38:指名依頼
本日もよろしくお願いします。
「……増えてるな」
掲示板前で、レオン・アルバーンは小さく呟いた。
依頼ではない。
視線だ。
ギルドへ入った瞬間から、妙に周囲がこちらを見ている。
「あれだろ」
「異常個体の……」
「リオと一緒にいた」
小声。
以前より露骨だった。
レオン自身は、あまり慣れていない。
なので普通に居心地が悪い。
「お、いたいた」
受付側から声。
見れば受付嬢がこちらへ手を振っていた。
「ギルド長から呼び出しです」
「……何かやりましたか?」
「その反応、心当たりある人のやつですよ」
「ないです」
少しだけ笑われた。
⸻
ギルド長室。
「座れ」
レオンは素直に椅子へ座る。
ギルド長は書類を見ながら言った。
「お前、“指名依頼”入ったぞ」
「……はい?」
予想外だった。
指名依頼。
特定の冒険者を名指しで要請する依頼。
普通はCランク以上にされることが多いもので、Dランク個人への指名は珍しい。
「町外れの鉱山村だ」
ギルド長が地図を広げる。
「最近、夜間の魔物襲撃が増えてる」
「防衛依頼ですか?」
「ああ。だが、少し違う。向こうの要望は、“支援役を含めた防衛指揮補助”」
レオンは少し黙った。
支援。
そして。
“指揮補助”。
異常個体戦。
町防衛。
そこでの動きを見た者がいたのだろう。
「……僕ですか?」
「お前だ」
ギルド長は腕を組む。
「正直、まだDランクに来る依頼じゃねえ」
「だが向こうが指名してる」
さらに。
「あと、お前以外にも寄せ集めだ」
資料が渡される。
⸻
•Eランク双剣使い
•Dランク槍士
•Dランク弓手
⸻
固定パーティではない。
レオンは少しだけ息を吐いた。
最近こういう形が増えている。
そして多分。
“だからこそ”呼ばれている。
⸻
訓練場。
リオは面白そうに笑った。
「へぇ、指名依頼か。出世したじゃん」
「そういう感じじゃないですよ」
「いや結構すごいぞ?」
リオは普通に評価している。
「支援役の指名って、上の連中ほど慎重だからな」
単純な火力職なら分かりやすい。
だが支援役は違う。
相性。
判断。
継続力。
“実際に組んだ評価”がかなり重要。
だからこそ。
「あー……」
リオがニヤニヤする。
「ちゃんと見られてたんだな」
レオンは少しだけ困った顔をした。
⸻
「で、視界共有は?」
「まだ十数秒です」
「いや、前数秒だっただろ。十分おかしい」
リオが笑う。
実際、かなり慣れてきていた。
もちろん酔うから長時間は無理。
だが以前ほど酷くない。
そして何より。
“必要な情報を選ぶ”という感覚が少し分かり始めていた。
例えば。
•人数
•配置
•死角
•動線
そういうものだけ抜き出す。
すると脳への負荷が減る。
まだ実戦投入には危険だが、確実に前へ進んでいた。
⸻
「ほーん」
後ろから声。
木盾を抱えたガドだった。
「指名依頼か」
「情報早いですね」
「ギルド内で噂になってる」
当然だった。
Dランク召喚士への指名依頼。
しかも防衛案件。
珍しい。
ガドは少し真面目な顔になる。
「で、受けるのか?」
「……はい」
迷いはなかった。
するとガドは頷く。
「なら一個だけ覚えとけ」
「?」
「“お前が全部やる必要はねえ”」
レオンは少し黙る。
「支援役ってのはな、時々、“全員支えなきゃ”って考えすぎる」
ガドは木盾を肩へ担ぐ。
「でも実際は違う。
戦えるやつは、自分でも戦うんだよ。
お前は“回す”こと考えろ」
その言葉は、
妙に今のレオンへ刺さった。
全部を見ようとして潰れかけた経験はいくつか思い当たる。
でも、
必要なものを選べば、戦場は整理できる。
多分それは、視界共有も同じだ。
⸻
夜。
宿部屋。
レオンは荷物を整理していた。
杖。
小剣。
魔導書。
保存食。
そして、四羽の妖精鳥。
ふわふわ漂う小さな光。
以前より賑やかだ。
淡銀の四羽目が、
机の上からこちらを見ている。
「……今度は実戦ですね」
少し不安はある。
だが。
不思議と、
以前ほど焦ってはいなかった。
積み重ねる。
少しずつ。
それでいい。
一気に飛び越えていくような才能は、
自分にはないのだから。
窓の外。
夜風が町を抜けていく。
その先。
魔境側の空は、
静かに黒く沈んでいた。
ここまで読んでいただき、ありがとうございます。
続きが気になると思っていただけたら、ブックマークや評価をいただけると励みになります。




