93:追われる側
本日もよろしくお願いします。
狼型達の狙いは、
完全に変わっていた。
木々の隙間の死角からの視線、
飛びかかってくる攻撃、
その全てが、レオンへ向いている。
「右後方!!」
レオンが叫ぶ。
妖精鳥が飛ぶ。
牽制。
だが次の瞬間には別方向から牙。
休ませない。
考える暇を与えない。
大型個体は、既に理解していた。
この場で最も厄介なのは、レオンだと。
それは、統率する者としての直感と経験だった。
⸻
森を駆ける。
枝を踏み。
泥を蹴り。
息を切らしながら。
灰爪はギリギリで撤退を続けていた。
「フィオさん左!!」
「っ!!」
槍を振るい飛び掛かった狼型を叩き落とす。
だが狼型は深追いしない。
一撃。
牽制。
それだけで、すぐ森へ引く。
そこへ、
別方向から別個体。
「チィッ!!」
ラグが大剣を振るう。
だが、まともには当たらない。
狼型は掠めるように距離を取り、再び木々の間へ消える。
嫌な戦い方だった。
一体が仕掛ける。
退く。
別方向からもう一体。
さらに少し遅れて別個体。
途切れない。
休ませない。
集中だけを削ってくる。
⸻
ざっと見ただけでも、通常個体は二十近い。
だがその多くは、やや小型だった。
本来、前衛を担う成熟した個体が少ない。
恐らく。
大型個体が負傷した戦いで、個体数がかなり減ったのだろう。
だからこそ、何とか凌げている。
もし、群れが本来の状態であったとしたら、とっくに押し潰されていただろう。
⸻
「ナナさん下がって!!」
レオンが叫ぶ。
妖精鳥。
牽制。
ナナが後退。
だが直後。
「ミレスさん右!!」
風刃を狼型が回避。
その隙に別方向から飛び込み。
「なっ――」
ミレスが反応し切れない。
そこへフィオが滑り込み、
槍で軌道を逸らす。
だが今度は、フィオ側へ別個体。
「休ませろよクソが!!」
ラグが踏み込む。
大剣で狼型を吹き飛ばす。
だが、また下がる。
深追いしない。
その繰り返し。
徐々に。
確実に。
集中が削られていく。
⸻
「……っ」
レオンが息を荒げる。
四羽目。
視界共有。
解除。
共有。
解除。
死角。
位置。
包囲。
全部を捌く。
狼型達は頻繁に陣形を変えてくる。
見なければ間に合わない。
だが見続ければ消耗する。
最悪だった。
⸻
その時、狼型が飛び込む。
レオンが位置を読む。
妖精鳥。
牽制。
回避。
避けた、そう思った瞬間。
別方向の木陰。
死角から牙。
「っ――」
反応が僅かに遅れた。
浅い。
だが、狼型の爪が、レオンの左腕を裂いた。
鮮血。
「レオンさん!!」
フィオの声。
レオンが即座に距離を取る。
深くはない。
動ける。
だが痛みで、集中が途切れる。
その瞬間、索敵のタイミングを逃した。
「右だ!!」
ラグが怒鳴る。
ミレスの横へ、狼型が飛び込む。
風刃。
ギリギリ間に合う。
だが空気が変わった。
今のは、レオンが、
初めて読み切れなかった攻撃だった。
「すみません……今少し遅れました……!」
レオンが息を荒げる。
だが。
ラグが即座に怒鳴った。
「んな事どうでもいい!!まず自分を守れ!!」
その瞬間。
フィオが、
レオンの前へ位置を変えた。
「レオンさん!!索敵だけに集中して下さい!!」
「でも――」
「俺達で止める!!」
ラグが踏み込む。
大剣。
狼型を弾き飛ばす。
ミレスも風刃を放った。
今までのような、
撃ちたい位置じゃない。
フィオが動きやすい位置。
狼型を下がらせる位置。
そこへ撃っている。
ナナも無闇に回復を飛ばさない。
「ラグさん優先!!次フィオさん!!」
回復順を固定している。
以前ならここまで保たなかっただろう。
誰か一人が対応へ回り、
別の誰かが孤立していた。
だが今は違う。
「左来るぞ!!」
「分かってる!!」
「ミレス、今だ!!」
風刃。
狼型が退く。
その隙に、再び撤退。
繋がっている。
灰爪が。
初めて。
“レオンを支える側”として動いていた。
⸻
その時。
レオンの肩の妖精鳥が、
不意に羽を震わせた。
嫌な予感。
四羽目。
上空。
視界共有。
そして、レオンの顔色が変わる。
「……前に出てきます」
低い声。
直後。
森奥で、
重い足音が響いた。
今まで後方に居た大型個体が。
ゆっくりと、前へ出てきた。
銀灰色の体毛。
深い裂傷。
手負いの状態だ。
だが。
その、黄金の瞳だけは、
全く死んでいない。
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