94:灰色の爪痕
本日もよろしくお願いします。
※プロット時点での話数表記を入れたままアップロードしておりました。修正いたしました。
重い足音。
木々を揺らしながら、
銀灰色の大型個体が前へ出てくる。
通常個体とは違う。
ただ歩いているだけなのに、
空気が変わる。
「……っ」
ラグが息を呑む。
深い裂傷。
片脚を僅かに引きずっている。
だが。
その金色の瞳だけは、
全く死んでいなかった。
むしろ。
獲物を追い詰めた捕食者の目。
「来ます!!」
レオンが叫ぶ。
直後。
大型個体が地面を蹴った。
速い。
傷を負っているとは思えない踏み込み。
「チィッ!!」
ラグが大剣を構える。
真正面からは受けない。
流す。
だが。
重い。
大剣ごと押し込まれる。
「ぐっ……!!」
そこへ。
左右から通常個体。
完全に連動していた。
大型個体が前へ出た瞬間、
群れ全体が一気に圧を強める。
「フィオ!!」
「分かってる!!」
フィオが槍を振るう。
狼型を牽制。
だが。
数が多い。
しかも。
まともに踏み込んでこない。
飛び込む。
退く。
別方向から次。
休ませない。
削る。
集中を切らせに来ている。
「っ、鬱陶しい……!!」
ミレスが歯を食い縛る。
風刃。
だが、
牽制だけでは止まり切らない。
大型個体が、
低く唸った。
その瞬間。
群れの動きが、
再び変わる。
「右から来ます!!」
レオンの声。
妖精鳥が飛ぶ。
牽制。
だが。
死角。
別方向。
さらに二体。
「くそっ!!」
ラグが踏み込む。
フィオも動く。
だが。
追い付かない。
徐々に。
確実に。
押し込まれ始めていた。
⸻
その時。
レオンが叫ぶ。
「ミレスさん!!
広く張れますか!?」
ミレスが目を見開く。
「広く!?」
「接近阻害です!!
少しでいいから、
近寄りづらくして下さい!!」
ミレスが歯を食い縛る。
魔力消費が重い。
しかも。
移動しながらの広範囲制御。
無茶だ。
だが。
「……やるしかねぇだろ!!」
杖を振るう。
風。
圧縮。
解放。
轟風。
森の木々が大きく揺れた。
吹き荒れる風が、
壁のように周囲へ広がる。
狼型達の動きが鈍る。
踏み込みが浅くなる。
木々の間で、
明らかに接近速度が落ちた。
「今のうちに走れ!!」
ミレスが叫ぶ。
だが。
その顔色は悪い。
消耗が激しい。
それでも。
風壁は、
確かに群れの勢いを削いでいた。
⸻
「ラグさん!!
正面!!」
大型個体。
踏み込む。
フィオが横から槍を突き込む。
だが。
大型個体は無理をしない。
即座に退く。
そこへ、
別方向から通常個体。
完全に連携している。
「クソが……!」
ラグが吐き捨てる。
強い。
だがそれ以上に。
狩り慣れている。
⸻
その瞬間。
レオンの目が、
大型個体の脚を捉えた。
傷。
庇っている。
踏み込みの瞬間だけ、
僅かに重心が偏る。
「ラグさん!!」
レオンが叫ぶ。
「次、右前脚に体重掛けます!!」
大型個体が、
低く唸る。
そして。
踏み込んだ。
右前脚。
その瞬間。
ラグが地面を蹴る。
「おおぉぉ!!」
大剣。
横薙ぎ。
銀灰色の毛が舞う。
鮮血。
大型個体が、
初めて大きく後退した。
地面へ、
何かが転がる。
爪。
いや。
脚先ごと、
斬り落としていた。
大型個体の金色の瞳が、
ラグを睨む。
殺気。
空気が軋む。
だが。
大型個体は追撃しなかった。
傷を理解している。
危険を理解している。
だからこそ。
深追いしない。
低い唸り声。
その瞬間。
群れ全体が、
一斉に後退を始めた。
「……退いた?」
フィオが息を呑む。
銀灰色の大型個体は、
森の奥からこちらを見ていた。
その金色の瞳は、
怒りというより。
覚えた。
そんな目だった。
やがて。
大型個体は、
静かに森の闇へ消えていく。
群れも、
それに続いた。
⸻
静寂。
荒い呼吸だけが残る。
「……はぁ……っ」
ミレスが膝へ手を付く。
ナナも、
完全に消耗していた。
ラグは、
無言で地面を見る。
そこには。
切り落とされた、
銀灰色の脚先。
そして。
鋭い爪。
ラグが、
それを拾い上げた。
血。
重み。
確かな手応え。
だが。
倒せなかった。
届かなかった。
ラグが、
強く拳を握る。
「……次は」
低い声。
悔しさ。
恐怖。
それでも。
その目だけは、
前を向いていた。
「次は、
逃げねぇ」
フィオも。
ミレスも。
ナナも。
誰も否定しなかった。
そして。
その少し後ろで。
レオンだけが、
静かに森の奥を見ていた。
銀灰色の老狼。
そして。
あの個体が恐れていた、
“何か”の気配を。
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