Shake Ya Tailfeather
続きを矢継ぎ早に投稿します。どうぞ。よろしければお付き合い下さい。
「おいでなすったな。」
「ちっ。」
周りの同胞達も皆手を止めて一斉に顔をしかめる。あのラッパはいつ聞いても嫌な音だ。まるで腹に一発良いのを喰らったみたいな気分になる。
「悪魔の方々。一同静粛に。」
よく響く嫌な声。独特の気取った言い回し。
「我々は天界所属の浄化作業査察官である。」
男の様で女のようでもある。はっきりしないあのトーン。紛れもなく奴らだ。
「諸兄方は今一度その手を止めてこちらに注目していただきたい。」
皆声のする方に目を向ける。すなわち上だ。
「くっそっ」
眩しい。目が眩む。
あたしら悪魔は光を好む方じゃないがその理由の一つはこれにある。
奴らがこれみよがしに放つ光を直視すると低級な悪魔はそれだけで溶けちまう程だ。太陽とは別の威圧的な光り。だから嫌いだ。
光りを纏った奴らはあの白く輝く羽根をバサバサ鳥みたいにはばたかせて降りてきた。
天使さまのご登場。
「繰り返します。これより浄化行為への査察を行います。速やかに手を止めて注目なさい。」
あたしは奴らの姿を一瞥すると直ぐさま気分が悪くなってきた。何故かは知らないが上級の悪魔になればなるほどこの怒りにも似た衝動は強くなるらしい。
あたしは唇を噛み締めワナワナと肩を震わせる。
「フィガロ。気をしっかり持て。」
ベルちゃんが大きな毛むくじゃらの腕であたしの肩を抱きしめてくれる。
「わかってる。わかってるよベルちゃん。」
あたしはなるたけ冷静な風を装って応える。今、奴らとケンカする訳にはいかないのだ。
天使と悪魔はこの世界に産まれたときから仲が悪い。
実に癪な話だが、先に産まれたのは天使だった。その後悪魔が産まれた。そして悪魔は、創造主である神の意志にそぐわない生き物としてこの世から消されそうになった。理由?そんなの知るもんか。
神の考えてる事なんて、誰も知りゃしない。とにかく神は悪魔を理由もなく排除しようとした。しかし神の右腕とも言うべきある一人の天使がその意見に反対した。
『万物を愛する神なればこそ、その慈悲をもって悪魔を救われよ』
と。
神は怒った。大いにね。自分に意見するヤツが存在する事にお怒りになった。そしてその天使と賛同する者共々、悪魔達を天界から地下深く叩き堕とした。
神に反旗を翻した最初の天使は悪魔の王となって彼らを率い、数千年に及んで天使と戦争を繰り広げた。そしてつい最近、漸く双方に疲れと飽きがやってきた。
そらそうだ。最初の戦争から三千年経っている。こんな不毛な戦いはない。
ひとまず、お互いに譲歩し合うという事で暫く休戦することにした。その一つが「双方による浄化行為の査察」すなわち拷問や説教の検閲だ。
人間の魂は死んでから一度、地獄なり天国なりに行きそこであらゆるものを削ぎ落とす。天国なら神の光に抱かれ天使たちの説教を聴き、春の午後にうたた寝をしてような気分で浄化される。
なぜあたしが知っているかはおいといてくれ。
地獄ではさっきも説明した通りの拷問が作業になる。
そのどちらも本質は同じだ。これらは「魂の浄化」と言われている。
双方でキレイに洗濯された魂は転生し再び地上に生を受ける。これの繰り返し。その査察を互いに行っている。
でも今は天国への査察はない。なんで査察されるのが地獄側だけなのかって?最初は天国側にも悪魔の査察官が何回か行ってたんだ。でもすぐ行かなくなった。
理由は簡単。狂いそうなくらいクソな場所だったからだ。それだけ。
以来天国への査察はなくなった。
ちなみにあたしはその査察官の一人で、廃止の意見を真っ先にあげた悪魔でもある。
まあ兎に角、今は休戦状態。ケンカは御法度だ。
あたしは全身を駆け回る虫酸を我慢してとびきりの笑顔で応対する。
「ようこそクソ天国の査察官さま。ブッ飛んでますか。」
うへえ。自分の口が信じられない。薔薇の香りのクソを口からひり出してる気分だ。
「おやおや。これはこれは悪魔の元査察官殿。ご丁寧な対応、恐れ入ります。」
「いえいえ。ド田舎レベルに遠いところからおいでになられてさぞお疲れでしょう。」
「ありがとうございます。ですがそのような言葉は無用です。」
「はあ?
あたしは嫌な予感がしていた。こっちが我慢していても、むこうがしてるとは限らない。
「無理はお止めになった方が良い。淫売は所詮どうしたって淫売だ。神に許しを請わぬ者はどのように取り繕っていても下種な臭いは拭えない。あなたが口を開く度、正直鼻が曲がりそうだ。」
「てめえ・・・」
あたしが今にも殴り掛かろうとした瞬間、後ろからグッと肩を掴まれた。
「喧嘩売るってんなら買ってやるぜ。だがな、こいつはてめえが考えてる程安い喧嘩じゃねえ。おう。三下天使風情が図に乗るなよ。」
ベルちゃんが鋭い目つきで啖呵を切っている。いよっ!ベルちゃん!悪魔の鏡!
「これはこれは。誰かと思えば元力天使のベリアル殿。お目にかかれて光栄です。」
そうだった。ベルちゃんは親父の弟であり、最初の頃に地獄に堕ちた天使の一人なのだ。
「いきなり喧嘩腰でくるたぁてめえらの頭も随分陽気になったじゃねえか。なあ。」
まあ昔はヤツ等と同じでも、今はあたし等の仲間。立派な悪魔だ。
「ふん。貴様らが天国の査察を拒んだ様に我々だってこんなおぞましい場所に来たくはない。」
「なら来なきゃいいだろ。マヌケだなてめえら。」
あたしの言葉に天使は蒼白の顔面に青筋を立てる。
「間抜けは貴様の方だ。我々が見張っていなければ貴様らは良い様に人間の魂を拷問し続けるだろう。」
「そりゃあねえ。」
あたし達は顔を見合わせる。親が留守なら悪ガキ共は家中を遊び道具にしてぶっ壊す。悪魔もパンクスも同じようなもんだ。
「貴様らはやり過ぎだ。そんな事をしたらいずれ魂が消滅してしまう。転生する魂の量が減ったら、世界のバランスが崩れる。解ったか間抜けなメス悪魔くん。」
「てめえ。涼しい顔して随分と誘ってる口ぶりだな。今すぐケツにブチ込んで欲しいのか?」
あたしは敵意を剥き出しにして身構える。
コイツはやる気だ。望むとこだ。
「近頃は悪魔と口喧嘩が絶えなくてね。下品な言葉を随分学ばせてもらったんだ。役に立ったよ。悪魔も存在する意味があって良かったな。でもやっぱり臭うな。さっさと土に還れよ。」
「災いは口から入ってケツから出てくんだ。さあてめえのケツを出せよ。ケリ入れてもっかい口ん中にもどしてやる。」
あたし達が今にもおっぱじめようしていたその時、頭の上からすさまじく不快な歌声が響いてきた。
あんまり不愉快だったから、ここに全部は書き残さない。解るだろ?書くのも嫌になるくらい、胸焼けする程の悪趣味な歌だ。
「以下大天使の歌」
大天使ラファエルは歌う
『太陽は常変わらな以下略。』
続く大天使ガブリエルも歌う
『恐ろし以下略。』
そして大天使ミカエルも歌う
『海か以下略。』
三大天使が声を揃える。
『主~以下略。』
ご静聴。
その瞬間、あたしと口の悪い天使の周りにはそれぞれ光の槍みたいなものが降ってきて、あたしらを閉じ込める形で取り囲んだ。
光りの牢獄。これがアイツ等の「歌の力」。
「ガルガリエル。一体貴方は何をしているのです。戦争は主の御心に反しているぞ。」
「違うのですガブリエル様!これにはワケがありまして!」
女みたいな(天使に性別はない。だからあえて「みたいな」と言っている)のがガブリエル。
事実上の天界ナンバーツー。
「たかだか中間管理職ふぜいが先陣きって戦争でもするつもりー。ばかものー。」
「ラファエル様!そんなつもりは毛頭ございません!」
子供みたいな姿をしたヤツがラファエル。三番手になるのかな。
でもってアイツは中間管理職らしい。大変だなおい。少し同情する。
「先ほど君が述べた世界のバランス。今まさに、君自身がその手で天界と地獄のバランスを欠こうとしている。これには、一体どんなワケがあるのだね。」
この一番エラそうなヤツがミカエル。光り輝く長髪をなびかせ、恐ろしく端正な顔立ちで氷の様な目をしている。まあ実際、一番偉い。
天使の長。神に似た者。最強の天使。
あの喋り方、マジで反吐が出る。見ているだけでぶん殴ってやりたくなる。
「誤解でございますミカエル天使長。私はただ自分の命を全うしようとしていただけです。」
おいおいおい。天使ともあろう者が嘘つくってか。
悪魔一同、ガルガリエルとやらの発言にはドン引きを隠せない。
「では何故、先ほどのような一足触発状態に?」
「あの、女悪魔が私が拷問の手を止めろと言っても無視して続けたから、少し嗜めたのです。そしたらあの野蛮な者共が私に侮辱的な言葉を。」
安いシナリオだな。天使の頭は全く腐ってやがる。
「本当なのですねガルガリエル?」
「真実でございます。御三大天使様。」
この五秒で考えた程度の言い訳で、騙されるバカがいるもんか。
「貴方を信じます。」
いたよね。バカの天使長。バカさも天使長クラス。
「悪魔は卑劣です。誘導的に戦争しようとするなんて。主の教えに反します。」
バカナンバーツー。こいつはすぐ悪い男に貢いじゃうタイプだわ。
「ガルガリエルは真面目に働いてるだけなのに。可哀想だよ。」
まあこいつは実際クソガキだからね。仕方ないね。
とにかく天使一同の発言に、悪魔一同再びドン引き。
「これは早急に何かしらの決着をつけないと。」
天使長はどうやら短気らしい。早くも臨戦態勢に入ってる。
「まあ例えガルガリエルが嘘を付いていて、こちらに非があるとしてもさ。いいよね?」
おっ。やっぱり解ってたんじゃないの?
「悪魔如きに正当性など不必要だ。」
天使ってのはどいつも血の気が多いな。神は脳みそ削減しちゃったのかな。
「しかしミカエル。主にはなんと?これは御心に反しますよ。」
ナンバーツーが初めて良い事を言った。
「きにしない。ミカエルの意志はわが主の意志でもある。やっちゃおー。」
早くあのガキを黙らせないと戦争がおこる。
あたしは何とか事態を収集しようとするが光の檻に阻まれて身動きは愚か口をきく事すらままならない。ぶっちゃけこの光の檻の中って、少しでも油断しようものなら消し飛んじまいそうな圧力だ。
「三バカ天使の方々。落ち着いて下さいな。それとも敵のホームでたった三人で勝てるほど、悪魔を安く見ているんですかい。」
『地獄の烈火の料理人』が火消し役になっている。喧嘩命というアイデンティティーをかなぐり捨て。その精神には涙が出る。しかしベルちゃんもさっきからガルガリエルをノシたくて仕方ないから、この役に向いてるとはいえない。
「元力天使。ベリアル。悪徳を愛する者。勝てると思ってる。そう言ったらどうする。」
「うらぎり者のクセに。未だに主に頂いた名を名乗るなんて。ずうずうしいやつー。」
「ベリアルを三人で倒せば。後は烏合の衆。塵と同じです。主の御心のままに殲滅しましょう。」
三大天使が揃って中指おっ立ててきやがる。
これにはベルちゃん、完全にブチ切れた。
「生意気にガタくれてんじゃねえぞボンクラ共。てめえ等が上で糞マナー教室を開いている間もこっちはずっと、鉄火場暮らしなんだぜ。」
頭に血が上ってると、悪魔は手がつけられない。
あたしは誰かに助けを求めた。その誰かはまだ秘密なんだが、兎に角その時だった。あたしが頼んだのとは別の方向から助けがきた。




