89:崩壊を防ぐには
本日もよろしくお願いします。
任務を終えた帰り道。
灰爪の空気は、
今日も重かった。
ラグとミレスは、
また何か揉めている。
「だから前出過ぎなんだよ」
「お前が撃つの遅ぇんだろ」
フィオが間へ入り、
ナナが萎縮する。
その様子を見ながら、
レオンは小さく息を吐いた。
「……難しいな」
ぽつりと漏れる。
黒狼の牙。
紅蓮の尾。
どちらも、
多少の不足はあった。
だが。
最低限、
“同じ戦場”を見ていた。
誰が前へ出て、
誰が支えるのか。
どこまで踏み込めるのか。
それぞれ理解した上で動いていた。
だから。
レオンは、
足りない部分を埋めればよかった。
だが。
灰爪は違う。
そもそも、
見ているものが噛み合っていない。
⸻
翌日。
三度目の同行任務。
レオンは森へ入った直後から、
妖精鳥を飛ばしていた。
一羽。
二羽。
三羽。
そして四羽目。
高く上空を旋回する銀羽。
ただし。
以前の防衛戦のように、
常時視界共有はしない。
あれは、
防衛戦だった。
最悪、
後退できた。
だが。
討伐任務は違う。
森の中で、
自分が潰れれば終わる。
だから。
必要な瞬間だけ繋ぐ。
それが今の運用だった。
⸻
「前方、反応あります」
レオンが声を掛ける。
ラグが大剣を担ぎ直した。
「数は?」
「……三」
四羽目が、
上空で旋回する。
違和感。
レオンは、
一瞬だけ視界を重ねた。
木々の隙間。
猿型。
位置確認。
即座に接続を切る。
こめかみが、
僅かに痛む。
長く繋げば、
もっと詳細に見える。
だが。
そんな使い方をしていれば、
最後まで保たない。
「右側の木上にも居ます」
「また上かよ……」
フィオが槍を構える。
その瞬間。
ラグが踏み込んだ。
「俺が前潰す!!」
速い。
本当に、
速い。
レオンは思う。
ラグは強い。
突破力だけなら、
D級でもかなり高水準だ。
正面戦闘能力だけなら、
並の前衛より上。
だが。
止まれない。
勢いのまま、
前へ出続ける。
だから。
「フィオさん!!
追い過ぎないで下さい!!」
レオンが即座に声を飛ばす。
フィオは、
ラグを止めようとして無理をする。
この人は、
崩れた場所を埋めようとし過ぎる。
だから。
自由にさせると、
全部背負う。
逆に危ない。
「っ……!」
フィオが、
ギリギリ踏み止まる。
その直後。
左後方。
猿型。
「ナナさん!!
左です!!」
妖精鳥が飛ぶ。
羽ばたき。
猿型の視界を塞ぐ。
ナナが悲鳴混じりに後退した。
「ひっ……!」
だが。
回避は間に合った。
レオンが、
小さく息を吐く。
危ない。
今ので、
一歩遅れていたら崩れていた。
その時。
後方。
ミレスが詠唱へ入る。
レオンは、
即座に位置を見る。
ラグが前へ出過ぎ。
フィオも押されている。
この位置では危険。
「ミレスさん!!
まだ撃たないで下さい!!」
「またかよ!」
苛立った声。
だが。
レオンも余裕が無かった。
ミレスの火力は高い。
風刃の速度も威力も、
D級としては十分強い。
だからこそ。
“通せる形”を作らなければいけない。
撃てないんじゃない。
今撃つと崩れる。
ラグが巻き込まれる。
フィオが支えに入る。
ナナが混乱する。
結果。
全部崩壊する。
だから。
今は駄目だ。
「ラグさん!!
二歩だけ下がって下さい!!」
「ぁ!?」
「今です!!」
ラグが舌打ちしながら下がる。
その瞬間。
フィオの槍が、
猿型を押し返した。
位置が開く。
「ミレスさん!!」
「っ!!」
風刃。
一直線。
猿型二体を切り裂く。
ミレスが目を見開いた。
「……通った」
その瞬間。
別方向。
四羽目が、
再び違和感を伝えてくる。
まだ居る。
レオンが、
一瞬だけ視界を重ねた。
木上。
後方移動。
包囲狙い。
即切断。
こめかみが痛む。
呼吸が少し重い。
しかも。
三羽全部、
既に埋まっていた。
一羽はラグ支援。
一羽は死角警戒。
一羽はナナ付近。
余りが無い。
黒狼の牙なら、
ここまで回さなくて済む。
紅蓮の尾も、
最低限自分達で形を維持できていた。
だが灰爪は違う。
少しでも止まれば、
即崩れる。
「後ろ来ます!!」
レオンが叫ぶ。
フィオが即座に振り返る。
槍。
猿型を弾く。
その隙に、
ラグが踏み込んだ。
大剣。
叩き潰す。
ようやく。
辛うじて。
戦線が繋がった。
⸻
討伐終了後。
レオンは、
珍しく少し疲れた顔をしていた。
肩の妖精鳥も、
ぺたりと寄り掛かっている。
フィオが、
その様子へ気付いた。
「……もしかして、
ずっと限界だったんですか?」
「え?」
レオンが少し困ったように笑う。
「いや、
まだ何とか」
だが。
実際は、
かなり危なかった。
あと少し敵数が多ければ。
あと少し、
判断が遅れていれば。
多分。
誰かが怪我をしていた。
レオンは、
小さく息を吐く。
そして。
改めて思う。
灰爪は弱くない。
ラグは強い。
フィオも上手い。
ミレスの火力も高い。
ナナの治癒も遅くない。
だからこそ。
ここまで戦えてしまっている。
だが。
噛み合わない。
誰も、
“他の誰かが動きやすい位置”
を見ていない。
だから。
全部が少しずつズレる。
そのズレを。
自分だけが、
必死に埋め続けていた。
ここまで読んでいただき、ありがとうございます。
続きが気になると思っていただけたら、ブックマークや評価をいただけると励みになります。




