Rich Girl
最近カクヨムでもこちらの作品を連載し始めました。まだこちらに追いついてませんがよければ覗いてみて下さい。
「本気で言ってるんですかタケル様」
あたしは今一度タケルに問いかける。ひよっとすると、矢継ぎ早に色々な事が起こりすぎて一時的に頭がちょっとアレになってしまったのかもしれない。
「当たり前だ。俺はいつだって、恋にマジメに全力投球だ!」
「やっす。うたい文句やっす」
思っていた通り頭はちょっとアレになっているが、どうやら本気らしい。
「前代未聞ですよ。天使を口説こうだなんて、聞いた事がない。頭がイカれてます!」
「本気の恋はいつだって前代未聞だ。覚えておくと良い」
「いやうるせえよ!今だからこそイケメンの補正でギリギリ許されてるけどあたしはアンタの不細工な元も顔がチラついて腹が立って仕方ないんだよ!」
「いつまでも昔をとやかく言うな。大事なのは今目の前にある恋。そうだろ?」
「なんなんだよさっきからムカつくなその言い方。あーヤバいマジで生皮剥ぎたくなってきた!おお神よ!この賭けを降りても良いですか!?あたしの負けで良いからコイツをころしても良いですか!」
『だめ~』
こういう時だけ応えてんくんじゃねえよ。
しかし参った。この状況はどうすれば良い。流石に予想外過ぎてあたしの頭も混乱してる。
その時、遠くから身の毛もよだつ美しい歌声が聴こえてきた。
いつだったか地獄で見覚えのあるあのクソ忌々しい光の槍があたし達の目の前を通り過ぎ、例の悪魔たちがたむろしていた飲み屋に直撃した。激しい閃光に包まれた後、飲み屋は建物自体が跡形も無くなっていた。もちろん、中に居た連中も。
「練習のつもりがつい手が滑ってしまったな。だがどうという事はないか。どうせ中に居たのは下衆な悪魔連中ばかり。遅かれ早かれ駆逐していたのだし。何でも早め早めの行動なら、主もお喜びになるだろう」
人間の世界じゃ猟奇的な奴を悪魔の様だと揶揄するらしいけど、それは間違えてると思うね。自分たちに正しく義があると思っているコイツらの方がよっぽど猟奇的だよ。多くの命を奪っておいて、髪の毛を切ったくらいにしか思ってない。
しかしヤバい。今の状況は相当に。
大天使だぞ。世に三人しかいない上位の存在だ。あたし一人だって勝てるか解らない奴にタケルという荷物。しかも当のお荷物自身は逃げるどころかクソ天使にご執心ときてる。
並みの悪魔だったら主を見捨てて地獄に逃げ帰るか、舌を噛み切って死を選ぶくらいイカれた状況だ。ましかし、並みの悪魔ならね。向こうさんには残念だけどあたしは並みの悪魔じゃない。
あたしは頭をフル回転させ、打開策を考える。
落ち着け、焦るな。確かにガブリエルはヤバい。タケルの色ボケもヤバい。だがこの、一見あらゆるモノに見放されたかの様な状況でも見方を変えれば必ず一転する。
あたしは一度、大きく深呼吸をする。
考えてみればわざわざ戦闘したがってるイカれ天使に付き合ってやる義理もない。それにタケルだ。この男、運が良い。さっきまで飲み屋の中に居て、出てきた途端その場所が跡形も無く消し飛んだ。悪魔と契約してもなお、神に愛されている証拠かもしれない。
ここまできたらもう、この男の運に賭けてみるのも良いかもしれない。
あたしは時間が稼げればそれで良いのだ。
「解りましたタケルさま。よござんすよ。あたしが恋のキューピッドになってあげましょう」
「おお我がしもべ!ようやくモノを理解する頭を持ってくれたか。俺は嬉しいぞ」
このヤロー、今すぐ顔面に馬糞を食らわせてやりたいね。
「しかし条件があります。なるべく時間をかけて口説いて下さい。すぐにコトをおっ始めようとしちゃダメですよ」
「分かっている。恋はいつだって慎重にならなきゃ」
「もう良いからそういうの。あと、もう一つ。あたしが合図を出したら何がなんでも引き上げて下さい」
「何故だ?何を焦る事がある?」
あたしはひと呼吸おいて精一杯、ムカつく顔で言ってやった。
「恋はいつだって、退き際が肝心」
なるほど!とか、もっとも!とかどーでも良い合点をして頷いているタケルをさておき、あたしはガブリエルの方に足を向けた。
正直はタケルは問題じゃない。問題はこちらさんだ。
あたしは宙に浮いたままで相変わらず臨戦体勢をとり続けているガブリエルに声をかけた。
「おーい。ちょいとぉ!ねえねえガブちゃんてばー。ハナシがあんだけどもさー」
「なんだ!貴様いつまで私を待たせる気だ!」
「いやいや違うんだよお。ちょいと降りてきてよ。話があんだって」
「チッ」
ガブリエルサマは露骨に嫌そうな顔をして地上に降臨なさってくれた。頭が下がりますねホント。
「手短にしろ。早急に貴様を消し飛ばして、天界に戻らねばならない。仕事が山積みなのだ」
「まーまー。そう仕事仕事って堅くなんないでよ。ガブちゃんてさあ、あっガブちゃんて呼んで良いよね?もう知らない仲じゃないし」
「なんなんだ貴様はいきなり馴れ馴れしい」
「まーまーまー。良いじゃない良いじゃない。で、本題なんだけど。ガブちゃんて仕事に対しては意識高いけどそれ以外には正直あんまり興味ないでしょ?」
「なんだそれは。どういう意味だ?」
「もー鈍いなあ。付き合ってる人とかいるのかって聞いてんの」
「は?」
「コイビトですよん。恋仲の相手。いないでしょ?」
「いないけど。それがなにか?」
ガブリエルはイラついてブルブル震えだした。
「やっぱねえ。あっゴメンね?なんか失礼な言い方に聞こえるかもしんないけどさあ。あくまで客観的な意見として聞いてくれる?ガブちゃんて、隙がなさ過ぎるっていうかさ、取り付く島がないって感じなんだよね?」
「大天使に隙はいらないだろ」
「いやそういう戦闘の事じゃなくて。雰囲気的に?なんかもっとこうさ。ガブちゃんアレでしょ?周りにかなり防壁作ってて、部下とか同僚からあんまりプライベートな話振られないでしょ?」
「グウッ!?」
ここで天使が初めて、鳩が豆鉄砲を食ったような顔で動揺する。
「やっぱなあ。そういう感じ出てるよ。ま、実際?この間の査察官の中級天使なんだっけ?アイツ?」
「ガルガリエルか!?」
「そーそーそーガリやんねガリやん。アイツも言ってたよ。『ミカエル様は頼り甲斐ある上司って感じだし、ラファエル様は親しみある友達みたいな方だけど、ガブリエル様ってなんかとっつきにくいんだよねえ』って」
「そんな!?アイツは私の直属の部下なのにぃ」
嘘だよ。ゴメンね天使ちゃん。
「まあさ。そういうのって性格っていうかキャラクターだから仕方ないよね?だけどガブちゃんの場合持ってるものは良いのにそれを分かってないっていうか、少し真面目過ぎて損してるとこあるよね?」
「う、うーん」
「だからさぁ。もっと内面にあるガブちゃんの素敵な部分?ていうの?そこを引き出してあげたいんだよね」
「素敵な部分?」
「そ。ガブちゃん本来の魅力っていうのかなあ」
「どうやればそれが引き出せるの?」
まさかの大天使サマ。話に食いついて来たよ。
「知りたい?」
「うん」
「それはね。ずばり恋だね」
「恋?」
「そそ。恋愛だよぉ。やっぱコレだねって感じ。恋愛はその人をグッと高みまで引き上げてくれる良い事づくしの素敵なイベントなんだわ」
「本当に!?」
んなわきゃねーだろ。恋愛は時に獰猛なケダモノを生む。
「でも‥恋愛って相手がいて初めて成立するんでしょ?主もおっしゃってた」
「そうなんだよ!いやあ流石は大天使サマ。理解が早い。そこでさ、あたしからガブちゃんに話があるってわけ」
「へ?」
あたしはガブリエルにグッと近づいて小声で話す。特に意味はないけどこの方が雰囲気があって良い。
「実はさ。あそこにいるあたしのツレなんだけど。ホラあの男」
あたしはタケルを指さす。
タケルは何を思ったか、例のクソダサいポーズを決めた状態で「ポウ!」とか「ヘイッ!」とか妙な事を口走っている。
「うんああ。あの人ね」
「そうそう。一ノ瀬タケルって言うんだけどさ。まあ見ての通り頭はあんまり良くないんだけど、顔は良いし性格も割と良い奴なんだわ。主に魂的な意味なんだけど」
「へえ」
「アイツがさ。ちゃんガブのこと気になってるらしーんだわ」
「へっ!?」
大天使サマは突然の事に困ったらしく顔を赤らめて辺りを見回している。
「いや正直さ、たかが人間ごときが大天使サマをだなんて身の程わきまえてないよねえ。あたしも言ったんだわ。だけど聞かないわけ。どうしてもゆっくり話してみるまで帰らないって言うんだもの」
「そ、そうなんだぁ。ふうん」
「やっぱダメだよね?」
「ま、まあねえ。いくら人間でイケメンでも、それはちょっと‥」
「だあよおねえ。いやいや、良かったわ。これで諦めるでしょ」
「ちょっと待って!」
あたしが振り返って帰ろうとすると後ろからかなりの力で引き止められた。
「ええ?」
「いや、別にだからって、話くらいなら、ね。人間も主のお創りたもうた生き物だし?人間と天使が親交を深めれば、主もお喜びになるし」
「へえ。もしかして、ちゃんガブまんざらでもない系ですか?」
そう言った瞬間、夕焼けみたく真っ赤になった大天使に肩をバシバシ叩かれた。
「やだもーそんなんじゃないよーでもーなんていうかーイケメンだしーだけどそんなんじゃないっていうかー、もーやだーメフィちゃん意地悪ぅ」
誰がメフィちゃんだよ。キモい。
まあとりあえず、上手く運んできた。後は実行に移すだけ。
「よし。それなら善は急げさ。どこか落ち着ける場所でしっぽりとね?」
「そ、そうだえ」
もうロレツ回ってねえな。ちょろいぜ大天使。
「じゃあ遠くまで行くのもなんだからそこの飲み屋で‥あっ」
忘れてたけどこの街唯一のショボくれた飲み屋はさっきちゃんガブが吹き飛ばしちゃったんだ。
「いやあ参ったな。しっぽりするとこ無いなあ」
「あ!もしかしてさっき私が消したとこ?なんだーならダイジョウビ☆」
そういうとガブリエルはさっきの歌とは違うフレーズの歌を歌いだした。
奴の体からまばゆい光が溢れたかと思うと、瞬く間にあの飲み屋が出現していた。
「へ?」
「とりあえず建物と中だけ復元したよ」
中に入るとガブリエルの言う通り椅子やテーブルはさっきのまま見事に復元されていて、何故か店のマスター一人だけがぽつんと復活していた。他の悪魔たちは残念ながら抽選に漏れていたらしい。
「さっ、はじめよう」
大天使ガブリエルはそう興奮気味につぶやいた。
チョロいだなんて大嘘さ。こいつはやっぱりイカレてる。少しでも相手の機嫌を損ねたり、あたしの作戦がバレたりしたらタケルもろとも瞬時に消し炭だ。
だがこの状況、なんとか切り抜けるしかない。
こうして、世にもスリリングな恋愛バトルが始まった。
大天使ガブリエルと残念イケメン一ノ瀬タケルの会話は以下の通りである。




