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足りない召喚士の戦い方  作者: トリバード
不完全な戦場

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95/137

95:灰爪

本日もよろしくお願いします。

夕方。


リスベル冒険者ギルド。


扉が開く。


疲労の色を濃く残した灰爪と、その後ろを歩くレオン。


受付嬢が顔を上げた瞬間、表情が変わった。


「皆さん……!」


ラグの脇腹には、応急処置済みの包帯。

ミレスも顔色が悪い。

ナナは杖を支えにしている。


そして、レオンの左腕にも、浅い裂傷が走っていた。


「何があったんですか!?」


受付嬢が慌てて駆け寄る。

今回の任務で負傷する事は無いだろうと考えていた。



レオンが息を整えながら口を開いた。


「依頼自体は完了しています」


「ただ……」


少しだけ表情が険しくなる。


「依頼範囲外で、大規模な狼型の群れと遭遇しました」


ギルド内の空気が変わる。


レオンは続けた。


「通常個体だけでも二十近く。

さらに、群れを統率している大型個体が居ました」


「大型…ですか…?」


受付嬢が顔を青くする。


レオンが頷く。


「かなり老獪でした。通常個体へ指示を出しているような動きをしていました」


「それに――」


レオンが少し言葉を選ぶ。


「その大型個体ですが、接敵した際、既に深い傷を負っていました」


「……傷?」


「はい」


レオンが頷く。


「かなり大きな傷です。ですが、それでも群れを統率していた」


「恐らく……」


一瞬。


森奥で見た黄金色の瞳が脳裏を過る。


「もっと奥から、逃げてきた個体だと思います」


受付嬢が息を呑む。


森の奥。

魔境寄り。


その言葉を、誰も口には出さなかった。


だが。


その場に居た全員が何となく察していた。


「……ギルド長へ報告を上げます」


受付嬢が真剣な顔で頷く。


「場合によっては、周辺依頼の制限も検討します」


レオンも頷いた。


あの個体は危険だ。


そして、あれほどの個体が逃げるほどの何かが、森の奥に居る。


そちらの方が、余程不気味だった。



報告を終えた後。


灰爪の四人は、

ギルドの外へ出ていた。


夕焼け。


赤く染まる石畳。


しばらく、

誰も口を開かなかった。


最初に話したのは、

ラグだった。


「……世話に、なりました」


レオンが顔を上げる。


ラグが、

銀灰色の爪を腰から取り出した。


あの大型個体の爪。


「正直、最初は気に食わなかった」


「年下だし、細いし、妖精鳥しか使えねぇし」


ミレスが苦笑する。


「お前それ本人前で言うか……」


だが、ラグは真っ直ぐレオンを見た。


「でも」


短い沈黙。


「お前、ちゃんと俺達を見てたんだよな」


レオンが少し目を瞬かせる。


ラグが続けた。


「前の俺、自分が前出て斬ればいいって思ってた」


「でも違った」


切り落とした大型の爪を、強く握る。


「後ろ見ねぇと、前も保てねぇんだな」


その言葉に。


フィオも、静かに息を吐いた。


「……私もです」


「ずっと、皆を支えなきゃって思ってました」


「穴を埋めないと、崩れるって」


少し苦笑する。


「でも、全部自分でやろうとしてたから、逆に、自分の事すら見えなくなっていたんですね」


レオンが、静かに頷く。


その横で。


ミレスが、頭を掻いた。


「俺、撃ちてぇ所ばっか見てたわ」


「でも今回、打つ前に皆の事考えて調整したら、皆動きやすそうでさ」


少し悔しそうに笑う。


「なんつーか……、やっとパーティっぽくなった」


その言葉に、

ナナも小さく笑った。


「私……、誰を優先すればいいか、ずっと分からなくなってたんです」


「だから最近、自分が回復役向いてないのかもって、少し思ってて……」


小さく息を吐く。


「でも、レオンさんが指示くれたから、ちゃんと、考えて動けました」


レオンは、少し困ったように笑った。


「皆さん、元々実力はありましたから」


「ただ、噛み合ってなかっただけだと思います」


短い沈黙。


だが、以前とは違う空気だった。


皆、隣を見ている。


ラグが、銀灰色の爪を握り直す。


「……いつか」


低い声。


「あいつ、絶対に”俺たちで“倒す」


フィオも頷く。


「今度は、逃げずに」


ミレスが鼻を鳴らした。


「その前に、もっと強くなんねぇとな」


ナナも小さく笑う。


その姿を見て、レオンも少しだけ笑った。


以前の灰爪なら。


こんな顔は、きっとしていなかった。



その後。


ギルドへ戻ったレオンへ、

受付嬢が声を掛けてきた。


「レオンさん」


「はい?」


受付嬢が、少しだけ不安そうに聞く。


「灰爪のサポート任務ですが……」


「どうでしたか?」


レオンは少し考える。


最初は酷かった。

連携も無い。

視野も狭い。


それぞれが、一人で戦っていた。


だが、今日、最後の撤退戦で。


彼らは初めて、互いを支え合っていた。


レオンが、小さく頷く。


「……もう大丈夫だと思います」


受付嬢が、

少し目を丸くする。


レオンは続けた。


「まだ未熟です」


「危ない場面も、多分これから沢山あります」


「でも」


そこで、

少しだけ笑った。


「もう、一人で戦う人達じゃないので」


受付嬢が、静かに微笑む。


「そうですか」


夕焼けが、

ギルドの窓から差し込んでいた。


その赤色は。


どこか、

新しく生まれた“灰色”を、

照らしているようだった。

ここまで読んでいただき、ありがとうございます。

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