90:誰も隣を見ていない
本日もよろしくお願いします。
数日後。
灰爪は再び討伐任務へ出ていた。
以前よりは、
多少マシになっている。
少なくとも。
ラグは、
以前ほど無茶な突撃をしなくなった。
ミレスも、
レオンの制止を完全には無視しない。
だが、まだ危うい。
少し噛み合い始めた程度。
油断すればすぐ崩れる。
レオンはそう感じていた。
⸻
森を進む。
今日は狼型討伐。
数は多いが、
猿型ほど厄介ではない。
本来なら。
灰爪の火力なら、
十分押し切れる相手だった。
本来なら。
⸻
「前方四」
レオンが声を掛ける。
ラグが頷いた。
「行くぞ」
以前より、
突撃が少し遅い。
フィオと位置を合わせている。
それだけでも、
かなり違った。
狼型接敵。
ラグが剣を振るう。
フィオが横を支える。
そこへ。
「今です!!」
レオンの声。
ミレスの風刃。
狼型を切り裂く。
以前より、
明らかに連携が成立していた。
だが。
レオンは、
まだ気を抜かない。
四羽目を索敵に、三羽を支援に。
全部回す。
常時ではない。
必要な時だけ全て使う。
それでも、余裕は少なかった。
⸻
その時。
右側。
妖精鳥が違和感を伝える。
レオンは、
一瞬だけ視界を重ねた。
木陰に狼型が潜んでいる。
一体。
回り込む体勢だ。
「右から一体来ます!!」
フィオが反応する。
槍。
狼型を止める。
そこへラグが振りかぶり、叩き潰す。
問題無い。
だがレオンは、少しだけ眉を寄せた。
今のは。
本来、
フィオが気付ける位置だった。
フィオは上手いし視野も狭くない。
なのに、周囲を見る余裕が無い。
理由は簡単。
ラグの補佐へ、
意識を割き過ぎている。
つまり、“ラグが崩れる前提”で動いている。
⸻
その直後。
今度は後方。
ナナが小さく悲鳴を上げた。
「っ……!」
死角から狼型が飛び出してきた。
妖精鳥を飛ばし、牽制。
レオンが即座に声を飛ばす。
「ナナさん!!後ろ下がって下さい!!」
「は、はい!!」
間に合う。
だが。
危ない。
レオンが小さく息を吐く。
今のも、
本来ならナナ自身が気付くべきだった。
だが、周囲の空気に飲まれ、余裕が無い。
つまり、このパーティは、“自分の役割だけ”に集中できていない。
⸻
戦闘終了後。
ラグが剣を肩へ担ぐ。
「今日は楽だったな」
その言葉に。
レオンは少しだけ考え込む。
確かに、以前より形になっている。
だがそれは、“レオンが居る前提”の形だった。
その時、不意にフィオが口を開く。
「……レオンさんって、普段どんなパーティで戦ってたんですか?」
「え?」
「いや……」
フィオが、
少し言い淀む。
「何ていうか、崩れそうな場所を見て指示を出すまでが早過ぎません?」
ラグも頷いた。
「確かに」
「俺ですら危ねぇって思う前に言われる」
ミレスも、不機嫌そうにしながら口を開く。
「撃てる位置作るのも、妙に上手いしな」
レオンは少し困ったように笑った。
「……基本的にソロですし、パーティに入る時も野良ばかりなので」
「いや、でも普通そこまでならねぇだろ」
ラグが呆れたように言う。
だが、レオン自身は、
あまり自覚が無かった。
前衛が孤立する。
後衛が巻き込む。
治癒が遅れる。
索敵が足りない。
そんな戦場は珍しくない。
よく見て先に動かなければ死ぬ。
それだけだった。
⸻
その時。
フィオがぽつりと呟く。
「……レオンさん居なくなったら、多分私達また崩れますよね」
沈黙。
ラグも、ミレスも、否定しなかった。
ナナは、
不安そうに俯いている。
レオンは、少しだけ考える。
そして静かに口を開いた。
「……多分、足りないのは連携じゃないんです」
全員が、レオンを見る。
「皆さん、強いんですよ」
「ラグさんは前へ出る力があるし、
フィオさんは支えるのが上手いです」
「ミレスさんの火力も高いですし、
ナナさんの治癒も遅くない」
「だから、ここまで来れてるんだと思います」
D級。
決して低くない。
適当な実力では、
まず上がれない。
灰爪は、個々の能力だけなら十分戦えていた。
だが。
「皆、“自分が一番動きやすい形”で戦ってるんです」
「だから、少しずつズレる」
静かな声。
ラグ達は黙って聞いていた。
「多分、必要なのは」
レオンが、
少し言葉を探す。
「……他の人が、動きやすい位置を見る事、なんだと思います」
風が吹く。
しばらく。
誰も何も言わなかった。
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