74:パーティの弱点
本日もよろしくお願いします。
三度目の戦闘を終え。
ノアが曲剣を軽く振って血を払った。
「雑魚ばっかだな」
足元には狼型魔獣の死骸。
戦闘自体は危なげなく終わっている。
だが。
レオンは小さく周囲を見回していた。
ノアは前へ出る。
セスはそれを援護できる。
アイリスの火力も高い。
しかし。
この班には、
“受ける役”が居ない。
ノアは避ける前衛だ。
セスも本職は遊撃。
アイリスは軽装。
レオン自身は前へ出られない。
つまり。
押し込まれた瞬間、崩れる。
おそらく、現場での対応力を見るために、意図的にそうなるように班分けされたのだろう。
だから必要なのは、「止める」ことじゃない。
“流れを止めないこと”
レオンは小さく息を吐いた。
「……止まらないように、組むしかないか」
「ん?」
アイリスが首を傾げる。
「いえ、独り言です」
その時。
ノアが振り返りもせず声を上げた。
「行くぞ!」
そのまま前へ飛び出す。
以前より、一言増えた。
最低限。
援護の存在は認識し始めている。
「はいはい」
セスが、気怠そうにそれでいて素早く弓を構える。
レオン達もその後を追った。
⸻
ガサッ!!
木陰から狼型の魔獣が飛び出す。
二体。
「前!」
ノアが即座に踏み込んだ。
曲剣が閃く。
滑るような斬撃。
一体の首筋が裂け、鮮血が飛ぶ。
速い。
D級としては、かなりのスピードだ。
だが。
「左からもう一体!」
レオンが叫ぶ。
ノアは聞かない。
自分の感覚だけで身体を捻る。
ギリギリ回避。
そこへセスの矢。
狼型の口内へ突き刺さる。
「危ねぇな」
「避けれてるだろ」
「バカが、今のは俺の援護込みだ」
ノアが舌打ちする。
だが反論はしない。
その頃、別方向からもう一体。
「アイリスさん、後ろ!」
レオンが声を上げる。
アイリスが反応する。
だが。
一瞬。
視線を動かした。
自分で確認したのだ。
その半拍。
わずかな遅れ。
狼型の爪が迫る。
「っ――!」
火花。
レオンが咄嗟に飛ばした妖精鳥が、
狼型の顔面へ体当たりした。
僅かに軌道がズレる。
その隙にアイリスの炎弾が炸裂。
狼型を吹き飛ばした。
「……すみません」
アイリスが、悔しそうに眉を寄せる。
「大丈夫です」
レオンはすぐ答えた。
「今ので対応できたなら、問題ありません」
だが、レオンは理解していた。
アイリスは、真面目だ。
だからこそ、一度、自分で確認する。
その癖がある。
実戦では、その一瞬が命取りになる。
「来るぞ!!」
再びノアの声。
今度は三体。
ノアが前へ出る。
セスの矢が飛ぶ。
アイリスが炎で牽制。
レオンは、戦場全体を見る。
誰がどこへ動くか。
どこが空くか。
どこが危険か。
以前より、ずっと自然に見えるようになっていた。
「ノアさん、右へ流して下さい!」
「は?」
「正面固定すると包まれます!」
だがノアは、その指示を無視した。
真正面から、狼型へ踏み込む。
狼型の一撃を受け止めた後、曲剣が閃く。
一体目を切り裂く。
しかし。
二体目が死角から迫る。
「ノア!!」
セスの矢。
射線が塞がれている。
間に合わない。
狼型の牙が、ノアの脇腹を裂いた。
「っぐ……!」
それでもノアは、反射的に曲剣を振るう。
一閃。
狼型の首が半ばから断ち切られた。
血飛沫。
狼型が地面へ崩れ落ちる。
その直後、ノア自身も大きく後ろへ飛び退いた。
脇腹から血が流れている。
空気が変わった。
その瞬間。
レオンが、珍しく声を荒げた。
「ノアさん!!」
全員が、一瞬動きを止める。
レオンの声だった。
いつもより、ずっと強い。
「今の、なんで正面で受けたんですか!!」
レオンは続ける。
「ノアさんの動きなら、流せたでしょう!」
「真正面で止めたら、次の動きが遅れるって分かっていたはずです!」
ノアが目を見開く。
レオンは、さらに続けた。
「前へ出るなとは言ってません!」
「でも!」
「見えてない状態で突っ込むのは違う!!」
感情が、漏れていた。
怒りというより、焦りに近い。
鉱山村で何度も見た、判断ミス一つで、人が死ぬ瞬間。
それを、思い出していた。
ノアも、流石に押し黙る。
セスが静かに目を細めていた。
レオンがここまで声を荒げるのは珍しい。
それだけ今のは危なかった。
数秒の沈黙。
その後。
レオンは小さく息を吐いた。
そして。
普段通りの声へ戻る。
「……次から、前へ出る時は必ず声を掛けて下さい」
「援護、合わせます」
怒鳴ったまま終わらない。
そこには、死なせたくないという意志だけがあった。
ノアは少しだけ視線を逸らした。
「……チッ」
それから小さく呟く。
「……分かったよ」
完全ではない。
まだ、反発もある。
だが、少しだけ。
この即席パーティは、噛み合い始めていた。
森の奥。
目的地点は、もう近い。
ここまで読んでいただき、ありがとうございます。
続きが気になると思っていただけたら、ブックマークや評価をいただけると励みになります。




