77:五秒
本日もよろしくお願いします。
大型の狼型魔獣が低く唸る。
包囲は崩れていない。
ノアが前へ出ている。
セスは後方から矢で牽制。
アイリスは、
荒く息を吐いていた。
「っ……はぁ……!」
炎魔術は高威力だが、
その代わり、消耗が激しい。
大型へ決定打を撃てる程の魔力は、
もう残っていなかった。
大型が再び踏み込む。
ノアが、
曲剣で牙を流す。
セスの矢。
大型の眼前を掠め、僅かに動きを逸らす。
だが、止まらない。
大型は、明らかに他の個体より強い。
力も、速さも。
そして、
群れを率いる知能も。
レオンは、
戦場を見渡した。
このまま削り合えば、
先に崩れるのはこちら。
必要なのは、一瞬の隙。
レオンが、
即座に叫ぶ。
「アイリスさん!!
視界を塞げる魔術はありますか!?」
以前のアイリスなら、
一瞬考えていた。
だが今回は違う。
「できます!!」
即答だった。
「大きいのは無理です!」
「でも、小さい爆発なら、目の前で起こせます!」
レオンが、小さく頷く。
反応が早い。
もう、戦場の速度へ、
置いていかれていない。
「何秒必要ですか!?」
「五秒!!」
その答えを聞き、
レオンが即座に声を飛ばす。
「ノアさん!!セス!!」
「五秒だけ、大型を止めて下さい!!」
ノアが大型を睨む。
「……五秒かよ」
セスが苦笑した。
「きついなぁ……!」
そう言いながら、弓を背へ回す。
代わりに腰から、
鉄製のメイスを抜いた。
大型が地面を蹴る。
速い。
ノアが前へ出る。
真正面では受けない。
曲剣を滑らせ牙を逸らす。
その横から。
セスのメイス。
鈍い衝撃音。
大型の頭が、僅かに揺れた。
だが止まらない。
重い。
「っぐ……!」
ノアが、
地面を滑る。
セスも、
片腕へ衝撃が走る。
それでも。
下がらない。
その間。
レオンは、
小型を捌いていた。
一体、飛び込んでくる。
小剣で爪を逸らす。
そのまま、
妖精鳥を突っ込ませ、視界を塞ぐ。
一瞬の硬直。
そこへ。
レオンの小剣。
深追いはしない。
倒す必要は無い。
“時間を稼ぐ”
それだけでいい。
アイリスは狙いを定めている。
大型がノアへ噛み付こうとする。
「させるかよ!!」
ノアが、
曲剣を滑らせる。
流す。
その横から。
セスのメイスが、
大型の鼻面を殴り飛ばした。
「――行きます!!」
アイリスの詠唱完了。
次の瞬間。
大型の眼前で、
小規模爆発が炸裂した。
閃光。
大型の視界が、
一瞬潰れる。
その瞬間。
ノアが消えた。
低く。
地を滑るように踏み込む。
大型の懐。
牙の下。
喉元。
曲剣が深く潜り込む。
そのまま。
斜めに切り上げた。
肉が裂ける。
血飛沫。
大型が絶叫した。
だが。
終わらない。
ノアは止まらなかった。
流れるように、
身体を回す。
曲剣で喉から首筋までを一気に裂く。
骨。
筋肉。
血。
全てを断ち切り。
大型の首が、
地面へ落ちた。
そして。
周囲の狼型魔獣達の統率が崩れる。
包囲が乱れた。
「逃がすな!!」
セスの矢。
ノアの曲剣。
そこから先は、
早かった。
数分後。
最後の狼型が、
地面へ崩れ落ちる。
静寂。
荒い呼吸だけが、
森へ残った。
ノアが曲剣を肩へ担ぐ。
「……はぁ、死ぬかと思った」
「実際かなり危なかったですよ」
敵影が無いことを確認したレオンが、
その場へ座り込んだ。
緊張が切れたのか、肩で息をしている。
セスが小さく笑う。
「でもまぁ、悪くねぇ戦いだったな」
アイリスが、
疲れた顔で頷いた。
そして。
ノアが、
少しだけ視線を逸らしながら言った。
「……その」
「指示、悪くなかった」
レオンが少しだけ目を丸くする。
その横で、セスが吹き出した。
「素直じゃねぇなぁお前」
「うるせぇ」
空気が少しだけ緩む。
噛み合わない歯車が、
ようやく噛み合った。
ここまで読んでいただき、ありがとうございます。
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