69:牙の帰還
本日もよろしくお願いします。
療養開始から、
数日後。
鉱山村グランディアの様子は、落ち着いていた。
防衛隊の兵士たちも、
襲撃の頻発は起こらなくなったためか、
少しずつ余裕が戻り始めている。
そんな昼下がり。
冒険者組が泊まる宿の一室へ。
「邪魔するぞ」
ゼインが顔を出した。
「お、ゼインさん」
ベッドへ腰掛けていたカイルが、
顔を上げる。
まだ包帯だらけだ。
だが、
最初の頃よりは大分マシになっていた。
「動いて大丈夫なんですか?」
レオンが聞く。
ゼインは苦笑した。
「大丈夫じゃねぇ」
即答だった。
「まだ身体痺れてるし、脇腹も痛ぇ」
「ただまぁ、歩ける程度には戻った」
その後ろから、マークも部屋へ入ってくる。
「本当は、あと数日は安静にして欲しいんですけどね」
「この人、話を聞かないので」
「王都にも報告に戻らなきゃならん」
ゼインが肩を竦める。
「それに」
ちらりと、マークの背中に背負われている長箱を見る。
魔封布で厳重に封じられた、四つ腕の切断腕。
「あれも、早めに持って帰りてぇ」
その言葉で、空気が少し静かになる。
未だに時折、箱の内側で小さく何かが動く音がする。
完全に死んでいるとは、どうしても思えなかった。
「……気味悪ぃよなぁ」
セスが顔をしかめる。
「正直、夢に出ましたよあれ」
「分かる」
ミナも真顔で頷いた。
すると、ゼインが小さく笑う。
「だが、持ち帰る価値はある」
「王都の連中も、流石に動くだろ」
マークも頷いた。
「異常個体から切り離した腕が数日経ってもまだ動いているなんて前例、聞いたことがありませんからね」
「魔境対策局案件です」
その単語に、レオンが少しだけ反応する。
「魔境対策局……」
「王都の専門部署だ」
ゼインが説明する。
「魔境関連の調査、異常個体の記録管理、大規模討伐の調整なんかをやってる」
「まぁ、堅物ばっかだがな」
そこで、
ゼインは少しだけ真面目な顔になった。
「……で」
視線が、
カイルへ向く。
「お前」
「はい?」
「王都に来る気ねぇか」
部屋が静まった。
カイルが、
目を丸くする。
「え?」
「俺は、お前が気に入った」
ゼインは真っ直ぐ言った。
「今はまだまだ粗いが、感覚は悪くねぇ。
あの土壇場で、一段上の強化へ届いたのはデカい。
ちゃんと鍛えりゃ、もっと化ける」
カイルは、
しばらく言葉を失っていた。
まさか。
Bランクパーティのリーダーから、
そんな言葉を掛けられるとは思っていなかった。
「……いや、でも俺なんて」
「そういう返しする奴は、嫌いじゃねぇ」
ゼインが笑う。
「勘違いしてる馬鹿より、よっぽどいいぜ」
カイルは、少し困ったように頭を掻いた。
「……考えときます。とりあえずは傷を治してからですし」
「おう。期待してるぜ」
ゼインは満足そうに頷く。
⸻
レオンは、
少しだけ胸の奥がざわつくのを感じていた。
当然だと思った。
カイルは強い。
前へ出続けた。
限界を超えて、それでも踏み込んだ。
今回の戦いにおいて、自分たちの中で一番成長したのもきっと彼だと納得もできる。
ゼインとカイルの相性もいいだろう。
だが。
同時に、少しだけ羨ましいとも思った。
⸻
その横でミナが、
露骨に羨ましそうな顔をしていた。
「えぇ〜……いいなそれ……」
「お前はまず、自分の動きのズレ直せ」
シエラが即座に刺す。
「うぐっ」
図星だった。
セスが、小さく笑う。
「まぁでも、今回は全員伸びたろ」
その言葉に、
誰も否定しなかった。
⸻
四つ腕との戦い。
あの死線での経験は、
確実に、全員を変えていた。
そして。
ゼインが立ち上がる。
「……そろそろ行く」
「これから村を出る予定だ」
⸻
「短い間だったが、悪くなかったぜ。王都にきたら声かけろよ?」
その言葉に、冒険者組も、自然と笑った。
黒狼の牙。
圧倒的な実力。
歴戦の経験。
だが、それだけじゃない。
“生き残る冒険者”とは何か。
その在り方を、
彼らは、
身をもって教えてくれた気がした。
ここまで読んでいただき、ありがとうございます。
これにて黒狼の牙とはお別れになります。
ゼインたちは中々いいキャラになったんじゃないでしょうか。
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