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足りない召喚士の戦い方  作者: トリバード
異常個体:四つ腕

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62/135

62:森へ

本日もよろしくお願いします。

翌朝。


空気は冷えていた。


鉱山村グランディア外周。


防壁前へ、冒険者たちが集まっている。


「防衛は任せてください」


エリスが、真っ直ぐな目で言った。


その表情には、以前の硬さだけではないものがある。

現場を経験した、指揮官の顔だった。


バルクも腕を組んで頷く。


「無茶すんなよ」


「そっちもな」


ゼインが笑う。


そして。


《黒狼の牙》を先頭に、一行は森へ入っていった。



森の中は、

想像以上に静かだった。


風の音。

葉擦れ。

遠くの獣の鳴き声。


それだけ。


だが、静かだからこそ、

妙な圧迫感がある。


「……なんか嫌な感じ」


ミナが小さく呟いた。


「魔力濃度が高い」


マークが周囲を見ながら言う。


「慣れていないと、息苦しく感じるかもしれません」


レオンも少しだけ理解できた。


空気が重い。


体感として、魔力が濃い。


そんな感覚。


先頭では、

シエラが静かに森を進んでいる。


気配が薄い。


注意していなければ、

見失いそうになるほど自然に動いていた。


その時。

シエラが片手を上げる。


「止まれ」


全員が即座に止まった。


「来る」


短い声。

その直後。

森の奥から、

低い唸り声が響いた。



大型一。


中型二。


小型三。



狼型の群れ。


大型個体は、

通常種より一回り大きい。


「ちょうどいい。見てろ」


ゼインが笑う。


次の瞬間。



地面が弾けた。



「は!?」


カイルが目を見開く。


速い。


巨大な戦斧を担いだまま、

ゼインが一気に大型個体へ肉薄していた。



雷。


身体から青白い光が走る。


そのまま、戦斧を振り下ろした。


轟音。


大型の身体が、

正面から叩き潰される。


「……うっそ!?」


ミナが固まった。


一撃だった。


その間に。


「右二体」


シエラが消える。


いや、速すぎて、

視界から抜けた。


次の瞬間。


中型の首から、

血が噴き出す。


もう一体も、

横から喉を裂かれていた。


「位置取り……」


ミナが思わず呟く。

反撃をさせる隙がない。


残った小型群れへ、ドルガが前へ出る。


大盾を構えた瞬間。


地面が盛り上がった。


土属性魔力。


突進してきた狼型が足を取られる。


そこへ。


巨大なスレッジハンマー。


鈍い音と共に、

小型牙狼が吹き飛んだ。


さらに。


「左、流します」


マークの声。

水と土の魔力が混ざる。


地面が泥濘へ変わった。


最後の牙狼たちが足を取られ動きを鈍らせる。


そこへ。


ゼインが踏み込んだ。


雷を纏った戦斧が、

まとめて牙狼たちを薙ぎ払う。


戦闘終了。


時間にして、

数十秒。


静寂。


カイルが乾いた笑いを漏らす。


「……なんだこれ、半端じゃねぇ」


「完成されてる……」


セスが小さく呟いた。


無駄が無い。

役割が被らない。


そして。


誰か一人へ、

負担が偏っていない。


レオンは、

その構造に気付いていた。


「負荷分散……」


思わず漏れる。


索敵。

制圧。

前衛。

足止め。

処理。


全てが、

自然に噛み合っている。


だから。


誰一人無理をしない。


ゼインが戦斧を肩へ担ぐ。


「まぁざっとこんなもんよ」


軽く言う。


だが。


カイルたちは、

普通に衝撃を受けていた。


「B級って、こんななのかよ……」


その時。


マークが、

倒れた牙狼を見下ろした。


「やっぱり、少し濃いですね」


「濃い?」


ミナが首を傾げる。


「魔力です」


マークは牙狼の死体へ触れた。


「魔境の奥に近付くほど、魔物の魔力濃度は高くなります」


「魔境って、結局なんなんですか?」


カイルの問い。


マークは少し考えた。


「未だに分かってません」


即答だった。


「一応、魔素濃度異常地帯という定義はあります」


「ただ、発生原因は不明です」


「地脈説に古代文明説、自然発生説など、色々ありますが……」


マークは森の奥を見る。


「少なくとも、普通の自然ではありません」


風が吹く。

木々が揺れる。

どこまでも続く暗い森。


「活性化する時期もあれば、静かな時期もある」


「まるで、呼吸してるみたいに」


その声音は、

どこか静かだった。


「ただ、最近は明らかに異常だと聞きます」


「異常個体の報告数も増えている。

でも、今回みたいな統率型まで出るのは、

かなり珍しいですね」


空気が少し重くなる。


その後も、一行は森を進み続けた。

途中で小規模の群れを避けながら、より深部へ。


やがて。


少し開けた場所へ出る。

ゼインが周囲を見回した。


「今日はここまでだな」


「少し早いがここで野営する」


ドルガが無言で荷物を下ろし始める。


シエラは周囲確認へ。


マークは簡易結界の準備。


全員の動きに、

迷いが無かった。


レオンたちも、

設営を手伝い始める。


森は静かだった。

静かすぎるほどに。


風が吹く。

木々が揺れる。


その奥。


暗闇の向こう側から。


何かに見られているような。


そんな妙な感覚が、ずっと消えなかった。


ここまで読んでいただき、ありがとうございます。

ついに森の中へ入っていきます。

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