96:幕間:灰爪、その後
本日もよろしくお願いします。
数日後。
リスベル近郊の森。
レオンのサポート加入期間が終わり、灰爪は4人で森での討伐任務を行っていた。
「右、二!!」
ラグの声が飛ぶ。
ほぼ同時に、フィオが槍を横薙ぎに払った。
飛び掛かってきた狼型が地面を転がる。
そこへ。
「切り裂け!!」
ミレスの風刃が狼型の首元を裂く。
血飛沫。
一体撃破。
だがもう一体が木陰から回り込む。
以前なら。
ここで誰かが慌てていた。
だが。
「ナナ、下がれ!!」
ラグが即座に位置を変える。
大剣を振り下ろし、狼型を弾き飛ばす。
追撃を行うフィオの槍が狼型の喉を貫いた。
戦闘終了。
静寂。
荒い息。
だが、誰も崩れていない。
⸻
「……終わったか」
ラグが息を吐く。
ナナが少しだけ安堵したように笑った。
「今回はちゃんと回せましたね」
フィオも頷く。
「危ない場面はありましたけどね」
ミレスが杖を肩へ担ぐ。
「でも前より遥かにマシだろ」
その言葉に、全員が少し黙った。
前までは、もっと酷かった。
誰かが突っ込み、誰かが無理をし、誰かが孤立していた。
だが今は。
全員が、互いの位置を見ている。
「……何か変な感じだな」
ラグが頭を掻く。
「前より戦いやすい」
フィオが苦笑する。
「それ、今までが酷かっただけですよ」
「うるせぇ」
だが、否定はしなかった。
⸻
その時、ミレスがふと周囲を見渡した。
「……でもよ」
「これ、レオンさん一人で見てたんだよな」
短い沈黙。
ナナが小さく息を呑む。
「……確かに」
死角。
位置。
誰が押されているか。
どこへ回復を飛ばすべきか。
全部。
レオンは、戦いながら見ていた。
妖精鳥での支援を維持しながら。
「今思うと、意味分かんねぇな……」
ミレスが遠い目をする。
フィオも頷いた。
「この前は、レオンさんの判断に全部任せていた気がします」
「索敵も、警戒も、指示も。
全部自然に飛んできてましたから」
ナナが、少し申し訳なさそうに笑う。
「私も……かなり頼ってました」
その時。
フィオがふとラグを見る。
「ラグなんて、最初かなり酷かったですよね」
「“妖精鳥しか使えねぇ癖に”とか」
ラグの顔が、一瞬で歪んだ。
「……っ、お前」
ミレスが吹き出す。
「あー言ってたな」
「細いだの、頼りねぇだの」
「やめろ馬鹿!!」
ラグが即座に怒鳴る。
耳まで赤い。
ナナまで、少し笑いを堪えていた。
「恥ずかしい事思い出させんな!!」
フィオが、くすりと笑う。
「でも今は?」
ラグが、数秒黙る。
腰の銀灰色の爪を見る。
そして、小さく息を吐いた。
「……尊敬してる」
静かな声だった。
「正直、最初は“変わった召喚士”くらいにしか思ってなかった」
「でも違ったわ」
ミレスも、苦笑しながら頷く。
「索敵、指示、戦況判断」
「あの精度で全部一人でやってんの、今思うと半端じゃねぇ」
「しかも、自分も狙われながらだろ?
俺だったら絶対無理だわ」
フィオも、静かに続ける。
「最後の撤退戦、私達だけなら途中で崩れてました」
「誰が押されてるかも、どこから来るかも、多分把握し切れなかった」
「ミレスかナナが捕まって、そこから一気に壊されてたと思います」
ミレスが、重く息を吐く。
「実際、レオンさんの指示一回遅れた時、空気変わったもんな……」
「あの時初めて分かったわ」
「“あの人一人抜けるだけで、こんなヤバくなるのか”って」
ナナも、
小さく頷いた。
「最後、レオンさん居なかったら、私達……間違いなく死んでました」
静かな声だった。
「逃げる方向も、下がる順番も、多分ぐちゃぐちゃになってたと思います」
「誰かを助けようとして、別の誰かが孤立して……」
「多分、全員戻って来られませんでした」
誰も、否定しなかった。
森での光景が、全員の脳裏に残っている。
銀灰色の老狼。
休ませない群れの動き。
そして。
それを捌き続けていた、レオンの指示。
ラグが、銀灰色の爪を見ながら笑う。
「……今の俺達じゃ、まだ並べねぇな」
悔しさ。
だが、それだけじゃない。
「でも、いつか追い付く」
銀灰色の爪を、強く握る。
「ソロで、しかもサポート専門でCランクっての、ちゃんと理由あったわ」
その言葉に、誰も否定しなかった。
まだ届かない。
だが、灰爪は、もう前だけを見て戦うパーティじゃない。
互いを見て。
支え合って。
前へ進もうとしている。
⸻
リスベル冒険者ギルド。
受付嬢が、資料を整理している。
その前へ、一人の職員がやって来た。
「灰爪、無事帰還しました」
「……どうでした?」
受付嬢が顔を上げる。
職員が少し笑う。
「かなり安定してたみたいですよ」
「前みたいな無茶も減ってます」
受付嬢が、小さく安堵の息を吐いた。
やはり、レオンへ任せたのは正解だった。
その時。
別の職員が、慌てた様子で入ってくる。
「魔境側の報告書です!」
空気が変わる。
受付嬢が、真剣な顔になる。
「内容は?」
「周辺魔物の流入増加」
「それと――」
職員が、
一枚の報告書を差し出した。
「銀灰色の大型狼型と思われる目撃情報」
受付嬢の目が細まる。
「……やはりいましたか」
「はい」
職員が頷く。
「それと、王都側からの派遣要請の話が」
王都。
その言葉に、
ギルド内の空気が少し張り詰める。
受付嬢は、
静かに窓の外を見る。
夕暮れ。
赤く染まるリスベル。
そして。
森の奥。
何かが、
少しずつ動き始めていた。
ここまで読んでいただき、ありがとうございます。
これにて灰爪編は終了となります。
今回の章ではレオン個人の成長だけでなく、周りへの影響も上手く書けたのではないかなと思います。
登場人物がだいぶ増えて来ましたの、登場人物整理を挟んで、新章に突入します。
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