたのではと我々は考えたワケだ」


天界の連中はどうにも間抜け揃いでいけない。悪魔は約束を違えないんだぜ?こと魂を賭けてればなおさらだ。


「そこで天界一の羽根を持つ私が世界のあらゆる場所をくまなく探したワケだ。しかしなかなか見つからなかった。お陰で残業につぐ残業。幾ら私がスーパーキャリア天使とは言え流石に今回はかなりヤられたよ。敵ながら天晴れ」


言えないねえ。レイヴに参加して気持ちの悪いダンスを踊っていたなんて。


「しかし部下の手前諦めるワケにもいかない。しかも運の悪い事に地上でまた不敬な薬が万延仕出して天界はそれどころではなくなった。仕方なく私が一人で汝らの捜索を続けていた。そしてようやく今朝、魂の気配を感じ取り汝らを見つけ出すに至ったワケだ」


「あークソつまんね。聞いて損した。そりゃアンタの感違いだから。解ったらとっとと上に帰れよ」


「なんだと貴様」


ガブリエルの周りにピリついた緊張が漂う。


「だったらなんだよ。見つけたらどうするってんだよ。あたしをヤって、人間を天界に持って帰るのか?それはテメエらの言うルール違反にはならねえのか?」


「先に約束を違えたのはそちらだ。無法者にはルールを語る資格はない」


「都合の良い解釈だよ。クソ天使特有のな」


「外に出よう。腐ってもここは中立地帯だ。悪魔とは言え他を巻き込みたくない」


「フンッ」


つくづくムカつく奴だ。しかし参った。奴はああ言ったが天使と戦う時に広い空がある場所での交戦は不利だ。どうしよう。


しかも相手は大天使だ。下手をすればヤられかねない。


しかし考えてる時間はなかった。


あたしは相手よりも先に外に飛び出して手近にあった岩を持ち上げて奴めがけて投げつける。


物凄い音と砂煙が一度に起きたが、どうなったかは確認するまでもなかった。


奴は腕一本で象くらいある岩を簡単に砕いてみせた。


「おいおい。冗談だろ。子供騙しだぞ」


ガブリエルは不敵な笑みを浮かべる。


「ま、ほんの小手試しさ」


あたしは初っ端から全力のスピードでジグザグを描きながら相手に向かっていく。


いかに大天使とは言えこのスピードならついてこれまい。そう思っていたのだがふと見るといつの間にかガブリエルの姿がない。


突然、目の前にガブリエルの神経質そうな顔が現れた。


「なんだ。いつまでウォーミングアップしてる。早く攻撃してこい」


あたしはガラにもなくビビって後ろに飛び退いた。


「いやいや、こう見えてもあたしは優しい悪魔でね。先手はアンタに譲るよ」


さっきの岩は攻撃にカウントされていないってことか。ちとヤバイな。


「いや構わないよ。敵にも情けをかけてやる。それもまた主の御心です」


「そんな事言わずに。例の神楽器を披露してもいいだぜ?」


そう言うとガブリエルは笑ってみせる


「お前如きに使う物ではない。一瞬だよそれこそ。そちらこそサタウンドとやらを使ったらどうだ?」


あたしも精一杯、突っ張ってみせる。


「アンタ如きに使わないよ。一瞬だからね」


「汝は愚かなり。灰にしてやろう」


いよいよ相手は本気になり、体中にバリバリと光のオーラを纏いだした。ゆっくりと、ゆっくりと羽根を動かし宙に浮き始める。


「短い付き合いだったな、暁の娘」


万事休すだった。


その時、後ろに気配がしてあたしはまさかと思い振り向いた。


「おーい!メフィスト!」


信じられない事にそこにはタケルの姿があった。


「なにやってるんですかタケルさま!塵にされますよ!」


あたしが必死に建物の中に戻そうとするがアホはまるで応じない。


「いや取り込み中悪いんだけどさ、どうしても早急に頼みたい事があって」


「今?今じゃなきゃダメ?それ?」


「うん」


一応魂の契約だ。仕方ない。


あたしはガブリエルにちょっとタンマを申し出る。


「なんですか?」


「あのさ。あのガブリエルって子お前の知り合い?」


「はぁ?知り合いも何もあたしを殺しに来てるんですよ」


「イヤだからぁ、結構話したりとかすんのかって」


「何ですかソレ?まあさっきまで話してましたけど」


「ふうん‥」


「何ですか?何が言いたいんですかタケル様?」


嫌な予感がする。


「あの子さぁ‥‥結構かわいくね?」


この時ほど、このアホが塵になって風で吹き飛んでいけば良いと思った瞬間はなかった。


続く



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