82:熊型討伐依頼
本日もよろしくお願いします。
リスベルを出発してから、
数時間。
森の空気は少しずつ重くなっていた。
「……静かですね」
レオンが小さく呟く。
その肩には三羽の妖精鳥。
そして。
もう一羽だけは、既に高く上空へ飛ばしていた。
木々より遥か上。
森全体を見渡すように、静かに旋回している。
セレナが、その姿を見上げた。
「……あの子だけ、随分高く飛ばすんですね」
「え?」
レオンも空を見上げる。
「あぁ、あれは索敵役なので」
自然な返答。
だが、セレナは少しだけ違和感を覚えていた。
妖精鳥は、本来索敵向きじゃない。
ましてや、長時間あの高度を維持するなど。
普通は、魔力消費が重い。
だがレオンは、まるで当たり前のように扱っている。
⸻
ガレスが周囲を見渡した。
「村の連中も、かなり警戒してたらしい」
「畑仕事も止めてるって話だったな」
バルトが肩を鳴らす。
「熊型なんざ、村人じゃどうにもならねぇよ」
その言葉にレオンも頷いた。
熊型は、狼型や猿型とは違う。
群れの規模は小さい。
だが、一体一体が重い。
力。
耐久。
突進力。
まともに受ければ、
どれだけ鍛えている人間でも骨ごと持っていかれる。
しかも、この辺りの森は、そこまで魔境に近くない。
レオンが、
ふと周囲を見る。
「……この辺りって、熊型が出る場所なんですか?」
ガレスが眉を寄せた。
「いや、珍しいな」
「もっと奥なら分かるんだが」
バルトが鼻を鳴らす。
「餌でも減ったんじゃねぇの?」
その横で、セレナが、少し考えるように森を見る。
「……それにしても。浅すぎる気がしますが...」
短い沈黙。
だが、今は原因究明が目的じゃない。
まずは討伐。
ガレスが軽く手を叩いた。
「行くぞ」
「レオン、周囲の警戒を頼む」
「はい」
レオンの肩から、二羽目の妖精鳥が飛び立つ。
セレナが、その動きを目で追った。
「二羽……」
小さな呟き。
普通、妖精鳥は補助用。
長時間維持する召喚じゃない。
しかも。
二羽同時に飛ばす。
それだけでも、少し珍しい。
だが、レオンは、
当たり前のように扱っている。
⸻
さらに森を進む。
その途中で、レオンがふと足を止めた。
同時に。
上空を飛ぶ妖精鳥が、不自然に旋回する。
「……前方、木の裏に一体います」
全員の空気が変わる。
ガレスが即座に盾を構えた。
「距離は?」
「三十歩くらいです」
ガレスが頷く。
「バルト、右から回れるか」
「任せろ」
低く姿勢を落とす。
セレナも短杖を構えた。
「サラマンダー、呼びます」
赤い魔法陣。
そこから、炎を纏った蜥蜴型の召喚獣が現れる。
熱気。
空気が揺らぐ。
レオンが、少し目を細めた。
召喚獣。
しかも、高火力型。
自分とは、全く違う召喚。
その瞬間、木々を揺らしながら、巨大な影が飛び出した。
熊型。
黒い毛皮。
人間より遥かに大きい体。
咆哮。
地面が震える。
「来るぞ!!」
ガレスが前へ出る。
真正面からは受けない。
中盾を斜めに構える。
熊型の腕が振るわれる。
凄まじい衝撃。
だがガレスは、完全には止めない。
流す。
体勢を僅かに逸らす。
その瞬間、横からバルトが踏み込んだ。
「おらぁ!!」
魔力を纏った拳。
鈍い衝撃音。
熊型の身体が、僅かによろめく。
そこへサラマンダーが吐き出した炎弾が着弾。
熊型の肩を焼いた。
咆哮。
だが、止まらない。
「硬ぇな……!」
バルトが舌打ちする。
熊型は狼型より遥かに頑丈だ。
その時、レオンが声を上げた。
⸻
「左からもう一体!!」
セレナが目を見開く。
まだ見えていない。
だがその直後。
木を薙ぎ倒しながら、二体目が突っ込んできた。
「っ!?」
ガレスが即座に動く。
だが、二方向から同時に来ると、止められない。
その瞬間、レオンの妖精鳥が、二体目の顔面へ飛び込んだ。
羽ばたき、視界を塞ぐ。
熊型の動きが、僅かに鈍る。
「助かる!!」
ガレスが盾で軌道を逸らした。
そこへ、バルト。
「下がれぇ!!」
魔力強化した拳が、熊型の側頭部へ叩き込まれる。
さらに、セレナ。
「焼き払え!!」
サラマンダーの炎。
爆炎。
熱風。
森へ火が走る。
熊型が、苦悶の咆哮を上げた。
その間にも、レオンは周囲を見続けていた。
妖精鳥。
木々。
死角。
逃走経路。
そして上空。
四羽目の妖精鳥が、森全体を俯瞰している。
「右奥、もう一体います!!」
「まだ居んのかよ!?」
バルトが顔を歪める。
だが、レオンの警告がある。
だから、不意を打たれない。
ガレスが、小さく息を吐いた。
「……本当に便利だな」
レオンは少し困ったように笑う。
その横で、セレナだけが、レオンを見ていた。
おかしい。
索敵だけじゃない。
位置把握。
接敵予測。
警告速度。
全部が、異様に正確だった。
しかも。
妖精鳥は、ただ上空を飛んでいるだけに見える。
なのに、まるで、森全体を見ているように動く。
セレナが僅かに眉を寄せた。
「……何なんですか、あの人」
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