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足りない召喚士の戦い方  作者: トリバード
異常個体:四つ腕

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66/135

66:生還

本日もよろしくお願いします。

しばらく誰も動けなかった。


森には、荒い呼吸だけが響いている。


倒れた木々。

抉れた地面。

黒く染まった血の跡。


戦闘の痕跡が、そこら中に残っていた。


「……はぁ……ッ」


カイルが、

その場へ膝をつく。


握っていた槍が、

力なく地面へ落ちた。


「おい、無理すんな」


ゼインが声を掛ける。


だが、言った本人も、

立っているのがやっとだった。


雷光は既に消えている。


呼吸も荒い。


左脇腹を押さえていた。

そこから、じわりと血が滲んでいる。


マークが即座に寄る。


「座ってください」


「……悪ぃ」


ゼインが素直に従った。


その様子を見て、

セスが顔をしかめる。


「マジかよ……

アンタまでそんな状態か」


「掠っただけでこれだ」


ゼインは笑う。


だが。


その直後、小さく咳き込んだ。

血が混じる。


マークが眉を寄せた。


「内側をやられてますね」


「命に別状は?」


シエラが聞く。


「今すぐどうこうはありませんが、しばらく全力戦闘は無理です」


ゼインが、面倒臭そうに舌打ちした。


「……やっぱキツいな」


「今回はちょっと、流し込みすぎた」


「流し込み?」


ミナが首を傾げる。


ゼインは、軽く痺れた指を動かした。


「雷魔力で身体強化してんだよ」


「ただ、出力上げすぎると身体が痺れるんだよ。神経を無理やり動かしてるようなもんだからな。

普段ここまでは使わねぇんだが……」


そこで、小さく息を吐く。


「相手が悪かった。こうまでしなけりゃ死んでたぜ」


その言葉で、空気が重くなる。

ゼインですら、そう言う相手。


それが四つ腕だった。



一方。


「っつぅ……!」


カイルが顔を歪める。

レオンが肩を貸していた。


「無理しないでください」


「いや、これくらい――」


立とうとした瞬間。


足がもつれた。


「うおっ!?」


そのまま地面へ倒れ込む。


マークが即座に確認した。


「骨にヒビが入っていますね。あと筋繊維もかなり傷んでいそうですね」


「マジかぁ……」


カイルが天を仰ぐ。

すると、ゼインが笑った。


「そりゃそうだ」


「急に一段上の強化なんざ使えば、身体壊れるに決まってる」


「……やっぱ、あれが原因だったんすか?」


「そりゃあな」


即答だった。


「だが、届いてたぞ」


ゼインはニヤリと笑う。


「言ったろ?お前、強くなるって」


カイルが少しだけ目を見開く。


「……はは」


そのまま、力なく笑った。



近くでは。


シエラが、

折れた剣を見つめていた。


刀身が途中から砕けている。


「……最悪」


露骨に落ち込んでいる様子だった。


「いや、生きてるだけ十分でしょ……」


ミナが引き気味に言うが、

シエラは静かに首を振る。


「私みたいなのはそもそも攻撃を食らったら終わりなの。武器は命と同義よ。武器壊すの、三年ぶり」


かなり重い失敗らしい。


その横で。


ドルガは黙々と、周囲の警戒を続けていた。


傷は少ない。

盾にも、大きな損傷は無かった。


セスが苦笑する。


「アンタ、無傷に近いな……」


「役割を守っただけだ」


ドルガは短く答える。


「出来んことはやらん」


それだけ。


だが、それが出来るから、

生き残っているのだと分かった。



「……あっぶなかったぁ」


ミナがその場へ座り込む。


服のあちこちが裂け、

細かな裂傷が出来ていた。


だが、致命傷は無い。


「避けられてるつもりだったんだけどなぁ……」


ぽつりと漏らす。


「全然足りてなかった」


その言葉に、セスが少しだけ笑った。


「やっと自覚したかこのバカ」


「うっさい」


悔しそうだった。



その後、レオンが小さく口を開く。


「……結局、俺は全然何も出来ませんでした。

何もかも足りませんでした」


その言葉に、

セスが真顔になった。


「は?」


「いや、指揮も出来なかったし、戦闘も――」


「何基準で話してんですかあんた」


即座に返された。


「普通、Dランクであんだけ後衛しっかり回せる奴なんて居ないんだよ」


「自覚ないの、逆に怖ぇですよ」


皮肉っぽい声音。


だが、そこに、嫌味は無かった。


レオンは少しだけ困った顔をする。


するとゼインが、地面へ座ったまま笑う。


「まぁ、自己評価低い奴は、伸びるかそのまま折れるか...」


「少なくとも俺は、お前の戦い方、嫌いじゃねぇぞ」


その言葉に、レオンは少しだけ目を丸くした。


そして。


マークが、静かに口を開く。


「……とはいえ」


全員の視線が向く。


「この状態で、さらに奥の探索は無茶です」


誰も反論しなかった。


ゼインも、静かに頷く。


「一旦帰るぞ」


「四つ腕が逃げた先、確認はしてぇが……」


そこで、脇腹を押さえながら笑う。


「今の俺じゃ、返り討ちだ」


悔しそうだった。


だが、無理に進まない。


それが、生き残る冒険者たる所以だった。


「帰還準備するよ」


シエラが立ち上がる。

ドルガも荷物を持つ。


全員、

ボロボロだった。


それでも。


なんとか、誰一人、欠けてはいない。


その事実だけが、

今は何より大きかった。


ここまで読んでいただき、ありがとうございます。

四つ腕戦、これにて一旦終了です。


狼型の異常個体と比べて明らかに四つ腕の方が強いです。

補足としては、狼型は若い個体が異常個体に進化してすぐの状態で己の力の全能感に溺れている状態だったのに対し、四つ腕は元々猿型魔獣の群れの長で、異常個体への進化からそこそこの時間が経っている状態でした。

長く生きた異常個体は徐々に元々の姿形から離れて異形の姿に変わっていきます。肩の後ろから生えていた腕が異形化の始まりだったんですね。


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