62:森へ
本日もよろしくお願いします。
翌朝。
空気は冷えていた。
鉱山村グランディア外周。
防壁前へ、冒険者たちが集まっている。
「防衛は任せてください」
エリスが、真っ直ぐな目で言った。
その表情には、以前の硬さだけではないものがある。
現場を経験した、指揮官の顔だった。
バルクも腕を組んで頷く。
「無茶すんなよ」
「そっちもな」
ゼインが笑う。
そして。
《黒狼の牙》を先頭に、一行は森へ入っていった。
⸻
森の中は、
想像以上に静かだった。
風の音。
葉擦れ。
遠くの獣の鳴き声。
それだけ。
だが、静かだからこそ、
妙な圧迫感がある。
「……なんか嫌な感じ」
ミナが小さく呟いた。
「魔力濃度が高い」
マークが周囲を見ながら言う。
「慣れていないと、息苦しく感じるかもしれません」
レオンも少しだけ理解できた。
空気が重い。
体感として、魔力が濃い。
そんな感覚。
先頭では、
シエラが静かに森を進んでいる。
気配が薄い。
注意していなければ、
見失いそうになるほど自然に動いていた。
その時。
シエラが片手を上げる。
「止まれ」
全員が即座に止まった。
「来る」
短い声。
その直後。
森の奥から、
低い唸り声が響いた。
大型一。
中型二。
小型三。
狼型の群れ。
大型個体は、
通常種より一回り大きい。
「ちょうどいい。見てろ」
ゼインが笑う。
次の瞬間。
⸻
地面が弾けた。
⸻
「は!?」
カイルが目を見開く。
速い。
巨大な戦斧を担いだまま、
ゼインが一気に大型個体へ肉薄していた。
雷。
身体から青白い光が走る。
そのまま、戦斧を振り下ろした。
轟音。
大型の身体が、
正面から叩き潰される。
「……うっそ!?」
ミナが固まった。
一撃だった。
その間に。
「右二体」
シエラが消える。
いや、速すぎて、
視界から抜けた。
次の瞬間。
中型の首から、
血が噴き出す。
もう一体も、
横から喉を裂かれていた。
「位置取り……」
ミナが思わず呟く。
反撃をさせる隙がない。
残った小型群れへ、ドルガが前へ出る。
大盾を構えた瞬間。
地面が盛り上がった。
土属性魔力。
突進してきた狼型が足を取られる。
そこへ。
巨大なスレッジハンマー。
鈍い音と共に、
小型牙狼が吹き飛んだ。
さらに。
「左、流します」
マークの声。
水と土の魔力が混ざる。
地面が泥濘へ変わった。
最後の牙狼たちが足を取られ動きを鈍らせる。
そこへ。
ゼインが踏み込んだ。
雷を纏った戦斧が、
まとめて牙狼たちを薙ぎ払う。
戦闘終了。
時間にして、
数十秒。
静寂。
カイルが乾いた笑いを漏らす。
「……なんだこれ、半端じゃねぇ」
「完成されてる……」
セスが小さく呟いた。
無駄が無い。
役割が被らない。
そして。
誰か一人へ、
負担が偏っていない。
レオンは、
その構造に気付いていた。
「負荷分散……」
思わず漏れる。
索敵。
制圧。
前衛。
足止め。
処理。
全てが、
自然に噛み合っている。
だから。
誰一人無理をしない。
ゼインが戦斧を肩へ担ぐ。
「まぁざっとこんなもんよ」
軽く言う。
だが。
カイルたちは、
普通に衝撃を受けていた。
「B級って、こんななのかよ……」
その時。
マークが、
倒れた牙狼を見下ろした。
「やっぱり、少し濃いですね」
「濃い?」
ミナが首を傾げる。
「魔力です」
マークは牙狼の死体へ触れた。
「魔境の奥に近付くほど、魔物の魔力濃度は高くなります」
「魔境って、結局なんなんですか?」
カイルの問い。
マークは少し考えた。
「未だに分かってません」
即答だった。
「一応、魔素濃度異常地帯という定義はあります」
「ただ、発生原因は不明です」
「地脈説に古代文明説、自然発生説など、色々ありますが……」
マークは森の奥を見る。
「少なくとも、普通の自然ではありません」
風が吹く。
木々が揺れる。
どこまでも続く暗い森。
「活性化する時期もあれば、静かな時期もある」
「まるで、呼吸してるみたいに」
その声音は、
どこか静かだった。
「ただ、最近は明らかに異常だと聞きます」
「異常個体の報告数も増えている。
でも、今回みたいな統率型まで出るのは、
かなり珍しいですね」
空気が少し重くなる。
その後も、一行は森を進み続けた。
途中で小規模の群れを避けながら、より深部へ。
やがて。
少し開けた場所へ出る。
ゼインが周囲を見回した。
「今日はここまでだな」
「少し早いがここで野営する」
ドルガが無言で荷物を下ろし始める。
シエラは周囲確認へ。
マークは簡易結界の準備。
全員の動きに、
迷いが無かった。
レオンたちも、
設営を手伝い始める。
森は静かだった。
静かすぎるほどに。
風が吹く。
木々が揺れる。
その奥。
暗闇の向こう側から。
何かに見られているような。
そんな妙な感覚が、ずっと消えなかった。
ここまで読んでいただき、ありがとうございます。
ついに森の中へ入っていきます。
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