86:幕間:炎を継ぐ家
本日もよろしくお願いします。
夜のリスベル中央区。
石畳の通りを、
セレナは一人歩いていた。
昼間の冒険者区画とは違う。
静かで整えられた街並み。
大きな屋敷。
灯る魔導灯。
警備用の結界。
その一角。
重厚な門の前でセレナは足を止めた。
門へ刻まれている炎を象った紋章。
召喚士家系。
フォルティス家。
「お嬢様、お帰りなさいませ」
使用人が頭を下げる。
セレナは軽く頷き屋敷へ入った。
長い廊下。
壁へ飾られた肖像画。
歴代当主達。
フォルティス家は貴族ではない。
だが、かつての大戦時代。
祖先の一人が、
高位召喚獣イフリートを使役し、
戦場一帯を焼き払った事で名を上げた家系だった。
その戦功によって、
王都でも名を知られる召喚士家系となった。
以来。
フォルティス家は代々炎属性召喚を受け継いでいる。
サラマンダーやフレイムバード、
そして、
イフリート。
炎系統召喚において、
王都でも名の知られた家系。
王国軍の召喚士部隊の中に、
フォルティス家の者も所属している。
そして、セレナもまた、
幼い頃から、
“次代の召喚士”として育てられてきた。
「セレナ様」
廊下の先。
執事が静かに一礼する。
「契約状態に変化はございますか?」
「問題ありません」
「左様でございますか」
当然のような会話。
高位召喚獣との契約は、
絶対ではない。
召喚獣側との相性。
精神状態。
魔力循環。
僅かな綻びで、
急激に契約が不安定化する事もある。
特に、イフリート級ともなれば尚更だった。
この家では、
高位召喚獣との契約は誉れだった。
特に、イフリート。
炎属性高位召喚。
若い世代で契約できる者は少ない。
セレナが契約を成功させた時、
屋敷中が騒ぎになったほどだ。
『祖先の再来』
そう囁く者すら居た。
期待。
誇り。
羨望。
そういうものを、
セレナは幼い頃から受け続けてきた。
だからこそ、
召喚士とは、
その圧倒的な火力を振るう存在だと理解している。
戦場を焼く者。
圧倒する者。
それが、
召喚士だった。
だが。
「……意味分かんないんですよね」
自室へ入った瞬間セレナが呟く。
脳裏へ浮かぶのは。
4羽の妖精鳥。
そして、ベンチへ座りながら、
自然に妖精鳥と戯れていた青年。
レオン・アルバーン。
「妖精鳥ですよ……?」
思わず頭を抱える。
低位召喚。
補助用。
本来なら、
戦場の主役にならない存在。
なのに。
四羽同時展開。
長時間維持。
異常な索敵精度。
しかも、本人に自覚が無い。
「……何なんですか、あれ」
セレナがベッドへ倒れ込む。
その時、部屋の空気が僅かに熱を帯びた。
赤い魔法陣。
そこから、
炎を纏った蜥蜴型召喚獣が姿を現す。
サラマンダー。
セレナの最初の契約召喚獣。
「んー……」
セレナがその頭を撫でる。
サラマンダーは、
気持ち良さそうに目を細めた。
長年連れ添った契約召喚獣。
当然、信頼関係はある。
感情も伝わる。
危険察知も、なんとなく伝わってくる。
だが、レオン達とは何かが違う。
もっと。
深い。
「……あんなに自然に、
常時召喚してる人なんて聞いた事ないんですけど」
サラマンダーが小さく喉を鳴らす。
まるで、同意するように。
セレナは天井を見る。
召喚士の名家、そんな環境で育った。
だからこそ、理解できる。
レオン・アルバーンは、
召喚士として明らかに異質だ。
だが、その異質さが、
何なのかまでは分からない。
分からないからこそ。
気になる。
「……また話聞きに行こうかな」
ぽつりと漏れた言葉。
その瞬間。
サラマンダーが、
呆れたように炎尾を揺らした。
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