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真約 メフィストフェレス  作者: 三文士
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Run this town

お久しぶりからの続きからです。更新は不定期ですが気長にお付き合い下さい。

「ああああもう!おっせええなあ!」


あたしはガラにもなくイライラして大きな声を出してしまった。後ろで酒を飲んでる連中がビクッと身体で反応する。どいつもこいつも身体は厳ついけど、中身はお嬢さんみたいだ。


「そんなこと言ったって仕方ないじゃないか」


タケルがやや放心気味に呟く。


「なあにドラマに出てくる中華屋の小せがれみたいな事言って言ってんですか。鬼ばかりですか?世間ですか?渡りますか?ああん?」


「何言ってんだお前は。情緒不安定だな」


確かに自分でも解るくらい、あたしの頭ん中はグチャグチャだった。それもそのはずだ。


あたし達が今いるのはヴァルプの会場でも地上でもない。ましてや地獄でも。


「タケル様がいけねえんですよ。魔列車で行こうなんて言うから。ルフ便だったら今頃着いてましたよ糞が!」


「だーかーらー。仕方ないって言ってんだろ。大体、あんなバカでかい鳥なんかに命預けられるか」


ルフ便は世界にその名を轟かす妖鳥ルフが地獄天国地上問わず何処へでも運んでくれる便利な飛行便だ。かつては神の化身と言われたルフも最近ではすっかりクラック中毒になってしまい、今ではヤクの代金を稼ぐために文字通り身体を売っている。


「ヤク中の鳥なんかに運ばれたら何処で落とされるか解ったもんじゃない。俺は絶対に嫌だ」


そんな風にタケルが駄々をこねるからあたしは仕方なくお袋の用意してくれたルフ便のチケットと魔列車のチケットを交換した。


「そう言って乗った魔列車が、間抜けなテロリストもどきに乗っ取られかかったんじゃないですか。あたしがいなかったら全員今だに列車の中でしたよ」


「何を言う!確かにあの連中を黙らせたのは貴様だ。しかしな、列車をダメにしたのも貴様だ!すなわち、今足留めを食っているのは全部貴様のせいだ!」


「ぐう‥」


悔しいけど確かにタケルの言う通りだった。



話は四時間前に遡る。



最初はあたし達も観光気分で魔列車に乗っていて、白状するならあたしも少し浮かれていたんだ。魔列車は初めてだったし、ヴァルプも終わって気が抜けていた。


魔列車はいかにもって感じのゴシックな造りで、内装も聖魔の観念にとらわれない美に特化したデザインが施されていた。


「んん~良い~内装だぁ、こだわりがあるう」


知った様な口をきくタケルを足蹴にしてあたしは窓際の席に陣取る。


地獄を連想させる様な悲惨で美しい風景が眼前に広がっていて、小さい頃にテレビでやっていた「魔界の車窓から」を思い出しては密かに心が躍っていた。そこまでは良かった。


事件は列車がとある駅に停車した時に起きた。


あたしは早く列車が動き出さないかなと静止する風景を眺めていたのだが、にわかに辺りが騒がしくなった。


突然、あたし達の乗っていた車両にドカドカと何者かが侵入してきた。どうやらそいつらは複数らしくて、車両の前と後ろ、そして真ん中に陣取り大きな声で何かを叫び始めた。


「ご乗車の方々、お騒がせして申し訳ない。どなた様もご静聴願います」


見ると、いかにも下級といった貧弱ななりの天使が三匹。頭の鉢巻には「革命」の文字。


「我々は『天界革命軍』である。我々は、現在神が行なっておられる悪魔メフィストフェレスとの賭けに異議を唱える者である」


天界革命軍?なんだよソレ。お間抜けですって公言してる様なもんだ。


しかし賭けに反対するとは、穏やかじゃないね。


「これはきっと、何かの間違いである。全知全能にして父なる神が、道を誤る事は決してない。きっと、何かの誤解からこの様な事態になっていると我々は考える」


ところがどっこい、本人様から直でいただいた話さ。間違いないよ。


「そこで我々は間違いを正す為、天界には極秘裏に、メフィストフェレスなる渦中の者を捕らえ真偽のほどを確かめようと動いている次第である」


車内はどよめきが起こっていた。そらそうよ。アホ丸出しの天使が車内を占拠、手には武器。オマケにどう考えてもヤクが切れた禁断症状で言ってるとしか思えない妄言を叫んでる。


「とある筋から、この列車にかの者が乗り込んでいるとの情報を得た。メフィストフェレスなる者は速やかに名乗り出られたし!」


触らぬアホに害は無し。


あたしはシカトを決め込んで引き続き悠々と景色を楽しむことにした。


「おいメフィスト。あちらさん、お前を探しているぞ。名乗り出たらどうだ?」


アホ丸出しがもう一人いた。


「タケル様、黙っててください。アイツらとは関わりになりたくないんです」


あたしはなるべく穏便にこの場をやり過ごしたい。だからアホにも優しい言い方をした。


「何を言うか。何か大変な事があったのかもしれないぞ!」


アホには優しさは無用だった。


「何が大変なんですか。タケル様の頭が大変変態ですよ」


「変態!?違う違う。そうだな、例えば‥お袋さんが病気とか!」


お袋はさっきあたしがぶっ飛ばしばかりだから重体は重体だ。


「実家が火事だとか!?」


実家の目の前はいつでも火の海だよバカヤロー。


「とぉにかく、あの人たちは見たところ悪い人じゃなさそうだし。お前を探してるんだから名乗り出るべきだろ」


「悪い人なワケないじゃないですかクソッタレの天使なんだから。あたしは悪魔ですよ?何が悲しくて天使の言うことに従わなきゃいけないんです?筋金入りの阿呆ですね」


「なんだと貴様!貴様には優しさというものがないのか!このロクデナシ!」


「優しさ?ケッ。誰に物言ってんですかい。そんな物、生後三日でオムツん中に大の方と一緒に出しちまいましたよ!寝ぼけたこと言ってんじゃねえですよマヌケ!」


「言ったな貴様!くたばれバカ悪魔!」


「一丁前になったのは見てくれだけ見たいですね!中身はスッカスカだ!モウロクじじい!」


「くのやろぅ!」


「あんだぁ!」


「おいキミ達、何をさっきから騒いでるんだ」


「あっ」


「あっ」


ただ面白おかしく生きたいだけなのに、人生はままならない。


ところで悪魔の場合でも人生っていうのかな?


「すいやせんね。ツレはお頭の方があんまりよろしくないもんで。黙ってますからどうぞお続けになってください」


あたしがそう言うとタケルはエラく頭にきたみたいで、ガキみたいに「はいはーい」と手を挙げてはしゃぎ始めた。


「あっコラ、タケル様!やめろアホ!」


「天使さーん!こっちにいますよぉ!お探しのロクデナシのメフィストがおりますよぉ!」


「なにっ!」


その一声で天使どもが一斉に集まってきた。


「おお。間違いない。おい。貴様が悪魔メフィストフェレスだな」


この問答無用で上からな態度。カンに触る。


「だったらなんだよ。バサバサバサバサ五月蝿えなあ。羽根たたんで来いよ」


「なっ貴様あ!」


挑発に乗りかかった一匹をもう一匹が手で制する。


「貴様に聴きたいことがある。暴力は無用である。我々は無血革命をモットーにしている」


「無血だかケツ穴だか知らねえけど、こっちはテメエらに話したいことなんざないな。とっとと失せるか、無理矢理連れてくか。二者択一だぜ?小鳥ちゃん」


あたしの言葉に天使は一瞬だけピクりと眉毛を動かした。


「良いだろう。ちょうどここは半聖半魔の領域だ、少しくらい揉めても誰も咎めんだろう。しかし良いのか?三対一だぞ?」


天使のニヤけ面はいつ見ても胸糞が悪い。


「構いやしないさ。それに、ちょうどとか言ってるけど初めから半魔半聖で揉めるのを狙ってたんだろ?クズヤローとっとと表へ行こうぜ」


あたしが立ち上がると前に一匹後ろから一匹が連れ立って来た。出口に一匹が待機してる。


そもそも綺麗事を言ってるクセに三対一で喧嘩する事になんの抵抗もない連中だ。少しくらい卑怯な手を使っても良いだろう?


あたしは連中の隙を狙って攻撃をかます事にした。


まず自慢の超スピードでしゃがむ。後ろのバカはあたしが視界から消えて、一瞬慌てる。その瞬間奴の足を払ってコケさせる。当然、前にいるバカが気付いて動こうとするがいかんせん狭い車内で天使は動きがトロい。馬鹿でかい羽根は空の見える場所以外では邪魔なんだよ。あたしは前のバカに掴みかかり端正に整ったお顔に頭突きをくれてやる。


「ぶふぇ」


と鼻血の華が咲くと同時に襟首を掴んで背負い投げる。起き上がろうとしていたバカに投げ飛ばされたバカが当たって、仲良くダブルナックダウン。


「ぺえええええ」


突然車内に素っ頓狂な叫びが上がる。見ると残っていた最後のバカがあたしに武器を向け震えてやがる。


「おいおい。大丈夫かよお坊ちゃん。練習以外で使ったことあんのか?あたしが教えてやろうか?」


「やめろおおおくるなくるな!」


「まあそう喚くなよ。小鳥ちゃん」


あたしが余裕の笑みを浮かべながら近寄ろうとしたその刹那、突然空気にピリついた物を感じとった 。


ヤバい、何か来る。


あたしは持ち前の勘で危機を察知して、少しだけ身体を後ろに仰け反らせた。


目の前に青白い光りの弾道が走っていった。あたしの鼻の一寸先でバリバリと音を立て、その光りは車内を突き抜けていった。


「てめえ。撃ちやがったな」


あろう事かこのバカはこの狭い車内でクソったれの「神楽器かんがっき」をぶちかましやがった。


神楽器かんがっき」ってのは天使が持ってる唯一にして無二の武器。神に仇を成す者を討ち取る為に創られた物でその威力は凄まじい。コイツは特に悪魔に対してその効力を発揮する。下級から中級の悪魔ならヤクをキメてたって一撃で仕留められる。


そのイカれた武器を悪魔だらけの魔列車で放ったって事は、戦争になっても構わないってとられても仕方ない。前も後ろもバカだったが、コイツが一番バカだ。


あたしは少しだけ本気のスピードでバカの目の前に立ち、両手を封じ込める。もう一度撃たれたらたまらない。


「今度からその糞イカれた武器を撃つ前によく考えるんだな。引き金は責任を請け負って初めて引けるんだよバカ野郎」


相手が言葉を理解する頃にはあたしの蹴りで大好きなお空高くまで吹っ飛んでいった。もちろん列車の天井を突き抜けて。


「ふう。面倒な事をさせんで下さい。バカの掃除はあたしの趣味じゃない」


周りのお仲間から賛辞を受けたのでひとまず一礼にて応えておいた。タケルと言えばいかにも面白くないという顔でむくれていた。


「なんでも暴力で解決しやがって。悪魔め」


こいつも空に蹴り上げてやれば良かった。


そんな事を考えていたらどこからか列車の乗務員がこっちに駆け寄ってきた。


「ああ。キミキミ。テロリストはもうあたしが始末したよ。なあに、礼は要らない。あたしは『暁の娘』メフィ‥」


「礼?とんでもない!アンタか列車で騒ぎを起こしたのは!」


「え?」


なんだか乗務員はカンカンに怒っている。


「どっかのバカが撃った神楽器のエネルギー弾が魔列車の動力に当って完全にオシャカだ!どうしてくれる!」


「マジかよ‥すぐ‥直るよな?」


あたしは全身から嫌な汗が溢れ出していた。


「直る?マヌケなこと言うな。代わりの列車が来るまで六時間!ここから動けねえよスカポンタン!」


さっきまで賛辞を送っていた連中の、突き刺さる程痛い視線を感じた。



つづく

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