45:回る戦場
本日もよろしくお願いします。
レオンは四羽目を飛ばす。
視界共有を始める。
その瞬間、視界が広がる。
吐き気。
頭痛。
だが今は止められない。
上空視点。
敵位置。
突破箇所。
死角。
必要な情報はどれだ、必要最低限だけ拾え。
全部は見ない。
そうしなければ脳が潰れる。
「カイルさん、左援護!」
「了解!」
槍士カイルが切り込み、横薙ぎ。
狼型を数匹まとめて吹き飛ばした。
さらに。
「セスさん、後方猪型!」
「見えている...!」
矢が飛ぶ。
猪型の眼球へ直撃。
そこへ兵士が槍を突き込んだ。
「ミナさん、右!」
「っ!」
直後。
死角から飛び込んできた狼型。
ミナが慌てて双剣で受け流す。
「危なっ……!」
だが本人はまだ軽い。
“自分で避けられた”。
そう思っている。
実際には、レオンが見て、動かしていた。
時間が経つほど、
戦場は混乱していく。
敵数が多すぎる。
規範通りの配置では、現場変化へ追いつかない。
だが。
「東側一時後退!」
「負傷者先に下げて!」
「槍列詰めすぎない!」
レオンの声で、
少しずつ流れが整理されていく。
エリスも途中から理解していた。
今必要なのは、
教本通りの維持じゃない。
“現場が崩れないこと”
だから。
「第四班、レオンさんの指示優先!」
エリス自身がそう叫ぶと、兵士たちは即座に動く。
すると。
混乱しかけていた防衛線が、
再び噛み合い始めた。
⸻
戦闘終了は夕方だった。
魔物の死骸が、防壁の外で大量に転がっている。
負傷者多数。
兵士数名が裂傷。
重傷一名。
だが。
死者はなし。
この規模の群れとしては、異常なほど軽微だった。
「……持ちこたえたか」
エリスがその場へ座り込む。
兵士たちも疲弊していた。
だが。
皆、生きている。
そして。
「いや、あたしたち結構強くない?」
最初に笑ったのはミナだった。
「この数で死者なしだよ?」
「……まあ、悪くはなかったな」
カイルも息を吐く。
セスも珍しく否定しない。
兵士側からも声が上がる。
「冒険者組助かった……」
「今回はかなり楽だったな」
空気は高揚していた。
⸻
だが。
⸻
「……」
レオンだけは、
壁へ手をついていた。
視界が揺れている。
頭痛と吐き気が治らない。
かなり無理をした。
四羽目の使用時間が長すぎた。
ずっと継続して発動していた訳ではないが、間を置かずに連続で使いすぎた。
だが。
「レオン、北側どう見る?」
「次の巡回どうする?」
「敵来るならどっちだ?」
次々声が飛ぶ。
自然に。
誰も疑問に思わず。
レオンは少し顔を上げる。
「……北側優先で」
「了解!」
即答。
もう皆、
“レオンへ聞く”
ことが当たり前になり始めていた。
その夜。
レオンは部屋へ戻った瞬間、床へ座り込んだ。
妖精鳥たちが不安そうに周囲を飛ぶ。
頭が痛い。
視界が揺れる。
それでも。
「……まだ、大丈夫」
言い聞かせるように、そう呟く。
⸻
その頃。
バルクは責任者として、
防衛戦全体の戦況確認を行っていた。
エリスから提出された被害報告。
負傷者多数。
だが、死者はなし。
あの規模の群れで。
「……軽すぎる」
バルクは小さく呟く。
防衛成功自体は喜ばしい。
だが、現場経験の長い彼には、
逆に違和感があった。
“誰が無理をした”。
その一点だけが、
妙に引っかかっていた。
食堂からは、
兵士と冒険者たちの騒ぐ声が聞こえる。
死者が出なかった夜だ。
空気が緩むのも当然だった。
「いやー、今日マジで危なかったな!」
「でも乗り切ったじゃん!」
笑い声。
その中で。
バルクは、
一人足りないことに気づく。
召喚士の男、レオン・アルバーン。
あの戦場で、
最も忙しく動いていたはずの男が、
そこにはいなかった。
バルクはしばらく黙って考え込む。
そして。
小さくため息をつき、
静かに食堂を後にした。
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