85:召喚士の常識
本日もよろしくお願いします。
昼下がり。
リスベル冒険者ギルドの裏手にある訓練場は、
今日も冒険者達で賑わっていた。
木剣を打ち合う音。
魔術の炸裂音。
怒鳴り声。
そんな喧騒の端。
訓練場の隅で、レオンはベンチへ座っていた。
「……」
その肩には妖精鳥。
一羽。
二羽。
三羽。
さらに、銀色の羽を広げてもう一羽が、
上空を緩やかに旋回している。
レオンは、ぼんやりそれを眺めていた。
その横で、一羽の妖精鳥が器用に水筒を運んでくる。
「ありがとう」
レオンが受け取る。
すると今度は、別の一羽が肩へ止まった。
そのまま羽を小さく震わせる。
まるで、甘えるように。
「はいはい」
レオンが苦笑する。
その光景を、少し離れた木陰からセレナが見ていた。
「……何なんですか、あれ」
思わず呟く。
召喚獣。
それは本来、
戦闘のために呼び出す存在だ。
常時展開するものじゃない。
まして、妖精鳥は低位召喚獣。
燃費こそ比較的軽いが、
戦力としては極めて小さい。
普通の召喚士なら、長時間維持する意味が無い。
なのに。
レオンはまるで呼吸するように使役している。
しかも、完全に懐いているように見える。
主従というより、共生に近い。
「……いや、本当に何なんですか」
セレナが頭を抱える。
その時、上空を飛んでいた妖精鳥が、不意に旋回した。
同時に、レオンが木陰へ視線を向ける。
「……セレナさん?」
「っ!?」
セレナの肩が跳ねた。
「な、何で分かったんですか!?」
レオンが少し困ったように笑う。
「妖精鳥が教えてくれました」
「……」
セレナが黙る。
やっぱりおかしい。
「いや、だから何でそこまで分かるんですか……」
「え?」
レオンが首を傾げる。
「魔力で繋がってるので、何となくですけど」
「“何となく”の精度がおかしいんですよ……」
セレナが額を押さえながら、レオンの前まで歩いてくる。
すると、肩に止まっていた妖精鳥が、僅かに羽を広げた。
警戒。
セレナが、ぴたりと足を止める。
「……守ってる?」
「え?」
「いえ……」
妖精鳥が、レオンへ擦り寄る。
レオンは自然にその頭を撫でた。
完全に信頼している。
召喚獣への接し方じゃない。
長年連れ添った相棒かのような、そんな距離感だった。
「……本当に、他の召喚獣と契約できなかったんですか?」
「できませんでしたね」
レオンが苦笑する。
「何回か試したんですけど」
「何でなんですかね」
セレナが少しだけ考える。
そして。
「……ちょっと、
杖握ってもらっていいですか?」
「杖?」
セレナが短杖を差し出した。
召喚士用の杖。
魔力の流れを補助的に視るための道具でもある。
「魔力量だけでも見ます」
「はぁ……」
レオンが、
言われるまま杖を握る。
その瞬間。
杖の先端が、淡く発光した。
セレナの目が細まる。
「……多い」
「え?」
「魔力量、普通に高いです」
下級召喚獣だけで終わる量じゃない。
むしろ。
高位召喚契約を目指せる程度にはある。
だが。
「……?」
セレナが、僅かに眉を寄せた。
魔力の流れ。
何か違和感がある。
揺らぎ。
循環。
妙に、均一じゃない。
それでいて、どこか自然にまとまっている。
「……何これ」
思わず漏れた声。
すると。
肩の妖精鳥が、僅かに羽を広げた。
警戒するように。
セレナが、ゆっくり目を細める。
「……やっぱり、この子達、あなたに懐きすぎてません?」
「そうですか?」
レオンは、
本気でよく分かっていない顔だった。
妖精鳥達は、
まるで長年連れ添った相棒のように、
自然にレオンへ寄り添っている。
だが。
セレナには、
それ以上に――
“馴染みすぎている”ようにも見えた。
⸻
召喚士。
それは、
召喚獣と契約を結ぶ職だ。
だが契約とは、
単純な主従関係ではない。
相性。
魔力循環。
精神適性。
気質。
それらが噛み合って、
初めて成立する。
だからこそ。
召喚士自体が少ない。
属性魔力を持っているだけでは、
契約できない。
そして。
契約できたとしても、
全ての召喚獣を扱える訳ではない。
炎に適性を持つ者。
水と相性が良い者。
高位召喚へ愛される者。
逆に。
全く契約できない者も居る。
それが、
召喚士だった。
そして。
レオン・アルバーンは。
妖精鳥以外、契約できない。
なのに。
その妖精鳥だけは、
異様なほど深く馴染んでいる。
「……意味分かんない」
セレナが小さく呟く。
その声に。
レオンは、
少し困ったように笑った。
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