54:限界線
本日もよろしくお願いします。
十日目。
夜明け前。
防衛拠点の空気は、
妙に張り詰めていた。
「南西側で群れを確認!」
見張り台からの報告。
兵士たちが慌ただしく動き始める。
「規模は!」
「不明です!森が深く、
視認しきれていません!」
その報告へ、バルクが眉を寄せた。
ここ数日は大規模襲撃ない。
最近は、森の動きが読めない。
小さな群れが散発的に現れたかと思えば、
突然複数方向から接近する。
まるで、“何かが試している”ように。
「エリス」
「はい」
「冒険者組を南西へ。
兵士第三班も回せ」
「了解」
エリスが駆け出す。
その途中。
彼女は、
壁際へ座るレオンを見つけた。
「……起きていたんですね」
「警鐘が聞こえたので」
レオンの顔色は、
まだ完全には戻っていない。
昨日、半日休ませたことで多少回復はしている。
だが、目の奥に、疲労が残っていた。
「本日は少なくとも午前中は待機して下さい」
エリスは先に釘を刺した。
レオンが何か言いかける。
だが。
「現場で命を預かる者として、これは命令です」
静かな声。
数秒後。
「……分かりました」
レオンは小さく頷いた。
⸻
南西防壁。
兵士と冒険者たちが迎撃準備を進めていた。
「数、多いな……」
カイルが剣を抜きながら呟く。
森の奥。
複数の赤い目が揺れている。
狼型の群れ。
大型種の姿も混ざっているように見えた。
「前衛維持!」
エリスが声を飛ばす。
「突出禁止!迎撃線を崩さないで!」
兵士たちが構える。
そして、魔物の群れが飛び出した。
「来るぞ!」
激突。
牙狼が防壁前へ殺到する。
カイルが一体目を斬り伏せると同時に、
左側から別個体が飛び込んだ。
「っ!」
反応が半瞬遅れる。
そこへ。
「左!」
セスの声に反応して、ギリギリで回避。
爪が頬を掠めた。
「危なっ……!」
この前までならば、
レオンの共有が、
もっと早く飛んでいた。
敵位置。
死角。
接近方向。
だが今は違う。
全員が、自分で確認しなければならない。
監視兵からの声は聞こえるが、タイミングが少し遅い。
「後ろ二体!」
今度はミナが叫ぶ。
兵士隊から火球の魔術が飛ぶ。
着弾。
一体吹き飛ばすが、もう一体が止まらない。
「カイル!」
「分かってる!」
槍を突き刺して撃破。
しかし、息をつく暇がない。
次。
また次。
群れが途切れない。
⸻
「右側押されてる!」
⸻
監視兵の叫びを聞き、エリスが即座に判断する。
「第二班、右補強!
同時に第一班、第二班に続いて戦線維持!
第三班は次の群れを警戒!
……森側から来ています!」
兵士たちが動く。
だが、情報処理量が多い。
戦線全体を見ながら、
各員の位置も確認する。
さらに。
森側の警戒。
次の群れ予測。
エリスの額へ汗が滲む。
そこへ。
「大型!」
森から飛び出した巨躯。
凄まじい勢いで突進してくる。
防壁へ一直線に突っ込んでくる。
「止めろ!」
兵士たちが盾と槍を構える。
激突。
衝撃。
数人が吹き飛ぶ。
「ぐぁっ!?」
「隊列維持!」
エリスが叫ぶ。
だが、乱れた。
一瞬。
ほんの一瞬。
そこへ狼型たちが雪崩れ込む。
「っ……!」
前衛と後衛の距離が崩れる。
まずい。
その時だった。
ピィーーー!!
上空から高い鳴き声。
⸻
妖精鳥。
⸻
全員が息を呑む。
そして。
⸻
「右後方三体!
大型の後ろにも居ます!
盾で受け流して勢いを殺してください!
足を狙って!」
レオンの声。
⸻
防壁上から駆けてくる影。
そこに、息を切らしたレオンが立っていた。
「レオンさん!?」
エリスがレオンを見ている間にもレオンから指示が飛ぶ。
その情報は早かった。
圧倒的に。
「カイル、右!」
「了解!」
「ミナ、後ろ躱して迎撃!」
「はいよ!」
迎撃成功。
崩れかけた戦線が、立て直される。
現場全体の空気が変わった。
動きが滑らかになる。
指示から反応までの間隔が早くなる。
まるで。
歯車が噛み合い直したように
だが。
「っ……!」
⸻
レオンがふらつく。
視界共有の連続使用。
それとは別に身体強化などの同時運用。
負荷が重い。
頭の奥が焼けるようだった。
それでも。
⸻
「左側、次来ます!」
⸻
止めない。
止まれない。
皆が動ける。
被害が減る。
それが分かるから。
その時。
セスがレオンを見て、苦い顔をする。
そして。
小さく舌打ちする。
「……くそっ」
それは呆れではない。
自分たちが、
また、
あいつに無理をさせてしまっている。
自分達の不甲斐無さから出た言葉だった。
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