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足りない召喚士の戦い方  作者: トリバード
指名依頼:グランディア防衛

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55/135

55:綻び

「右後方三体!

大型の後ろにも居ます!」


戦線に響く、レオンの声。


その情報を受け、

冒険者組と兵士たちが即座に動く。


「ミナ、右後方!」


「了解!」


小柄な身体が地面を蹴る。

牙狼の側面へ滑り込み、

双剣が閃いた。


狙うのは首ではない。


腱。

脚の付け根。


動きを止めるための一撃。


「カイル!」


「おう!」


体勢を崩した牙狼へ、

長槍が叩き込まれる。


重い刺突。


魔力強化を乗せた一撃が、

牙狼を地面へ縫い止めた。


同時に。


「左、もう一体!」


セスの矢が飛ぶ。


風を纏った矢が、

牙狼の眼窩へ突き刺さった。


「助かる!」


カイルが槍を引き抜きながら叫ぶ。


だが、戦いはまだ終わらない。


森の奥で沢山の赤い目が揺れている。


レオンは荒く息を吐いた。

頭が重い。


四羽目を広範囲に飛ばす。

それを通した視界共有。


以前より扱えるようにはなった。


必要な情報だけを拾い、整理することも出来る。


だが、長時間続ければ、

集中力が確実に削られる。


それでも。


「左側接近!数は五!」


止めない。

止まれない。


自分が見えている限り、

前線の被害は減る。


それが分かるから。


「……っ」


不意に、視界が揺れた。


一瞬。

視界がブレる。


森。

空。

防壁。

前線。


全部が重なり、

焦点が合わない。


吐き気。

頭痛。


その瞬間だった。


「レオンさん!」


エリスの声にハッとして前を見る。


反応が遅れた。


側面の木々の間を縫って狼型が、

攻撃を仕掛けようと迫っていた。


「っ!?」


反射的に身を捻る。


爪が肩を裂いた。


鮮血。


「大丈夫か!」


兵士が叫ぶ。


レオンは即座に小剣を抜き、

狼型の喉へ突き立てた。


撃破はしたが傷は浅くはない。


肩から熱が流れる。


「……大丈夫です」


息を乱しながら言う。


だが、

エリスの顔は険しかった。


「下がってください!」


「まだ戦えます!」


「そういう問題ではありません!」


その瞬間、再び頭が揺れた。



四羽目の維持が不安定になる。

処理が追いつかない。



レオンは、そこでようやく理解した。


このままでは、限界が近い。

レオンは苦く呟いた。



「もう、指揮補助は難しいです」


エリスが目を見開く。


だが。



すぐに頷いた。



「分かりました」


短い返答。


彼女も、もう理解している。


今のレオンを、無理させてはいけない。


レオンは深く息を吐き、

四羽目との接続を切った。


瞬間、頭痛が少し和らぐ。

代わりに、酷い疲労感が押し寄せた。


「三羽で支援します」


それが今できる、精一杯だった。

妖精鳥たちが飛び立つ。


淡い燐光。


兵士と冒険者たちへ、

身体強化の補助が広がる。


活動補助。

集中補助。

反応速度の底上げ。


これが本来、レオンの得意分野。


「カイルさん、前出過ぎです!」


「悪い!」


長槍が横薙ぎに払われる。


狼型二体を牽制。


その隙へ、ミナが飛び込んだ。


低い姿勢。

双剣が牙狼の脇下を裂く。


さらにもう一歩。

喉を狙う。


だが。


「っ――!」


半歩遅い。

狼型の反撃が先に来る。


ミナは無理やり身体を捻り、

ギリギリで避けるものの、腕へ細い裂傷。


「ミナ!」


「大丈夫!」


本人はそう返す。


だが。


レオンの補助が薄れたことで、

“理想通りに動けていた感覚”との差が出始めていた。


セスの矢が飛ぶ。

風を纏った一射。


牙狼の側頭部へ突き刺さる。


「右片付いた!」


「兵士班、前線維持!」


エリスが指示を飛ばす。


以前のような、

戦場全体を支配するような情報共有は無い。


それでも皆が、

自分で考えて動いていた。


完全ではない。


だが、崩れない。



数十分後、

最後の狼型が倒れる。


「……状況終了!」


兵士の声。


その場へ、安堵が広がった。


レオンは防壁へ背を預け、

静かに息を吐く。


肩の傷が痛む。


だが、四羽目を切ったことで、

頭の奥は静かだった。



その時。



森の奥に向けて妖精鳥の一羽が、

不意に警戒音を上げた。


「……?」


レオンが顔を上げる。


遠く。

木々の隙間。


何かが、動いた。


巨大な体躯に細長い腕。


いや。


腕が――四本。


大柄な猿のような影が、

魔物の死骸を掴んでいる。


そして。



その周囲にいた牙狼たちが、

まるで従うように動いていた。


異様だった。

自然ではない。


その影は、

こちらを見たように首を傾ける。


しばらく静止した後、

牙狼たちを引き連れ、森の奥へ消えた。



その影を見た瞬間、

レオンの背筋へ、

冷たいものが走った。


似ている。


以前、

リオたちと遭遇した、

あの狼型の異常個体。


姿形は違う。

大きさも。

纏う気配も。


だが。


“空気が同じだった”。


本能が警鐘を鳴らす。

ただ強い魔物ではない。


何かが、歪んでいる。


自然ではない。


まるで、魔境の奥から、

そのまま這い出してきたような異質さ。


「……なんだ、あれ」


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