58:反撃作戦会議
本日もよろしくお願いします。
防壁前。
王都から到着した四人を前に、
兵士たちの空気は明らかに変わっていた。
疲労。
緊張。
連日の戦闘による消耗。
それらが、
ほんの少しだけ和らぐような感覚。
先頭へ立つ大男――ゼインが、
周囲を見回した。
倒れた魔物。
傷だらけの防壁。
疲弊した兵士たち。
そして。
無理やり維持され続けてきた前線。
その全てを見て、ゼインは短く息を吐いた。
「……よく持たせたな」
低い声だった。
軽い慰めではない。
本当に現場を見た上で、
出た言葉だった。
「ここまで耐えたなら十分だ」
そう言って、
巨大な戦斧を肩へ担ぐ。
口元が、
僅かに吊り上がった。
「前は俺たちが押さえる」
「後ろは任せるぜ」
その言葉だけで。
兵士たちの表情が、
少し変わる。
Bランク。
地方では滅多に見ない、
本物の上位冒険者。
場数が違う。
空気そのものが違った。
⸻
「《黒狼の牙》リーダー、
ゼインだ」
巨大な戦斧。
黒鉄色の重装。
そして、僅かに身体から漏れる、
雷属性魔力。
ただ立っているだけで、圧がある。
「副リーダーのシエラ」
赤髪の女性が軽く手を上げた。
腰には双剣。
細身だが、隙が無い。
周囲を観察する目が鋭い。
「索敵と先行偵察、あとは遊撃担当。よろしくね」
短い。
だが、無駄が無い。
「ドルガだ」
次に出たのは、大盾を背負った巨漢。
腰には大型のスレッジハンマー。
喋り方まで重い。
「守るのが役目だ」
それだけ言って黙る。
最後に。
「マークです」
穏やかな雰囲気の青年が、
軽く頭を下げた。
杖を携えた魔術師。
「土と水を扱います。制圧と地形操作が得意ですね」
柔らかい物腰。
だが。
纏う魔力は濃い。
珍しいバイカラー(2属性)の魔術師だ。
ただの後衛ではない。
歴戦の実力者。
その空気があった。
⸻
その後。
防衛基地中央の会議室。
バルク。
エリス。
冒険者組。
そして《黒狼の牙》。
全員が地図を囲んでいた。
「現状、防衛線維持そのものは可能だ」
バルクが口を開く。
「だが、長期化すれば確実に崩れる」
静かな声。
だが、重い。
「魔物の出現頻度が異常です」
エリスが続ける。
「数だけではありません」
「連携。行動範囲。移動経路」
「全てが不自然に変化しています」
ゼインが腕を組む。
「つまり、原因があるってことだな」
「恐らくは」
バルクが頷いた。
「問題は、その原因が森の奥にあるのではないか、ということだ」
レオンは少しだけ考え、口を開いた。
「戦闘後、森の奥で魔物を回収している個体を見ました」
会議室の空気が変わる。
「腕が四本ある猿型です」
「狼たちが、まるで従ってるみたいに動いていたんです」
シエラの目が細くなる。
「統率個体か」
「恐らく」
レオンは頷いた。
「以前遭遇した、狼型の異常個体と雰囲気が似ていました」
その言葉で、ゼインの表情が少し変わった。
「異常個体……」
軽く扱う声音ではない。
マークも地図へ視線を落としたまま呟く。
「もし統率型なら、放置は危険ですね」
「群れがさらに増えます」
ドルガも低く唸る。
「防衛だけでは埒が開かん」
その通りだった。
⸻
今までは、耐えているだけ。
だが、原因が残る限り、
終わらない。
そこで、バルクが全員を見回した。
「だから原因を断つ必要がある」
「森へ入ってもらう」
静寂。
その中で、エリスが真っ先に口を開いた。
「防衛線は兵士たちで維持します!」
強い声だった。
「戦力は減りますが、回してみせます!」
以前よりも芯がある、
現場を経験した指揮官の声だった。
バルクも頷く。
「戦力低下分は俺も前へ出るぞ」
会議室が少し静まる。
「元々、現場畑だ。久々に、腕がなるぜ。
若い連中だけに、全部押し付ける気はねぇよ」
筋骨隆々の男が、肩を回しながら、静かに笑った。
その一言で、空気が少し軽くなる。
責任者自身が、立つつもりでいる。
それだけで違った。
バルクは改めて、冒険者たちを見る。
「《黒狼の牙》」
「レオン」
「カイル」
「セス」
「ミナ」
「お前らには、異常発生源の調査と排除を頼む」
ゼインが、ニヤリと笑った。
「一転攻勢って感じだな」
その声音には、恐れよりも闘志が混じっていた。
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