65:異形の狩人
本日もよろしくお願いします。
轟音。
投げ込まれた狼型の死骸が、
地面を抉る。
土煙が上がる。
その向こう。
倒木の山へ腰掛けた異形が、
赤黒い瞳でこちらを見下ろしていた。
四本腕。
銀色の体毛。
その中で。
肩裏から生えた二本だけが、
異様な黒を帯びている。
長い。
腕が、
長すぎる。
その異形さが、
人型であることを逆に不気味にしていた。
「……ッ」
カイルが槍を握り直す。
すると。
四つ腕が、
ゆっくりと指を動かした。
直後。
森奥から、
複数の唸り声。
「来るよ!」
シエラが叫ぶ。
左右。
木々の上。
下草の中。
狼型が一斉に飛び出した。
「チッ!」
ゼインが踏み込む。
雷光。
戦斧が狼型をまとめて薙ぎ払う。
だが。
四つ腕は動かない。
木の山の上から、じっと見ている。
「指示を出してやがるのか...…!」
セスが矢を放つ。
狼型の目を射抜く。
その瞬間。
四つ腕が動いた。
消えたように見えた。
「上!!」
シエラの声の直後、
巨影が木々を踏み潰しながら落ちてくる。
速い。
巨体の動きじゃない。
ゼインが戦斧を構える。
次の瞬間。
轟音。
長すぎる腕が、
横殴りに叩き込まれる。
「ッ……!!」
ゼインが受け止める。
だが。
重い。
地面が割れる。
そのまま。
腕が、死角から伸びた。
「な――」
予測がズレる。
ゼインが無理やり身体を捻り距離を取る。
横腹に掠める。
それだけで防具が軋んだ。
「気色悪ぃ動きしやがる……!」
ゼインが笑う。
だが、目は笑っていない。
四つ腕が、低く喉を鳴らした。
次の瞬間。
周囲の狼型が、
再び動く。
「邪魔させません!」
マークが魔術を展開。
水と土の混成魔力。
地面が泥濘へ変わる。
狼型の足が沈む。
そこへ。
ドルガが突っ込んだ。
大盾で押し潰す。
さらに、
スレッジハンマーの鈍い破砕音。
ミナも横から飛び込む。
「はぁッ!!」
双剣が狼型の喉を裂く。
だが。
四つ腕は、
その戦場全体を見ていた。
赤黒い瞳が、
静かに動く。
前衛。
後衛。
負傷者。
位置。
視線。
まるで。
戦況を整理しているみたいに。
⸻
「……マジかよ」
セスの声が乾く。
その瞬間、四つ腕が、
倒木を掴んだ。
片腕で巨大な木を軽々と持ち上げる。
直後。
どす黒い魔力が、
倒木へ絡みついた。
ギチギチと、
嫌な音が響く。
木が、
黒ずんでいく。
「ゼイン!!」
シエラが叫ぶ。
次の瞬間。
四つ腕が、
倒木を振り抜いた。
轟音。
ゼインの戦斧と、
真正面から激突する。
衝撃。
暴風。
普通なら砕けるはずの木が。
砕けない。
「……ッ!!」
ゼインが地面を滑る。
真正面から押し負けた。
「なんだその馬鹿力は……!」
セスが叫ぶ。
四つ腕は笑っていた。
楽しそうに。
そのまま。
四本の腕が、同時に動く。
上から。
横から。
死角から。
倒木が、
嵐のように振るわれる。
ゼインですら、
完全には捌き切れない。
そこへ。
狼型が飛び込む。
「くそッ!」
カイルが槍で迎撃。
だが、疲労が重い。
反応が一瞬遅れる。
狼型を弾いた直後、四つ腕の視線がカイルへ向いた。
嫌な予感。
次の瞬間、倒木が飛ぶ。
「カイル!!」
レオンが叫ぶ。
避けきれない。
そう思った瞬間。
カイルの身体へ、
魔力が走った。
熱。
全身の血流が、
一気に加速する。
今までより自然に。
滑らかに。
それでいて、激しく。
身体へ、魔力が通る。
「――ッ!!」
踏み込む。
速い。
今までより、
明らかに。
倒木を紙一重で回避。
そのまま。
カイルが、
四つ腕の懐へ飛び込んだ。
「おおおおおッ!!」
渾身の突き。
槍が、四つ腕の腹に深く刺さる。
四つ腕の動きが止まった。
ほんの一瞬。
だが。
十分だった。
ゼインが笑う。
雷光が、爆ぜた。
⸻
「カイル――」
戦斧を構える。
全身へ、
雷が奔る。
「お前、最高だぜ!!」
次の瞬間。
雷鳴。
戦斧が、
銀色の腕を斬り飛ばした。
鮮血。
絶叫。
初めて。
四つ腕が、
感情を剥き出しにした。
だが。
切断面から。
黒い何かが、
蠢き始める。
筋肉じゃない。
血管でもない。
どす黒い繊維。
生き物のように、
断面を覆い始める。
「……再生してるのか!?」
マークが息を呑む。
四つ腕が、
慟哭を上げた。
怒り。
痛み。
苛立ち。
その全てを混ぜたような咆哮。
そのまま四つ腕が後方へ跳ぶ。
巨体とは思えない速度。
木々を踏み潰しながら、
森奥へ消えていく。
狼型たちも、
一斉に退いた。
静寂。
誰もすぐには動けない。
荒い呼吸だけが響く。
その時。
森奥。
消える直前。
赤黒い瞳が、
こちら側の顔を覚えるかのように見た。
そして。
最後にじっとレオンを舐めるように見ていた。
口元が、
僅かに歪んだ気がした。
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