88:綱渡りの戦線
本日もよろしくお願いします。
翌日。
灰爪との二度目の任務。
集合場所へ向かいながら、
レオンは小さく息を吐いた。
「……重いな」
空気が。
昨日の戦闘後、
表面上は収まった。
だが、根本的には何も解決していない。
ラグとミレスは互いに不満を抱えたまま。
フィオは疲弊。
ナナは委縮。
完全に悪循環へ入っている。
しかし、そういうパーティが少なくないことを、
レオンは知っていた。
⸻
ギルド前。
既に灰爪の面々は集まっていた。
「おはようございます」
レオンが声を掛ける。
返ってきたのは、
バラバラな反応だった。
ラグは軽く手を上げるだけ。
ミレスは露骨に不機嫌。
フィオだけが、
疲れた笑みを返した。
ナナは小さく会釈。
「今日の依頼は?」
レオンが聞く。
フィオが資料を開いた。
「洞窟付近に住み着いた猿型の群れの討伐です」
猿型。
狼型ほど統率は無い。
だが。
知能が高く、連携も取る。
そして何より、死角を狙う。
レオンは少しだけ考える。
今の灰爪とはかなり相性が悪い。
森へ入ってしばらく。
レオンは、
既に四羽目を飛ばしていた。
索敵。
周囲確認。
その時。
妖精鳥が、
違和感を伝えてくる。
「……右前方、木の上に居ます」
「は?」
ラグが顔を上げた瞬間、猿型が飛び降りてきた。
「チッ!!」
大剣一閃。
猿型を叩き落とす。
だが、それと同時に左と後方の木々が揺れる。
「囲まれてます!!」
レオンが声を飛ばした。
その瞬間、ラグが前へ出る。
「まとめて来い!!」
悪手だ。
猿型は正面から来ない。
木を使う。
跳ぶ。
散る。
フィオが慌てて動く。
「ラグ!!前出過ぎ!!」
その横でミレスは既に詠唱へ入っていた。
風刃の魔術。
それも広範囲型。
だが、位置が悪い。
「ミレスさん!!まだ撃たないで下さい!!」
「っ……またそれかよ」
露骨に苛立つ声。
だが、次の瞬間。
フィオの背後。
木の上から猿型が迫っている。
「フィオさん!!上!!」
妖精鳥が飛ぶ。
猿型の顔面へ突っ込む。
一瞬怯む。
フィオが反射的に槍を振るった。
「っ!!」
猿型が吹き飛ぶ。
だがその隙に今度はラグが孤立。
三体に囲まれる。
「ラグさん!!左下がって下さい!!」
「押し切る!!」
聞かない。
その直後、横から別個体。
「っぐ!?」
ラグの脇腹を爪が掠めた。
浅い。
だが、反応が遅れる。
そこへさらに追撃。
「危なっ――」
フィオが無理に割り込む。
槍で軌道を逸らす。
そのせいで。
今度はフィオが包囲へ近付く。
完全に悪循環だった。
「ナナさん!!フィオさん回復!!」
「は、はい!!」
治癒術。
その間にミレスが痺れを切らす。
「もう撃つぞ!!」
「待っ――」
風刃が放たれる。
猿型を数体切り裂く。
だが。
フィオの髪が僅かに切れた。
「っ!?」
「だから危ないって言ってんだろ!!」
ラグが怒鳴る。
「お前が前出るからだろ!!」
ミレスも怒鳴り返す。
戦闘中にも関わらず、互いへ苛立っている。
レオンは小さく息を吐いた。
見えている戦場が違い過ぎる。
ラグは、自分が押し切る戦いしか知らない。
ミレスは、火力を通す事しか見ていない。
フィオだけが、パーティの崩壊を防ごうとしている。
ナナは、その空気に飲まれて動けない。
だから誰も、“今崩れかけている場所”を見ていない。
その時、さらに後方で四羽目が新たな気配を捉えた。
「まだ来ます!!後方三!!」
「はぁ!?」
ラグが顔を歪める。
その瞬間、レオンが初めて少し強めの声を出した。
⸻
「一回下がって下さい!!」
⸻
全員が、
一瞬だけ止まる。
「ラグさんは中央!!」
「フィオさん左!!」
「ナナさんはその後ろから動かないで下さい!!」
「ミレスさん、撃つなら正面だけです!!」
矢継ぎ早の指示。
ラグが僅かに眉をひそめた。
だが従った。
その瞬間。
戦線が、
初めて形になる。
フィオが左を止める。
ラグが正面を受ける。
ナナが回復を通せる。
ミレスの風刃が、
正面から来た猿型だけを切り裂いた。
「……通った?」
ミレスが目を見開く。
初めて。
まともに火力が通った。
さらに、活性化。
妖精鳥の光がラグとフィオへ重なる。
「軽っ……!?」
ラグが猿型を弾き返す。
そこへ。
フィオの槍。
連携。
初めて、
噛み合った。
数分後。
最後の猿型を倒した頃には全員息を切らしていた。
だが。
昨日とは違った。
沈黙。
その中で。
ミレスがぽつりと呟く。
「……今の、何で上手くいったんだ?」
誰もすぐには答えなかった。
ただ。
全員、
薄々理解し始めていた。
レオン・アルバーンが居る時だけ。
このパーティは、
戦場として成立している事に。
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